■サントリー美術館 開館60周年記念展『ざわつく日本美術』(2021年7月14日~8月29日)
作品を「見る」という行為を意識して愉しんでみようという展覧会。「うらうらする」では色絵皿や能面、屛風を裏から見てみる。「ちょきちょきする」では絵巻から掛軸へなどの「切断」行為に着目。「じろじろする」では、細かすぎて見えない細部にこだわる。「ばらばらする」では硯箱や蓋付き椀の蓋と身をあえて別々にしてみる。「はこはこする」では美術品の収蔵ケースに注目。そして「ざわざわする」では、美しさだけではない、美術品の魅力を考える。あまり宣伝されていないが、同館屈指の名品『佐竹本三十六歌仙絵 源順』や『泰西王侯騎馬図屛風』や『舞踊図』6面をゆっくり鑑賞することができる。しかも、これらの名品を含め、ほぼ全面的に撮影OK。
個人的な趣味で写真を撮っておこうと思ったのは『邸内遊楽図屛風』(江戸時代、17世紀)。以前からこのお姐さんが気になっているんだけど、浴衣姿で立膝してる? 色っぽすぎないか?
もうひとつは『袋法師絵巻』(江戸時代、17~18世紀)。好色な法師が女性の屋敷に侵入し、一夜を共にしたあと、女性が法師を袋に入れて隠している図。右端、赤い布の袋の陰に法師の顔が半分くらい覗いている。怖さと滑稽さ。
■三菱一号館美術館 三菱創業150周年記念『三菱の至宝展』(2021年6月30日~9月12日)
三菱を創業し、4代にわたり社長をつとめた岩崎彌太郎、彌之助、久彌、小彌太の収集品を中心に、芸術文化の研究・発展を通じた三菱の社会貢献の歴史をたどる。ちなみに三菱の「創業」というのは、1870(明治3)年、岩崎彌太郎が土佐藩開成館の事業を受け継ぎ、九十九商会を設立したことを言う。本展は2020年に予定されていたが、新型コロナの影響で会期変更になった。本来なら、世田谷の静嘉堂文庫の移転に先立って開催されていたはずだった。
6月に世田谷で別れを惜しんできた『曜変天目』に再会。世田谷では見ることのできなかった『禅機図断簡 智常禅師図』や『平治物語絵巻 信西巻』などを久しぶりに見ることができたが、この美術館、どちらかというと西洋絵画向きだと思うので、日本絵画や中国絵画の展示には照明が強すぎないか、少し不安を感じた。静嘉堂の漢籍に加え、東洋文庫所蔵の東西の古籍(チベット大蔵経やコーランも)、地図、博物画など、実は本好きを喜ばせる展示資料が多かった。
■江戸東京博物館 特別展『大江戸の華-武家の儀礼と商家の祭-』(2021年7月10日〜9月20日)
武家パートでは、甲冑や刀剣、乗物(駕籠)など将軍・大名の所用品に加え、祝儀の受取状などを展示。商家パートでは、江戸の大店、鹿嶋屋東店の屋敷神として祀られていた富永稲荷の社殿や祭りの獅子頭などを展示。徳川家康・秀忠がイギリス国王・ジョージ3世に贈った『色々威胴丸具足』(イギリス王立武具博物館)など、興味深い品もあったが、全体の意図がいまいち掴めない展示だった。鹿嶋屋(かじまや)というのは、永代橋の際、新川(現・中央区新川)にあった酒問屋のこと(※埼玉県川口市・株式会社鹿島屋)で、深川島田町(現・江東区木場)に東店があったそうである。
■国立歴史民俗博物館 特集展示『黄雀文庫所蔵 鯰絵のイマジネーション』(2021年7月13日~9月5日)
黄雀文庫とは、 浮世絵研究者で収集家としても知られる佐藤光信氏(平木浮世絵財団理事長)の個人コレクションである。本展は、 初公開の黄雀文庫所蔵の鯰絵コレクション約200点を通して、江戸の民衆の豊かな想像力の一端に触れる。鯰絵は、むかしから好きで気をつけて見ているのだが、初めて見るものがかなりあった。ナマズ、かわいいなあ。着物を着せられ、表情豊かに擬人化されたものも多いが、自然な姿で、のたっと横たわっている図(ほぼ鯨)に魅力を感じる。腹を立てた花魁たちに踏みつけられて喜んでいる鯰もいた(どういう性癖だ)。
安政大地震は、安政2年10月2日(1855年11月11日)の夜に発生しており、鹿島明神が神無月で不在だったと解されたというのが面白い。なお、恵比寿だけは神様の集会に参加しない留守神なので、恵比寿が鯰を引っ立てている図もある。鯰絵以外にも地震に関する各種の摺り物資料あり。地震を題材にした春画(逸題春画集)があって、笑うより感心した。小さな版型で、あまりきわどい場面は展示していなかった。