〇出光美術館 尾形乾山生誕360年『琳派のやきもの -響きあう陶画の美』(2023年6月10日~7月23日)
江戸時代中期を代表する京の陶工・尾形乾山(1663-1743)をはじめとして、継承されゆく「琳派のやきもの」の世界を紹介する。という趣旨の展覧会だが、展示品は「やきもの」に限らないし「乾山」に限らない。同館の琳派コレクションの厚みをたっぷり堪能できる企画である。
冒頭のセクションは、乾山が好んだ銹絵(さびえ)を中心に「詩書画の陶芸」を展示。銹絵とは、白化粧した下地に鉄釉という茶色から黒褐色の釉薬で絵を描いたもの。磁州窯系の中国陶器『白地黒花楼閣人物文枕』(元時代)が出ており、乾山の銹絵はこの磁州窯(日本では絵高麗とも呼ぶ)を参考にしたという解説が付いていた。そのせいか分からないが、乾山の銹絵の皿は、絵柄も中国趣味が濃厚である。『銹絵楼閣山水図八角皿』とか『銹絵漁村夕照図茶碗』とか、実は本場の中国にこういうやきものはない気がするが、皿や茶碗という小さなキャンバスに封じ込められた中国ふうの山水がとてもよい。それと、山水図でも花鳥図でも、添えられた漢詩や漢文の一節がいい仕事をしている。
乾山、それに光琳の絵も、19世紀になって酒井抱一らの顕彰活動が実を結ぶ以前は、桑山玉州などの文人墨客に「飾り気の無さ」を愛されていたという。「琳派=飾りの美学」という昨今の評価と対立するようで面白い。
乾山は王朝文学の情緒を取り入れたやきものも多く作っている。こちらは銹絵でなく色絵が多い。『色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿』や『色絵百人一首和歌角皿』など。後者は色絵の隣りに和歌が添えてあるが、前者は和歌が裏面に書かれていて、表面の絵を見て、どの和歌かを推測させる趣向だろう。おもしろい。ただ、これらの色絵皿は、菓子や料理を載せる使い方が全く想像できない。絵を見て楽しむだけなのだろうか。
後半には、多数の琳派の屏風も登場。光琳のちょっと抽象画みたいな『流水図屏風』。同じく光琳の『禊図屏風』(川辺に幣を立てて座る男)。流水モチーフの関連で近いところに出ていたのが乾山の『染付白彩流水文鉢』で、泡立つ波頭のかたちに縁をデコボコに切り取った造形が斬新。伝・光琳の『紅白梅図屏風』(六曲一双)は、大好きな作品で、とても久しぶりに見た気がした。
狩野重信『麦・芥子図屏風』と仁清『色絵芥子文茶壺』も華やかな共演。地味な麦図と華やかな芥子図は、元来、全く無関係だったと考えられているようだが、この二作品を取り合わせたのは、なかなかの慧眼だと思う。
江戸時代後期の琳派作品では、鈴木其一の『桜・楓図屏風』が眼福。やきものでは、仁阿弥道八の『銹絵金彩桐一葉形皿』や『色絵桜楓文鉢』がよかった。色もかたちも、どんどん自由になっていく感じがした。