都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「快慶 日本人を魅了した仏のかたち」 奈良国立博物館
奈良国立博物館
「快慶 日本人を魅了した仏のかたち」
4/8~6/4

鎌倉時代を代表する仏師、快慶の展覧会が、奈良国立博物館で開催されています。
生年不詳の快慶、その名が初めて登場したのは1183年の「運慶願経」でした。運慶の発願による法華経です。結縁者として快慶の名が記されました。ちなみに運慶と快慶は兄弟弟子の関係です。運慶の父は康慶。快慶の師です。快慶に関しては出自も明らかではありません。

「弥勒菩薩立像」 快慶作 鎌倉時代・文治5(1189)年 アメリカ・ボストン美術館
最初期の作品とされるのが「弥勒菩薩立像」でした。右手を垂らし、左手で水瓶を握っています。顔立ちはやや丸みを帯びていてふくよかです。身体の肉付きも良い。元は興福寺の伝来品です。現在ではボストン美術館に収蔵されています。

重要文化財「弥勒菩薩坐像」 快慶作 鎌倉時代・建久3(1192)年 京都・醍醐寺 *4/25~6/4展示
キャリア初期においては後白河院との関係が重要でした。醍醐寺三宝院の本尊の「弥勒菩薩坐像」は院の追善ための仏像です。早い段階から快慶の実力は各方面に知れ渡っていたのかもしれません。(なお弥勒菩薩坐像は4/25から出陳されました。私が見た時はパネルでした。)
その後、白河院が主導し、重源により進められた、東大寺の再興に参加します。有名なのは運慶らと共同で制作した東大寺南大門の「金剛力士像」です。但し当然ながら非出品です。代わって東大寺内のほかの仏像や、勧進活動のために全国各地に建てられた別所の仏像が展示されています。
一際目立つのが兵庫・浄土寺の「阿弥陀如来立像」でした。何せ像高2メートル20センチ超と大きい。同寺は重源が営んだ播磨の別所です。堂々たる姿を見せています。しかし上半身の肉取りなどは比較的簡素です。布の法衣を着せて祀ったと考えられています。

重要文化財「孔雀明王坐像」 快慶作 鎌倉時代・正治2(1200)年 和歌山・金剛峯寺 *4/8〜5/7展示
和歌山の金剛峯寺の諸仏が充実していました。うち1つが「孔雀明王坐像」です。孔雀座や光背などは後の制作です。非常に凛々しい。上下への伸びる腕もしなやかです。前を見据えては泰然としています。

重要文化財「執金剛神立像」 快慶作 鎌倉時代・建久8(1197)年 和歌山・金剛峯寺
同寺からは四天王立像のうちの「多聞天」と「広目天」、「執金剛神立像」や「深沙大将立像」も出陳。特に躍動感があるのが「執金剛神立像」です。左足をつき、右足を腰のあたりまで高く上げています。左手で何かを抑えつけるかのように下へ突き出していました。細部の造形こそシンプルですが、絶妙なバランス感覚です。まるで空から飛び降りてきたかのようでした。
東大寺の仏像で惹かれたのは「地蔵菩薩立像」でした。これぞまさしく端正でかつ流麗。快慶の様式です。衣の靡く姿はまるで水の波紋のようです。金泥や截金の文様も華やかです。体つきは偏らずに中正です。顔立ちも温和。さも肩の力を抜いてリラックスするかのように立っていました。
さらに東大寺関連では「西大門勅額付属八天王像」を一揃えで出陳。いずれの像も額から外され、かなり近い距離から見ることも出来ます。また「東大寺大仏縁起」などの絵画にも目が留まりました。ちなみに今回の展覧会では、仏像に関連する資料も細かく参照しています。快慶展とはいえ、全てが仏像の展示ではありません。
鎌倉時代では「老若貴賤を問わず」(解説より)、多くの結縁による造仏が行われるようになります。中でも人気を博したのは阿弥陀如来立像でした。
京都・遣迎寺に伝わる「阿弥陀如来立像」も同様です。顔、体つきともに恰幅が良い仏像でした。切れ長の細い目をしています。金銀泥の輝きもまだ損なわれていません。截金も細かい。昭和12年に行われた修理の際、像内より多数の文書が発見されます。中には1万2千名もの人物を記した結縁交名が納められていたそうです。名を細かく記した資料も合わせて展示されていました。
重源の死去後、快慶は朝廷や門跡寺院の造仏に関わるようになります。「金剛薩埵坐像」はどうでしょうか。所蔵は京都・随心院。13世紀前半に門跡号が与えられた寺院です。瞳は彫眼です。やや目がつり上がっています。肩から斜めに衣をかけています。文様は鋭い。腰も細く、全体的に量感が少ない身体です。しばらく眺めていると、表情にどこか脆さが表れているようにも見えました。超然としていません。だからこそすっとすがりたくもなります。
快慶の仏像の特徴を示すキーワードが「絵画的」です。それを半ば体現したのがアメリカ・キンベル美術館の「釈迦如来立像」でした。極めて正面性の高い仏像です。確かに前から見れば二次元的とも受け止められます。状態の良い仏像です。金色も眩しい。表情も端正です。にわかには心情を伺えません。これこそが祈りの境地なのでしょうか。静寂に包まれています。しばし時間を忘れて見入りました。
平明でかつ優美な仏像、通称「安阿弥様」こそ、快慶の追求した様式でした。
ラストは主に3躯の阿弥陀如来立像により快慶の作風の変遷を紹介。快慶の到達点を見定めています。

