見もの・読みもの日記

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早すぎた?実験小説/十三妹

2004-06-28 23:59:39 | 読んだもの(書籍)
○武田泰淳『十三妹(シイサンメイ)』(中公文庫) 2002.5

 たまには息抜きになる小説でも読もう。と思っていたら、たまたま書店で本書を見つけた。カバーには、ごつい弾弓と剣を腰に下げた凛々しい美少女が、ファンタジーマンガのタッチで描かれている。中高生をターゲットにするコバルト文庫の雰囲気だ。

 しかし実は中公文庫。しかも著者は大御所、武田泰淳...私はこのアンバランスに惹かれて、つい本書を買ってしまった。

 田中芳樹が解説に書いているとおり、本編は「日本人によって書かれた中国武侠小説の先駆」である。十三妹の登場する「児女英雄伝」のほか、「三侠五義」「儒林外史」の登場人物やエピソードを、原典の時代背景を無視して好きなように混ぜ合わせ、新しいストーリーを作っている。

 1960年代に朝日新聞に連載されたそうで、「私は小学生であったが、毎日ワクワクしながら読みすすみ、つづきを楽しみにしつつ切りぬいてはたいせつに箱にしまった」と田中芳樹は語っている。

 しかし、一般にはあまり好評を得なかったらしく、雄大な構想(だったらしい)は尻切れトンボで終わっている。著者も書いていて、だんだんつまらなくなってしまったのか、ヒロイン、ヒーローも精彩があるとは言い難い。

 1960年代半ばといえば、まだ日中国交回復の前のことだ。日本人の教養から、講談や歌舞伎、江戸の読み本などを通じての中国の大衆文藝の記憶が消え、新たな中国ブームには遠かった時代である。惜しまれる実験小説である。

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