見もの・読みもの日記

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やさしい風景/久隅守景(サントリー美術館)

2015-10-14 23:32:38 | 行ったもの(美術館・見仏)
サントリー美術館 『逆境の絵師 久隅守景 親しきものへのまなざし』(2015年10月10日~11月29日)

 楽しみにしていた展覧会なので、さっそく出かけた。朝早かったこともあって、館内はすいていた。久隅守景(くすみもりかげ、17世紀)の知名度ってどのくらいなのだろう? 実は私も作品といえば、国宝『納涼図屏風』しか思い浮かばないのであるが。出陳品数は、展示替えや参考作品(守景の子供たちの作品)を含めて90件弱。大きな屏風や襖絵が多いこともあって、数は少なめである。そのこともあって、ゆっくり気持ちよく鑑賞できた。

 冒頭には、狩野探幽に入門し、画家としてのスタートを切った守景の比較的若い頃の作品が並ぶ。気に入ったのは、知恩院小方丈の『四季山水図襖』。中国の風景のつもりなんだろうけど、遠景の山が、お椀を伏せたようにモコモコと優しく丸っこくて、中国の山水に見えない。ちょっと朝鮮の水墨山水画っぽいだろうか。

 いま図録を見ていると、きっちり中国絵画(≒狩野派)らしい作品もある一方で、どこか変な作品もある。水辺の四阿(というか掘っ立て小屋)の下に座って湖面を眺めている人の姿。遠景の山が茫洋とした余白に溶け込んでいるあたりが日本人好みだと思う。墨のにじみを楽しむような『夏山水図』、(前期は見られなかったけど)『柳山水図』も同様の趣き。

 人物画では、神奈川県津久井の光明寺(※鎌倉ではない)に『十六羅漢図』16幅が伝わっていることを初めて知った。中国絵画のお手本に従っているのだろうが、人間的で生き生きした姿に描かれている。動物がかわいい。展示替えがあるので、最終週(たぶん)に行く人はスズメに注目!

 そして、守景が繰り返し描いた「四季耕作図」の世界。いいなあ、本当に心がなごむ。基本的には中国の農村を描いているのだが、あまり異国を感じない。田植え、稲刈り、脱穀。私は都会育ちで、ほとんど農業を知らないのだが、中国の田舎を旅行して、昔ながらに刈穂を叩いて脱穀したり、空に放り投げてもみ殻を飛ばすところを見たことを思い出す。足踏み式の臼や振りつるべなどの農機具が描かれていることも、絵画史料として面白い。人間たちの営みとつかず離れずの牛や馬、犬やニワトリの姿もある。

 国宝『納涼図屏風』は、加賀滞在時に制作されたと推定される守景晩年の作。風船みたいに重さを感じさせない瓢箪が好き。画僧の古澗明誉にも『夕顔棚納涼図』という水墨画があることを知った。これも飄逸で味のある作品。この時代、男も女も半裸で夕涼みするのが当たり前の風景だったのだな(蚊には悩まなかったのだろうか)。

 後半(階下)の展示室では、動物・植物など、多様な作品を紹介。差し色を効果的に使った花鳥画が可愛かった。輪郭線を用いず、やわらかに仕上げている。人物画は『鴨長明図』が印象的だったが、後期のほうがバラエティ豊かで充実していそうだなあ。静岡県立美術館蔵『蘭亭曲水図屏風』は、次から次へと杯が流れていて、とても詩をつくっている暇がなさそうで笑ってしまった。

 最後に、守景の息子・彦十郎と娘・清原雪信の作品を展示。雪信は狩野派らしい手練れだが、彦十郎の『鷹猫図屏風』(佐渡市立佐渡博物館)が印象に残った。同門の絵師との諍いがもとで佐渡へ島流しになったというエキセントリックな彦十郎らしさが匂い立っている。全体を通して「個人蔵」の作品をたくさん見ることができたのは、貴重な機会だった。
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