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昔、『巨神ゴーグ』というサンライズのアニメがあって、それは多国籍企業の陰謀によって地図から存在を消去されたサモア諸島東南の孤島を舞台にした冒険SFだったのだけれど、そのとき疑問に思ったのは、島1つどれだけ簡単に消せるのだろうかということ。
それがこの本を読むと、なんか考えるだけバカらしくなってくるのです。
大航海時代、世界の大海原に乗り出した欧州の航海者たちは、7つの海を渡って金銀財宝やら交易で大儲けできる商材を求め、新たな植民地を求め、やがて鯨油目当てで大西洋のクジラをあらかた殺し尽くして日本近海にまで到来し……となるわけですが、正確な位置を観測することが困難な時代です。天測から六分儀へと道具は進歩しても誤差は出ます。船乗りたちの見間違いはもちろん、地図作成や記録の段階で東西を逆に書き写すことも茶飯事。明神礁に限らず、できた島があっと言う間に沈むことだってあります。
存在しない島が「ある」と記録されたり、1つの島が別々の座標に記録され、それぞれに名前が付けられ、ごっちゃになったり……、ちゃんと足を地に着けて確認できる陸地だって境界線で揉めるのですから、海の上ならなおさらです。それもそんなに大昔の話ではないというところがポイント。
存在していたはずのロス・ジャルディン諸島が、やっぱり存在してなかったと地図から正式に削除されたのは1972年。1907年に発見され上陸して測量までして、第二次大戦での敗戦後にGHQから「日本領の範囲」について出された訓令にも名前が挙げられたのに、やっぱり存在していなくて、それが公式に認められたのは1998年の参院総務委員会で……という中ノ鳥島って、どうなのさ?
そりゃあ、竹島だとか尖閣諸島だとか、日本ですら領土をめぐる他国とのいざこざのタネがつきないのも当然です
この本は、そうした地図上に一度は存在したけれど、やがて実在しないことが判明した島々の誕生から消滅までの経緯を、江戸時代から明治維新後にかけての日本領の拡大と、それに便乗して一攫千金を夢見る冒険家というか冒険商人というか、やってることをみれば単なるヤマ師でしかなかった人々の姿を通じて描いていくもの。
記録の積み上げで書かれているので読み物としての面白みには欠けるし、だいたいにおいて孤島の開拓によって成功したケースというのはアホウドリやアザラシを撲殺して羽毛や毛皮を欧米に売り飛ばしたというものなのでトホホ感も満載。
「アホウドリが減った。このままではタイヘンだ。理由を調べろ」
「殺しすぎです。このままでは絶滅します」
わざわざ理由を学者に調べさせて、殺しすぎと理由が分かって、なお止まらない欲の皮。今も昔も。まったく。
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