○MIHOミュージアム 2013年秋季特別展『朱漆「根来」-中世に咲いた華』(2013年9月1日~12月15日)
前後の覚え書きが長くなるので、興味のない方は【会場】レポートのみどうぞ。
【往き】
この展覧会、必ず行こうと決めていた。ところが関西へ出発直前、同館のホームページを見たら、「交通」のページに小さく「JR石山駅南口発MIHO MUSEUM行きバス --- 運休(県道16号通行止のため)」という情報が掲載されているではないか。えええ!!! 9月中旬、近畿地方に甚大な被害をもたらした台風18号の影響らしいが、マイカーのない身で、ほかにどうやって行けというのだ。
「JR京都駅発 MIHO MUSEUM 直行ツアーバス --- 4000円 ※要予約」と「タクシー利用 --- 信楽高原鉄道信楽駅より 約20分(片道約2000~3000円)」という代替案が示されてはいるが、ほかにオプションはないのだろうか? 念のため、三連休の2日目、MIHOミュージアムに電話をかけてみた。「石山からバスがないということは、草津からJRで貴生川に出て、また信楽高原鉄道に乗り換えて…」と確認したら、「いま信楽高原鉄道も運休中で、代替バスが運航しています」との説明。なんと! 余計にショックを受けてしまった。「信楽駅からはタクシーしかないんですか?」と聞いたら「あ、10:49発のバスがあります(1日1便だけ)」とのこと。しかし「帰りのバスは?」と聞いてみたら「ええと、MIHOミュージアム発11:09の1便だけです」と恐縮しながらいう。それじゃあ片道はタクシーにせざるを得ない。(※この情報が混乱含みだったことは、後段で)
翌日は旅行最終日で、帰りの飛行機が決まっているので、京都駅発ツアーバスも使えないし、諦めようかどうしようか、すいぶん迷った。石山発のバス運航再開は12月上旬を予定しているそうで、展覧会の会期中に間に合うかどうかは微妙。復旧が間に合っても、私が札幌から来られないし~。
結局、見逃して後悔するよりは、と腹を決めて、JR某駅からタクシーを使うことにする。某駅としたのは、観光案内所で「ここからタクシーでMIHOミュージアムまで行けますか?」と聞いたら、「行けますけど、ずいぶん(運賃が)かかりますよ」と同情していただき、1枚だけあった根来展の招待券を「お使いなさい。でも言わないでね」とこっそり下さったので。タクシー代は7000円くらいかかった。道中、山崩れの跡を何度も見かけ、運転手さんが「あそこのおばあさんは亡くなりはった」などと話すのが痛々しかった。
【会場】
開館の10:00少し前に到着。マイカー客や、観光バスの外国人ツアー客ですでに賑わっている。美術館としては、商売上、さほど痛手はないのかもしれないけど、車のない個人客にも少しは配慮がほしいものだ。
会場は、作品保護のため、かなり暗くしている。暗闇の中にぼうっと浮き上がるような根来。黒く掠れた朱塗りの漆器。導入部の展示ケースでは、ところどころ、書画の軸や法具を取り合わせて、中世の美学を再現している。根来の角切盆に戸隠切(癖の強い定信の筆)に金銅塗香器など。あるケースなどは、壁に兀庵普寧の墨蹟。隅に置かれた根来の瓶子には、椿の蕾と赤い落葉樹(なんだろう?ハナミズキ?)の大きな枝が活けてあった。何の展覧会を見にきたのか、忘れてしまうような、根来の控えめな存在感。でもこれが、歴史をくぐりぬけてきた根来の器の、本来のありかたなのだと思う。
奥へ進むと、会場はいよいよ暗く、巨大な朱の盤が闇の中に浮かんでいた。直径は60~70cmもあるだろうか。縁は摩耗し、荒々しい木肌が露出している。根来の王者とでも呼びたい朱の円盤で、不気味に妖怪じみている(伝東大寺伝来、松永耳庵旧蔵の由)。六本足の唐櫃も、見ていない隙に、コホロと鳴って、歩き出しそうだ。年を経た器物に生命が宿るという付喪神の説が、実感として迫って来る。
前半は「祈りの造形」と題し、神事や仏事で使われてきた根来の姿に着目する。二月堂練行衆盤、二月堂机、春日卓など。取り合わせにも経筒や仏画、神像が使われていて、奥ゆかしい。妙にアイラインのくっきりした、印象的な仏画があったんだけど、阿弥陀如来坐図(鎌倉時代)だったかしら。ふと思ったけど、正倉院の華やかな螺鈿蒔絵の法具もいいが、私の最近の好みはこっちだ。簡素を極めた「中世」の美学だ。
後半は「華やぐ器物」と題し、祈りの空間を出て、日常生活に入り込んだ根来の消息を追う。会場は、前半より明るくなる。酒器、湯桶、茶道具(天目台)など、造形の幅が広がる。轡、枕、なんと琵琶まで!
