見もの・読みもの日記

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大家族の幸不幸/中華ドラマ『知否知否応是緑肥紅痩』

2021-08-04 20:22:39 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『知否知否応是緑肥紅痩』全73集(東陽正午陽光影視、2018)

 本国では放映当時から良作と評価され、日本でも『明蘭~才媛の春~』のタイトルで何度も放映され(現在も放映中)人気を博していることは知っていたが、私の好みではないと思って敬遠していた。何しろ売り文句は「心温まる夫婦の愛の物語」なのだ。しかし、試しに視聴してみたら、ここから想像されるようなほのぼのドラマではなく、陰謀・復讐・殺人・焼き討ち・危機に次ぐ危機で、特に終盤は目の回るような展開だった。

 時代は北宋、盛家には正妻の王氏のほか、林氏と衛氏という二人の側室がおり、多くの子女にめぐまれていた。林氏は衛氏を妬み、そのお産がうまくいかないよう画策する。産気づいた母のために医者を探す幼い明蘭を助けてくれたのが、顧廷燁少年だった。しかし二人の奔走も空しく、衛氏はお腹の子とともにこの世を去る。明蘭は、母の遺言「万事目立たないように生きよ」を守り、祖母の庇護を受けて盛家で成長していく。

 年頃になった明蘭は、斉国公府の御曹司・斉衡と相思相愛になる。しかし心優しすぎる斉衡は、気位の高い母の反対に遭い、皇族の女性から横恋慕されるなど、結果的に明蘭を裏切ることになる。この頃、明蘭は、生母の死の原因をつくった林氏を盛家から追い出して復讐を遂げる。

 斉衡に代わって明蘭を妻にしたのは顧廷燁。新帝・英宗の即位に大功を挙げ、寧遠侯爵家の後継ぎとして飛ぶ鳥を落とす勢いであったが、顧家の女主人・秦氏は、継子の顧廷燁の失脚を願っていた。また、顧廷燁が若い頃、側室にしていた朱曼娘は、財産目当ての本性がばれて追い出された後、顧廷燁を恨んで復讐の機会を狙っていた。

 秦氏は康王氏(盛家の女主人である王氏の姉)と語らって、康王氏の継娘を顧廷燁の側室に入れようとするが、顧廷燁夫妻は断固拒絶する。面子を潰されたことに怒る康王氏は、妹の王氏をそそのかし、明蘭の後ろ盾である盛家の祖母の毒殺を企むが露見する。盛家の長男・長柏は、実母の王氏を厳しく罰し、康王氏を監禁して収拾を図ろうとする。しかし隙を見て逃げ出した康王氏は、顧家の秦氏のもとに身を寄せ、明蘭と生まれたばかりの赤子の命を奪おうとし、駆け付けた顧廷燁に返り討ちにされる。

 その頃、皇帝は、血のつながらない皇太后との対立、辺境の情勢不安に悩んでいた。顧廷燁は康王氏殺害の罪を問われ、沈将軍の一兵卒として辺境に赴いたが、宋軍大敗の報が届く。守りの手薄な皇城に、突如、謀反の火の手が上がり、皇帝の寵臣である顧廷燁の留守宅にも軍勢が押し寄せる。時を同じくして、秦氏の差し向けた暗殺者・朱曼娘とその一団もなだれ込む。絶体絶命の明蘭を救ったのは顧廷燁。全ては謀反人をおびき出すためのはかりごとで、沈将軍と顧廷燁の軍勢は都の近くに潜んでいたのだ。謀反の首謀者である劉貴妃は処罰された。皇帝は皇太后に皇宮を出ることを勧め、関係を修復する。秦氏は自殺し、顧家にもようやく平和な日々が訪れる。

 あらすじではだいぶ省略したが、とにかく大勢の人物が登場し、変化に富んだ物語を紡いでいく。当時の倫理として、男も女も「家」を守ることが最重要であり、同じ家の中では「血筋」に肩入れするのが当然というのはよく分かった。それから女性は、安定した家に生まれるか、安定した家の正夫人になるのでなければ、生きていくことが難しい。だから林氏にしろ、その娘の盛墨蘭にしろ、狙った男性の寵愛をつなぎとめるため、無垢を装い、媚びを売り、必死で陰謀をめぐらすのは当然で、どこか憎み切れない。

 本作の女性たちは、年齢・善悪にかかわらず、実に陰謀・策略好きである。主人公の明蘭でさえ、孔明か張良かみたいな言い方で顧廷燁に知謀を誉められている。それに比べると男性陣は善良で単純な人物が多かった。

 明蘭(趙麗穎)は、最初は控えめすぎて、あまり魅力を感じなかったが、子どもを産んだあたりから、どんどん強気になっていくのが面白い。顧廷燁(馮紹峰)は、明蘭が危機に瀕すると必ず救いに駆けつけるというお約束を、最後まで違えない。たぶん脚本も「お約束」を楽しませようと思って作っていると思う。斉衡(朱一龍)は、明蘭との結婚に失敗したあと、闇落ちしかかるが、理解ある後妻の支えで、身近な幸せを見つめ直す。中国ドラマにしては優しい結末にちょっと泣けた。

 いろいろなドラマで見てきた俳優さんを見つけるのも楽しかった。老け役の多い王仁君(盛長柏)は珍しく年相応の役かも。中間管理職イメージの強い馮暉さんの皇帝役には笑ってしまったが、役作りで体重を増やしたようで、貫禄があった。『瑯琊榜』の蒞陽長公主役で視聴者の感涙をしぼらせた張棪琰さんの康王氏は、振り切った悪女ぶりが怖かった。

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