付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「八犬伝(下)」 山田風太郎

2024-12-16 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「私は、正義は虚であっても、それをつらぬいて一生を終えれば、その人の人生は実となる。決して虚とはならん、と信じております」
 鶴屋南北の言葉に揺れ動く馬琴に、渡辺崋山は偽善でも善は善と訴えた。

 病弱だった息子の宗伯は早世し、馬琴は四谷へと引っ越ししていた。御家人株つきで古家が売り出されていたのだ。いずれ孫が成年に達した時に鉄砲同心の職を得られるかもしれないというのである。しかし、そのために蔵書を全て売り払い、長年嫌っていた金集めの書画会も開いた。
 そうして得たあばら屋で、馬琴は八犬伝の最終章の執筆を開始。しかし、そのときには彼の目はほとんど見えなくなっていた……。

 荒唐無稽であればあるほど人は面白がるが、一歩誤れば馬鹿馬鹿しさに失笑されてしまう。この紙一重が創作者の腕の見せ所ですが、晩年になって馬琴の筆は少しずつ衰え始め、設定などにも覚え違いが見られ始めます。現実と虚構のはざまを行き来する山田風太郎版「八犬傳」もこれにて幕。まさに栄枯盛衰。
 映画を観て、馬琴版と山田風太郎版と映画版でどう違うか比較読みもこれにてお仕舞い。端折りつつも映画は馬琴パートを概ねそのまま描いていますが、虚構パートはかなりエンターテイメント寄りに改変してます。そもそも馬琴は扇谷定正は失脚しても殺されるとは書いてないし、狸とか猫とか出番はなかったし。

【八犬伝(下)】【山田風太郎】【滝沢馬琴】【せがわまさき】【角川文庫】
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「八犬伝(上)」 山田風太郎

2024-12-15 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「だいたい絵入りの読物なら、絵は作者と同等だよ」
 前作「椿説弓張月」のとき、北斎は馬琴の指定に従わず、話にないものまで描き込んだが、「さし絵は作者のそえものではない」と開き直った。

 曲亭馬琴は訪問した葛飾北斎に、構想中の次回作の冒頭あらすじを語って聞かせた。南総里見家の姫に懸想する犬が敵将の首を取り、褒美に姫を妻として山に連れ去るところから始まる伝奇小説で、その姫の死によって全土に飛び散った儒教における八種の徳、仁義礼智忠信孝悌いずれかの文字が浮き出る珠を手にした若者たちが、紆余曲折の果てに巡り会う大河絵巻だ。
 話を聞いて面白いという北斎だったが、挿絵を描いて欲しいという頼みだけは頑として引き受けなかった……。

 滝沢馬琴の『南総八犬伝』の執筆風景を、その物語の概要や見せ場を再話する「虚」のパートと、馬琴と北斎、馬琴を取り巻く人々との関わりを描く「実」パートの二部構成で語る、「虚」と「実」の物語。『シン・ゴジラ』は「現実 対 虚構」だったけれど、こちらは「虚実はあざなえる縄のごとし」かな。

【八犬伝(上)】【山田風太郎】【滝沢馬琴】【せがわまさき】【角川文庫】
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「短物語」 西尾維新

2024-10-17 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「女の子は太ったりなんかしないわ。ええ、女の子は増えるのよ」
 甘いものを食べすぎて体重が5キロ増えた戦場ヶ原ひたぎは、太ったのではなく増えたと考えろと主張した。

 妹たちに彼女となった戦場ヶ原ひたぎを紹介することにした暦だったが、予想に反して火憐も月火も激怒した。
「てめぇお兄ちゃん、彼女がいた癖に、私のファーストキッスを奪ったのか?」
「性行為だったらあたしにすればいいじゃん!」
 そんな家にひたぎを連れて行くのに戦々恐々であった……。

 Blu-rayの特典とかムックのおまけなどで書かれた、短編にもならない短々編ばかり39篇を集めた物語集。ひたぎと暦が落ち合って家に行くまでの会話劇とか神原駿河とひたぎの出会いとか、日々のスケッチだったり余談や挿話だったりあれこれです。本編で描かれなかった裏側の動きもあれば、阿良々木兄妹の感覚の狂いっぷりが描かれる日常編まで内容はさまざま。
 そして、羽川だったらなんとかしてくれるという信頼が重いなー。

