3ヶ月ぶりに実家に戻った翌朝は雨だった。玄関のドアを開けるとムッとする生暖かく湿った外気が私の顔に、家の中の冷たい空気を後頭部に感じる妙な感覚が一瞬よぎった。その温度差が玄関や台所の窓ガラスの「外側」に水滴が吹き出していた。家の外内で逆転現象が起こった。
朝食を済ませ直ぐに強い雨と霧の中を車で松山の介護施設に向かった。霧が濃く視界50m程度といった感じで高速道路は時速50kmに制限されていると表示されていた。いつもは峠を越えると天候が変わるのだが、その日は施設に着くまで雨も霧も変わらなかった。
母は要介護レベル4になったと昨年末通知を受けたが、会ってみると機嫌は悪かったが酷く悪化した感じはなかった。担当看護婦も同じような印象を受けているようで一安心だった。担当介護士は若い男性に代わっていた。彼の案内で母の部屋を見せてもらった。母の衣類が丁寧にたたんでしまってあるのを見て、彼が母を丁寧に介護してくれていると感じた。
その帰りに久しぶりに友人に会って食事をした。変わらず元気そうだった。会う度に相手の様子を見て老いた自分を感じる、仕方がないのだけど。私のブログを読んでハワイに行ったことを知っていて、久し振りのはずなのに何だか不思議な気がした。実家に戻ると雨は上がっていた。
翌日は、昨年実施した国調(国土調査)の結果を反映した図面の確認の為、市役所に行った。本来は先週までに確認の回答を返す必要があったが、東京に送られてきた小さな図面では判読し難く、事情を話して延期してもらい火曜日に直接市役所に出向いた訳だ。
実際に調査を担当した森林組合の調査員も立ち会って、大きな図面を見て旧番地がどう合筆されたか説明を聞くと地番と地図の関係がやっと分かった。しかし、江戸時代からの先祖の墓地が他人名義になっており、勝手に名義変更できないと説明された。誰も知らない名前の持ち主がいて確認が取れず、境界が不明で曖昧な部分が図面に残されていた。・・・でもハンコを押した。
それが終ると、ガソリンスタンドに行き風呂とストーブ用の灯油を買った。実家にはエアコンは6台あるのだが、大きな家なので補助として更に石油ストーブ2台と電気コタツ2セットある。風呂はシャワー室を含め3つもある。全部灯油で賄っている。灯油はポリタン4つに計60リットルで5700円、馬鹿にならない金額だ。これだけあって一人で住むのはジョーク、全く不経済だ。
帰りに全国チェーンの古本屋が出店したのを見つけ嬉しくなった。一つ文化の香が増えた感じだ。やっと実家の独り暮らしできる体勢を作ったので、今日の午後散歩を兼ね出掛けてみた。外見は倉庫みたいだが中は見慣れた棚揃えだった。しかし肝心の読みたくなるような古本は全くなかった。古本屋の品揃えはその土地の文化度を反映する、それは傲慢で私の趣向に合わないだけ。
がっかりして実家に戻る途中、コーヒーを卸す倉庫の片隅に小さなコーヒーショップを見つけた。74円で試し飲み出来るという立て看板を見つけ、フラフラとお店に入った。イエメン産のモカ何とかといってブレンドで酸味を円やかにしたものという。試飲した酸味のないモカは気の抜けたビールみたいだったが、売り子のオバサンに乗せられて一袋買う羽目になった。■