■京都国立博物館 特集展示『日中 書の名品』(2023年8月8日~ 9月18日)+常設展示
三連休2日目は京博から。楽しかったのは『異国の仏教説話』(2023年8月22日~9月18日)で『羅什三蔵絵伝』『華厳宗祖師絵伝・義湘絵』『真如堂縁起』の3件が出ていた。『羅什三蔵絵伝』は鳩摩羅什の物語。料紙の大きさに比べて人物が小さいが、胡粉や金彩が美しく、やわらかな印象。持ち帰った経典の翻訳に励む長安の寺院、写経用の紙(絹?)を洗濯ものみたいに干す人々が描かれていて面白かった。『華厳宗祖師絵伝』は、ほぼ全面的に開いていて、冒頭ではめそめそ泣いている善妙が、仏具の箱とともに海に身を投じると、巨大な龍が立ち現れる、この変化の迫力がよく分かった。龍に守られる船中の義湘は、きょとんとした表情である。あと、冒頭の街中の犬の親子がかわいい。
『地蔵と十王』(2023年8月22日~9月18日)では、兵庫・清澄寺の『十王図』10幅を堪能した。中世絵画は白衣観音図の特集、ほかに池大雅、清代・民国の中国山水画(久しぶりに斉白石!)など。やっぱり常設展期間の京博は収穫が多くて楽しい。
1階の『日中 書の名品』は京博コレクションが中心だが、知恩院から『菩薩処胎経巻第二』が出ていた。伝世の写経として最古(西魏・大統16/550年)だというが、文字は読みやすい。『千手千眼陀羅尼経残巻(玄昉願経)』は、天平13年(741)に玄昉が聖武天皇と国家の安寧を祈願して書写させた経典の遺例である。カタカナで読み方が付記されているのが不審だったが、調べたら平安後期の加筆らしい。5世紀に書写された『三国志呉志第十二残巻』はトルファン出土。字間が妙に広いのと、右へのはらいがぷっくり太いのが特徴。知っている単語がないか探したら「諸葛亮」「諸葛孔明」「曹孟徳」の文字を見つけて興奮! 同じく5世紀の『大智度論巻第八残巻』は紙背にソグド文字で短い文章(?)が書きつけられていた。ソグド文字、ちょっとモンゴル文字に似ているだろうか。
■相国寺承天閣美術館 『若冲と応挙』(I期. 2023年9月10日〜11月12日)
第1展示室に入ると、左右の壁面の展示ケースに若冲の『動植綵絵』30幅がずらりと並んでいる。入口からは見えないが、正面には『釈迦三尊像』3幅が掛けられているはずだ。動植綵絵は宮内庁所蔵の本物ではなく、コロタイプの複製だが、全く気にならない。いつぞやの若冲展のような混雑ではなく、1枚1枚をゆっくり鑑賞することができてうれしい。それにこの展示室、広さといい、展示ケースの高さといい、動植綵絵30幅を掛け並べることに最適化した空間なのだということが、あたらめてよく分かる。
釈迦三尊像の前に座って、しばしくつろいだあと、そういえば(展示室中央の)茶室の中は?と思って振り返ったら、久保田米僊筆『伊藤若冲像』が掛けてあった。明治18年(1885)、若冲85回忌の供養と展観のために描いたものである。また『祖塔旧過去帳』には、10日の条に「斗米庵若仲(ママ)居士 寛政十二年庚申九月」とある。(旧暦の)9月10日が命日なのだな。入口付近の展示ケースには、宮内省へ動植綵絵を献上したことにより、金一万円を下賜されたことを示す文書と封筒も展示されていた。当時の宮内大臣は土方久元。
第2展示室は、応挙の『七難七福図巻』が見ものである。私は同館の2010年の名品展をはじめ。何度かこの作品を見ているので驚かないが、初見の方は覚悟して来られたほうがよい。参観者にお子さん連れを見かけると、ちょっとハラハラしてしまう。応挙の画稿(墨画)2巻、完成稿3巻(天災巻・人災巻・福寿巻、著色)に加えて、応挙に制作を依頼した僧侶・円満院祐常の下絵図巻1巻(墨画)が出ており、その翻刻がパネルになっていて、読んでみると興味深かった。自ら絵心もあった祐常は、描くべきテーマを詳細かつ具体的に応挙に指示している。「盗賊、兵難、死罪、刑罪、面縛、追剥、押込」「婦女を犯さんとする図、丸裸にはぎてはぢかはしき所」「火あぶりなども可然歟」「其外はりつけ、獄門打首」等々。初めて応挙の作品を知ったときは、どうしてこんな場面を描こうと発想したのか不思議だったが、発注者の祐常の意図を聞き「それなら」と応えたのが真相だったようだ。天災巻の後半に、空想的な大鷲や大蛇の害が描かれていることも、祐常の注文に「深山は熊狼等人をくらう図」「同うはばみなど人をのむ図」「鷲子をつかみ深山へ行図」の記述を見つけて納得した。