「第20回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館

川崎市岡本太郎美術館
「第20回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」 
2/3~4/9



毎年恒例、公募形式で現代美術家を紹介する「岡本太郎現代芸術賞展」も、今年で第20回を数えるに至りました。

応募総数は499点。うち26組の作家が入選を果たしました。グランプリの岡本太郎賞に輝いたのが山本直樹です。その名は「Miss Ileのみた風景」。フロア中央にある備え付けのガラスのボックスを用いた作品を展示しています。


山本直樹「Miss Ileのみた風景」 *岡本太郎賞

表面に「ミサイル3発」や「不時着」、それに「弱者排斥」や「大統領弾劾」、さらには「保育園落ちた」や「とんでもない!」などと記されています。昨年、物議を醸した言葉も少なくありません。ともすると不安定な国内外の世相が浮かび上がってきました。


山本直樹「Miss Ileのみた風景」 

眼下にはビルの連なる都市が開けています。素材は砂糖でした。とすれば脆い。風に吹かれるだけで倒れてしまうかもしれません。しばらく見ていると俄かに爆音が轟き、白く輝かしい閃光が走りました。一体何事でしょうか。戦闘機がミサイルを落としたのかもしれません。もちろん必ずしも明示されているわけではありませんが、不穏な空気を感じてなりませんでした。


井原宏蕗「cycling」 *岡本敏子賞

等身大の動物が象られています。岡本敏子賞を受賞した井原宏蕗です。豚に鹿、そして羊の姿があります。色は全て真っ黒です。ほぼ漆黒。やや照りがあります。さらに表面は丸薬のような粒に覆われていました。はじめは一体、何で作られている分かりませんでした。

答えは動物の排泄物でした。しかも漆でコーティングしています。体外へ排出される糞をあえて身体に戻しています。これこそが「生のサイクル」(解説より)ということなのでしょうか。


井口雄介「360」

一際目立っていたのが井口雄介の「360」です。巨大な装置です。トンネルのような筒が横たわっています。その下には台があり、キャスターも付いていました。


井口雄介「360」

作品は可動式です。実際に乗って動かすことが出来ます。要領は自転車と同じです。ペダルを踏み込むとキャスターが始動。円を描くように回転します。面白いのは筒の中の景色でした。というのも無数の鏡がはめ込まれているため、回転とともに映り込む景色が変化するわけです。まるで色のない万華鏡を覗き込んでいるかのようでした。


福本歩「タオ・マーケット」

夜市に迷い込んだようです。福本歩の「タオ・マーケット」はどうでしょうか。露店を模したスペースに陶器などの骨董品をたくさん並べています。


福本歩「タオ・マーケット」

中国では葬送に際し、死者があの世で生活するため、家や道具などを象った明器を墳墓に納める習慣があるそうです。その明器を生前に見定めようという趣向なのでしょうか。時に用途も不明、土産のまがい物のような器もあります。キッチュでかつ楽しい。目移りしてしまいました。


黒木重雄「One Day」 *特別賞

大掛かりなインスタレーションが目立つ中、絵画にも力作がありました。黒木重雄の「One Day」です。山々を望む地平にカラスたちが群れています。ちょうど円環状に連なっていました。餌を探しているのでしょうか。しきりに何かを啄ばんでいます。


黒木重雄「One Day」

カラスに下に広がるのは瓦礫でした。場所は海辺です。津波で流されてしまったのでしょう。無数の木片で埋め尽くされています。前景と後景のコントラストも特徴的でした。とするのも、後景のみがモノクロームです。水墨画風とも呼べるかもしれません。一方で前景の瓦礫はカラーです。しかも青や赤などの色の粒を交えています。


あべゆか「BE GOD.」 *特別賞

最後の晩餐を思わせるのがあべゆかの「BE GOD.」でした。絵画とテーブルを交えてのインスタレーションです。テーブル上にはパンや目玉焼き、そして何らかのオードブルを模した食事がのせられています。ワインボトルもありました。後ろが絵画です。モデルは全て女性でしょうか。まるでファッションモデルのようです。派手なドレスをまとい、長い髪を振り乱しています。セクシーです。2人はテーブルの上で寝そべりながらポーズをとっていました。


加藤真史「Vacancy」

色鉛筆で都市の風景を立ち上げています。加藤真史の「Vacancy」です。高さは5メートルと巨大。夜の住宅街でしょうか。中央に交差点があり、左右へと道路がのびています。どこでもあるような日常の光景です。正面と左右に連続して描いています。


加藤真史「Vacancy」

一枚の紙ではなく、小さな紙をたくさん貼り合わせているのも興味深いところでした。切り離せば風景も解体してしまうのでしょうか。街路灯の白く強いハイライトが殊更に印象的でした。


井上裕起「salamander F1」 *特別賞

井上裕起の「salamander F1」も楽しい作品です。一人乗りの車です。前後左右に手足を出しています。動くとすればペタペタと這いつくばって進むのかもしれません。モチーフはオオサンショウウオです。ライトが目で吸気口が口です。それをF1のレーシングカーに見立て制作しています。ディテールの作り込みも見事でした。



今年も出口に「お気に入り投票コーナー」がありました。入館時にいただける「選ぼうカード」で好きな作品に投票することが出来ます。


石野平四郎「紅い波」

投票期間は3月20日までです。いわゆるオーディエンス賞の設定はありませんが、結果は同館のWEBサイト、並びにフェイスブックで発表されます。


岡野里香「Myself」

昨年に比べるとやや印象に薄いような気がしましたが、TARO賞ならではのメッセージ性の強い作品も少なくありません。なお3月1日より第20回展特別企画として、オルタナティブ人形劇団「劇団★死期」によるイベントが行われるそうです。それにあわせて出かけるのも良いかもしれません。


4月9日まで開催されています。

「第20回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」 川崎市岡本太郎美術館
会期:2月3日(金)~ 4月9日(日)
休館:月曜日。但し3月21日を除く。祝日の翌日(土曜日、日曜日は除く)、2月12日(金)、3月22日(火)。
時間:9:30~17:00
料金:一般700(560)円、大・高生・65歳以上500(400)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *常設展も観覧可。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩8分。
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