見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

意外と知らないお地蔵さま/救いのみほとけ(根津美術館)

2023-06-12 22:40:02 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 企画展『救いのみほとけ-お地蔵さまの美術-』(2023年5月27日~7月2日)

 館蔵品の仏画や仏像を中心として、日本における地蔵信仰の歴史とその広がりを概観する。子どもの頃、「おじぞうさん」はマンガや昔話にも登場する、親しみやすい存在だった。坊主頭の男子をからかうときの定番でもあった。大人になって、仏教美術に興味を持つようになって、妖艶な美形や、精悍な戦士のようなお地蔵さまの存在を徐々に知ることになった。

 本展は、まず文字資料によって地蔵信仰の歴史を紹介する。写真参考展示の『東大寺要録』によれば、東大寺講堂には、光明皇后が発願した虚空蔵菩薩像と地蔵菩薩像があったという。「地」蔵と虚「空」が対になる存在だというのは初めて気づいた。『地蔵十輪経』(展示は奈良時代の断簡)は、釈尊が入滅してから弥勒菩薩が成仏するまでの間、地蔵菩薩が衆生を導くことを説く。『地蔵大道心駆策法』(平安時代、初公開)は武周時代の成立で、道教的な色彩が強いという(則天文字が見られる)。

 次第に絵画資料が増えていく。同館で何度か見ている『矢田寺地蔵縁起絵巻』(室町時代)は、10月以降の月詣の功徳が紹介されているのだが、10月9日、11月19日と来て、次が12月24日(クリスマスイブ)なのが可笑しい。『地蔵菩薩霊験記絵巻』(南北朝時代)は、屋根を葺いたり牛を引いたり、人助けに余念のない僧侶の正体が、実はお地蔵さまだったというお話。真ん中から割れる着ぐるみを脱ぐように本体を現わす地蔵菩薩が描かれている。

 鎌倉新仏教による阿弥陀信仰の流行に対抗して、旧仏教側は地蔵信仰を推していく。細い眉、宋風の面持ちの『地蔵菩薩像』(室町時代、逆手の阿弥陀スタイル)、他に例のない『渡海地蔵菩薩像』(鎌倉時代、個人蔵)、女性を思わせる美麗な『地蔵菩薩像』(鎌倉時代)など、多様なイメージが描かれる。また、鎌倉時代以降、十王信仰が急速に普及していく。鎌倉時代の『地蔵十王図』2幅が出ていたが、このうち「秦広王」が付けている四角いペンダントみたいな首飾り、今見ている中国ドラマ『清平楽(孤城閉)』で正装した皇帝が付けていたものに似ていて気になる。

 朝鮮時代の『地蔵菩薩本願経変相図』は、上半分に地蔵菩薩と眷属を整然と描くのに対して、下半分にはわちゃわちゃと裁きと地獄の責め苦が描かれている。赤と白の目立つ明るい色彩で、あまり恐ろしくない。あと高麗時代の『地蔵菩薩像』(被帽地蔵)と朝鮮時代の『地蔵諸尊図』が出ていたが、朝鮮仏画、もうちょっと見たかった。

 展示室2には、久安3年(1147)快助作の地蔵菩薩立像(木造彩色)が、ケース無しの露面展示で飾られていて、びっくりした(警備員が入口横に立っていらした)。細い手足、長すぎる腕。撫で肩で、身体は薄く、衣の袖も薄くて、はかなげである。目はほぼ閉じ、下唇の赤が目立つ。文化庁所蔵の阿弥陀如来坐像の脇侍と考えられているそうだ。ちなみに1階ホールの奥の仏教美術コーナーはどうなっているんだろう?と思って見に行ったら、金ピカの銅造鍍金仏(中国・北魏~唐、新羅)の特集だった。

 本展を担当した本田諭氏は、インタビューで「過去に企画展で地蔵をメインで取り上げた展覧会は全国的にもおそらくほとんどなかったと思います」「実は地蔵の研究はあまり進んでいません」と語っている。意外な感じがして、面白かった。

 展示室5は「西田コレクション受贈記念III 阿蘭陀・安南 etc.」。『塩釉人物文水注』(ドイツ)には、フェルメールの絵に同タイプの水注が描かれているとの説明あり。展示室6は「涼一味の茶」で、色味の少ない枯淡なお道具が揃っていた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする