見もの・読みもの日記

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ブロマンス古装劇?/シネマ歌舞伎・アテルイ

2024-02-17 23:30:15 | 行ったもの2(講演・公演)

〇シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』(東劇)

 2015年7月に新橋演舞場で上演された作品で、シネマ歌舞伎(映像作品)としての公開は2016年6月だという。ただし、いま調べて思い出したのだが、もとは2002年に劇団☆新感線が上演した舞台劇である。私は題材に興味があって、舞台劇のときも歌舞伎になったときも、見たいと思いながら果たせなかった。シネマ歌舞伎になってからも、上映予定ないかな~と、時々チェックしていたのだが、先日サイトを見たら、久々の上映が2/15(木)で終わっていた。え!?と慌てたが、幸い、東劇では上映延長になっていたので、さっそく見てきた。面白かった!!! 10年越し、いや20年越しの大願成就だが、実は、具体的にどんなストーリーなのかは全く調べていなかったので、新鮮な気持ちで見ることができた。

 京のみやこでは、蝦夷(えみし)を名乗る立烏帽子党が盗賊行為を働き、人々を苦しめていた。そこに現れたのは、本物の立烏帽子党の女首領・鈴鹿。彼らが偽者であることを見破り、問い詰める。彼らは、帝の側近である無碍随鏡の手下だった。彼らチンピラの処分を請け合ったのは、「みやこの虎」を名乗る若きサムライ・坂上田村麻呂。そこに居合わせたのは「北の狼」流れ者の蝦夷のアテルイ。アテルイは、かつて蝦夷の娘・鈴鹿と恋に落ち、山に迷い込んで、アラハバキの神の怒りに触れたため、名前も記憶も失って、みやこに流れついたのだった。しかし鈴鹿と巡り合い、名前と誇りを取り戻したアテルイは、故郷へ戻る決意を固める。

 一方、田村麻呂は征夷大将軍に任ぜられ、叔父の藤原稀継とともに東北へ赴く。温和な人格者に見えた稀継は、ひそかに田村麻呂を殺害し、その弔い合戦と称して全軍の士気を高めようと画策していた。稀継役は『鎌倉殿の13人』で覚えた坂東彌十郎さん。真っ黒い本性を現わしてからがすごくよかった。曹操とか似合いそうだな~。

 田村麻呂は舞台の奥に向かって崖落ち。この作品、まず衣装が全体的に中華ファンタジーふう(冒頭で出て来た立烏帽子党も錦衣衛みたい)である上に、田村麻呂とアテルイの関係が、どう見ても「ブロマンス」なのである。そこに「崖落ち」が来たので、にやにやしてしまった。これは生きているだろうと思ったら、案の定、田村麻呂は、鈴鹿という娘に助けられる。鈴鹿はかつてアラハバキの神の怒りに触れ、アテルイという青年から引き離されて、隠れ里でひっそり暮らしていた。ではあの立烏帽子は? そこに稀継の兵が踏み込み、鈴鹿は殺害される。

 田村麻呂は、蝦夷と帝軍の戦場に戻り、全軍の兵士に稀継の陰謀を暴露し、アテルイに和睦を勧める。正体を現した立烏帽子は、東北の大地の化身であるアラハバキの神で、アテルイに戦いの継続を迫るが、アテルイは和睦を選ぶ。しかし京に戻った稀継と、田村麻呂の姉・御霊御前は、田村麻呂の嘆願を聞き入れず、アテルイを死刑に処する。いったんは処刑場を逃れたアテルイだが、田村麻呂と剣を交え、その刃の下に倒れる。

 アテルイ(染五郎→幸四郎→現・松本白鸚)と田村麻呂(中村勘九郎)が、ともに青年の純粋さを体現していて、とにかくいいのだ。スピーディで切れ味のよい殺陣には惚れ惚れした。先だって、中国の春節晩会をネットで見ていて、こういう総合舞台芸術って、日本では見る機会がないなあと思っていたのだが、いやいや歌舞伎があったのを忘れていた。あと、パンクな髪型で蝦夷と帝軍を右往左往し、軽蔑と笑いを誘いながら、最後は見事な最期を遂げる蛮甲(バンコー、片岡亀蔵)も面白かった。妻のクマ子(クマの着ぐるみ)を演じていたのは誰w

 物語的にスゴイと思ったのは、アテルイが必死に会うことを望んだ帝の玉座がもぬけの空だったこと。御霊御前は平然と、見える人には見えるのです、とうそぶく。ドラマとしての面白さをとことん追求しながら、同時にかなり強烈な政治的メッセージも感じられる。2000年代の初頭だから作れた作品かなあ、とも思ったが、最近の演劇を知らないので間違っているかもしれない。

 あらためて、アテルイ、田村麻呂の伝説を調べていたら、鈴鹿山の女神である鈴鹿御前は、悪路王アテルイの妻とも、坂上田村麻呂の妻とも言われているのだな。鈴鹿山の立烏帽子という盗賊の話は『宝物集』にあり、『保元物語』にも登場する。アラハバキは、記紀神話には登場しない謎の神だという。本作では、大和朝廷と蝦夷を単純な善悪の構図とせず、蝦夷の神・アラハバキも、人間に理不尽を強いる存在として描かれているのもよかった。そういう深みもあるのだが、誰か日本発のブロマンス古装劇としてリメイクしてくれないかな…。


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