見もの・読みもの日記

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初代国立劇場の思い出

2023-09-04 21:27:02 | 行ったもの2(講演・公演)

  半蔵門の国立劇場が、老朽化に伴う建て替え工事のため、2023年10月で「閉場」することになった。いまの劇場は1966年11月に開場したものだという。

 私が初めて国立劇場に入ったのは、高校生のときだ。高校1年生のときに歌舞伎教室で『俊寛』を見て、高校2年生のときに文楽教室で『伊賀越道中双六』を見た。歌舞伎はわりあい面白かったが、文楽は全く面白くなくて、実はずっと演目を忘れていた。馬が出てきた記憶だけはあり、塩原太助ものか?などと思っていたが、文化デジタルライブラリーの「公演記録を調べる」で検索したら、どうやら『伊賀越道中双六』らしい。高校生には地味すぎて退屈だった。

 しかし、大学院生時代に「文楽を見たい」という留学生に付き合って『近江源氏先陣館』を見たら面白くて、文楽ファンになってしまった。以後、ちょっと間遠になった時期もあったけれど、だいたい年1回くらいは文楽を見に通ってきた。舞楽や声明、民俗芸能、わずかながら歌舞伎公演を見たこともあるが、圧倒的に大劇場より小劇場に足を運んだ回数のほうが多い。

 学生時代は平日に来ることができたので、席を選ばなければ当日券で入ることができた。当時は、芝居見物とはそういうものだと思っていた。いま思い出したのだが、一度だけ、劇場に来てみたら満員御礼で呆然としていたら、知らない人に「余っているから」と券を譲ってもらったことがあったように思う。

 国立劇場は2階に大きな食堂があり、3階に喫茶室があって、カレーとスパゲティミートソースとそば・うどんなどが食べられた。確か初期の頃は、国会図書館の喫茶室と同じ業者で「MORE(モア)」という名前だったと思う。私は3階の愛用者で、幕間にずいぶんお世話になった。よく通る声のマスター、どこかでお元気にされているかしら。

 国立劇場へのアクセスは、半蔵門駅を利用することが多かった。なので、国立劇場の正面を見た記憶はほとんどなく、思い浮かぶのは、裏門の風景ばかりである。

 直線だけで構成された無駄のないデザイン、特に校倉造りを模した壁面はとても美しい。建て替えで、これ以上の建物ができるとはとても思えない。どうして、この芸術的な建物を「建て替え」なければならないのか、理解に苦しむところである。やっぱり、ホテルやレストランをつくって収益性を上げるため?

 それから、国立劇場のロビーは、大劇場も小劇場もさまざまな絵画や彫刻作品で飾られている。小劇場は文楽にちなんだ作品が多く、私が好きだったのは森田曠平による『ひらがな盛衰記(笹引の段)』。腰元お筆を遣うのは文雀さん。平成元年(1989)の作である。新しい劇場にも、どうかこれらの作品がきちんと引き継がれますように。

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