見もの・読みもの日記

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『五馬図巻』完全公開/中国書画精華(東京国立博物館)

2022-10-24 22:00:49 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館・東洋館8室 日中国交正常化50周年・東京国立博物館150周年・特集『中国書画精華-宋代書画とその広がり-』(2022年9月21日~11月13日)

 『国宝展』で賑わう東博だが、私が待っていたのはこちら。毎秋恒例の中国書画の名品展である。開館150周年にあたる本年は、コレクションの白眉といえる宋代書画に注目。後期(10/18-)には『五馬図巻』(李公麟筆、北宋時代・11世紀)が登場した。2019年の特別展『顔真卿』に突如姿を現したあと、東博の所蔵に帰したが、しばらく公開の機会がなかったのは、修理に入っていたためだという。

 嬉しかったのは、修理で不要になった旧箱や旧包裂(つつみぎれ)なども一緒に展示されていたこと。この旧包裂は清朝宮廷製だという。『五馬図巻』は、宣統帝溥儀の教育係だった陳宝琛が持ち出して日本に渡ったというので(芸術新潮の記事)、そのときからの包裂ではないか。

 巻頭には乾隆帝の題辞があり、5頭の馬が、その綱を引く人物とともに描かれている。馬の毛並みが違うように、綱を引く人物の服装・顔つきにも特徴がある。全て撮影OKなのはさすが東博!!

 第1馬・鳳頭驄(ほうとうそう)の引手は、とがった帽子、茶色い髭の胡人風。丈の長いコートのような上衣は左衽の打合せに見える。第1馬~第4馬には、画の後に馬の来歴、名前、体格等が簡潔に記されている。この馬は「右一匹元祐元年十二月十六日左麒麟院収于闐国進到鳳頭驄八歳五尺四寸」。元祐元年(1086)は北宋・哲宗の治世。シルクロードの于闐国(ホータン)からやって来たのだな。左麒麟院というのは北宋の皇家馬厩のひとつらしいが、よく分からない。

 第2馬・錦膊驄(きんぱくそう)は、吐蕃(チベット)系の董氈(とうせん)から献じられた。引手は痩身で、メキシカンハットみたいな帽子を被り、丸首の衿と合わせ目に赤を配した白い衣を着る。ちょっとマニ教を思い出したが違うかな。写真は東博の1089ブログ(2022/10/14)で見ることができる。

 第3馬・好頭赤(こうとうせき)は精悍な赤馬。秦馬、すなわち秦州(甘粛省天水一帯)の馬だという。引手は半裸・裸足で、手に円形のブラシを持っている。

 第4馬・照夜白(しょうやはく)は、吐蕃系の温渓心(おんけいしん)から献じられた白馬。まるまると肉付きがいい。引手の漢人風の男もやや小太り。

 第5馬は説明が欠落しているが、元時代・13世紀には馬名等の説明があったことが記録に残っているそうだ。毛並みの美しい斑馬(ぶちうま)で、名前は満川花(まんせんか)という。ということを、わざわざ書き足しているのは乾隆帝で、第5馬は李公鱗の筆でなく、後人の補筆ではないかと疑っているようだ。なお、引手は漢人風。

 いろいろ調べていて「馬政」(軍馬の調達、飼育等の政策)という言葉があることを知った。そして「唐代の馬政」「明代の馬政」「清代の馬政」については、ネットで参考文献を見つけたが、肝腎の宋代がない。曽我部静雄「宋代の馬政」(東北大学文学部研究年報10号、1959年?)、東一夫「馬政上より見たる北宋の西北辺経営」(史海6号、1959年)という論文があることは分かったのだが、本文は探せなかった。こういうの、もっとオープンにしてほしい。大室智人「明朝洪武帝期の琉球馬獲得とその背景」(東洋大学、アジア文化研究所年報54号)には、少し宋代の事情が書かれており、西北馬の調達が困難→軍馬不足→歩兵の大幅増員→軍事費増→国家財政圧迫を招いたという。ほんとかなと思いながら、おもしろい。

 あと、いまさらだが『五馬図巻』が中国文化圏でも非常に注目されており、さまざまな記事が書かれていることを知った。簡体字の記事も繁体字の記事もあり。

新浪收藏:传世名画李公麟《五马图》为何会流失日本(2019/1/18)

壹讀:宋畫第一!李公麟《五馬圖》高清全圖賞析(2019/1/23)

 なんというか、自国の文化を代表するような名品が海外の美術館・博物館にあるというのは嬉しくないものだが(日本美術についても経験あり)、1089ブログに「今後もさまざまな展示に登場していく予定です」とあるので、ご寛恕たまわりたい。中国や台湾での展示も実現するといいな。そのためには東アジアの平和が絶対に必要である。


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