見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

新たな一歩/文楽・二代目吉田玉男襲名披露と一谷嫰軍記、他

2015-05-20 22:54:41 | 行ったもの2(講演・公演)
○国立劇場 5月文楽公演(2015年5月15日、第1部 11:00~)

・五條橋(ごじょうばし)

 有名な弁慶と牛若丸(義経)の出会いを語る短い一段。景事のひとつかと思っていたら『鬼一方眼三略巻』の一部であると初めて知った。牛若丸の美々しい装束、とりわけ色取々の絵文様を散らした袴が、岩佐又兵衛の『浄瑠璃物語絵巻』を思い出させた。 
    
・新版歌祭文(しんばんうたざいもん)・野崎村の段

 奉公先の一人娘お染と深い仲になってしまった丁稚の久松、幼馴染みの久松を慕う田舎娘のお光の三角関係を描いた作品。焼きもちをストレートに表現するお光がかわいい。久松は今ならまだ中学生くらいだろうか。船に乗ったお染と母、駕籠で堤をゆく久松の道行(って言わないのかな)は、舞台の上も面白いんだけど、鶴澤寛治さんと寛太郎さんの三味線が華やかで、床ばっかり見ていた。
    
・二代目吉田玉男襲名披露口上

 幕が上がると、吉田玉女改め二代目吉田玉男さんを前列中央に、20人くらいが裃姿で着座していた。向かって左端の竹本千歳大夫が口上を切り出す。まず右側の嶋太夫さん、鶴澤寛治さんが挨拶。先代吉田玉男さんや、中学生で入門したばかりの頃の二代目玉男さんの思い出を語る。先代に「いつまで続くか…」と案じられていたとか。続いて左側の吉田和生さん、桐竹勘十郎さんが挨拶。三人とも同期なんだね。そして、本人はひとことも喋らず、中央で終始手をついて頭を下げていらした。背景の襖に大きく描かれていたのは玉男さんの家紋らしいが、菱形に宝珠という珍しい紋(いま探しているが名前が分からない)。

・一谷嫰軍記(いちのたにふたばぐんき)・熊谷桜の段/熊谷陣屋の段

 これ見たことあるはずなんだけどいつ頃かなあ。自分のブログを検索しても見つからなかった。物語は源平の争乱の最中、一谷合戦の後、源義経を大将とする熊谷直実の陣屋。直実の妻、相模が鎌倉から訪ねてくる。そこに平経盛の妻であり敦盛の母、藤の局が現れ、かつて宮中で朋輩だった女二人は再会を喜ぶ。戦場から戻った直実は、自分が敦盛を討ったと語り、大将義経による首実検に臨む。ところが首は、直実と相模の一人息子である小次郎のもの。義経は、直実の愛する桜にことよせて「一枝を切らば一指を斬るべし」との制札を立て、実は後白河院の落胤である敦盛(そうなのかw)を斬ると見せかけて、小次郎を斬るよう、直実に謎をかけたのであった。面白いなあ。主君のために我が子の命を差し出す「身代わり譚」は、だいたい陰惨なんだけど、この話は謎解きの爽快感がまさって、比較的カラッとした後味である。石屋の弥陀六は実は平宗清なんだな、そうかそうか(平頼盛の乳父)。

 直実を遣う二代目玉男さんにじっと注目するはずだったが、ストーリーの面白さに引き込まれて、それどころではなくなってしまった。プログラムの解説にいうとおり、本格推理小説のようなスリルがある。襖に映る若武者の影とか、幽霊が石塔を立てに来るなどの「小道具立て」も秀逸。しかも当時、敦盛の幽霊が立てたといういわれの石塔が現存していたというのも面白い。人形は、藤の局を桐竹勘十郎さん、相模を吉田和生さん。これから彼らが中心となって、新しい文楽の舞台を作っていくんだろうなあ。ますます目が離せない。

 今回の公演プログラム(冊子)は、二代目玉男さんのインタビューあり、初代玉男さんを偲ぶ記事(相変わらずかっこいい~)あり、東京公演としては珍しく力が入っていた。カラー写真も多数。山川静夫さんのエッセイも非常に読み応えがあった。初代も二代目も、近所の「オッチャン」に誘われて、文楽の世界に入ったという話。いまは、適性を見極めた合理的なキャリア選択が推奨されるけど、こういう不思議な「縁」に始まり「忍耐」が人を育てる話、何だかほっとする。

※おまけ:ロビーに飾られたお祝いの花。左端は北野武氏から。1つ置いて、白い胡蝶蘭は、岡田美術館館長の(というより元・千葉市美術館館長の)小林忠氏から。ほほう。


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