「阿弥陀如来立像」 快慶作 鎌倉時代(13世紀) 滋賀・圓常寺
比較的、早い段階で制作したと伝えられるのが奈良・西方寺の「阿弥陀如来立像」です。顔は幾分、笑みを浮かべているようで若々しい。身体からも瑞々しさが感じられます。さらに端正さが加わったのは中期の作、滋賀・圓常寺の「阿弥陀如来立像」です。着衣にはたるみもあり、文様は僅かに装飾性も増しています。そして晩年の快慶が手がけたのが奈良・光林寺の「阿弥陀如来立像」でした。
これらの仏像を展示室内を囲むように配置しています。時に儚くも映る「阿弥陀如来立像」。静謐の一言です。快慶の造仏に込めた祈りが充満しているかのようでした。

重要文化財「阿弥陀如来坐像」 快慶作 鎌倉時代・建仁元(1201)年 広島・耕三寺
実に快慶作の仏像の9割近くが一堂に会しているそうです。まさに回顧展の決定版と言えそうです。
9月には東京国立博物館で運慶展が控えています。

「興福寺中金堂再建記念特別展 運慶」@東京国立博物館
公式サイト:http://unkei2017.jp
会期:9月26日(火)~11月26日(日)
快慶、運慶展とも巡回はありません。春の奈良、秋の東京とともに追いかけたいと思います。

朝一番に出かけてきましたが、入場待ちの列こそ僅かに出来ていたものの、館内はスムーズ。ゆっくり見ることが出来ました。
公式サイトの「快慶仏講座」が極めて充実しています。奈良国立博物館の研究員が快慶仏を様々な角度から解説。それを動画で閲覧出来ます。全部で20件以上もあります。これほど細かな解説動画をWEB上に載せた展覧会はなかったかもしれません。
6月4日まで開催されています。おすすめします。
「快慶 日本人を魅了した仏のかたち」 奈良国立博物館(@narahaku_PR)
会期:4月8日(土)~6月4日(日)
休館:月曜日。但し5月1日(月)は開館。
時間:9:30~17:00。
*毎週金曜・土曜日は19時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、高校・大学生1000(800)円、小学・中学生500(300)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*毎週金曜日、及び8/5~15のみ17時から入場出来るサマーレイト券を発売。各200円引。
住所:奈良市登大路町50
交通:近鉄奈良駅下車登大路町を東へ徒歩約15分。JR奈良駅または近鉄奈良駅から市内循環バス外回り(2番)、「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ。
「快慶 日本人を魅了した仏のかたち」
4/8~6/4

