都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」
2017-04-11 / 映画
映画「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」の試写会に参加してきました。

「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」
http://www.finefilms.co.jp/hermitage/
ロシアはサンクトペテルブルクに位置し、年間360万名以上もの入館者が訪れるエルミタージュ美術館。フランスのルーヴル、アメリカのメトロポリタンと並んで、世界三大美術館の一つに数えられています。

エルミタージュの設立は1764年。エカテリーナ2世がドイツから買い取った美術コレクションが切っ掛けでした。以来、約250年です。現在では「美の百科事典」とも称される300万点ものコレクションを有しています。
しかしエルミタージュの歴史は常に平穏であったわけではありません。ボルシェビキの襲撃や、スターリンの台頭、そして第二次世界大戦におけるレニングラード包囲戦など、時に美術館の行く末が危ぶまれるような困難を乗り越えてきました。

そうしたエルミタージュの全貌を知ること出来るのが、映画「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」です。純然たるドキュメンタリーです。エルミタージュに関する人物、歴史、ないしコレクションを余すことなく見せてくれます。
まずは人物です。重要なのは同館ミハイル・ピオトロフスキーでした。館長は映画のガイド役と言って良いかもしれません。さらに学芸員ほかスタッフも登場。エルミタージュについて語りに語っています。
ピオトロフスキー館長の言葉から感じられるのはエルミタージュに対しての自信と誇りです。そもそも父のボリス・ピオトロフスキーも同館の館長を26年間務めていました。時にソビエト政府はコレクションを外国への贈答品にしようと企てたこともあったそうです。それに対しミハイル・ピオトロフスキーは抵抗。まさに美を守る活動に熱心に取り組みます。
2006年には辞職の危機にさらされました。切っ掛けは美術館内での盗難事件です。200点以上もの宝飾品などが紛失。多くは取り戻せましたが、結果的に犯人を特定出来ませんでした。

さらに館長が主導する現代美術家との協働も紹介。彫刻家のアントニー・ゴームリーも出演しています。これほど美術館の活動が言語化されたことはなかったかもしれません。
2つ目のポイントは歴史です。やはり印象深いのは世界大戦でした。第1次大戦では美術館の一部の冬宮が病院として使用。いよいよ戦火が迫ると収蔵品をモスクワへ移送する作業が始まります。ただし列車3台のうち1台は引き返すというアクシデントにも襲われました。さらに十月革命が勃発。ボルシェビキがエルミタージュを襲います。しかし当時の館長は冬宮に次ぐ扉を閉じたため、冬宮以外の襲撃は間逃れました。
第2次大戦ではサンクトペテルブルクがドイツ軍に狙われます。レニングラードが包囲戦です。美術館は襲撃を回避するため、再び美術品を疎開。今度はウラル山脈内でした。さらに避難後は学芸員と家族が冬宮の地下に移ります。飢餓や寒さも襲い掛かります。何とベルトの底を煮込んで食べたこともあったそうです。900日に及ぶ攻防戦で100人以上の職員がなくなりました。
そうした経緯を事細かに映像化しています。また革命のシーンではロシアの映画監督、エイゼンシュテインの「十月」のフィルムが使われていました。当時の状況をより臨場感のある形で知ることが出来ました。
最後がコレクションです。映画にはエルミタージュの誇る美術品が数多く登場します。時に近接でも撮影。高画質での拡大版も映されます。映像を通したエルミタージュ美術館展と呼んでも差し支えありません。
作品数は約40点です。ラファエロやレンブラント、カラヴァッジョなどのオールドマスターから、ルノワールやドガ、それにゴーギャンなどの印象派を超えて、フォーヴのマティスに、カンディンスキーやマレーヴィッチへと至ります。ちなみにソビエトでは近代美術が退廃的とされていたため、ゴーギャンやゴッホ、セザンヌやマティスまでもの作品の公開が禁止されていました。いわゆるポスト印象派以降の作品の展示が許されたのは、スターリンの死後、1956年になってからのことだそうです。
面白いのがレオナルドの「ブノワの聖母」でした。ロシア最後の皇帝のニコライ二世が購入します。ただしニコライ自身、美術に興味がなく、「最も高価」であるという理由で購入したそうです。またエカテリーナがどのようにコレクションを充実させたのかも重要です。ロシアの国力を誇示すべく、ヨーロッパ各地から積極的に美術品を収集します。ただエカテリーナも強い美術愛好家ではありませでした。どちらかというと、宝石の収集や美術館の建築事業に熱心に取り組んでいます。
エルミタージュの魅力を余すことなく伝える「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」。このスケールでの内部撮影が行われたのも史上初めてのことです。展示室などの表だけでなく、地下空間等々、一般には公開されていないエリアまでも捉えています。美術館の裏側にも迫っていました。
映画はエカテリーナの時代から現代までを丹念に追っていますが、証言、ないし映像の構成ともテンポが良く、中だるみすることがありません。気がつけば80分が過ぎていました。

