都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「第23回 秘蔵の名品 アートコレクション展」 ホテルオークラ東京
ホテルオークラ東京
「第23回 秘蔵の名品 アートコレクション展 佳人礼讃ーうるわしの姿を描く」
7/31~8/24
毎年夏の恒例、ホテルオークラのアートコレクション展も、今年で23回目を迎えました。
テーマは「佳人礼讃ーうるわしの姿を描く」。つまり女性の人物肖像画です。日本画、西洋画を問わず、主に女性をモチーフとした約70点の肖像、風俗画を展示しています。
さて「秘蔵の名品」とあるように、毎回、あまり見聞きしない画家に、意外な佳品があるのも見逃せません。その一つがジョージ・チャールズ・エイド「ジャパニーズ・プリント」でした。1872年に生まれたアメリカの画家で、ちょうど部屋に飾ろうとしているのか、日本の浮世絵を壁にかける婦人を後ろから描いています。うっすらとピンク色を帯びたドレスも美しく、僅かにセピア色がかった全体の色調も幻想的です。物静かで優雅な室内空間を表していました。
ギョーム・セニャック「ミューズ」 19世紀末 住友コレクション・泉屋博古館分館
ギョーム・セニャックは「ミューズ」にて、ギリシャ神話の女神を耽美的に描きました。女神は右手でペンを持ち、何かを閃いたような表情をしながら、上を見やっています。後ろから差し込む明るい光によるのか、白いドレスが殊更に美しく見えました。作品は、1901年、洋画家の鹿子木孟郎が住友家のために購入しました。当時は「白衣の少女」と呼ばれていたそうです。現在は泉屋博古館分館に収蔵されています。
アメデオ・モディリアーニ「婦人像」 1917年頃
モディリアーニの「婦人像」も忘れられません。長い首に面長の顔、そして黒いアーモンド型の目など、まさにモディリアーニに特徴的な婦人を表しています。表情こそ伺えないものの、どこか憂いを帯びているように感じたのは私だけでしょうか。沈み込むような視線の前にしばし釘付けになりました。
一方で日本の洋画家はどうでしょうか。必ずしも有名ではないかもしれませんが、小林万吾の「物思い」が魅惑的でした。茂みを背景に、手紙を持った和装の女性が、柱にもたれかかっています。別れの内容が記されていたのかもしれません。タイトルが示すように、どこか思いつめたような表情をしています。うっすらと緑色を帯びた光が全体を覆っていました。人物、特に顔の描写がリアルです。明治時代の作品ながらも、不思議と現代のリアリスム絵画を思い出しました。
矢崎千代二の「教鵡」 明治33(1900)年 東京藝術大学
ほかには岡田三郎助の「支那絹の前」や、矢崎千代二の「教鵡」なども目を引くのではないでしょうか。刺繍の質感を絵具で再現した「支那絹の前」の画肌には凄みすら感じられました。
ハイライトは日本画にあるかもしれません。特に上村松園、鏑木清方が充実し、両画家のミニ回顧展と化しています。
上村松園「うつろふ春」 昭和13(1938)年 霊友会妙一コレクション
いずれもうるわしの女性です。松園の「うつろふ春」に見惚れました。頬杖をついては、やや笑みを浮かべながら、横目を向く和装の女性を描いています。背景はほぼ余白ながらも、桜の花びらが何枚か散り、季節が春であることがわかりました。よく見ると着物の柄にも桜の花があしらわれています。春の終わりの頃でしょうか。何とも言い難い気品を感じました。
清方では「七夕」も大変な力作ですが、より興味深かったのは「雨月物語」の連作でした。元は江戸時代後期に上田秋成が著した読本で、日本や中国に由来する怪奇物語を翻案しています。清方は読本を大変に好み、9編の物語から場面を選んで、絵巻に仕上げました。現在は額装に改められています。
鏑木清方「雨月物語」 大正10(1921)年 霊友会妙一コレクション
これが見事な臨場感です。特にクライマックスの「蛇身」の場面が圧巻でした。荒れ狂う波間に飛び込んだのが、蛇身と化した真女児と侍女です。黒く長い髪をなびかせては波間に身を沈めています。滝の激流は凄まじく、轟々となる波音が聞こえてくるかのようでした。なお会場では各場面の簡単な粗筋も紹介されていて、話の内容を追いかけながら鑑賞することも出来ました。
