見もの・読みもの日記

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多事多端の四半世紀/戦争と戦後を生きる(大門正克)

2009-03-05 23:57:22 | 読んだもの(書籍)
○大門正克『戦争と戦後を生きる』(全集 日本の歴史 第15巻) 小学館 2009.3

 同シリーズの第13巻・牧原憲夫『文明国をめざして』、第14巻・小松裕『「いのち」と帝国日本』と力作が続いたので、続巻を非常に楽しみにしていた。その割には、ちょっと期待外れの読後感が残った。

 

 本書は1930年代から1955年という、戦前-戦中-戦後にまたがる四半世紀を一挙に扱う。近年、戦前と戦後の断絶性よりも、その連続性に言及する著作によく出会うが、実際にそのような時代認識に基づいて書かれた通史は、まだ珍しい。この点でも、本書の取り組みは革新的であると思う。

 しかし、読んでみて思った。この四半世紀は、あまりにも多事多端すぎる。技術の進歩、風俗の変化、生活意識の革新…それら全てを1冊の単行本で記述することは不可能で、いきおい、他の文献の紹介に留まらざるを得ない。そうすると、たとえば日本の兵力動員がいかに「根こそぎ」だったかという話は、吉田裕『アジア・太平洋戦争』を、空爆の悲劇性は、荒井信一『空爆の歴史』を思い出させるが、当然ながら、個別テーマを深く掘り下げた著作のほうがずっと面白い。本書は、歴史の多くの側面に触れようとし過ぎて、消化不良に陥っている印象がある。

 もちろん、初めて知ることもいろいろあった。総動員体制の下、生活と政治は否応なく結びつき、医療・衛生を含む、生活の改善(合理化)が強く求められた。その結果、庶民の福利厚生の水準は上がったが、私のような無精者には、きっと生きづらい時代だったろうなあ、と思う。戦時中の「性」をめぐるダブルスタンダード(一般の婦女を暴力から守るために商売女性たちが差し出された)や、戦後の在日朝鮮人教育の疎外(あれだけ民主的な教育基本法を定めておきながら何故?)なども、あらためて淵源を問い直したい問題である。

 それから、日本が受諾したポツダム宣言には、カイロ宣言の履行義務が含まれており、「カイロ宣言で明記された領土返還を含めて考えると、日本は日清戦争以来のすべての戦争に降伏したと考えられる」という一文にはあっと思った。これ、ある派の人々は絶対に認めないだろうけど。

 また本書には、一目見たら忘れがたい写真が何枚か収録されている。その一例、アメリカ海兵隊のカメラマン、ジョー・オダネルが撮った「死んだ弟をおぶって焼き場に来た少年」は、当分、私の瞼を去りそうにない。オダネルは広島や長崎で撮った写真をトランクに秘めて、40年以上封印していた(向き合うことができなかった)という。考えさせられる。

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