久し振りに米国株式市場ネタ、ハイテック市場で主役交代があるかもしれない動きについて個人的な感想を紹介したい。マイクロソフトが会社分割要求を突きつけられたというニュースの背景を探るもので、それも公正取引委員会ではなく株主からという昔なら予想もしない事態について。
過剰流動相場下の低迷
世界市場は今大体こんな感じで推移している。FRBのゼロ金利・量的緩和政策など先進国の金融緩和が続き、世界は過剰流動性相場といわれている。だが溢れた資金は新興国に向かい、先進国の株価は動きが少ない。一方、新興国は景気過熱を警戒して金融引き締めや海外からの投機資金流入を抑制する政策が打ち出されている。私には不安定な平衡状態に見える。
このところの個々の企業の株価の動きを見ると、米国の代表的な企業の株価推移に興味ある変化が見られる。それはリーマンショック後破綻の瀬戸際に追い込まれたシティグループとフォードのP/E(株価利益率)が13日現在夫々12.3と13.7であるのに対し、直近の決算でも好調な利益を計上したハイテックの盟主インテルとマイクロソフトが11.6と11.7に低迷していることだ。
不思議な逆転現象
企業業績から見ると珍現象といってすらいい。シティグループは2008年末に30兆円近い税金を使って救済され破綻を免れ業績回復してきた。対してマイクロソフトは7~9月期は売上高が前年同期比25%、純利益が同51%増と同時期として過去最高の業績を叩き出したのにそれに見合う株価にならない。一方のハイテクの雄グーグルやアップルは市場から高く評価を受けている。
シティグループは公的資金を投入された金融機関としての責任感があるのか疑がわしい、ある意味アグレッシブな(日本の金融機関にはリスクのある)ビジネス展開で収益性を回復したことが評価されているのであろう。この辺の早さがいかにも米国らしい。結果として年初来株価変動はシティ+45%、フォード+65%と急回復した。
史上最高利益で低迷とは
世界経済が回復し新興国のパソコン需要がついに先進国を上回るとの予測が先日報じられた。パソコンの需要に連動してウィンドウズやCPUをほぼ独占的に供給する、所謂「ウィンテル連合」の勝利の方程式を堅持するマイクロソフトとインテルの株価が、この願っても無い環境下で低迷するというのは何故か。
実際、インテルの株価はそれでも年初来5%上昇したが、マイクロソフトは7~9月が過去最高の業績だったのに株価が年初来10%下落した。多分彼らとしても納得できない気持ちと想像する。株価は半年先以降の業績を予測して現在価値に反映させる。投資家にも現在の業績だけでは納得できない理由があるのだろう。というか、日本経済新聞によれば苛立っているという。
苛立つ株主
9日付の日本経済新聞電子版の記事「マイクロソフト、10年ぶりの「分割」危機」はマイクロソフトの株価低迷に株主が苛立っていると報じている。アップルとグーグルは新製品がヒットし売り上げ増に貢献しているのに対し、マイクロソフトは新分野のネット事業やゲーム事業が寧ろ足かせになって既存事業に寄りかかる構造が株価低迷の原因で、それが分割危機といわれる理由のようだ。
私がまだハイテク・ビジネスに関っていた90年代頃のウィンテルは絶対的な勝利の方程式で、その頃も内外で独禁法違反等の不公正な取引慣行で摘発や訴訟を受けていたがビクともしない絶対的な強さがあった。挑戦を受け危機が来るたびに乗り越えて更に大きくなってきた。近年のネットブックの急増でも影響を受けたのはパソコンメーカーの方だった。
今の強さを生かせない
利益をもたらしてきた勝利の方程式は依然絶大な力(収益力)を持っている。だが、それが新分野を開拓し更に発展していく気配を感じさせないところに市場が冷たい反応を示す理由がある。私が米国に駐在していた頃、今までとは違うということをIt’s a whole new ball game.と言うのをよく聞いた。まさにマイクロソフトは自分の得意な土俵で相撲を取れない事態に直面している。
IE(インターネット・エクスプロワー)の市場占有率の低落傾向が止まらず遂に60%を切った。一方で近年投入されたばかりのiPodやiPadのビジネスがアップルの57%を稼ぎ、来年にはこの経験を生かした仕組をPC(マック)に取り入れる計画という。ウィンテルに真っ向から挑戦することになる。又、スマートフォンではグーグルのOS(アンドロイド)が存在感を増し、7-9月世界市場でノキアに次ぐ売り上げシェア(26%)になったという。マイクロソフトは全く存在感が無い(3%)。
史上最高益を叩き出した直後に、水平線から暗雲が迫ってくるのは必ずしも珍しいことではない。勝利の方程式につながるビジネスと新分野事業を思い切って切り離す決断は悪くないと個人的には思うが、そのために必要な人材の退社が相次いでいると言うのが気になる。マイクロソフトの次の手を注意深く見守りたい。■
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