〇全生庵 『谷中圓朝まつり 幽霊画展』(2023年8月1日~8月31日)
谷中の全生庵で、毎年8月に開催される幽霊画展に行ってきた。以前、一度来たことがあることは記憶に残っていたが、いま調べたら2016年の夏だった。そのときも暑かったのだろうが、今年の暑さは格別で、千駄木の駅から5分歩く間に身体の水分が干上がりそうだった。
本堂の石段の裏から入って、2階に上がる。展示室は、旧式の冷房がガンガンに効いていて涼しかった。個性的な幽霊画が多数並ぶが、伊藤晴雨の『怪談乳房榎』は、鬼気迫る、身の毛もよだつ恐ろしさ。滝壺の中で、髪を振り乱し、赤子を抱いてあらわれた幽霊。これ、男性なのだな。調べたら、妻を寝散られ、子どもを殺されかけた菱川重信という絵師だという。こわいこわい。
女性にも、こういう凄まじい幽霊があったかもしれないが、印象に残るのは、谷文一の『燭台と幽霊』とか鰭崎英朋の『蚊帳の前の幽霊』とか、存在と非存在の間(あわい)みたいな、はかない姿である。鏑木清方の『幽霊』は、うつむいて顔を全く見せずに茶を献ずる女性。渡辺省亭の『幽女図』も、もくもくと煙をあげる火鉢(反魂香のイメージ)を前に、顔をそむけ、袖で目元を覆った女性が描かれる。こうした「顔を見せない女性」も幽霊画のパターンだが、もし彼女が顔を見せたら…と想像すると、かなりドキドキする。あと、全く異なるタイプでは、歌川芳延の『海坊主』もかなり好き。
それから伝・円山応挙の『幽霊図』。やつれ気味で髪も乱れているが上品な美人図で、別に幽霊でなくてもいいのではないか、と感じた。作品の前に置いてあった解説に「応挙の幽霊図自体が幽霊のような存在なので、応挙真筆間違いなしを見たことがない」と、ずけずけ書いてあって、誰の文章?と思ったら、安村敏信先生らしかった。また「女性の面貌表現は、応挙美人図の代表格である『江口君図』のそれと共通する」という指摘もあった。実は、この日は丸の内の静嘉堂美術館で『江口君図』を見て、応挙の幽霊図(と言われる女性像)との共通性の指摘を読み、あ、全生庵に行かなくちゃ!と思い出して、こっちに回ってきたのである。なお、応挙ふうの女性の幽霊を恐ろしげに改変した筆者不詳の作品もあった。
せっかくなので帰りに円朝のお墓にお参りしていこうと思い、墓地に立ち入りかけたが、お墓参りの人がちらほらいたので遠慮しておいた。本堂の裏にあるらしいので、次回はぜひ。
これは受付でいただいた紙製の団扇。ステキ!!