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書評: プロジェクト成功への決め手

2005-01-14 18:21:36 | 本と雑誌
多くの企業にとってプロジェクトの成功は死活的なインパクトを与える。プロジェクトの7割は失敗している、しかしこうすれば成功すると主張し、その理論と実践について歯切れ良く説いたハウツー本を井野弘氏が著し英治出版社から世に問うた。

著者は前著「プロジェクト成功への挑戦」でプロジェクト・マネジメントの理論を明解に説いてくれた。今回、物事は理屈どおりには行かないと思い悩んでいるプロジェクトに携わる人達の為に書かれた実践編である。著者の経験から滲み出たいわば「決め台詞」が各章の先頭に出てきてその後の展開を予想させ、それが全体に小気味良いリズムを与え、簡潔なイラストを交えて堅い内容のわりには読みやすい構成になっている。著者が体験したと思われる発注担当者の「タチ」の説明が、生々しい実際のシーンを思い浮かばせ興味深い。

本書はプロジェクトマネージャやサブリーダ、プロジェクト事業責任者及び将来リーダの教育の書として前著とあわせ読まれることを勧めたい。特に関連する部門が輻湊する大組織のプロジェクト関係者にプロジェクト・マネジメントのあるべき姿を示し、プロジェクトを成功させ、生き残る為の最適のハウツー本である。本書は網羅的に要点を整理しており、読者は本書に従いプロジェクトをレビューし取りこぼしをチェックし、少なくともアリバイ作りができる。(私は最初、これはアリバイ作りになるなと思った。と言うのは著者が指摘する通りプロジェクトの失敗要因は五万とあり成功するとは限らないのだから。)

私は日米で製造業のSCM革新や需要管理計画等のBPRを含む基幹システムの導入・移行に経営責任者として携わった。その経験からプロジェクトの成功は人的要因、特にトップのコミットメントとリーダの能力が極めて重要であると考えていた。プロジェクトの背景には仕事の仕方を変えさせられ、その重要性が劇的に低下する部門や人の協力を得ながら推進していく事が普通で、日米に関らずその利害関係の調整は重要で多くの時間を割いた。しかし、本書はプロジェクトを継続して成功させるやり方・仕組があり、それに人的な要素を交えて理屈だけでなく現実の組織の中でより良く実行できることを示している。

それでも、私は本書の読者層は限られていると思う。本書ではプロジェクトを成功させるための組織・人材・プロセスのあるべき姿は大きな組織が前提になっている。プロジェクトマネージャ、サブリーダの人達はさておき、直接関係する事業責任者を除けば経営者は読みたい気にはならないだろう。多くの経営者はWhatを求めるがHowまで立ち入る時間の余裕はなく、できるだけ早く結果が出ればよいと考える。しかも、やっとERPを覚えたと思ったら、今度はWBSとかEVMとか略号にはうんざりする。又、中小企業の経営者はリソースが限られており、スキルを持った人材は今日のパンの為に投入したい。大企業でもリスクを避けるため「小さく始めて大きく展開」的アプローチを取ることが多い。基本コンセプトを維持しながらプロジェクト規模に関らず実行できる「スケーラブル」なパッケージ化されたプロジェクト・マネジメントがあれば読者層と適応領域が広がると思う。

このままでも、プロジェクト・マネジメントに関る人たちの教育の副読本として前著と合わせて是非勧めたい。ERPなど英文の言葉の説明に定訳を使うなどもっとキチンとさせ、巻末に契約書等の実例や用語集と索引をつけると使い勝手が格段によくなる。


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