それでは今年もさくっと1年を振り返ってみることにします。
かなり読み飛ばした気もしますが、面白い作品にいろいろ出会えました。積ん読も多いし、新刊も控えているので、正月休みの間にさくさく山を片付けていきましょう。
ファンタジー系作品がほとんどなく、SFといえば全集か創元・ハヤカワしかなかった学生時代を思うと夢のようです。
『瑠璃色にボケた日常』 伊達康
スタートは昨年末でしたが今年末に完結したので今年枠で。
お笑いに情熱を傾ける霊能力少女と、彼女に振り回される元・野球少年の物語。ボケとツッコミの会話が延々と続く話は多いのだけれど、これは元の話がしっかりしているので、笑いながらもジェットコースターみたいなストーリー展開を楽しめましたし、ちゃんと「お笑い」と「お祓い」の関係が描けているのもポイント高し。お約束通り、少年の周りにはさらに2人目、3人目の美少女が集まってきますが、いずれもその業界では知らぬ者がいない霊能力者であり、本業ではカミソリのような切れ味なのに、お笑いではボケ担当で、少年1人が必死でツッコむというのもポイントです。
『大きな音が聞こえるか』 坂木司
ただ漫然と日々をおくっていた少年が、一念発起してアマゾン河でのサーフィンに挑戦しようと思い立ち、そのための障害を1つ1つ克服しながら前に進んでいく成長譚で青春小説。バイト話だったり、旅行記だったり、アドベンチャーだったり、凄い話ではないけれど、面白い話でした。
高校くらいで読んでおきたい1冊です。
『まほうびんぼう』 伊藤螺子
町に起きる様々な怪事件からご近所のおばさんのお肌の手入れまで、片っ端から解決していく魔法少女ですが、変身しては分単位で料金を徴収され、魔法を使っては使用料を請求される、エコノミカルウィッチ・シルクちゃんの貧乏よろず屋稼業。
今では魔法少女ものは多くて、軽いコメディから陰鬱なサバイバル・アクションやミリタリーまで「魔法少女もの」だけではくくりきれなくなっているのが現状ですが、これは「貧乏魔法少女もの」の代表作。魔法の代償という意味ではQのやつが最低ですが、この話も負けてないと思います。
『鉄の魔道僧』 ケヴィン・ハーン
アリゾナの小さな町の本屋のあんちゃんが実は2000年ばかり生きてるドルイド僧で、アイリッシュ・ウルフハウンド犬を相棒に、防犯カメラを利用したり、DNA鑑定から逃れようと苦労したりしながらケルトの神々や魔女と戦うという、ファンタジー世界のオールスターなシリーズ開幕。
いろいろ怪しんで探りを入れてくる警察を、吸血鬼と狼男の弁護士軍団が迎え撃ち、自宅に帰ればあっちこっちの女神さまが色仕掛けで神々の紛争に介入させようとしてくるし、死体が出れば携帯電話でグールの処理業者を呼び寄せて……と、『ハイランダー』とか『ザ・キープ』あたりの作品だと不死身ゆえの苦悩みたいなものが色濃く出ているけれど、ここまで不老不死を達観して毎日を愉しんでいるとステキです。
『僕の学園生活はまだ始まったばかりだ』 岡本タクヤ
文武両道、野球から流しそうめんまですべてに万能だけれど、性格が悪くて友達がいなかった少年が、容姿端麗で見かけだけなら理想の女子高生なのだけれど、性格はクズな少女に強いられて、新たに部活を立ち上げて学園支配をめざしていく物語。マンガ化するなら島本和彦希望で、料理対決あり、密室殺人ありの学園アドベンチャー。
才能に死角のない主人公がイヤなやつになってしまったのは仕方が無いと共感……というか同情できないわけではないけれど、澄んだ瞳に濁った心のメインヒロインのクズぶりは最後まで終始一貫していてむしろすがすがしい。単独ヒロインなのにここまでゲスなキャラはなかなか見ないです。
『know』 野まど
IT化の大発展をもたらした教授が画策する新しい世界のデザインとは? 暗号解読の物語であり、失踪した天才の足取りを追う物語で、新しい世代による時代の変革を描いた物語であり、知ることとは生きることであることを教えてくれた作品。
ここ数年でめきめき頭角を現し、メディアワークス文庫からハヤカワ文庫や電撃文庫へと展開している野崎まどは、今いちばん押さえておきたい作家さん。メディアワークス文庫を一通り読み、最後に「2」を読んで打ちのめされ、それからハヤカワJAへと進んでポスト伊藤計劃はこの人しかいないとかなんとかむにゃむにゃ言いながら「野崎まど劇場」を読んでのたうち回るのがよろしい。
『ヴァンパイア・サマータイム』 石川博品
吸血鬼と人間が昼と夜で世界をシェアしている時代の日本が舞台の、青春ラブストーリー。ちょっと日常系ミステリっぽい導入部だったけれど、基本はボーイ・ミーツ・ガールの物語で、ファーストキスがやたら濃厚なあたりが吸血鬼っぽいかな。
吸血鬼が人間社会に紛れ込んでいる世界というのも、共存している世界というのもよくあるけれど、それを昼と夜をまたいだ作品として構成しているところが好きです。
『絶対城先輩の妖怪学講座』 峰守ひろかず
文学部4号館4階44番資料室に巣くう絶対城先輩は、傍若無人な妖怪博士。今日もユーレイを引き連れて詐欺で小銭を稼いだりしながらも、妖怪や幽霊の正体を暴いていく……。
こういう話って、実はみんな妖怪の仕業でしたとか、逆に実は人間の仕掛けたトリックでしたとか、どちらかに偏ることが多い気がするのだけれど、こちらは幽霊の正体見たり枯れ尾花もあれば、本当にソレとしか思えないものもあり、最後まで何が飛び出すか解らない連作ミステリ短編集。
『遙か凍土のカナン』 芝村裕吏
今回は日露戦争から始まる大陸浪漫活劇。『マージナル・オペレーション』を完結させて今年も絶好調。今回は、据え膳食わないダルタニャンという感じの主人公です。来年も期待できそうですね。
『この空のまもり』の感想で、「芝村作品もやっぱり最近流行のオタク万能な話ばかりでないの?」という人もいましたが、そんなことはないですね。むしろ、芝村作品の主人公に共通しているのは、どんな難問に対してもその問題を構成している要素を分割していくことで難易度を下げ、1つ1つ地道に解決していくという状況分析と判断を瞬間的にできてしまう点のような気がします。だから、主人公はたいして悩んでいるように見えないし、感情的に無思慮なこともしません。でも、論理的すぎて間というようにも見えないんですよね。
『ストライプ・ザ・パンツァー』 為三
純情美少女と心優しい宇宙生命体が共生し、互いのカルチャーギャップを1つ1つ克服しながら、行方不明の少女の兄の捜索、宇宙人の元のパートナーを殺害した犯人捜しに挑んでいく……という、クレメントの「20億の針」から始まった人間と異星人が共生する物語は、円谷のウルトラマン・シリーズを経て、ついにこんなところに着地してしまったのです。
でも、ハートフルなSFミステリというより、日本人にしか書けないバカSFですね。もう一歩踏み出したら変態仮面です……というか、パンツァーvs変態仮面という二次創作はアリだと思います。
今年の作品からあえて10作というとこんなところで順不同。次点で年末に出た『ウは宇宙ヤバイのウ』もおすすめ。
これ以外だと、人間不信の少女と人体模型の学園ミステリ『エーコと【トオル】と部活の時間。』、奇癖奇行の作家たちを相手に一歩も引かぬ辣腕の女性編集者は、やはり負けず劣らずの奇人でした……という『ふくわらい』、魔術が存在する世界でおバカなヒロインが活躍する西部劇『アリス・リローデッド』あたりが面白かったですね。ネット上で作者が騒動を引き起こしてしまいましたが、『生徒会探偵キリカ』も面白かったので、しっかり続きが刊行されることを願ってます。読者は作者が清廉潔白な聖人であることを求めているのではなく、作品が面白いかどうかだけなんです。
それではみなさん、良いお年を。
かなり読み飛ばした気もしますが、面白い作品にいろいろ出会えました。積ん読も多いし、新刊も控えているので、正月休みの間にさくさく山を片付けていきましょう。
ファンタジー系作品がほとんどなく、SFといえば全集か創元・ハヤカワしかなかった学生時代を思うと夢のようです。

