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早く上流に行きたいとは思うのだが、前回の話のついでと言っては何だが、北上川の付け替え、分流事業について触れておきたい。
北上川は、旧北上川の河口から30キロほどのところ、(新)北上川では追波(おっぱ)湾からだと25キロほどの地点で分水(分流)されている(一関遊水地からは約50キロ下流)。石巻市街地を洪水から守る目的で、1911年(明治44年)から1934年(昭和9年)まで、なんと23年をかけて工事が行われた。
北上川の派川(川の本流が河口に出る前に分かれて海に注ぐ河川)でもあった追波川を利用することで、本川は東の追波湾へと流れを変えた。これまで登場した支川の迫川、江合川は分流地点から下流で旧北上川と合流し、石巻市街を流れ石巻湾に注ぐ。(写真上:追波湾に近い北上川河口と、石巻市街地を流れる旧北上川)
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しかし、川の分水(分流)計画となると、前回も少し触れたとおり先輩格の信濃川「大河津分水」の方が有名。比して、北上川の分流事業というのはあまり大きく取り上げられることがないものの(というより当たり前の事実として受け止められている?)、信濃川同様に関係者の労苦も多かったという。
新水路の開削時の地盤との戦い、柳津(現登米市津山)の住民移転のほかに、分流地点に設ける堰についても計画変更の連続。こちらは地盤が軟弱なことから堰の上に堤防を築くことは不可能として、堰の規模を縮小せざるを得なかった。
この堰が北側の鴇波(ときなみ)洗堰(写真上:手前が鴇波洗堰、奥は新設の鴇波水門)、加えて南側の比較的地盤のしっかりしたところに脇谷水門と脇谷閘門(写真下の二枚)を設置することとなった。つまり、旧北上川へは2本の分流口があるということになる。(なお、新しい北上川には9キロほど下流に「飯野川可動堰(現在は「北上大堰」を新設)」を設けて、分流の水位を調節する。)
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しかし、分流地点にあるこれらの堰も昭和初期の構造物で老朽化も激しい。平成に入ってから鴇波・脇谷の両水門を巨大な水門1基を新設して分流をカバーする計画が持ち上がった。
ところで、分水時に設計に携わった並川熊次郎(内務省技師)を知っているだろうか?大河津分水は青山士が携わったことで有名だが、並川の名前を聞いたのは私も初めてだった。この並川が鴇波洗堰を活かしながら、脇谷洗堰の設置を計画した人である。
分水開削時における並川熊次郎の偉業を称えるためにも、工事関係者や地元の方々は鴇波・脇谷の両水門、閘門を現状のまま残すことを選択し、それぞれの堰の上流に新たな水門を築いたのであった。
(鴇波・脇谷洗堰、脇谷閘門とともに、両水門の間にある「北上川河川歴史公園(写真下)」には、旧月浜第一水門(写真下の奥の構造物)なども移設展示、見出し写真の2つの洗堰を結ぶ締切堤を含めて、2004年「北上川分流施設群」として土木遺産に登録されている。)
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