〇出光美術館 『江戸絵画の華. 第1部 若冲と江戸絵画』(2023年1月7日~2月12日)
おー出光美術館、久しぶりに江戸絵画の展覧会だ、としか思っていなかったのだが、「展示概要」を読んで、びっくりした。アメリカの日本美術コレクター、エツコ&ジョー・プライス夫妻(プライス財団)によって蒐集された作品の一部が、2019年に同館のコレクションに加わったという。本展は、その新しい収蔵品約190件の中から、選びぬいた80数件を2期にわけて展示する。
第1部、第1室は「生きものの楽園」と題した、楽しいセクション。明治の画家・中住道雲の『松竹梅群鳥図』は、いわゆる百鳥図で、目がぐるぐる回るような華やかさ。つがいの鳥とそうでない鳥(カラスとか)がいるのが面白かった。片山楊谷『鯉図』、岡本秋暉『孔雀図』など、存在感のある作品が並ぶ中で、ひときわ目を惹くのが谷鵬の『虎図』。墨画だが、SFに出てくる怪物みたいなタッチである。詳しい伝記の分からない画家だそうだ。濃い並びだな~と思って、ふと振り返ったら、一段下がったエリアに若冲の『鳥獣花木図屏風』が来ていた。升目描きの奇想の屏風だが、全体の雰囲気は穏やかで、見る人の気持ちを和ませる。プライスさん、この作品を手放して、日本に里帰りさせてくれたのか。ありがとうございます。
第2室は「若冲の墨戯」で、若冲作品9件と関連画家の作品3件。『鶴図押絵貼屏風』(六曲一双)が素晴らしかった! 金地に墨画の鶴図12枚を貼ったもので、鶴の身体をかたちづくる曲線(背中や首筋)と直線(脚)の対比のおもしろさ、描線の肥痩・濃淡の自在なこと、羽の重なりを表現する筋目描きの妙味など、眺めていて飽きない。鶴の足元の、ひかえめな添えもの(波とか土坡とか梅とか菊とか)も楽しい。若冲の押絵貼屏風(鶏図も多い)には名品も凡作もあるのだが、これは文句なしの一級品だと思う。実は会場では、プライスさん旧蔵だと気づかずに、出光、こんなの持っていたかなーと感心していた。
『寿老・蜃気楼・梅に鳩図』の三幅対も好き(この取合せ、題名だけだと全く想像がつかないだろう)。鳩の点目がかわいい。鼻の下に髭だか鼻毛だかをたくわえた。トボけた寿老人も好き。若冲には珍しい風景画の『黄檗山萬福寺境内図』も好き。完成度は劣るが、『松に鷹図』『鯰・双鶏図』など、若冲としては比較的若い時期(40歳代)の作品が展示されているのも興味深かった。
第3室「浮世と物語」は、肉筆浮世絵と屏風など。『蕭白筆群童遊戯図屏風模本』は、あ、九博にある蕭白の、と思ったら、幕末の画家・横山華渓による模本だった。『達磨遊女図』はよく見る画題だが、達磨が面壁9年なのに対して遊女の奉公は10年、という解説が腑に落ちた。
屏風はどれも面白かったが、『酒呑童子図屏風』は、ちょっと悪趣味自慢じゃないかなあ。さすがに首が飛ぶ場面は描かれていないが。『義経記図屏風』は全体にのんびりしているけれど、合戦シーンには流血も描かれている。あと、なんだかよく分からないが、長い武者行列を描いた『瀬田風俗図屏風』が印象に残った。人々が密集する空間と、山並みと琵琶湖の湖面の静けさの対比がとてもよい。右隻の、人の少ない家の中で、親密な男女が向き合っているのも気になる。
久しぶりに図録を買って眺めているのが、完全に展示替えになる『第2部. 京都画壇と江戸琳派』(2/21~)も楽しみ。早く見たい!