「雪村ー奇想の誕生」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「雪村ー奇想の誕生」 
3/28~5/21



「雪村ー奇想の誕生」展のプレスプレビューに参加してきました。

戦国時代に東国で活動した画僧、雪村周継の業績を辿る展覧会が、東京藝術大学大学美術館にて開催されています。

最も有名な作品と言って良いかもしれません。チラシの表紙を飾るのが「呂洞賓図」でした。呂洞賓とは中国の仙人を意味します。龍の頭に乗っては顔を上に振り上げています。強風が吹いているでしょうか。呂洞賓の衣服や紐はおろか、顎髭までが四方八方にたなびいています。足元では波が白い飛沫をあげています。かなり荒れていました。


雪村周継「呂洞賓図」 室町時代 奈良・大和文華館 

よく見ると左手で水瓶を持っていました。そこから2匹の子供の龍が立ち上がります。上空の龍と対峙しているようです。首はもはや骨が折れそうなほどに曲がっています。さらに両手を広げる姿は何やら体内のエネルギーをためているかのようでした。何とも豪放磊落。これぞまさしく「奇想」と呼ばれる所以なのかもしれません。

ただどうでしょうか。ほかの雪村というと、すぐに思い浮かぶ作品は多くないかもしれません。なにせ15年ぶりの回顧展です。雪村画で約100点。それに加えて雪村に連なる後世の画家も参照しています。


雪村周継「欠伸布袋・紅白梅図」 室町時代 茨城歴史博物館

意表を突く導入でした。冒頭に掲げられたのが「欠伸布袋・紅白梅図」です。右と左が紅白梅。下から強い勢いで枝を振っています。中央が布袋でした。まるで寝起きのように両手を挙げながら口を開いています。何とも満足気でした。それにしても何故にこの作品が最初に展示されているのでしょうか。


雪村周継「欠伸布袋・紅白梅図」展示風景

答えは光琳でした。かの名作の「紅白梅図屏風」との関係です。とするのも、中央の布袋が水流に代わっているとはいえ、左右に紅白梅を配した構図が良く似ているからです。光琳が本作に刺激を受けて「紅白梅図屏風」を描いたのではないかという指摘もあります。実際、光琳は雪村の作品をいくつも模写しました。


尾形光琳「渓橋高逸図」 江戸時代

その一つが「渓橋高逸図」でした。原画はもちろん雪村です。忠実に写しています。ところどころが平面的であるのは光琳のオリジナルです。さらに光琳は「雪村」と記した石印も所有していました。雪村画の模写の際に作ったのでしょうか。時代は150年以上も違います。いわば私淑ということかもしれません。ほか布袋の描写など、一部に雪村画の影響を伺えました。

さて雪村、確かに豪胆な作品も目立ちますが、花鳥や動物画の小品が意外なほど繊細で写実的です。自然や小動物に対しての温かい眼差しを見ることが出来ます。


雪村周継「芙蓉小禽図」 室町時代 神奈川県立歴史博物館

例えば「芙蓉小禽図」です。芙蓉と笹の組み合わせです。そこに百舌が飛んできています。墨の筆触は軽快です。百舌は丸みを帯びていて可愛らしい。花や葉のたらし込みもニュアンスに富んでいます。


雪村周継「野菜香魚図」 室町時代

野菜も得意としていました。「野菜香魚図」はどうでしょうか。香魚は鮎のことです。大根や茄子とともに描かれています。一見、即興的ながらも、鮎を象る描線などは的確です。魚の立体感も示されています。かなり写実的でした。


雪村周継「竹錦鶏・芙蓉鴨図」 室町時代 東京藝術大学

「竹錦鶏・芙蓉鴨図」は雪村画に珍しい彩色の花鳥画です。左幅で紅色の花を咲かせているのが芙蓉でした。下には1羽の水禽がいます。右幅で直立に伸びるのは竹です。つがいの鳥が止まっています。いわゆる中国の南宋画にも近い画風です。制作年代については議論あるようですが、よく学んでいるのではないでしょうか。

動植物を表した作品がともかく親しみやすい。言われなければ雪村と気がつかないかもしれません。こうした雪村を知ったのも今回の展覧会の大きな収穫でした。

それにしても雪村は筆は自在です。多彩とも言えるかもしれません。小画面も大画面も破綻なく表現しています。大作の屏風も見逃せませんでした。


雪村周継「金山寺図屏風」 室町時代 茨城・笠間稲荷美術館

「金山寺図屏風」が圧巻でした。金山寺とは揚子江中流に位置する禅寺です。もちろん雪村が実際に見たわけではありません。先行作を元に空想で描いています。


雪村周継「金山寺図屏風」(部分) 室町時代 茨城・笠間稲荷美術館

何が凄いかといえば、中央の建物の詳細な表現でした。楼閣の線は極めて密です。さらに建物の中には人の姿もあります。目を凝らさないと分かりません。ひたすらに細い。細密画と呼んでも差し支えないかもしれません。もはや肉眼で判別するのが困難なほどでした。

屏風ではもう1点、「花鳥図屏風」も面白いのではないでしょうか。アメリカはミネアポリス美術館の所蔵です。里帰りしてきました。


雪村周継「花鳥図屏風」 室町時代 ミネアポリス美術館

右隻は老梅です。相当に屈曲しています。白い鷺が羽を休めていました。一方の左隻は柳です。風に吹かれています。そして白鷺です。今度は飛んでいる鳥もいました。さらに燕が群れています。動きはやや激しい。まるで互いに連絡し合うかのように視線を合わせています。


雪村周継「花鳥図屏風」(部分) 室町時代 ミネアポリス美術館

注目すべきは右隻の水辺です。突如、2匹の鯉が浮上。ぎょろりとした目を光らせてはバシャバシャと泳いでいます。鷺は驚くように鯉を見据えていました。何とも一風変わった鯉の登場シーンです。俄かにドラマが生じます。ひょっとすると違和感さえ覚えるかもしれません。ただこれにこそ雪村の個性が表れているのではないでしょうか。



雪村は常陸の生まれです。会津に移り、小田原、鎌倉から鹿島を経由して奥州へと向かいます。没したのが三春。現在の福島県田村郡でした。修行時代から中国画を習い、晩年の独創的な表現へ至った経過も時間軸で詳しく追っています。回顧展として不足ありませんでした。

[雪村ー奇想の誕生 巡回スケジュール]
MIHO MUSEUM(滋賀):2017年8月1日(火)〜9月3日(日)

さて展示替えの情報です。会期中に多くの作品が入れ替わります。

特別展「雪村ー奇想の誕生」出品リスト(PDF)

厳密には4期制ですが、前後期での入れ替えが大半です。ほぼ2つで1つの展覧会と言っても良いかもしれません。


「雪村ー奇想の誕生」会場風景

5月21日まで開催されています。

「雪村ー奇想の誕生」 東京藝術大学大学美術館
会期:3月28日(火)~5月21日(日)
休館:月曜日。但し5月1日は開館。
時間:10:00~17:00 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生900(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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