見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

初めて知る素顔/文楽名鑑2023(人形浄瑠璃文楽座)

2023-09-10 22:27:33 | 読んだもの(書籍)

〇福山嵩郎編集;塩川いづみイラスト『文楽名鑑2023』 人形浄瑠璃文楽座 2023.8

 いま個人的に大注目の1冊。一般社団法人「人形浄瑠璃文楽座」が、全座員86人のプロフィールを掲載した「文楽名鑑」を発行した。「好きな演目は」「初舞台から現在までを振り返って一言」といった真面目な質問があれば、「カラオケの十八番は」「好きな動物は」「モテ期はいつ?」なども。約70項目のアンケートから、それぞれの個性がにじむ、えりすぐりの回答が掲載されている。

 私は文楽を楽しむようになって、すでに40年近くになるけれど、座員のみなさんについて知っていることは、毎回の公演プログラムに掲載されている「文楽技芸員の紹介」ページの白黒写真と芸名がほぼ全てである。実は年齢(年代)もよく存じ上げなかったので、本書を見て、え!この方、もう80代(見た目が若い)とか、え!若手かと思ったら意外と歳上、など、小さな驚きがずいぶんあった。ちなみに大阪公演のプログラムは、以前からよく座員の方へのインタビューを掲載しており、最近は東京公演のプログラムにもそうした記事が見られるようになったのはうれしい。

 出身が関西以外という座員の方は意外と多いのだな。千歳太夫さんと亘太夫さんが東京都江東区出身(私の地元~)というのも初めて知った。鶴澤燕三さんの神奈川県葉山町出身にもびっくり。希太夫さんは「好きなアーティスト」がプラシド・ドミンゴで、「歴史上の人物で会ってみたい人」はチャイコフスキーとの回答。やっぱりジャンルは違っても音楽や楽器が趣味という方が目につく。吉田玉男さんが錦絵や陶器を集めていらっしゃるというのも気になる。

 食べもの関係では「おでんの好きな具」に咲太夫さんと鶴澤清治さんが挙げていた「さえずり」。聞いたことがなくて調べてしまった。関西では一般的なのだな。あと「好きなパン」に藤太夫さんが挙げていた「クワエベーカーズ」(阿倍野)の食パン、睦太夫さんが挙げていた「No.4」(東京・市ヶ谷)のリーンブレッド(山形食パン)は覚えておこう。

 笑いながら納得したのは「太夫あるある」「三味線あるある」「人形遣いあるある」で、三味線は「右の前腕だけ太くなる」かと思えば、人形遣いは「スポーツジム入会時の筋量測定で右利きにもかかわらず『左利きですね』と言われる」のだそうだ(主遣いになると人形の重さのほとんどを左手で支えるため)。厳しい肉体労働なのだ。

 編集の福山嵩郎さんのお名前は知らなかったので、検索したら、京阪神エルマガジン社で立ち上がった、文楽の初心者向けフリーペーパー「ハロー!文楽」を作っていらっしゃる方だと分かった。ありがたいなあ、こういうの。リンクをたどって「文楽協会」のホームページを見に行ったら、意外と今ふうのデザインで、情報がコンパクトにまとまっていてよいと思う。

こちら「ハロー!文楽」編集部

公益財団法人 文楽協会

 本書には、引退された吉田蓑助さんのページがあったのも嬉しかった。住太夫さんや嶋太夫さんの回答も、こういうかたちで読みたかったなあ…。本書を10年先、20年先(自分が生きているとして)に読み返したら感慨深いものになるだろうとも思った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする