見もの・読みもの日記

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古典へのオマージュ/加山又造展(国立新美術館)

2009-02-04 22:49:26 | 行ったもの(美術館・見仏)
○国立新美術館『加山又造展』(2009年1月21日~3月2日)

http://www.nact.jp/

 加山又造(1927-2004)の画業の全容を振り返る展覧会。琳派など日本の古典美術様式から、伝統とか流派とかベタベタしたものを抜き去り、純粋な「美意識」だけを抽出したような、華麗で繊細で大胆な表現は、私の愛好する画家のひとりである。

 最初の部屋は1960年以前に描かれた、シュールレアリスムっぽい動物画。加山らしい装飾的な華やかさはまだない。第2室は、この展覧会で私がいちばん気に入ったパート。押し出しの立派な6点の屏風に取り囲まれる。いずれも古典作品を換骨奪胎したものだ。『奥入瀬』は、金の大地(よく見ると羊歯の茂み)に濃青と深緑の山、墨の濃淡だけで表現された渓流。近世日本画によくある色の使い方だが、伝統的な色彩を大きなカタマリにしてぶつけることで、現代性を演出している。『七夕』は、巨大な王朝継ぎ紙。『天の川』は、琳派の『月に秋草図屏風』や『武蔵野図屏風』を思わせる。よく見ると秋草の陰にコオロギやバッタが…。

 続く『春秋波濤』(→展覧会公式サイトのTOP)と『雪月花』は、もちろん金剛寺の『日月山水図屏風』(→画像)にインスパイアされたものだろう。私は『日月山水図屏風』も大好きだが、加山の作品も気に入った。特に『春秋波濤』の、寒天ゼリーに封じ込められたような桜の山と、きんとんをまぶした和菓子のような紅葉の山がいい。『千羽鶴』は、宗達の『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』だろう。鶴の数は十数倍に増えているけれど。

 気になったのは、観客の導線が左→右に流れる構成になっていたこと。近代作品とはいえ、やはり屏風は、左←右の順に鑑賞するものではないかと思う。それから、会場に置かれていた展示図録と現物を見比べて、ずいぶん印象が異なることに気づいた。折って立てるように作られた屏風を平たく伸ばして写真に取ると、縦横比が変わり、妙に間延びした印象になる。加山の作品は、完璧な美意識に基づいているだけに、小さな差異が大きな影響を与えるように思う。

 裸婦も猫も美しかったが、私が惹かれたのは『牡丹』。異例にデカい金地の四曲屏風に、黒々とした墨画の牡丹(これは紅色なのだろう)と、彩色で白牡丹(花芯部に赤のぼかし)が描かれている。花の位置を上方に寄せ、下半分に余白を残した構図が面白い。

 衝撃的だったのは水墨画の数々。特に『仿北宋水墨山水雪景』は、中国水墨画の最高峰、北宋画を「仿(まねる)」と言明するにふさわしい、堂々とした作品である。突如、日本画家の手によって「崇高なる山水(李郭系山水画)」の系譜がよみがったみたいだ――蟹爪樹もあるし。
コメント
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