見もの・読みもの日記

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価値を生む競争関係へ/日韓関係史(木宮正史)

2021-08-24 22:17:16 | 読んだもの(書籍)

〇木宮正史『日韓関係史』(岩波新書) 岩波書店 2021.7

 韓国関連の本、春木育美『韓国社会の現在』を読んだ流れで、もう1冊。本書は「近代化」から今日に至る日韓関係を分析し、特に1945年以後の「非対称から対称へ」という構造変容に注目する。

 19世紀後半、欧米列強の圧力によって開国した日韓両国は、国家体制の改革と近代化という目標を共有していた。しかし日本は自国の安全保障のため、朝鮮に対する排他的な影響力の確保を目指すことになる。朝鮮にとって日本は、自立的な近代化の可能性を摘み取った張本人と認識されている。

 1945年、朝鮮は日本の植民地支配から解放されたが、韓国と北朝鮮に分断される。1950年代の日韓国交正常化交渉は、なかなか進展しなかった。60年代、朴正煕政権は、経済発展の加速によって北朝鮮に対する劣勢を挽回することを企図し、そのために日本の経済協力を必要とした。日本の池田政権も日本製品の市場として韓国を確保することに利益を見出し、米国も経済発展こそが共産主義の抑制に効果的であるという認識からこれを支援した。そして1965年に日韓国交正常化が達成されたが、「領土問題」と「謝罪」は棚上げにされた。

 70年代には、米中・日中の和解によって、東アジアの国際情勢が複雑さを増す。韓国は、自国の対北政策に先んじて、日朝関係が進展することを容認できなかった(これがよく分からない)。北朝鮮をめぐる日韓の緊張が金大中拉致事件を引き起こし、日韓関係は極度に悪化する。米国は、東アジアの緊張緩和から、在韓米軍の撤退を検討したが、朴正煕政権は、核開発に取り組むことを誇示し、米国が韓国の核開発を認めるか、韓国防衛への関与を続けるかという選択を迫った(そんな外交もありなのか…)。こうした「米韓の隙間風」は、日韓の接近を促すことになる。70年代には日韓の議員外交が活発に展開されたが、市民社会どうしの交流はほぼ皆無で、「先進国」「民主主義体制」の日本と「開発途上国」「権威主義体制」の韓国は非対称だった。

 80年代、全斗煥政権は、対米、対日関係に神経を使ったので、日韓関係における米国の比重が再び高まった。韓国は持続的な経済発展によって北朝鮮に対する優位を確保し、1987年には民主主義体制へ大きく舵を切った。日韓は対称的な関係に移行したが、それは「非対称であったから協力が容易であった」状態から、摩擦や競争を意識する局面に入ったことを意味する。

 90年代から現在までの日韓関係の特徴として、著者は「国力の均衡化」「体制価値観の均質化」「多層化・多様化」「双方向化」の4点を挙げる。もはや日韓は(非対称に慣れた人々には受け入れ難いかもしれないが)対称的で対等な競争関係にある。問題は、競争がお互いの社会にプラスの価値を生み出すよう、コントロールすることである。

 ここで思い出したいのは、1997年、金大中政権と小渕政権の下で締結された「日韓パートナーシップ宣言」である。実はすっかり忘れていたが、本書の引用を読んで、あらためて価値ある遺産だと思った。「国際公共財としての日韓関係」という発想はとてもよい。著者は90年代には、日韓関係にかなり楽観的な見通しを持っていたという。思えば私もそうだった。現実には、その後、歴史問題の拡大再生産によって、政治上の日韓関係はひどく悪化してしまった。しかし、若者を中心に文化コンテンツの共有はますます拡大しており、私は楽観的な見通しを持ち続けたいと思う。

 競争が壊滅的な対立を生まないようにするには、お互いの価値観の違いを理解することも重要だと思う。本書には、日韓の価値観の違いが説明されていて、とても興味深かった。

 たとえば「正義」について。日本では「約束や合意を守る」という「手続き的正義」が相対的に重視されるのに対して、韓国では「弱者、被害者も含めた関係当事者が納得し、その同意を得た」というような「実質的正義」が重視される。また、韓国は政治的変動が激しかったこともあり、国内政治においては旧体制における「不正義」を新体制下で裁くことで「正義」を実現する「移行的正義」が一般的である。日韓関係に関しても、以前の「不正義」を新しい日韓関係で正したいという志向が強い。一方、日本では、第二次世界大戦の前後も含めて、そもそも旧体制と新体制との断絶に伴う「移行期」という発想が希薄であり、まして異なる国家間の関係には適用され難いと考える。

 こうした違いを認め合った上で、どのように競争をプラスの方向に転化していけるかが、両国の政治家と市民の課題になるのだろう。

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