スタートは昨年末でしたが今年末に完結したので今年枠で。
お笑いに情熱を傾ける霊能力少女と、彼女に振り回される元・野球少年の物語。ボケとツッコミの会話が延々と続く話は多いのだけれど、これは元の話がしっかりしているので、笑いながらもジェットコースターみたいなストーリー展開を楽しめましたし、ちゃんと「お笑い」と「お祓い」の関係が描けているのもポイント高し。お約束通り、少年の周りにはさらに2人目、3人目の美少女が集まってきますが、いずれもその業界では知らぬ者がいない霊能力者であり、本業ではカミソリのような切れ味なのに、お笑いではボケ担当で、少年1人が必死でツッコむというのもポイントです。

ただ漫然と日々をおくっていた少年が、一念発起してアマゾン河でのサーフィンに挑戦しようと思い立ち、そのための障害を1つ1つ克服しながら前に進んでいく成長譚で青春小説。バイト話だったり、旅行記だったり、アドベンチャーだったり、凄い話ではないけれど、面白い話でした。
高校くらいで読んでおきたい1冊です。

町に起きる様々な怪事件からご近所のおばさんのお肌の手入れまで、片っ端から解決していく魔法少女ですが、変身しては分単位で料金を徴収され、魔法を使っては使用料を請求される、エコノミカルウィッチ・シルクちゃんの貧乏よろず屋稼業。
今では魔法少女ものは多くて、軽いコメディから陰鬱なサバイバル・アクションやミリタリーまで「魔法少女もの」だけではくくりきれなくなっているのが現状ですが、これは「貧乏魔法少女もの」の代表作。魔法の代償という意味ではQのやつが最低ですが、この話も負けてないと思います。

アリゾナの小さな町の本屋のあんちゃんが実は2000年ばかり生きてるドルイド僧で、アイリッシュ・ウルフハウンド犬を相棒に、防犯カメラを利用したり、DNA鑑定から逃れようと苦労したりしながらケルトの神々や魔女と戦うという、ファンタジー世界のオールスターなシリーズ開幕。
いろいろ怪しんで探りを入れてくる警察を、吸血鬼と狼男の弁護士軍団が迎え撃ち、自宅に帰ればあっちこっちの女神さまが色仕掛けで神々の紛争に介入させようとしてくるし、死体が出れば携帯電話でグールの処理業者を呼び寄せて……と、『ハイランダー』とか『ザ・キープ』あたりの作品だと不死身ゆえの苦悩みたいなものが色濃く出ているけれど、ここまで不老不死を達観して毎日を愉しんでいるとステキです。

文武両道、野球から流しそうめんまですべてに万能だけれど、性格が悪くて友達がいなかった少年が、容姿端麗で見かけだけなら理想の女子高生なのだけれど、性格はクズな少女に強いられて、新たに部活を立ち上げて学園支配をめざしていく物語。マンガ化するなら島本和彦希望で、料理対決あり、密室殺人ありの学園アドベンチャー。
才能に死角のない主人公がイヤなやつになってしまったのは仕方が無いと共感……というか同情できないわけではないけれど、澄んだ瞳に濁った心のメインヒロインのクズぶりは最後まで終始一貫していてむしろすがすがしい。単独ヒロインなのにここまでゲスなキャラはなかなか見ないです。

