見もの・読みもの日記

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輝く日の宮、そして藤壺

2004-12-14 23:46:09 | 読んだもの(書籍)
○瀬戸内寂聴『藤壺』講談社 2004.11

 藤原定家の「源氏物語、奥入(おくいり)」に「かかやく日の宮、このまきもとよりなし」と記載されている幻の巻。源氏の君と義理の母・藤壺がはじめて結ばれる場面が描かれていると想像される巻である。この巻の真実に迫る知的な探求に、現代女性の恋愛を味付けにした、丸谷才一の小説『輝く日の宮』(講談社, 2003.6)はおもしろかった。私が今年に至って、長年棚上げしていた古典「源氏物語」を読む気になったのも、丸谷さんの影響である。そして、丸谷さんの小説が各方面に与えた波紋は、とうとう、恋愛小説の名手、瀬戸内寂聴さんを動かして、こんな小説を書かせてしまった。

 源氏が思いを遂げる場面、著者はさすが官能の巧者である。しかし、藤壺は、恐れと後悔の涙にくれて、人形のように無反応に源氏に抱かれるだけなのだ。当時の高貴な女人はこんなものかなあ。ただ一度だけ、源氏の背中に腕をまわし、抱きしめた、という一句が精一杯の感情の流露なのか。

 むしろ、源氏の打算的な愛撫に篭絡されて、藤壺のもとに彼を手引きする、若くはない王命婦のほうに存在感を感じる。

 本文は、現代語編と古文編があるが、やはり近代小説心理の筆致や描写を古文に移したものには違和感がある。それなら、いっそ、最初から擬古文で、書いてもらったほうがよかったかもしれない。まあ、一興の読み物ではある。

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