「大エルミタージュ美術館展」@森アーツセンターギャラリー
http://hermitage2017.jp
3月18日(土)〜6月18日(日)
現在、六本木の森アーツセンターギャラリーでも「大エルミタージュ美術館展」が開催中です。日本にいながらエルミタージュを深く体験する絶好の機会です。あわせて楽しんでみてはいかがでしょうか。
「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」は4月29日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開されます。
「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」(@hermitage0429)
原題:Hermitage Revealed
監督・脚本・製作:マージー・キンモンス
キャスト:ミハイル・ピオトロフスキー館長、建築家レム・コールハース、彫刻家アントニー・ゴームリー、トム・コンティ(声の出演)
製作年:2014年
製作国:イギリス
上映時間:83分
配給:ファインフィルム
公開日:4月29日(土)
映画館:ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」
http://www.finefilms.co.jp/hermitage/
ロシアはサンクトペテルブルクに位置し、年間360万名以上もの入館者が訪れるエルミタージュ美術館。フランスのルーヴル、アメリカのメトロポリタンと並んで、世界三大美術館の一つに数えられています。

エルミタージュの設立は1764年。エカテリーナ2世がドイツから買い取った美術コレクションが切っ掛けでした。以来、約250年です。現在では「美の百科事典」とも称される300万点ものコレクションを有しています。
しかしエルミタージュの歴史は常に平穏であったわけではありません。ボルシェビキの襲撃や、スターリンの台頭、そして第二次世界大戦におけるレニングラード包囲戦など、時に美術館の行く末が危ぶまれるような困難を乗り越えてきました。

そうしたエルミタージュの全貌を知ること出来るのが、映画「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」です。純然たるドキュメンタリーです。エルミタージュに関する人物、歴史、ないしコレクションを余すことなく見せてくれます。
まずは人物です。重要なのは同館ミハイル・ピオトロフスキーでした。館長は映画のガイド役と言って良いかもしれません。さらに学芸員ほかスタッフも登場。エルミタージュについて語りに語っています。
ピオトロフスキー館長の言葉から感じられるのはエルミタージュに対しての自信と誇りです。そもそも父のボリス・ピオトロフスキーも同館の館長を26年間務めていました。時にソビエト政府はコレクションを外国への贈答品にしようと企てたこともあったそうです。それに対しミハイル・ピオトロフスキーは抵抗。まさに美を守る活動に熱心に取り組みます。
2006年には辞職の危機にさらされました。切っ掛けは美術館内での盗難事件です。200点以上もの宝飾品などが紛失。多くは取り戻せましたが、結果的に犯人を特定出来ませんでした。

