見もの・読みもの日記

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本で巻く歌仙/双六で東海道(丸谷才一)

2006-12-18 00:09:51 | 読んだもの(書籍)
○丸谷才一『双六で東海道』 文藝春秋社 2006.11

 雑誌「オール読物」に2005年2月号から2006年5月号まで連載とある。たぶん『綾とりで天の川』(文藝春秋社 2005.5)の続きではないかと思う。例によって洒落た題名(江戸時代の発句から)、例によって和田誠さんの上品で朗らかな装丁である。

 双六ね。丸谷さんのエッセイにも双六みたいなところがある。お題から次のお題へと、連想が、どんどん移って行く。滑らかに隣に移ることもあれば、あっと驚く飛躍を見せることもあって、双六の駒の動きのようだ。いや、いっそ歌仙に喩えたほうがいいかしら。しかも、例によってブッキッシュな(本に拠った)雑学談が多い。

 たとえば、プルタルコスの『食卓歓談集』に拠って、古代ギリシアの宴会の作法を語り、生方敏郎の『明治大正見聞史』に拠って、乃木大将自殺の一報を聞いたときの新聞記者の反応に驚き、今村啓爾『富本銭と謎の銀銭』に拠って、埋蔵銭をめぐる論争にわくわくする。

 歴史上の人物に関する印象的なエピソードも多かった。福地桜痴の『幕末政治家』に登場する安部伊勢守正弘は、25歳で老中になり、39歳で亡くなるまで首相格であった英才。私は、野口武彦さんの『大江戸曲者列伝』(えーと、どっちかな。たぶん幕末の巻)で読んで以来、ファンである。三田村鳶魚によれば、彼の若死の理由は、十五歳の若い妾(向島の桜餅屋の娘)を持ったのが体に障ったのではないか、という。

 桂小蘭『古代中国の犬文化』によれば、宋の徽宗皇帝は戌年であったため、犬の殺生を禁じた。中国かぶれ(儒書を中国音で読んだ!)の徳川綱吉はこの件を知っていただろうか? 知っていたとして、亡国の皇帝の真似をするだろうか? 関連して、山内昶『ヒトはなぜペットを食べないか』によれば、清朝の政治家、李鴻章は、ロンドンへ交渉に行ったとき、イギリス外相から贈られたシェパードを平らげてしまったそうだ。いいなー。さすが中国人、豪快。相手が、動物愛護の本家、イギリスだというところに皮肉が効いている。

 横井小楠、松平春嶽、グリフィスの段も面白い。グリフィスは明治期に福井藩の藩校に招かれたアメリカ人。彼を招いた殿様が松平春嶽で、春嶽が師事したのが横井小楠である。3人とも前々から気になる存在だったが、丸谷さんの批評を読んで、横井小楠については、ぜひ読んでみようと決めた。

 最後に、著者が「最近知った話で、披露したくてたまらない件が一つある」というマクラで書き出しているエピソード。ニューヨーク公共図書館には、銀のバッジをつけた7人の本の探偵がいるのだそうだ。毎年何千冊も盗まれる本を取り戻すのが彼らの仕事。期日を2、3ヶ月過ぎても返さない者には麻薬常習者が多く、贋の図書館カードで本を借り、借りた本を売って麻薬を買うのである。これは、ゲイ・タリーズの『名もなき人々の街』(青木書店 1994)というノンフィクションに出てくるのだそうだ。この本、読みたい!

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