なお、本展は根来産漆器を「根来塗」と呼び、良質で洗練された朱漆器の総称を「根来」と呼び分けている。図録の冒頭には、河田貞氏の論稿「『根来』概説」が掲載されているが、これは2009年の大倉集古館の根来展図録から再録したものとのこと。あの展覧会もよかったなあ。以上、大満足。やっぱり来てよかった。
【帰り】
当然ながら、もう11:09のバスは出ていたので、タクシーを呼んでもらおうとフロントに頼みに行く。すると「お急ぎでなければ、12:20発の信楽駅行きのバスがありますが」という。え?狐につままれた思いで、昨日、電話で聞いたときは、11:09発の1便しかないと言われたことを告げた。すると、たいへん申し訳ながって「11月から12:20と13:30の便も復旧したところです」と言う(前の1便とはバス会社が違うらしい)。
ありがたいので、12:20発のバスに乗ることにする(乗客は私ひとりだった)。信楽駅からは、信楽高原鉄道の時刻表に合わせて代替バスが運行しているので、12:54信楽駅発→13:17貴生川着、13:21貴生川発→13:40草津着のJRに乗り継げるだろう、と教えてもらった。
初めて体験する信楽周辺の風景は楽しかった。古代の紫香楽宮跡だから、一度来てみたいとは思っていたのだ。ところが、貴生川駅に到着すると、JRのホームを出ていく列車の姿。バスの到着がやや遅れ気味だったため、乗り継げると言われたJRに乗れず(待ってくれないのねー)、冷雨まじりの風が吹きつけるホームで、次発を30分ほど待つことになった。
うーむ。実は、朝の信楽駅発10:49発のバスも、どうも代替バスからの乗り継ぎに余裕がなさすぎて、不安だったので、頼ることをやめたのである。ただ、信楽駅周辺は、私が危ぶんだよりも都会だったので、バスに乗れなければタクシーを呼ぶことに問題はなさそうだった。
というわけで、この展覧会、マイカーがないと極めて行きにくいが、行けば満足することは請け合い。たくさんの方に見てほしいです。
前後の覚え書きが長くなるので、興味のない方は【会場】レポートのみどうぞ。
【往き】
この展覧会、必ず行こうと決めていた。ところが関西へ出発直前、同館のホームページを見たら、「交通」のページに小さく「JR石山駅南口発MIHO MUSEUM行きバス --- 運休(県道16号通行止のため)」という情報が掲載されているではないか。えええ!!! 9月中旬、近畿地方に甚大な被害をもたらした台風18号の影響らしいが、マイカーのない身で、ほかにどうやって行けというのだ。
「JR京都駅発 MIHO MUSEUM 直行ツアーバス --- 4000円 ※要予約」と「タクシー利用 --- 信楽高原鉄道信楽駅より 約20分(片道約2000~3000円)」という代替案が示されてはいるが、ほかにオプションはないのだろうか? 念のため、三連休の2日目、MIHOミュージアムに電話をかけてみた。「石山からバスがないということは、草津からJRで貴生川に出て、また信楽高原鉄道に乗り換えて…」と確認したら、「いま信楽高原鉄道も運休中で、代替バスが運航しています」との説明。なんと! 余計にショックを受けてしまった。「信楽駅からはタクシーしかないんですか?」と聞いたら「あ、10:49発のバスがあります(1日1便だけ)」とのこと。しかし「帰りのバスは?」と聞いてみたら「ええと、MIHOミュージアム発11:09の1便だけです」と恐縮しながらいう。それじゃあ片道はタクシーにせざるを得ない。(※この情報が混乱含みだったことは、後段で)
翌日は旅行最終日で、帰りの飛行機が決まっているので、京都駅発ツアーバスも使えないし、諦めようかどうしようか、すいぶん迷った。石山発のバス運航再開は12月上旬を予定しているそうで、展覧会の会期中に間に合うかどうかは微妙。復旧が間に合っても、私が札幌から来られないし~。
結局、見逃して後悔するよりは、と腹を決めて、JR某駅からタクシーを使うことにする。某駅としたのは、観光案内所で「ここからタクシーでMIHOミュージアムまで行けますか?」と聞いたら、「行けますけど、ずいぶん(運賃が)かかりますよ」と同情していただき、1枚だけあった根来展の招待券を「お使いなさい。でも言わないでね」とこっそり下さったので。タクシー代は7000円くらいかかった。道中、山崩れの跡を何度も見かけ、運転手さんが「あそこのおばあさんは亡くなりはった」などと話すのが痛々しかった。
