見もの・読みもの日記

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愛と怨みの行方/中華ドラマ『風起洛陽』

2022-01-01 18:48:29 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『風起洛陽』全39集(愛奇藝、2021)

 これから本作を見ようとする人に強く言っておく。ネタバレを踏まないよう、関連記事は一切読まないほうがよい。次々に繰り出される謎とスリルに身を任せ、手に汗握るほうが絶対によい。

 舞台は唐代(武周というべき?)の神都・洛陽。聖人(皇帝)として君臨するのは、武則天と思しき女帝であるが、物語は虚実を取り混ぜて進む。聖人が設置した密告箱(これは史実)に投書をするために上京した父娘が、神都で殺害され、投書も奪われる事件が起きた。検死人の高秉燭は、殺害方法から謎の組織「春秋道」の関与を疑う。

 高秉燭は、神都の低湿地帯「不良井」に暮らす不良人(賎民)を出自とする。かつて不良井の副管理人だったとき、弟分の少年たちを神都見物に連れ出した結果、春秋道による太子襲撃事件に巻き込まれ、七人の兄弟を死なせてしまった過去があり、仇討ちの機会を狙っていた。

 武思月(月華君)は、女性ながら内衛(近衛軍)の一員で、聖人から密告者殺害犯の究明を命じられ、聖人の特命の執行者であることを示す芙蓉牡丹令を賜る。内衛の上司でもある兄の武攸决は、正義感の強い妹の行動を案じる。

 その頃、工部尚書の百里延は、聖人のために巨大な天堂を建築する工事を指揮していた。次男の百里弘毅(二郎)は、父の懇願に負けて、幼なじみの柳然(七娘)と結婚することになったが、婚礼の晩、父が何者かに殺害されてしまう。神都で殺害された密告者は二郎と旧知で、銅山のある奩山から来ていた。銅の運搬を管轄しているのは百里家と柳家(七娘の叔父)である。百里延の殺害にも春秋道が絡んでいる疑いが濃厚になった。

 以下、本格的【ネタバレ】に入る。高秉燭・武思月・百里二郎の三人は、次第に連携を深め、疑惑の中心に迫っていく。高秉燭は、兄弟の命を奪った殺し屋・十六夜を特定するが、その正体は意外な人物だった。苦い仇討ちを終えたあと、真の仇敵である春秋道の首領を倒すべく、高秉燭は、聖人が設置した特殊情報組織・聯昉に身を投じる(こういう組織があったことも史実らしい)。しかし聯昉の一員となることは、生涯にわたって全ての情愛を断つことを意味した。高秉燭に好意を抱き始めていた武思月は動揺する。

 百里二郎は、銅のほかに春秋道が隠匿していた北帝玄珠(純度の高い硝石)を調べるうち、火薬の製法を発見する。春秋道は、銅箱に火薬を詰めた「伏火雷霆」によって、聖人が出御する天堂の爆破を企んでいると思われた。さらに春秋道の中枢に、死んだはずの兄・百里寛仁が関わっていることを知った二郎は、九族誅滅の罰を受けることを承知で、聖人に真実を告げに赴く。黙って二郎を送り出す七娘。

 しかし春秋道は別の意図を隠していた。真の首領が姿を現し、自ら皇位につこうとする野望を明らかにする。高秉燭・武思月・百里二郎の決死の行動と、不良人たちの協力により、神都の平和は守られたが、しかし…(以下自粛)。

 原作は『長安十二時辰』と同じ馬伯庸だが、ドラマ版だけの比較だと、『長安』が終始重苦しいのに対して、本作はアクション多めで展開が早く、疾走感がある。善悪を定めがたい複雑な登場人物もいるが、主役三人には裏表がなく、感情移入しやすい。私はどちらも好きだが、本作のほうが万人向けではないかと思う。

 王一博が演じた百里二郎は、戦闘能力ゼロで社会性にも乏しい、理系オタクの坊ちゃんとして登場するが、次第に人間的に成長していく。それを暖かく、いつも嬉しそうに見守る七娘(宋軼)は理想の伴侶。高秉燭役の黄軒は、走り回り跳び回るアクションも、笑いも、繊細な表情も全てよい。あと声が好きなのだ、この人は。武思月の宋茜(ヴィクトリア・ソン)は初めて知ったが、アイドル出身なのだな。とりあえず強くて可愛い女性を出しておこうという役どころでなく、地に足のついた大人の女性(少しおばさんっぽい)の雰囲気に現実味があった。『風起洛陽』の中文wikiに、高秉燭との関係は「歓喜冤家」と書かれていて、よくケンカするが愛し合っているカップル、みたいな意味だそうだ。高秉燭を助ける白龍を演じた蒋龍くんは、表情豊かで巧かったなあ。覚えておく。

 中国語圏の解説記事によれば、ドラマの晋王・武慎行の原型は武三思で、聯昉を統括する公子楚(東川王)は、楚王さらに臨淄王に封ぜられた李隆基(玄宗)、武攸决の原型は、建昌郡王・武攸寧、あるいはその弟の武攸暨という説があるそうだ。また唐初の煉丹家(不老不死の丹薬をつくろうとした人々)の文献に原始火薬の製法が見えることは、火薬の中文wikiに記載がある。こうした詮索も楽しいドラマである。


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