松園、清方に次いで目に付くのが伊東深水です。「香衣」が妖艶でした。桜の模様の散りばめた衣を着た女性の座る姿を描いています。真っ白い左腕をちょうど首の後ろに回していました。白梅と紅梅の髪飾りも華やかです。腰から下の部分の地に影を付けているからか、どことなく幻影的な雰囲気も漂っています。
伊東深水「楽屋」 明治34(1959)年 明治座
さらに深水では「楽屋」も品があって美しい。伊藤小坡や島成園などの、京都、大阪の画家の作品があるのも嬉しいところでした。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「聖テレジアの少女時代」 1893年 松岡美術館
終盤は再び油絵に戻り、シャガール、ドンゲン、ローランサン、そして藤田、小磯良平の作品が続きます。ラストはミレイの「聖テレジアの少女時代」でした。スペインの聖女に取材した一枚で、思いつめたテレジアが弟を連れ、荒野へ向かう場面を表現しています。衣装の文様などの細部の描きこみもかなり精緻でした。やや悲しげな様ながらも、弟の手を確かに握る少女からは、どことない意志の強さも感じられました。
大正時代に、画家、多田北烏の描いたキリンビールの宣伝ポスターのデザインが洗練されていました。
多田北烏の「キリンビール」ポスター(KIRIN)
特に今にも瓶ビールの栓を抜こうとする女性を横から捉えた作品に惹かれました。また黄金色のビールの注がれたグラスを見やる女性の笑みも楽しげです。思わずビールが飲みたくなってしまいました。
いつもながらのホテル内の静かなスペースでの展示です。ゆっくりと思い思いのペースで鑑賞出来ました。
心なしかエアコンが強めでした。一枚、羽織るものがあっても良いかもしれません。
8月24日まで開催されています。
「第23回 秘蔵の名品 アートコレクション展 佳人礼讃ーうるわしの姿を描く」 ホテルオークラ東京
会期:7月31日 (月) ~ 8月24日 (木)
休館:会期中無休。
時間:10:30~17:30(入場は17時まで)*初日のみ12時開場。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 アスコットホール (地下2階)
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
「第23回 秘蔵の名品 アートコレクション展 佳人礼讃ーうるわしの姿を描く」
7/31~8/24
毎年夏の恒例、ホテルオークラのアートコレクション展も、今年で23回目を迎えました。
テーマは「佳人礼讃ーうるわしの姿を描く」。つまり女性の人物肖像画です。日本画、西洋画を問わず、主に女性をモチーフとした約70点の肖像、風俗画を展示しています。
さて「秘蔵の名品」とあるように、毎回、あまり見聞きしない画家に、意外な佳品があるのも見逃せません。その一つがジョージ・チャールズ・エイド「ジャパニーズ・プリント」でした。1872年に生まれたアメリカの画家で、ちょうど部屋に飾ろうとしているのか、日本の浮世絵を壁にかける婦人を後ろから描いています。うっすらとピンク色を帯びたドレスも美しく、僅かにセピア色がかった全体の色調も幻想的です。物静かで優雅な室内空間を表していました。
ギョーム・セニャック「ミューズ」 19世紀末 住友コレクション・泉屋博古館分館
ギョーム・セニャックは「ミューズ」にて、ギリシャ神話の女神を耽美的に描きました。女神は右手でペンを持ち、何かを閃いたような表情をしながら、上を見やっています。後ろから差し込む明るい光によるのか、白いドレスが殊更に美しく見えました。作品は、1901年、洋画家の鹿子木孟郎が住友家のために購入しました。当時は「白衣の少女」と呼ばれていたそうです。現在は泉屋博古館分館に収蔵されています。
アメデオ・モディリアーニ「婦人像」 1917年頃
モディリアーニの「婦人像」も忘れられません。長い首に面長の顔、そして黒いアーモンド型の目など、まさにモディリアーニに特徴的な婦人を表しています。表情こそ伺えないものの、どこか憂いを帯びているように感じたのは私だけでしょうか。沈み込むような視線の前にしばし釘付けになりました。
一方で日本の洋画家はどうでしょうか。必ずしも有名ではないかもしれませんが、小林万吾の「物思い」が魅惑的でした。茂みを背景に、手紙を持った和装の女性が、柱にもたれかかっています。別れの内容が記されていたのかもしれません。タイトルが示すように、どこか思いつめたような表情をしています。うっすらと緑色を帯びた光が全体を覆っていました。人物、特に顔の描写がリアルです。明治時代の作品ながらも、不思議と現代のリアリスム絵画を思い出しました。
矢崎千代二の「教鵡」 明治33(1900)年 東京藝術大学
ほかには岡田三郎助の「支那絹の前」や、矢崎千代二の「教鵡」なども目を引くのではないでしょうか。刺繍の質感を絵具で再現した「支那絹の前」の画肌には凄みすら感じられました。
ハイライトは日本画にあるかもしれません。特に上村松園、鏑木清方が充実し、両画家のミニ回顧展と化しています。
上村松園「うつろふ春」 昭和13(1938)年 霊友会妙一コレクション
いずれもうるわしの女性です。松園の「うつろふ春」に見惚れました。頬杖をついては、やや笑みを浮かべながら、横目を向く和装の女性を描いています。背景はほぼ余白ながらも、桜の花びらが何枚か散り、季節が春であることがわかりました。よく見ると着物の柄にも桜の花があしらわれています。春の終わりの頃でしょうか。何とも言い難い気品を感じました。
清方では「七夕」も大変な力作ですが、より興味深かったのは「雨月物語」の連作でした。元は江戸時代後期に上田秋成が著した読本で、日本や中国に由来する怪奇物語を翻案しています。清方は読本を大変に好み、9編の物語から場面を選んで、絵巻に仕上げました。現在は額装に改められています。
鏑木清方「雨月物語」 大正10(1921)年 霊友会妙一コレクション
これが見事な臨場感です。特にクライマックスの「蛇身」の場面が圧巻でした。荒れ狂う波間に飛び込んだのが、蛇身と化した真女児と侍女です。黒く長い髪をなびかせては波間に身を沈めています。滝の激流は凄まじく、轟々となる波音が聞こえてくるかのようでした。なお会場では各場面の簡単な粗筋も紹介されていて、話の内容を追いかけながら鑑賞することも出来ました。
松園、清方に次いで目に付くのが伊東深水です。「香衣」が妖艶でした。桜の模様の散りばめた衣を着た女性の座る姿を描いています。真っ白い左腕をちょうど首の後ろに回していました。白梅と紅梅の髪飾りも華やかです。腰から下の部分の地に影を付けているからか、どことなく幻影的な雰囲気も漂っています。
伊東深水「楽屋」 明治34(1959)年 明治座
さらに深水では「楽屋」も品があって美しい。伊藤小坡や島成園などの、京都、大阪の画家の作品があるのも嬉しいところでした。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「聖テレジアの少女時代」 1893年 松岡美術館
終盤は再び油絵に戻り、シャガール、ドンゲン、ローランサン、そして藤田、小磯良平の作品が続きます。ラストはミレイの「聖テレジアの少女時代」でした。スペインの聖女に取材した一枚で、思いつめたテレジアが弟を連れ、荒野へ向かう場面を表現しています。衣装の文様などの細部の描きこみもかなり精緻でした。やや悲しげな様ながらも、弟の手を確かに握る少女からは、どことない意志の強さも感じられました。
大正時代に、画家、多田北烏の描いたキリンビールの宣伝ポスターのデザインが洗練されていました。
多田北烏の「キリンビール」ポスター(KIRIN)
特に今にも瓶ビールの栓を抜こうとする女性を横から捉えた作品に惹かれました。また黄金色のビールの注がれたグラスを見やる女性の笑みも楽しげです。思わずビールが飲みたくなってしまいました。
いつもながらのホテル内の静かなスペースでの展示です。ゆっくりと思い思いのペースで鑑賞出来ました。
心なしかエアコンが強めでした。一枚、羽織るものがあっても良いかもしれません。
8月24日まで開催されています。
「第23回 秘蔵の名品 アートコレクション展 佳人礼讃ーうるわしの姿を描く」 ホテルオークラ東京
会期:7月31日 (月) ~ 8月24日 (木)
休館:会期中無休。
時間:10:30~17:30(入場は17時まで)*初日のみ12時開場。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 アスコットホール (地下2階)
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
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