○京都国立博物館 特別展観『天野山金剛寺の名宝』(2015年3月4日~3月29日)
この展覧会はどうしても見たかったので、先週、金曜日に筑波での所用を済ませてから、新幹線で京都に向かった。駅前に落宿して、土曜日は朝から博物館へ。秋の平成知新館オープン記念展、『鳥獣戯画と高山寺』展の混雑がおさまって、ようやく静かに展示を鑑賞できる雰囲気になった。
大阪府河内長野市にある金剛寺は、2005年4月に行ったことがある。時間切れで十分拝観できなかったので「また来るしかないか」とつぶやいておきながら、その機会がないまま、10年になる。幸いなことに、平成21年(2009)から始まった「平成大修理」のおかげで、本尊脇侍の降三世明王坐像は奈良博においでになっており、本尊・大日如来坐像と脇侍の不動明王坐像は、昨秋から京博の平成知新館で拝することができるようになった。そこにこの喜ばしい特別展観である。
平成知新館に入り、彫刻(仏像)展示室を突っ切って(大日如来のお姿をチラチラ見ながら)奥の特別展示室に急ぐ。ところが、中に入って、びっくり。展示物が違う。ここでは『特集陳列 雛まつりと人形』を開催中だった。え?もしかして、私、展覧会スケジュールを間違えてた?と、慌てる。心を落ち着けて、館内掲示を確認したら『天野山金剛寺の名宝』のメイン会場は、特別展示室の向かいの書跡展示室だった。ああ、よかった。
展示室に入るとすぐ、右手の壁際ケースに飾られた『日月山水図屏風』が目に入り、夢遊病のように吸い寄せられてしまった。大好きな作品。前回は、2011年に世田谷美術館で見たのだったな。右隻。ステップを踏むような松の根元。白の点描で表された桜がすみ。その中に五弁の花が描かれていて、桜であることを主張している。山の大きさに比べて、縮尺が明らかにおかしいが、そんなことは気にしない。蕨手のような波。震える流水の線。鈍い輝きの金銀の散らしは、当初の姿を想像で補いながら眺める。左隻の雪山。松緑の上にふわりと乗った雪が愛らしい。浮き立つような音楽が聞こえてくる感じがする。まだ朝早かったので、『日月山水図屏風』の前には誰もいなくて、しばらく私が独り占めする状態だった。なんという贅沢!
それから、ゆっくり室内の展示品を見た。仏画は名品揃い。『五秘密曼荼羅図』『虚空蔵菩薩像』『尊勝曼荼羅図』、いずれも鎌倉時代(13世紀)。王朝文化~院政期の華麗さに武士の時代の厳しさが加わる。『大宝積経』は珍しく漉き返しの灰色の料紙を用いたもの。字もあまり丁寧でない。『遊仙屈』の最古写本もあった。題名を聞いたことのない説話集が各種。重美『清水寺仮名縁起』は、ほとんど反故紙のいたずら描きみたいだけど、よく取っておいたなあ。裏紙に素早い筆で墨描きの絵が残る。山間をゆく坊さんらしい姿は分かった。相手は船頭かな?
隣りを1室飛ばして、次の金工展示室も『天野山金剛寺の名宝』仕様になっていて、楽器や楽譜、武具(腹巻及膝鎧)、鏡などが展示されている。次に彫刻展示室に戻って、金剛寺からお出ましの大日如来坐像と不動明王坐像をしみじみ眺める。金剛寺が八条院子の祈願所だったという説明を読んだので、豊麗で女性的な中にも意志の強さを感じさせる大日如来坐像が八条院に、不動明王が以仁王に見えてくる。
彫刻展示室も、金剛寺関連の名宝で特集コーナーができている。武神の面影を残す大黒天立像。大日如来像の台座に付属する獅子6躯(京博では、高さ制限のため台座が外されている)。後ろ足を崩した座り姿勢が、応挙描く仔犬を思わせる。そして、息を呑んだのは『剣』(附:黒漆金銅三鈷柄宝剣拵)(国宝)。一般的な日本刀と異なる「両切刃造」というスタイルで、まっすぐ伸びた刃に、見る者も背筋が伸びる思いがする。「10世紀のごく限られた期間のみつくられた」という説明が気になる。
それから、特別展示室に戻って『特集陳列 雛まつりと人形』(2015年2月21日~4月7日)を参観。東京で見る雛人形展とは、少し毛色が変わっていて面白い。建物つきの「御殿飾り」が欲しい。
2階へ。絵巻展示室『物語絵巻の世界』(2015年2月10日~3月15日)で『時雨物語絵巻』を見る。この個性的な絵は!と思ったら、サントリー美術館の『お伽草子』展で、強烈なインパクトを受けた絵巻である(表記は『しぐれ絵巻』)。 全体が見たいなあ、これ。仏画は「涅槃図」特集。どの作品にもサル(日本猿)がいることを確認。中世絵画の「扇絵」は初めて見る作品が多くて面白かった。画題は中国人物図が多いのに、団扇でなくて扇というところが不思議。近世絵画では久々の若冲『群鶏図』(旧海宝寺障壁画)を見た。