【短物語~イクサモノガタリ】【物語シリーズ・オフ&モンスターシーズン】【西尾維新】【VOFAN】【講談社BOX】【未来過去、語り遭えるのが青春だ】【赤毛のアン】【青い城】【カラオケ】【断髪式】【ジキル博士とハイド氏】【ロボット三原則】【ディアスボラ】【最底辺の都落ち】【グッドスマイルカンパニー】【華氏451度】【赤い館の秘密】【モモ】【スナーク狩り】【たったひとつの冴えたやり方】【ジャングルの国のアリス】【80日間世界一周】【歯医者】【美容師】【例外のほうが多い規則】
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「オカ研はきょうも不謹慎! 」 福澤徹三

2024-08-31 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「怪談は科学的に検証できない場合がほとんどだ。でも怪談は事実かどうかよりも、怖さやおもしろさに価値があると思う」
 オカルト研究会の会長、万骨伊織はそう語った。

 三流大学の冥國大学の文学部に入学した多聞蒼太郎は、さっそく胡散臭いサークルの勧誘に引っかかった。非公認サークル「オカルト研究会」。オカルトには興味がなかったが、同じ新入生の文月麻莉奈が入ったと聞いて、断る機会を逸したのだ。
 サークルの定例会で怖い話を聞かされているうちはまだ良かったが、バイト先の居酒屋店長に紹介してもらった事故物件の一軒家をサークルで訪問して以来、怪異が頻発。ついには麻莉奈が謎の失踪を遂げてしまう……。

 三流大学の弱小サークルを舞台にしたオカルトもしくはミステリ小説。作者はホラーから警察小説まで手の内が広いので、どちらに転ぶか最後まで分かりません。死者が頻発する屋敷の怪、姿のない訪問者と濡れた玄関前通路、崩される盛り塩、客の数を数え損なう居酒屋……。
 このオカルト現象は科学で解明できるのか、それとも本格に超常現象なのか、この話はミステリなのかホラーなのか、最後まで学生たちがゆらゆらふらふらするサークル小説ですが、一方でこれはコロナ禍で育った若者の青春小説とも読めます。コロナ禍で修学旅行はなかったし、部活もろくになかったし、同世代の男女となにかわいわいやる経験の無いまま大学まで来てしまった青年の、最後の学生生活の物語みたいに。

【オカ研はきょうも不謹慎! 】【福澤徹三】【桜田佳代子】【PHP文芸文庫】【息苦しい日常を解き放つ青春ホラーミステリー】【シュレディンガーの猫】【ストーカー】【監視カメラ】【盗聴器】【古井戸】【UFO】【炎上動画】
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「腕を失くした璃々栖」 明治サブ

2024-08-22 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 明治36年11月1日、神戸外国人居留地での任務中に致命傷を負った悪魔祓師の皆無は、天使とすら見紛う少女に取引を持ちかけられた。「人の子よ、そなたに第二の心臓を呉れてやろう。その代わり--予と煉獄の先の覇道へ、ともに征こうぞ」と。
 しかし、彼女は天使などではなかった。「七つの大罪」に名を連ねる悪魔・璃々栖。悪魔の力と引換えに一蓮托生の命となった皆無は、それでも戦い続けるのだが……。

「俺はお前の盾であり剣や。俺の命は、お前のためにある。俺はお前のために、死ぬ」

 悪魔や怪異との戦いを経ての明治維新に到達した、もう1つの歴史を辿った明治の神戸を舞台に繰り広げられる、悪魔と悪魔祓師が敵味方に入り乱れての戦いの顛末です。誰が敵か味方か、最後まで分かりません。もっぱら悪魔の世界の勢力争いの巻き添えを食った……という感じかな。
 話は面白いけど、明治の物語っぽく地名や人名やアイテム名が漢字熟語だらけで、さらにそれに阿栖魔台(アスモデウス)とか大印章世界(グランシジル・レ・モンド)とかルビがつくので、老眼には読みづらいです。メガネ交換しました。

