〇山種美術館 開館55周年記念特別展『山種美術館所蔵 浮世絵・江戸絵画名品選-写楽・北斎から琳派まで-』(2021年7月3日~8月29日)
開館(1966年)55周年を記念し、所蔵の浮世絵と江戸絵画の優品を紹介する展覧会。日本画専門の美術館である同館が、琳派をはじめとする江戸絵画にも強いことは知っていたが、浮世絵の所蔵館であるというのは、あまり意識したことがなかった。本展は全114作品(展示替えあり)のうち、86件が浮世絵(紅絵、錦絵など)で、歌川広重の『東海道五捨三次(五十三次)』は扉+55枚が前後期で全て展示される。
展示構成はだいたい年代順で、奥村政信の古風な漆絵(墨などに膠(にかわ)を混ぜて漆のような光沢をねらったもの)に始まり、鈴木春信、鳥居清長、歌麿、写楽などの個性的な作品が続く。鈴木春信の『柿の実とり』は、男性が女性をおんぶして、塀越しの枝から柿の実をとる図。ほぼジェンダーレスでお人形さんみたいなカップルなのだが、首の傾け方、腕の伸ばし方、身体の軽さに比べた衣の重さなどには実感がある。
広重の『東海道五十三次』を、これだけまとめて見たのは久しぶりで、見る者を飽きさせない、変化に次ぐ変化がすごいと思った。山や海の自然美で驚かせるもの、人々の営みでくすっと笑わせるもの、遠景、近景、朝、昼、夜。天候や季節もさまざまで、たとえ五十三次の順番を知っていても、次に来る風景が全く予測できなくて楽しい。ファンには、何をいまさらと言われるだろうが、魅力を再発見できてよかった。
広重の名作『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』も、しみじみよいと思った。手前の大橋が斜め左下がりなのに対して、隅田川の向こう岸が微妙に右下がりに切り取られているのが巧い。実際にこんな眺望の視点があるとは思えず、広重が自分の頭の中で風景を構成しているのだろうな。『木曽路之山川(雪月花之内 雪)』は、白い巨象の群れがうずくまったような木曽の渓谷の雪景色を描く。これもドローンでもなければ、現実には見ることのできない風景である。
あとは山種美術館ではおなじみの又兵衛や抱一、其一、椿椿山などの作品が出ていた。第2展示室にあった長沢芦雪『唐子遊び図』は記憶になかった。芦雪の描く唐子たちのやんちゃぶりは、芦雪の描く子犬たち(応挙の子犬より自由でやんちゃ)みたいでほのぼのする。日根対山の『四季山水図』も初見のように思ったが、調べたら2016年の開館50周年記念特別展でも見ていて「惹かれる」とメモしていた。こういう「文人画」と言われる山水画、年齢を重ねるにつれて、好きになってきた感じがする。