都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「遠藤利克展ー聖性の考古学」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館
「遠藤利克展ー聖性の考古学」
7/15~8/31
埼玉県立近代美術館で開催中の「遠藤利克展ー聖性の考古学」を見てきました。
1950年に岐阜で生まれ、「現代の日本を代表する彫刻家」(解説より)として活動する遠藤利克。焼成した木を素材にした彫刻は、時に圧倒的な量感をもって空間を支配しています。
遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年
冒頭の「空洞説ー円い沼」からして圧巻でした。直径4メートル弱の円筒状の作品で、内側がくりぬかれ、液体が溜まっています。まるで巨大な火山の噴火口のようでした。
遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年
さらに鼻へタールの臭いが否応なしに刺してきます。この臭いも遠藤作品の特質の一つとして挙げられるかもしれません。遠藤は焼成を神に供物を捧げる供儀になぞらえています。どれほどに激しく燃やしているのでしょうか。黒焦げに焼成した木の生々しい表面は、まるで魚の鱗のようでした。
会場内は迷路のようです。細かに区切られた空間とは不釣り合いなほどに大きな彫刻が展示されています。出展数は全部で12点です。2010年代に制作された作品が中心で、うち3点は本年の新作でした。遠藤の最近の活動を追うことが出来ます。
カヌーのように細長い舟が横たわります。全長11メートルにも及ぶ「空洞説ー木の舟」でした。表面は先の「円い沼」と同様にゴツゴツとしていて、中には細かに砕けた木片も散乱していました。この舟はもはや動くことは出来ないのかもしれません。太古の地層から掘り出した化石のようでした。
最大の長さを誇るのが「泉」です。長さ20メートル近くもある丸太のような円筒が置かれています。中が空洞で、屈んで覗き込むと、向こう側の景色が見えました。その先の景色が、20メートル先どころか、もはや同じ空間を共有しえない彼方のように思えたのは私だけでしょうか。不思議な感覚にとらわれました。
「Triebー水路」も重厚感がありました。タイトルが示すように水路の一部を切り取ったようにも見えるかもしれません。開口部は2メートル超四方あり、実際に入ることは叶いませんが、おそらく人を乗せることも出来なくありません。内側の木の一部は古色を帯びていました。
遠藤作品を前にすると否応なしに「死」のイメージがわきあがってきます。その際たる作品が「寓話Vー鉛の柩」でした。同じく焼成し、黒焦げになっているのは、まさしく柩のような直方体です。蓋と箱の部分が分かれているように見えるものの、そもそも蓋が開くのか、中が空洞なのかすらわかりません。またややくたびれて、僅かに歪んでもいます。おおよそ表面の質感からは昨年に制作された作品には見えません。これが炎のなす業なのでしょうか。古代遺跡から出土した棺のようにも見えました。
それこそ古代の地下神殿のような驚くべき空間が現出しています。ハイライトを飾るのが「無題」でした。暗室の中に12本の柱が円を描くように立ち並んでいます。1本1本はかなり太いものの、隙間からサークルの中に入ることも可能です。さらに例のタールの臭いも充満していました。
円環という構造は場に力を与えるのでしょうか。まるで神話時代の祭儀の場へ迷い込んだような錯覚に陥りました。これぞ聖性なのかもしれません。と同時に、誰もが足を踏み入れてはいけない禁断の地のようにも思えなくはありません。これほど重々しい空間が、かつてこの美術館に現れたことがあったのでしょうか。畏怖の念さえ覚えました。
遠藤は木と炎とともに、水を用いる彫刻家でもあります。その1つが「Triebー振動2017」です。終始、水のバシャバシャという音が聞こえています。ただし水の流れ自体は見えません。というのも、錆びた鉄の壁が遮っているからです。おそらく壁の向こうで水が流れているのでしょう。ふと目を手前に転じると、水の張られたつぼが置かれていました。見えない水と見える水は如何なる関係にあるのでしょうか。ひょっとすると水の循環などもイメージされていたのかもしれません。
遠藤利克「空洞説ー薬療師の舟」 2017年
ラストは展示室外、吹き抜けのスペースにある「空洞説ー薬療師の舟」でした。中央にカヌー状の舟が横たわり、その上に太いマストのような円柱が縦に伸びています。
遠藤利克「空洞説ー薬療師の舟」 2017年
てっきり柱は舟の上に乗っているのかと思いきや、実は宙吊りになっていて、舟の部分とは接続していませんでした。写真では分かりにくいかもしれませんが、僅かに隙間が出来ています。そして円柱の下には小さな水盤が広がっていました。
遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年
なお展示室外の「空洞説」の2点、「円い沼」と「薬療師の舟」のみ撮影が出来ました。
作家の遠藤は、8月26日から所沢市内で始まった現代美術展、「引込線」にも参加しています。あわせて追うのも良いかもしれません。
「引込線2017」
会期:8月26日(土)〜9月24日(日)
会場:旧所沢市立第2学校給食センター
私が初めて遠藤の作品を見たのは、おそらく10年以上も前、スカイザバスハウスで開催された個展でした。
ともかく円筒形の彫刻の強い存在感に驚いたことを覚えています。その後、引込線など、幾つかのアートプロジェクトで作品に接することがありました。また竹橋の近代美術館にも遠藤作品が収蔵されています。
しかし不思議と美術館でまとめて見る機会がありませんでした。何せ関東では26年ぶりの美術館での個展です。遠藤の創作世界を存分に体感することが出来ました。
「遠藤利克ー聖性の考古学/現代企画室」
会期末です。8月31日まで開催されています。
「遠藤利克展ー聖性の考古学」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:7月15日 (土) ~ 8月31日 (木)
休館:月曜日。但し7月17日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「遠藤利克展ー聖性の考古学」
7/15~8/31
埼玉県立近代美術館で開催中の「遠藤利克展ー聖性の考古学」を見てきました。
1950年に岐阜で生まれ、「現代の日本を代表する彫刻家」(解説より)として活動する遠藤利克。焼成した木を素材にした彫刻は、時に圧倒的な量感をもって空間を支配しています。
遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年
冒頭の「空洞説ー円い沼」からして圧巻でした。直径4メートル弱の円筒状の作品で、内側がくりぬかれ、液体が溜まっています。まるで巨大な火山の噴火口のようでした。
遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年
さらに鼻へタールの臭いが否応なしに刺してきます。この臭いも遠藤作品の特質の一つとして挙げられるかもしれません。遠藤は焼成を神に供物を捧げる供儀になぞらえています。どれほどに激しく燃やしているのでしょうか。黒焦げに焼成した木の生々しい表面は、まるで魚の鱗のようでした。
会場内は迷路のようです。細かに区切られた空間とは不釣り合いなほどに大きな彫刻が展示されています。出展数は全部で12点です。2010年代に制作された作品が中心で、うち3点は本年の新作でした。遠藤の最近の活動を追うことが出来ます。
カヌーのように細長い舟が横たわります。全長11メートルにも及ぶ「空洞説ー木の舟」でした。表面は先の「円い沼」と同様にゴツゴツとしていて、中には細かに砕けた木片も散乱していました。この舟はもはや動くことは出来ないのかもしれません。太古の地層から掘り出した化石のようでした。
最大の長さを誇るのが「泉」です。長さ20メートル近くもある丸太のような円筒が置かれています。中が空洞で、屈んで覗き込むと、向こう側の景色が見えました。その先の景色が、20メートル先どころか、もはや同じ空間を共有しえない彼方のように思えたのは私だけでしょうか。不思議な感覚にとらわれました。
「Triebー水路」も重厚感がありました。タイトルが示すように水路の一部を切り取ったようにも見えるかもしれません。開口部は2メートル超四方あり、実際に入ることは叶いませんが、おそらく人を乗せることも出来なくありません。内側の木の一部は古色を帯びていました。
遠藤作品を前にすると否応なしに「死」のイメージがわきあがってきます。その際たる作品が「寓話Vー鉛の柩」でした。同じく焼成し、黒焦げになっているのは、まさしく柩のような直方体です。蓋と箱の部分が分かれているように見えるものの、そもそも蓋が開くのか、中が空洞なのかすらわかりません。またややくたびれて、僅かに歪んでもいます。おおよそ表面の質感からは昨年に制作された作品には見えません。これが炎のなす業なのでしょうか。古代遺跡から出土した棺のようにも見えました。
それこそ古代の地下神殿のような驚くべき空間が現出しています。ハイライトを飾るのが「無題」でした。暗室の中に12本の柱が円を描くように立ち並んでいます。1本1本はかなり太いものの、隙間からサークルの中に入ることも可能です。さらに例のタールの臭いも充満していました。
円環という構造は場に力を与えるのでしょうか。まるで神話時代の祭儀の場へ迷い込んだような錯覚に陥りました。これぞ聖性なのかもしれません。と同時に、誰もが足を踏み入れてはいけない禁断の地のようにも思えなくはありません。これほど重々しい空間が、かつてこの美術館に現れたことがあったのでしょうか。畏怖の念さえ覚えました。
遠藤は木と炎とともに、水を用いる彫刻家でもあります。その1つが「Triebー振動2017」です。終始、水のバシャバシャという音が聞こえています。ただし水の流れ自体は見えません。というのも、錆びた鉄の壁が遮っているからです。おそらく壁の向こうで水が流れているのでしょう。ふと目を手前に転じると、水の張られたつぼが置かれていました。見えない水と見える水は如何なる関係にあるのでしょうか。ひょっとすると水の循環などもイメージされていたのかもしれません。
遠藤利克「空洞説ー薬療師の舟」 2017年
ラストは展示室外、吹き抜けのスペースにある「空洞説ー薬療師の舟」でした。中央にカヌー状の舟が横たわり、その上に太いマストのような円柱が縦に伸びています。
遠藤利克「空洞説ー薬療師の舟」 2017年
てっきり柱は舟の上に乗っているのかと思いきや、実は宙吊りになっていて、舟の部分とは接続していませんでした。写真では分かりにくいかもしれませんが、僅かに隙間が出来ています。そして円柱の下には小さな水盤が広がっていました。
遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年
なお展示室外の「空洞説」の2点、「円い沼」と「薬療師の舟」のみ撮影が出来ました。
作家の遠藤は、8月26日から所沢市内で始まった現代美術展、「引込線」にも参加しています。あわせて追うのも良いかもしれません。
「引込線2017」
会期:8月26日(土)〜9月24日(日)
会場:旧所沢市立第2学校給食センター
私が初めて遠藤の作品を見たのは、おそらく10年以上も前、スカイザバスハウスで開催された個展でした。
ともかく円筒形の彫刻の強い存在感に驚いたことを覚えています。その後、引込線など、幾つかのアートプロジェクトで作品に接することがありました。また竹橋の近代美術館にも遠藤作品が収蔵されています。
美術家・遠藤利克が表現する、日本人が忘れていた芸術の本当の姿 https://t.co/rfsNSm4WfI @CINRANETさんから インタビュー記事(読ませます)。展覧会は埼玉県立近代美術館で8月31日まで開催中。
— はろるど (@harold_1234) 2017年8月25日
しかし不思議と美術館でまとめて見る機会がありませんでした。何せ関東では26年ぶりの美術館での個展です。遠藤の創作世界を存分に体感することが出来ました。
「遠藤利克ー聖性の考古学/現代企画室」
会期末です。8月31日まで開催されています。
「遠藤利克展ー聖性の考古学」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:7月15日 (土) ~ 8月31日 (木)
休館:月曜日。但し7月17日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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