【腕を失くした璃々栖~明治悪魔祓師異譚~】【明治サブ】【くろぎり】【スニーカー文庫】【MAILER DAEMON】【吉野家】【神戸港結界】【十三聖人】【八百比丘尼】
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「浅倉さん、怪異です!」 植原翠

2024-07-12 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「あ、面倒くさっ! 命に関わる災害が起きてるのに、まず狩りに行くまでの工程が長い!」
 怪異出現の報告を受けた時からの段取り説明を受けて小鳥遊は頭を抱えた。でも、それくらい慎重にならないと狩る方が危険なのだ。

 日本で発生する年間行方不明者は約8万人。そしてその中の何割かは怪異に喰われているという。
 それ以前から存在していたらしいが、あの疫病の蔓延以降、一気に報告例が増加した。獣や虫の死骸を核に人の澱んだ思いが取り憑き怪異となる。そしてそれはより存在を強固なものとするために、人の姿を取って人間に接近してくるのだ。
 大学生の小鳥遊は、山中に足を踏み入れていく県庁職員の浅倉に声をかけたことからその特殊能力が露見。新型特例災害対策室ことシンレイ対策室の新メンバーとして半ば無理矢理に加入させられるのだが、あくまで一般人の女子大生。怪異の気配を察知することはできてもそれだけで、たびたび怪異に遭遇してはなにもできなくなっては喰われそうになるのだ……。

 野鳥たちの警告を手がかりに怪異に挑む、怪異討伐公務員と民間人バディのホラーミステリ。
 うん。子供はダメだよ、子供は。

 怪異が存在するものと行政が認識して対処を始めているものの、明確に一般公開できる段階になるため官公庁の対策室が場当たり的に対処している現状の物語。へたに公表してもバカにして指示に従わなくて近づいていって喰われそうなのが多いよねーというのが理由。なんか納得。

【浅倉さん、怪異です!~県庁シンレイ対策室・鳥の調査員】【植原翠】【ながべ】【角川文庫】【怪異アクション&ファンタジー&ホラー&ミステリー】【青春ミステリファンタジー】【怪異アクション&青春&ファンタジー】【ウミヘビ】【カモシカ】【スズメ】【クマネズミ】【チャドクガ】
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「凡人転生の努力無双」 シクラメン

2024-05-16 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 裕福ではないけれど貧乏に苦しんだこともなく、大学を出て就職して、でも趣味と言える趣味もなければ恋人もいない。自分の人生には何もない「つまらないスタンプラリー」と評していた男が、突然通り魔に刺されて死んだ……と思えば赤ん坊になっていた。
 また現代日本に転生したらしいが、この日本には人を襲うモンスター《魔》が存在しており、赤ん坊のイオリはそれを退治する《祓魔師》の一族らしいことが分かってくるのだが、漏れ聞く話からするに多くの子供は3歳になる前に死んでしまうらしい。どうしてそんなことがと思っているうちに、激しい熱と痛みがイオリを襲った。体内の魔力が器からあふれて暴走する『魔喰い』だ。かろうじて1回目の魔喰いは凌いだが、これは身体が成長するまで何度も襲うという。
 死ぬのはイヤだし、赤ん坊の身体でも意識は大人。なんとか魔力を制御しようとあれやこれや試していたのだが……。

 《魔》に狙われて殺されないよう、強くなろう。せっかく2度目の人生なんだから、努力して強くなってみよう。殺られる前に殺ってやろうと頑張る少年が、努力しすぎて歴史に残るレベルの逸材の卵になってしまう現代伝奇アクション。
 陰陽師が魔と戦う現代日本に転生する話と言えば、この話が連載するちょうど1年前にスタートした『現代陰陽師は転生リードで無双する』がありますが、このまま現代日本転生陰陽師というジャンルができるかと思いきや、続く作品は未書籍化も含めて片手で足りるくらい。「現代日本」に「転生」し直して「陰陽師」になるって意外に少ないのだ。転生してないけどとか異世界で……というならポンッと増えるけど。

【凡人転生の努力無双~赤ちゃんの頃から努力してたらいつのまにか日本の未来を背負ってました~】【シクラメン】【夕薙】【電撃文庫】【規格外の力で魔をことごとく打ち倒す、努力無双ファンタジー】【幼年期】【カクヨム】【七五三】【雷公童子】
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「あらごと、わごと」 武内涼