IT化の大発展をもたらした教授が画策する新しい世界のデザインとは? 暗号解読の物語であり、失踪した天才の足取りを追う物語で、新しい世代による時代の変革を描いた物語であり、知ることとは生きることであることを教えてくれた作品。
ここ数年でめきめき頭角を現し、メディアワークス文庫からハヤカワ文庫や電撃文庫へと展開している野崎まどは、今いちばん押さえておきたい作家さん。メディアワークス文庫を一通り読み、最後に「2」を読んで打ちのめされ、それからハヤカワJAへと進んでポスト伊藤計劃はこの人しかいないとかなんとかむにゃむにゃ言いながら「野崎まど劇場」を読んでのたうち回るのがよろしい。

吸血鬼と人間が昼と夜で世界をシェアしている時代の日本が舞台の、青春ラブストーリー。ちょっと日常系ミステリっぽい導入部だったけれど、基本はボーイ・ミーツ・ガールの物語で、ファーストキスがやたら濃厚なあたりが吸血鬼っぽいかな。
吸血鬼が人間社会に紛れ込んでいる世界というのも、共存している世界というのもよくあるけれど、それを昼と夜をまたいだ作品として構成しているところが好きです。

文学部4号館4階44番資料室に巣くう絶対城先輩は、傍若無人な妖怪博士。今日もユーレイを引き連れて詐欺で小銭を稼いだりしながらも、妖怪や幽霊の正体を暴いていく……。
こういう話って、実はみんな妖怪の仕業でしたとか、逆に実は人間の仕掛けたトリックでしたとか、どちらかに偏ることが多い気がするのだけれど、こちらは幽霊の正体見たり枯れ尾花もあれば、本当にソレとしか思えないものもあり、最後まで何が飛び出すか解らない連作ミステリ短編集。

今回は日露戦争から始まる大陸浪漫活劇。『マージナル・オペレーション』を完結させて今年も絶好調。今回は、据え膳食わないダルタニャンという感じの主人公です。来年も期待できそうですね。
『この空のまもり』の感想で、「芝村作品もやっぱり最近流行のオタク万能な話ばかりでないの?」という人もいましたが、そんなことはないですね。むしろ、芝村作品の主人公に共通しているのは、どんな難問に対してもその問題を構成している要素を分割していくことで難易度を下げ、1つ1つ地道に解決していくという状況分析と判断を瞬間的にできてしまう点のような気がします。だから、主人公はたいして悩んでいるように見えないし、感情的に無思慮なこともしません。でも、論理的すぎて間というようにも見えないんですよね。

純情美少女と心優しい宇宙生命体が共生し、互いのカルチャーギャップを1つ1つ克服しながら、行方不明の少女の兄の捜索、宇宙人の元のパートナーを殺害した犯人捜しに挑んでいく……という、クレメントの「20億の針」から始まった人間と異星人が共生する物語は、円谷のウルトラマン・シリーズを経て、ついにこんなところに着地してしまったのです。
でも、ハートフルなSFミステリというより、日本人にしか書けないバカSFですね。もう一歩踏み出したら変態仮面です……というか、パンツァーvs変態仮面という二次創作はアリだと思います。
今年の作品からあえて10作というとこんなところで順不同。次点で年末に出た『ウは宇宙ヤバイのウ』もおすすめ。
これ以外だと、人間不信の少女と人体模型の学園ミステリ『エーコと【トオル】と部活の時間。』、奇癖奇行の作家たちを相手に一歩も引かぬ辣腕の女性編集者は、やはり負けず劣らずの奇人でした……という『ふくわらい』、魔術が存在する世界でおバカなヒロインが活躍する西部劇『アリス・リローデッド』あたりが面白かったですね。ネット上で作者が騒動を引き起こしてしまいましたが、『生徒会探偵キリカ』も面白かったので、しっかり続きが刊行されることを願ってます。読者は作者が清廉潔白な聖人であることを求めているのではなく、作品が面白いかどうかだけなんです。
それではみなさん、良いお年を。