【会場】
開館の10:00少し前に到着。マイカー客や、観光バスの外国人ツアー客ですでに賑わっている。美術館としては、商売上、さほど痛手はないのかもしれないけど、車のない個人客にも少しは配慮がほしいものだ。
会場は、作品保護のため、かなり暗くしている。暗闇の中にぼうっと浮き上がるような根来。黒く掠れた朱塗りの漆器。導入部の展示ケースでは、ところどころ、書画の軸や法具を取り合わせて、中世の美学を再現している。根来の角切盆に戸隠切(癖の強い定信の筆)に金銅塗香器など。あるケースなどは、壁に兀庵普寧の墨蹟。隅に置かれた根来の瓶子には、椿の蕾と赤い落葉樹(なんだろう?ハナミズキ?)の大きな枝が活けてあった。何の展覧会を見にきたのか、忘れてしまうような、根来の控えめな存在感。でもこれが、歴史をくぐりぬけてきた根来の器の、本来のありかたなのだと思う。
奥へ進むと、会場はいよいよ暗く、巨大な朱の盤が闇の中に浮かんでいた。直径は60~70cmもあるだろうか。縁は摩耗し、荒々しい木肌が露出している。根来の王者とでも呼びたい朱の円盤で、不気味に妖怪じみている(伝東大寺伝来、松永耳庵旧蔵の由)。六本足の唐櫃も、見ていない隙に、コホロと鳴って、歩き出しそうだ。年を経た器物に生命が宿るという付喪神の説が、実感として迫って来る。
前半は「祈りの造形」と題し、神事や仏事で使われてきた根来の姿に着目する。二月堂練行衆盤、二月堂机、春日卓など。取り合わせにも経筒や仏画、神像が使われていて、奥ゆかしい。妙にアイラインのくっきりした、印象的な仏画があったんだけど、阿弥陀如来坐図(鎌倉時代)だったかしら。ふと思ったけど、正倉院の華やかな螺鈿蒔絵の法具もいいが、私の最近の好みはこっちだ。簡素を極めた「中世」の美学だ。
後半は「華やぐ器物」と題し、祈りの空間を出て、日常生活に入り込んだ根来の消息を追う。会場は、前半より明るくなる。酒器、湯桶、茶道具(天目台)など、造形の幅が広がる。轡、枕、なんと琵琶まで!
なお、本展は根来産漆器を「根来塗」と呼び、良質で洗練された朱漆器の総称を「根来」と呼び分けている。図録の冒頭には、河田貞氏の論稿「『根来』概説」が掲載されているが、これは2009年の大倉集古館の根来展図録から再録したものとのこと。あの展覧会もよかったなあ。以上、大満足。やっぱり来てよかった。
【帰り】
当然ながら、もう11:09のバスは出ていたので、タクシーを呼んでもらおうとフロントに頼みに行く。すると「お急ぎでなければ、12:20発の信楽駅行きのバスがありますが」という。え?狐につままれた思いで、昨日、電話で聞いたときは、11:09発の1便しかないと言われたことを告げた。すると、たいへん申し訳ながって「11月から12:20と13:30の便も復旧したところです」と言う(前の1便とはバス会社が違うらしい)。
ありがたいので、12:20発のバスに乗ることにする(乗客は私ひとりだった)。信楽駅からは、信楽高原鉄道の時刻表に合わせて代替バスが運行しているので、12:54信楽駅発→13:17貴生川着、13:21貴生川発→13:40草津着のJRに乗り継げるだろう、と教えてもらった。
初めて体験する信楽周辺の風景は楽しかった。古代の紫香楽宮跡だから、一度来てみたいとは思っていたのだ。ところが、貴生川駅に到着すると、JRのホームを出ていく列車の姿。バスの到着がやや遅れ気味だったため、乗り継げると言われたJRに乗れず(待ってくれないのねー)、冷雨まじりの風が吹きつけるホームで、次発を30分ほど待つことになった。
うーむ。実は、朝の信楽駅発10:49発のバスも、どうも代替バスからの乗り継ぎに余裕がなさすぎて、不安だったので、頼ることをやめたのである。ただ、信楽駅周辺は、私が危ぶんだよりも都会だったので、バスに乗れなければタクシーを呼ぶことに問題はなさそうだった。
というわけで、この展覧会、マイカーがないと極めて行きにくいが、行けば満足することは請け合い。たくさんの方に見てほしいです。