この展覧会はどうしても見たかったので、先週、金曜日に筑波での所用を済ませてから、新幹線で京都に向かった。駅前に落宿して、土曜日は朝から博物館へ。秋の平成知新館オープン記念展、『鳥獣戯画と高山寺』展の混雑がおさまって、ようやく静かに展示を鑑賞できる雰囲気になった。
大阪府河内長野市にある金剛寺は、2005年4月に行ったことがある。時間切れで十分拝観できなかったので「また来るしかないか」とつぶやいておきながら、その機会がないまま、10年になる。幸いなことに、平成21年(2009)から始まった「平成大修理」のおかげで、本尊脇侍の降三世明王坐像は奈良博においでになっており、本尊・大日如来坐像と脇侍の不動明王坐像は、昨秋から京博の平成知新館で拝することができるようになった。そこにこの喜ばしい特別展観である。
平成知新館に入り、彫刻(仏像)展示室を突っ切って(大日如来のお姿をチラチラ見ながら)奥の特別展示室に急ぐ。ところが、中に入って、びっくり。展示物が違う。ここでは『特集陳列 雛まつりと人形』を開催中だった。え?もしかして、私、展覧会スケジュールを間違えてた?と、慌てる。心を落ち着けて、館内掲示を確認したら『天野山金剛寺の名宝』のメイン会場は、特別展示室の向かいの書跡展示室だった。ああ、よかった。
展示室に入るとすぐ、右手の壁際ケースに飾られた『日月山水図屏風』が目に入り、夢遊病のように吸い寄せられてしまった。大好きな作品。前回は、2011年に世田谷美術館で見たのだったな。右隻。ステップを踏むような松の根元。白の点描で表された桜がすみ。その中に五弁の花が描かれていて、桜であることを主張している。山の大きさに比べて、縮尺が明らかにおかしいが、そんなことは気にしない。蕨手のような波。震える流水の線。鈍い輝きの金銀の散らしは、当初の姿を想像で補いながら眺める。左隻の雪山。松緑の上にふわりと乗った雪が愛らしい。浮き立つような音楽が聞こえてくる感じがする。まだ朝早かったので、『日月山水図屏風』の前には誰もいなくて、しばらく私が独り占めする状態だった。なんという贅沢!
それから、ゆっくり室内の展示品を見た。仏画は名品揃い。『五秘密曼荼羅図』『虚空蔵菩薩像』『尊勝曼荼羅図』、いずれも鎌倉時代(13世紀)。王朝文化~院政期の華麗さに武士の時代の厳しさが加わる。『大宝積経』は珍しく漉き返しの灰色の料紙を用いたもの。字もあまり丁寧でない。『遊仙屈』の最古写本もあった。題名を聞いたことのない説話集が各種。重美『清水寺仮名縁起』は、ほとんど反故紙のいたずら描きみたいだけど、よく取っておいたなあ。裏紙に素早い筆で墨描きの絵が残る。山間をゆく坊さんらしい姿は分かった。相手は船頭かな?
隣りを1室飛ばして、次の金工展示室も『天野山金剛寺の名宝』仕様になっていて、楽器や楽譜、武具(腹巻及膝鎧)、鏡などが展示されている。次に彫刻展示室に戻って、金剛寺からお出ましの大日如来坐像と不動明王坐像をしみじみ眺める。金剛寺が八条院子の祈願所だったという説明を読んだので、豊麗で女性的な中にも意志の強さを感じさせる大日如来坐像が八条院に、不動明王が以仁王に見えてくる。
彫刻展示室も、金剛寺関連の名宝で特集コーナーができている。武神の面影を残す大黒天立像。大日如来像の台座に付属する獅子6躯(京博では、高さ制限のため台座が外されている)。後ろ足を崩した座り姿勢が、応挙描く仔犬を思わせる。そして、息を呑んだのは『剣』(附:黒漆金銅三鈷柄宝剣拵)(国宝)。一般的な日本刀と異なる「両切刃造」というスタイルで、まっすぐ伸びた刃に、見る者も背筋が伸びる思いがする。「10世紀のごく限られた期間のみつくられた」という説明が気になる。
それから、特別展示室に戻って『特集陳列 雛まつりと人形』(2015年2月21日~4月7日)を参観。東京で見る雛人形展とは、少し毛色が変わっていて面白い。建物つきの「御殿飾り」が欲しい。
2階へ。絵巻展示室『物語絵巻の世界』(2015年2月10日~3月15日)で『時雨物語絵巻』を見る。この個性的な絵は!と思ったら、サントリー美術館の『お伽草子』展で、強烈なインパクトを受けた絵巻である(表記は『しぐれ絵巻』)。 全体が見たいなあ、これ。仏画は「涅槃図」特集。どの作品にもサル(日本猿)がいることを確認。中世絵画の「扇絵」は初めて見る作品が多くて面白かった。画題は中国人物図が多いのに、団扇でなくて扇というところが不思議。近世絵画では久々の若冲『群鶏図』(旧海宝寺障壁画)を見た。