さらに館長が主導する現代美術家との協働も紹介。彫刻家のアントニー・ゴームリーも出演しています。これほど美術館の活動が言語化されたことはなかったかもしれません。
2つ目のポイントは歴史です。やはり印象深いのは世界大戦でした。第1次大戦では美術館の一部の冬宮が病院として使用。いよいよ戦火が迫ると収蔵品をモスクワへ移送する作業が始まります。ただし列車3台のうち1台は引き返すというアクシデントにも襲われました。さらに十月革命が勃発。ボルシェビキがエルミタージュを襲います。しかし当時の館長は冬宮に次ぐ扉を閉じたため、冬宮以外の襲撃は間逃れました。
エルミタージュ美術館は第二次世界大戦下、ヒトラーのレニングラード包囲戦により危機に陥ります。当時の館長、学芸員たちは全員総出で、命の危険も顧みずウラル山脈へ美術品を避難させます。今私たちが観ている美術品は彼らが命がけでまもってきたものなのです。#映画エルミタージュ #4/29公開 pic.twitter.com/0apY3P2p3k
— エルミタージュ美術館 美を守る宮殿 (@hermitage0429) 2017年4月6日
第2次大戦ではサンクトペテルブルクがドイツ軍に狙われます。レニングラードが包囲戦です。美術館は襲撃を回避するため、再び美術品を疎開。今度はウラル山脈内でした。さらに避難後は学芸員と家族が冬宮の地下に移ります。飢餓や寒さも襲い掛かります。何とベルトの底を煮込んで食べたこともあったそうです。900日に及ぶ攻防戦で100人以上の職員がなくなりました。
そうした経緯を事細かに映像化しています。また革命のシーンではロシアの映画監督、エイゼンシュテインの「十月」のフィルムが使われていました。当時の状況をより臨場感のある形で知ることが出来ました。
最後がコレクションです。映画にはエルミタージュの誇る美術品が数多く登場します。時に近接でも撮影。高画質での拡大版も映されます。映像を通したエルミタージュ美術館展と呼んでも差し支えありません。
作品数は約40点です。ラファエロやレンブラント、カラヴァッジョなどのオールドマスターから、ルノワールやドガ、それにゴーギャンなどの印象派を超えて、フォーヴのマティスに、カンディンスキーやマレーヴィッチへと至ります。ちなみにソビエトでは近代美術が退廃的とされていたため、ゴーギャンやゴッホ、セザンヌやマティスまでもの作品の公開が禁止されていました。いわゆるポスト印象派以降の作品の展示が許されたのは、スターリンの死後、1956年になってからのことだそうです。
面白いのがレオナルドの「ブノワの聖母」でした。ロシア最後の皇帝のニコライ二世が購入します。ただしニコライ自身、美術に興味がなく、「最も高価」であるという理由で購入したそうです。またエカテリーナがどのようにコレクションを充実させたのかも重要です。ロシアの国力を誇示すべく、ヨーロッパ各地から積極的に美術品を収集します。ただエカテリーナも強い美術愛好家ではありませでした。どちらかというと、宝石の収集や美術館の建築事業に熱心に取り組んでいます。
エルミタージュの魅力を余すことなく伝える「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」。このスケールでの内部撮影が行われたのも史上初めてのことです。展示室などの表だけでなく、地下空間等々、一般には公開されていないエリアまでも捉えています。美術館の裏側にも迫っていました。
映画はエカテリーナの時代から現代までを丹念に追っていますが、証言、ないし映像の構成ともテンポが良く、中だるみすることがありません。気がつけば80分が過ぎていました。

「大エルミタージュ美術館展」@森アーツセンターギャラリー
http://hermitage2017.jp
3月18日(土)〜6月18日(日)
現在、六本木の森アーツセンターギャラリーでも「大エルミタージュ美術館展」が開催中です。日本にいながらエルミタージュを深く体験する絶好の機会です。あわせて楽しんでみてはいかがでしょうか。
「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」は4月29日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開されます。
「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」(@hermitage0429)
原題:Hermitage Revealed
監督・脚本・製作:マージー・キンモンス
キャスト:ミハイル・ピオトロフスキー館長、建築家レム・コールハース、彫刻家アントニー・ゴームリー、トム・コンティ(声の出演)
製作年:2014年
製作国:イギリス
上映時間:83分
配給:ファインフィルム
公開日:4月29日(土)
映画館:ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
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