見もの・読みもの日記

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図録で徹底解読/「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ(出光美術館)

2018-08-05 22:23:32 | 行ったもの(美術館・見仏)
出光美術館 『「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ』(2018年7月28日~9月9日)

 江戸を題材とした都市図の魅力を紹介する展覧会。名所図、祭礼図、風俗図など、屏風を中心に肉筆浮世絵や図巻を含め30余点。比較対象として、京都の景観を題材にした洛中洛外図や阿国歌舞伎図も出ている。細見美術館から『江戸名所遊楽図屏風』1点が出陳されているほかは、全て出光美術館の所蔵品で構成されている。

 最大の見ものは、平成27年(2015)に重要文化財に指定された『江戸名所図屏風』八曲一双だろう。ちょっとマンガっぽい(顔が大きい)個性的な人物がぎっしり書かれていて、陽気で華やかな作品だ。注文主や制作年代については、黒田日出男先生の『江戸名所図屏風を読む』(角川選書、2014)が興味深い推論を展開している。それを思い出して「向井将監邸」と下がり藤の家紋をつけた船、「浅草三十三間堂」には、忘れずチェックを入れた。あと、馬と牛の数(圧倒的に馬が目立つ)とか、歌舞伎(遊女歌舞伎か若衆歌舞伎か)なども、都市景観図を見るときのチェックポイントであることを思い出して、気を付けて見た。なお、作品から少し離れたところに黒田日出男先生の推理がパネルで紹介されていた。これは、たぶん同館では初めてのことで(2016年の展示のときはなかった)嬉しかった。

 今回、気になったことをメモしておく。左隻に人形浄瑠璃の小屋があるのだが、太夫と三味線は舞台の奥(客から見えないところ)で演奏しているようだ、人形遣いらしい男は上半身裸。また、右隻では刀を抜いた十数人の斬り合いが起きており、その中に朱鞘の若侍がいる。日本橋から神田へ続く通りには、中国服(朝鮮?琉球?)みたいな不思議な着物の二人連れがいる。浅草寺の境内には南蛮服姿も見られるが、これは祭りの仮装らしい。祭りの行列には、伎楽の獅子舞みたいなのもいる。

 かなり注意深く観察したつもりだったが、本展の図録には、この屏風の右隻・左隻を各48分割(一扇を6分割)して図録の1頁に収めるという、高精細カラー図版が掲載されている。図録の三分の二くらいのページがこの作品の写真で埋まっているわけだが、大英断! 今後、この作品の入門研究に必携の図録になると思う。図録のおかけで、私は展示会場では気づかなかったものをいくつか見つけた。ひとつは右隻、浜町のあたりの家の中に灰色の猫がいる。犬は何匹か描かれているけど、猫はいないなあと思っていたのだ。気づかなかった。それから左隻の中橋のたもとで莚に座って何かを売っている男は、どうも銭売りらしい。ほかにもちょっとした持ち物や売り物、芝居の小道具、頭巾や笠のかぶりかた、着物の柄などが細かく描き分けられていること、遠景のお城や船、橋など構造物の描き方が手堅いこと、植物も何種類かを意識的に描き分けていること、などが分かった。

 遠景の極端に小さい人物は、前景の丸っこくて親しみやすい人物を描いたのと別の筆ではないかと思う。前景の人物は、全部同じ人が描いているように思うが、よく分からない。しかし、これだけの多種多様な人間の姿を、生き生きと描くためには、さまざまな場所に出かけていって、人間観察とスケッチを積み重ねたのではないだろうか。絵手本にたよるだけは、このような作品は書けないと思う。

 その他の作品を駆け足で。『江戸風俗図屏風』六曲一双は、右隻にさまざまなスポーツ(?)が描かれている。相撲、競馬、四角いケージの中で行われている蹴鞠など。ぼんやり見た記憶のある作品だったが、図録解説に「静嘉堂文庫美術館にほとんど同じ構成を取る屏風が収蔵されている」とある。もしかして、先日『酒器の美に酔う』展で左隻だけ見たものだろうか。『祇園祭礼図』は、長刀鉾、月鉾、船鉾、蟷螂山、浄妙山など、今と同じ山鉾が描かれている。

 『阿国歌舞伎図屏風』は2点出ていて、私は江戸時代のもの(金地の背景、阿国は露面で刀を背中にかつぐ)は何度か見ているが、桃山時代のもの(桜の下の舞台、阿国は頭巾を被り口元を布で隠して腕組み。切れ長の目元が妖しく色っぽい)は初見かもしれない。図版は何度か見ているが。どちらも囃方が鼓と太鼓だけで三味線が見えない点で古い形態を伝えているという。『歌舞伎・花鳥図屏風』(裏面が花鳥図)には、三味線が見える。

 もう少し時代の下った歌舞伎興行を描いた屏風も複数出ていて、『中村座歌舞伎図屏風』は18世紀後半の作と推定されている。芝居小屋前の賑わいを描いていて、絵看板や役者替表、華やかな飾りつけが楽しい。美人画の背景に描かれた江戸の名所を読み解くのも面白いと思った。

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