鎌倉時代を代表する仏師、快慶の展覧会が、奈良国立博物館で開催されています。
生年不詳の快慶、その名が初めて登場したのは1183年の「運慶願経」でした。運慶の発願による法華経です。結縁者として快慶の名が記されました。ちなみに運慶と快慶は兄弟弟子の関係です。運慶の父は康慶。快慶の師です。快慶に関しては出自も明らかではありません。

「弥勒菩薩立像」 快慶作 鎌倉時代・文治5(1189)年 アメリカ・ボストン美術館
最初期の作品とされるのが「弥勒菩薩立像」でした。右手を垂らし、左手で水瓶を握っています。顔立ちはやや丸みを帯びていてふくよかです。身体の肉付きも良い。元は興福寺の伝来品です。現在ではボストン美術館に収蔵されています。

重要文化財「弥勒菩薩坐像」 快慶作 鎌倉時代・建久3(1192)年 京都・醍醐寺 *4/25~6/4展示
キャリア初期においては後白河院との関係が重要でした。醍醐寺三宝院の本尊の「弥勒菩薩坐像」は院の追善ための仏像です。早い段階から快慶の実力は各方面に知れ渡っていたのかもしれません。(なお弥勒菩薩坐像は4/25から出陳されました。私が見た時はパネルでした。)
その後、白河院が主導し、重源により進められた、東大寺の再興に参加します。有名なのは運慶らと共同で制作した東大寺南大門の「金剛力士像」です。但し当然ながら非出品です。代わって東大寺内のほかの仏像や、勧進活動のために全国各地に建てられた別所の仏像が展示されています。
一際目立つのが兵庫・浄土寺の「阿弥陀如来立像」でした。何せ像高2メートル20センチ超と大きい。同寺は重源が営んだ播磨の別所です。堂々たる姿を見せています。しかし上半身の肉取りなどは比較的簡素です。布の法衣を着せて祀ったと考えられています。

重要文化財「孔雀明王坐像」 快慶作 鎌倉時代・正治2(1200)年 和歌山・金剛峯寺 *4/8〜5/7展示
和歌山の金剛峯寺の諸仏が充実していました。うち1つが「孔雀明王坐像」です。孔雀座や光背などは後の制作です。非常に凛々しい。上下への伸びる腕もしなやかです。前を見据えては泰然としています。

重要文化財「執金剛神立像」 快慶作 鎌倉時代・建久8(1197)年 和歌山・金剛峯寺
同寺からは四天王立像のうちの「多聞天」と「広目天」、「執金剛神立像」や「深沙大将立像」も出陳。特に躍動感があるのが「執金剛神立像」です。左足をつき、右足を腰のあたりまで高く上げています。左手で何かを抑えつけるかのように下へ突き出していました。細部の造形こそシンプルですが、絶妙なバランス感覚です。まるで空から飛び降りてきたかのようでした。
東大寺の仏像で惹かれたのは「地蔵菩薩立像」でした。これぞまさしく端正でかつ流麗。快慶の様式です。衣の靡く姿はまるで水の波紋のようです。金泥や截金の文様も華やかです。体つきは偏らずに中正です。顔立ちも温和。さも肩の力を抜いてリラックスするかのように立っていました。
さらに東大寺関連では「西大門勅額付属八天王像」を一揃えで出陳。いずれの像も額から外され、かなり近い距離から見ることも出来ます。また「東大寺大仏縁起」などの絵画にも目が留まりました。ちなみに今回の展覧会では、仏像に関連する資料も細かく参照しています。快慶展とはいえ、全てが仏像の展示ではありません。
鎌倉時代では「老若貴賤を問わず」(解説より)、多くの結縁による造仏が行われるようになります。中でも人気を博したのは阿弥陀如来立像でした。
【#快慶展】お知らせ。京都・遣迎院の阿弥陀如来立像(57)は、4月11日からのお出ましです。#快慶#仏像#奈良国立博物館 https://t.co/Zi9XLeLmGA pic.twitter.com/5AgZgFclHg
— 奈良国立博物館 (@narahaku_PR) 2017年4月7日
京都・遣迎寺に伝わる「阿弥陀如来立像」も同様です。顔、体つきともに恰幅が良い仏像でした。切れ長の細い目をしています。金銀泥の輝きもまだ損なわれていません。截金も細かい。昭和12年に行われた修理の際、像内より多数の文書が発見されます。中には1万2千名もの人物を記した結縁交名が納められていたそうです。名を細かく記した資料も合わせて展示されていました。
重源の死去後、快慶は朝廷や門跡寺院の造仏に関わるようになります。「金剛薩埵坐像」はどうでしょうか。所蔵は京都・随心院。13世紀前半に門跡号が与えられた寺院です。瞳は彫眼です。やや目がつり上がっています。肩から斜めに衣をかけています。文様は鋭い。腰も細く、全体的に量感が少ない身体です。しばらく眺めていると、表情にどこか脆さが表れているようにも見えました。超然としていません。だからこそすっとすがりたくもなります。
快慶の仏像の特徴を示すキーワードが「絵画的」です。それを半ば体現したのがアメリカ・キンベル美術館の「釈迦如来立像」でした。極めて正面性の高い仏像です。確かに前から見れば二次元的とも受け止められます。状態の良い仏像です。金色も眩しい。表情も端正です。にわかには心情を伺えません。これこそが祈りの境地なのでしょうか。静寂に包まれています。しばし時間を忘れて見入りました。
平明でかつ優美な仏像、通称「安阿弥様」こそ、快慶の追求した様式でした。
ラストは主に3躯の阿弥陀如来立像により快慶の作風の変遷を紹介。快慶の到達点を見定めています。

「阿弥陀如来立像」 快慶作 鎌倉時代(13世紀) 滋賀・圓常寺
比較的、早い段階で制作したと伝えられるのが奈良・西方寺の「阿弥陀如来立像」です。顔は幾分、笑みを浮かべているようで若々しい。身体からも瑞々しさが感じられます。さらに端正さが加わったのは中期の作、滋賀・圓常寺の「阿弥陀如来立像」です。着衣にはたるみもあり、文様は僅かに装飾性も増しています。そして晩年の快慶が手がけたのが奈良・光林寺の「阿弥陀如来立像」でした。
これらの仏像を展示室内を囲むように配置しています。時に儚くも映る「阿弥陀如来立像」。静謐の一言です。快慶の造仏に込めた祈りが充満しているかのようでした。

重要文化財「阿弥陀如来坐像」 快慶作 鎌倉時代・建仁元(1201)年 広島・耕三寺
実に快慶作の仏像の9割近くが一堂に会しているそうです。まさに回顧展の決定版と言えそうです。
9月には東京国立博物館で運慶展が控えています。

「興福寺中金堂再建記念特別展 運慶」@東京国立博物館
公式サイト:http://unkei2017.jp
会期:9月26日(火)~11月26日(日)
快慶、運慶展とも巡回はありません。春の奈良、秋の東京とともに追いかけたいと思います。

朝一番に出かけてきましたが、入場待ちの列こそ僅かに出来ていたものの、館内はスムーズ。ゆっくり見ることが出来ました。
公式サイトの「快慶仏講座」が極めて充実しています。奈良国立博物館の研究員が快慶仏を様々な角度から解説。それを動画で閲覧出来ます。全部で20件以上もあります。これほど細かな解説動画をWEB上に載せた展覧会はなかったかもしれません。
6月4日まで開催されています。おすすめします。
「快慶 日本人を魅了した仏のかたち」 奈良国立博物館(@narahaku_PR)
会期:4月8日(土)~6月4日(日)
休館:月曜日。但し5月1日(月)は開館。
時間:9:30~17:00。
*毎週金曜・土曜日は19時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、高校・大学生1000(800)円、小学・中学生500(300)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*毎週金曜日、及び8/5~15のみ17時から入場出来るサマーレイト券を発売。各200円引。
住所:奈良市登大路町50
交通:近鉄奈良駅下車登大路町を東へ徒歩約15分。JR奈良駅または近鉄奈良駅から市内循環バス外回り(2番)、「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )