日本では余り注目されていないが気になっているニュースがある。リーマンショック後5年経過して米国政府が金融機関に投じた救済資金のツケを取り立てている。どの位のツケかと言うと日本では信じられない程の大金、兆円単位だ。注目すべきは金額の大きさだけではない。リーマンショック時の複雑な事情と金融機関の在り方、それが現在の経済への影響などに注目した。
報道(WP8/10)によるとリーマンショック時の住宅証券取引に不正があったとして、バンカメ(バンクオブアメリカ)と司法省が罰金160億ドル(1.6兆円)を支払うことで交渉中だと報じられた。以前130億ドルと伝えられていたので罰金が積み上がったようだ。だが、巨額罰金の対象はバンカメだけではない。既にJPモルガンも兆円単位の罰金を払うことで決着している。
バンカメには尤もらしい言い分がある。不正(インチキ住宅ローン証券を売りつけた)をしたのはカントリーワイドとメリルリンチで、当時危機に陥った両社を政府に懇願されて合併吸収した。今になって買収前の会社の不正の責任をとれと言うのは理屈に合わない、というものだ。
だが、それでは言い訳にならない。それを許せば不正をした会社を買収すると罪が消えてしまうことになる。しかも当時バンカメは合併交渉で不正を知らなかったはずはないし、承知の上で合併から利益を得ようとしたはずだと指摘された。結果としてバンカメは司法省と争うのを諦め交渉で罰金を減らす方針に転換し、現在は最終段階にさしかかっていると報じられている。
バンカメが払う罰金はリーマンショック後最大の額になるというが、米国のメディアの扱いは比較的小さい。既に銀行の経営は立ち直り、巨額の罰金を払っても経営への打撃を回避できるとみなされているからだ。罰金の半分は現金、残りは分割払いになる見込みだという。このニュースが流れてもバンカメの株価は微動だにしなかった。
メディアが注視しているのはリーマンショックを起こした構造的要因がどう修正されたかであろう。6年経過して経済はリーマンショック前に戻り、法改正で銀行はレバレッジを高めリスクの大きい取引は出来なくなった。だが、収益性を回復した銀行が危機に陥ると、再び危機が世界に連鎖することに変化はない。その意味で「大きくて潰せない」構造は維持されている。
この大きな問いかけに対し、多分、正解は無いというように私には思える。将来危機が起こったら結局のところ税金を使って金融システムを救済するしかないだろう。司法省は救済はタダじゃないことを身に沁みてわからせようとしている。世界を恐怖の底に陥れた責任としては当然だと私は思う。だが、政府は金融機関が体力を回復して罰金を払えるようになるまで待った。見方を変えると、罰金を払えるまで経済が元気になったと思えばグッドニュースだろう。
多分欧州はこれほど思い切った罰は与えないし、仮に日本で問題を起こしたらもっと優しい措置になると私は思う。許されるかどうかは影響の広がりの程度かもしれない。個人的には次の危機に備えておくべきだと思う。全く違う形で発生するだろう。何年か経つと米国政府の手の及ばない新たなグローバルプレーヤーが出現して危険な振る舞いをする恐れが無いと言えようか。■