見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

東京会場だけのお宝/聖徳太子と法隆寺(東京国立博物館)

2021-08-13 22:05:22 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 聖徳太子1400年遠忌記念特別展『聖徳太子と法隆寺』(2021年7月13日~9月5日)

 5月に奈良博で見た特別展の巡回展だが、いくつか重要な展示品が異なっていて、『天寿国繡帳』と『伝橘夫人念持仏厨子』は東京会場のみ出陳なので、こっちも行こうと思っていた。お盆休みにゆっくり行こうと思っていたら、『天寿国繡帳』は前期(~8/9)のみ展示と分かって、先週末、慌てて滑り込んだ。

 第1展示室の入口で、まず目に飛び込んでくるのは、金色に輝く如意輪観音菩薩半跏像(平安時代)。法隆寺聖霊院の秘仏で、聖徳太子の「ほんとうの姿」として信仰されてきたものだ。奈良博では、ほかの聖霊院の諸仏(本尊の聖徳太子像と山背大兄ほか侍者像)に気をとられて、あまり印象に残っていなかった。この如意輪観音、身体に密着した衣で胸元をすっかり覆っているのが珍しいと思った。

 展示構成はだいたい奈良博と同じで、おなじみの『聖徳太子二王子像』(東博は模本、江戸時代)があり、法隆寺献納宝物の墨床、水注、牙笏など(いくつかは聖徳太子ゆかりの所伝あり)、東博及び法隆寺等所蔵の金銅仏、瓦などが並ぶ。そして、銅製鍍金の灌頂幡、蜀江錦、伎楽面など、創建当時の法隆寺の荘厳にかかわる品々の中に『天寿国繡帳』が出ていた。これまで奈良や京都や東京で何度か見ているが、こんなにゆっくり見ることができたのは初めてである。むかし見た展覧会の解説(発色の鮮明な部分が原本で、褪色が甚だしいのは鎌倉時代の模本である等)を思い出しながら、ほぼ独占状態で飽きるまで眺めていた。

 それから、奈良博でも強く印象に残った聖霊院本尊の木造の聖徳太子および侍者像。同じく聖霊院安置の木造地蔵菩薩立像も確認した。三輪の大御輪寺旧蔵の地蔵菩薩立像(現・法隆寺大宝蔵院安置)よりはだいぶ小さい。仏画もいろいろある中で、法隆寺所蔵の『孔雀明王像』(鎌倉時代)は、初めて認識した気がする。孔雀も明王も、正面ではなく、やや向かって左方向に顔を向けているのが珍しい。

 次の「法隆寺東院とその宝物」のセクションでは、法隆寺献納宝物のひとつで、もとは東院舎利殿の障子絵で、江戸時代に屏風に改装された『商山四皓・文王呂尚図屏風』(南北朝時代、2曲6双)が展示されていた。これも奈良博には出ていなかったもの。中国風の山水楼閣ときらびやかな衣装の人々がたくさん、古風な筆致で描かれており、物語は解読できないものの、おもしろかった。私が見た前期は「文王呂尚図」だけが本物で、「商山四皓図」は高精細画像の複製品だったのだが、キャプションを見ても、え?どういうこと?と混乱したほど、本物と複製に差がなかった。

 大好きな『蓮池図屛風』を見ることができたのもラッキー。これも、もとは舎利殿須弥壇の後壁貼付だったのだな。『舎利塔』および『南無仏舎利』(という名称なのだ)も展示されていた。

 いよいよ最後が仏像である。奈良博では、まわりを金堂壁画の原寸大の高精細写真で囲んでいたが、東博ではそういう演出はなし。薬師如来坐像や六観音、四天王立像(広目天・多聞天)(全て飛鳥時代)などを淡々と眺めた。ふと気づいたのは、薬師如来坐像や六観音は、それぞれ展示ケースに収まっているのに、ガラスがほとんど鑑賞の邪魔にならないこと。映り込みを軽減した素材なのだと思う。ありがたいことだ。

 ところで、ここが最後の展示室だと思っていたのに『伝橘夫人念持仏厨子』がないので、あれ??とうろたえてしまった。出口方向をよく見たら、物陰にもうひとつ、仕切られたスペースがある。最後のスペースが『伝橘夫人念持仏厨子』単独の展示空間になっていた。まず手前には展示ケースに入った『伝橘夫人念持仏』。さざ波の池から立ち上がる三本の蓮花、それぞれに阿弥陀如来と脇侍の三尊が乗る。屏風のような後屏には天衣を翻す天女(飛天)たち。

 その後ろの展示ケースには、念持仏を収めるための巨大な厨子。基部の四面には天女だか菩薩だかの絵が描かれているようだ。少なくとも背面の絵はよく分かる。そして、最後に展示室の壁には、念持仏の後屏を空間いっぱいに拡大した巨大な高精細写真! 実は現物では、三尊の間の四人の天女は見えるのだが、本尊の光背の陰になっている中央の天女は見えない。この写真で初めて五人目の天女の存在に気づくことができた。というわけで、奈良と東京と二回行く価値は十分ある。

 なお、平成館1階ガイダンスルームでは、特別企画『国宝 救世観音・百済観音を8K文化財で鑑賞』を体験できる。8K画像と3DCGの組み合わせだという。将来的に、参拝したら御朱印をいただくように8K画像をダウンロードできるとか、好みの仏像の8K画像を念持仏としてスマホに入れておけるようになったら、老後も楽しいと思う。また、平成館1階ラウンジには、聖林寺・十一面観音菩薩立像の模刻像(藝大・朱若麟さん制作)が展示されているので、これもお見逃しなく。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする