見もの・読みもの日記

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饒舌館長のベスト展(静嘉堂文庫美術館)ギャラリートークを聴く

2023-05-21 19:10:45 | 行ったもの(美術館・見仏)

〇世田谷区岡本・静嘉堂文庫美術館『河野館長の傘寿の祝:饒舌館長ベスト展』(2023年5月20日~5月28日)

 静嘉堂文庫美術館の河野元昭館長が、本年7月20日に80歳を迎え、また館長就任8年目にも当たることから企画された特別展。会場は懐かしい世田谷区岡本の美術館である。会期は8日間限定で、初日5月20日と最終日28日に河野館長のギャラリートークがあるというので、さっそく初日に行ってきた。

 二子玉川駅前で、14時からのギャラリートークにちょうど間に合うくらいのバスに乗ったら、「静嘉堂行きます?」と聞いて乗ってくるお客さんが続々といたので、これは人が多いぞと覚悟した。文字どおりのギャラリートークで、展示室内で河野先生が(マイクもなしに)喋るスタイルだったが、展示室内はぎっしり。100人くらい集まっていたのではないかと思う。お客の(主に)ご婦人方から「先生、マスクを外して」「もう少し大きな声で」など注文が飛んで、河野先生も大変そうだった。それでも饒舌館長の名に恥じず、途中休憩を挟みながら、狩野派→琳派→浮世絵→円山派→南画と多ジャンルにわたって喋り続け、最後は職員のお姉さんに「もう閉館時間です!(16時30分)」と止められていた。

 会場には安村敏信先生や玉蟲敏子先生が見えているという紹介もあった。おそらく他にも、美術館や美術史の関係者がお集りだったのだろうと思う。河野先生の「ベスト」であるが、30点ほど選んだあと、安村先生(静嘉堂文庫美術館副館長)が18点に絞ったという。その作品と、ギャラリートークから印象に残ったお話を(私の記憶の範囲で)メモしておく。

(1)『波濤水禽図屏風』狩野探幽
 探幽の真骨頂。この時期(探幽斎)の作品は特によい。探幽は江戸絵画の写生の系譜の出発点に位置づけられる。写生の修練が本画には活かされなかったという評もあるが、そんなことはない。古い時代の絵画は「イメージ」で描く。明治以降は西洋の「リアリズム」の強い影響を受ける。江戸絵画の魅力のひとつは「イメージ」と「写生」がバランスを保っている点。→板橋区立美術館の江戸狩野コレクションの素晴らしさにも言及(値段が安かったんだろう、とも)。

(2)『波図屏風』酒井抱一
 はじめに玉蟲先生を引っ張り出して、付属資料(注文主の手紙)から本作の制作年代を推定した最近の研究について喋らせる。メトロポリタン美術館(MET)の尾形光琳『波濤図』、フリーア美術館の俵屋宗達『松島図屏風』にも話題が及ぶ。門外不出と言われる『松島図屏風』、3回日本に来たことがあるとおっしゃっていた?(私はボストン美術館の光琳模写『松島図屏風』は見たことがある)

(3)『源氏物語関屋澪標屏風』俵屋宗達
 宗達の落款あり。土佐派の源氏物語絵に比べて革命的なのは、登場人物を自然の中に解き放ったこと。そして主人公は牛車で暗示されるだけでヒーローもヒロインも姿が描かれていない。なるほど!確かに新しい。速水御舟が、この絵の船に感激して「御舟」を号にしたというのも面白かった。すごくヘンな船なんだけど…。もとの所有者は醍醐寺で、廃仏毀釈などで苦労した際、岩崎家が支援したお礼に、どれでも欲しいものをと言われて、これを貰った。2019年にMETの源氏物語展に、これがないと源氏物語展が成立しないと請われて貸し出した。見に行ったら「あさきゆめみし」のほうに人が集まっていた。ここから脱線して、刀剣の展示に若い女性がたくさん集まった話も。

(4)『形見の駒図』宮川長春
 むかしは別の題名で知られていたが、近松の『世継曾我』挿絵に基づくものと分かった。早稲田大学図書館の蔵書目録WINEで版本の画像が見られることを紹介。これからは絵画の研究もネットの情報なしにはできないね、とおっしゃっていた。

(5)『江口君図』円山応挙
 応挙の写生はリアリズムではない。西洋のリアリズム絵画は投影法(キアロスクーロ)と遠近法(パースペクティブ)で成り立っている。応挙の絵には、そのどちらもないが、ある種の実在感がある。応挙の写生図のうち、我々が見ることができるのは清書したもの。1冊だけ清書前のふところ帳(写生雑録帖)が残っている。

(6)『玄宗楊貴妃一笛双弄図』渡辺南岳、賛:亀田鵬斎
 亀田鵬斎の漢文を超訳で紹介。河野先生、ときどき漢詩を中国音で暗唱して話に混ぜていた。

(7)『朝顔に猫図』原在明
 沈南蘋の猫を思い出すが、沈南蘋の猫は猛獣の面影があり、ちょっと怖い。この子たち(2匹)はすっかり愛される存在になっている。いや確かに可愛いな!ちょっとブサかわ系である。猫をテーマにした展覧会はお客さんが入る、という経験談も。ここまでで15時半を過ぎており、いったん「中休み」。その後も60~70人は残っていたと思う。

(8)『王維終南別業・輞川閒居図』池大雅
(9)『柳下渡渓図』与謝蕪村
(10)『重嶂飛泉図』木米
 年齢とともに南画が一番好きになってきた。南画は、江戸時代、大正時代とブームがあったが、今は人気がない。富岡鉄斎がまず賛を読めなどと言ったのがよくない。素直に絵の中の人の気持ちになって楽しんではどうか。大雅は早熟の天才。蕪村は大器晩成で、若い頃はうまくないが、晩年(死ぬまでの5年間?)がよい。この二人の次世代を代表するのが木米。この作品はサントリー美術館の木米展にも出陳した。

(11)『芸妓図(校書図)』渡辺崋山
 これは最高!という、ひとことで時間切れ。お疲れさまでした。

※お話が聞けなかった残りの作品は以下のとおり(これ以外に「友情出演」の工芸品もあり)。
・『朝暾曳馬図』英一蝶
・『住之江蒔絵硯箱』尾形光琳
・『色絵定家詠十二ヶ月花鳥図色絵皿』尾形乾山
・『軽挙館句藻』酒井抱一
・『絵手鑑』酒井抱一
・『雪月花三美人図』鈴木其一
・『四条河原遊楽図屏風』

 いやーやっぱり岡本の静嘉堂文庫はいいなあ。下界から隔絶された雰囲気が好き。2021年の移転の際は、もうここに来ることはないだろうと思って寂しかったが、今後も1年に1回くらい、展示イベントを開催してほしい。


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