2024-05-14 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「あんたがいいと思った道は、きっと素敵な明日につながる道だよ。どちらであっても」
 あらごとは自分の人生の選択に迷う蕨の顔を手にはさんでそう語った。

 平安中期、巨大怪獣によって村を失い、仲の良かった妹とも生き別れになった少女あらごとは、常陸国で荘園の下女としてこき使われていた。その日々の生活は苦しく、労働は辛く、そして下人下女が人狼の餌にされていた……。

 下女の少女あらごとがサイキックの異能に目覚め、大豪族である源護邸で起きた騒動に巻き込まれ、やがて呪師として覚醒して行くであろう物語。あらごとを主人公とする東国の騒乱(平将門の乱)と、都を舞台に女流歌人に仕えることになったわごとを主役の怪異譚の二本立てで話が進みます。
 かなり厚めの本だけれど、まだ双子の妹わごととも再会してないし、異能の制御も不安定だし、まだ序も序です。やっと連絡が取れるようになったところ。

【あらごと、わごと~呪師開眼】【武内涼】【木野花ヒランコ】【徳間文庫】【平安の闇に双子少女の呪師の力が覚醒する!】【大藪春彦賞作家が放つダークファンタジー巨篇】【平将門】
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「不可逆怪異をあなたと」 古宮九時

2024-01-26 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 都市レベルでの人間消失が多発する日本。その中でも『床辻市に住むと、早死にする』と噂されるほど、この地方都市には数多の禁忌と怪異が蠢いている。ここ最近では、ある朝、大量の血だけを残して全校生徒が消失した『血汐事件』が記憶に新しい。その学校の生徒である青己蒼汰は、偶然にも遅刻したことで間一髪で難を逃れたが、代わりに「兄が大変なことに」というニセ電話で学校に呼び出された妹が犠牲になっている。
 血の海となった教室で、生首だけになってなお生きている妹の花乃を見つけた蒼汰は、彼女を持ち出して自宅に匿うと、隠された彼女の身体を探すべく怪異に満ちた街の夜へと足を踏み入れた。

 盗まれた妹の身体を取り戻すべく、借り受けた呪刀を携えて床辻市内の怪異を狩って回る少年の闘争録。どろろと百鬼丸と似てるかなぁと思ったこともあるけれど、こちらの怪異はやられても身体の部位は落としていかないのだ。情報も残さないハズレくじが多すぎ。むしろ、首だけの妹を自宅に匿いながら面倒を見るというあたりは、むしろ育成ゲーム「Tomak」。
 そして、そんな彼の前に現れるのは、敵か味方か、『迷い家』の主人と名乗る謎の少女、一妃。敵か味方か、人かあやかしか?という緊迫感のある関係の中、怪異殺しは続きます。
 それまで普通の高校生だった蒼汰に武器を供給するマスターとか、サポート側の設定も魅力的です。こういうキャラは好き。

【不可逆怪異をあなたと~床辻奇譚】【古宮九時】【二色こぺ】【電撃文庫】
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「現代陰陽師は転生リードで無双する3」 爪隠し

2024-01-20 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「命大事に」
 御剣家の訓練は厳しいが、それも戦いで命を落とさないためのもの。
 ゲームと違って回復魔法なんて存在しないし、陰陽師界隈は人口減少で人材発掘は困難。人材育成に手間と予算がかかるのは当然で、殉職などもってのほかなのだ。

 峡部聖もついに小学生。前世では数少ない友人にも先立たれてしまっていたので、今世では年とってからも思い出話の相手に困らないくらいには(上辺だけの)友人も増やそうと決意している。
 そんな聖が活躍するのは運動会。身体強化しても大人から見たらかわいいものだが、徒競走やリレー競技で同級生に大差をつけて勝つとなったら親の見る目も変わってくる。これなら大丈夫だろうと、夏休みに武家見学ということで御剣家の合宿に連れて行かれるが、これが単なる見学ではなく、しっかり苛烈な修行に参加させられていた……。

 並の陰陽師や武士だけでは倒せない妖怪の出現時に投入される、精鋭中の精鋭の訓練所に放り込まれた小学生が味わう一夏の経験。
 ウェブ版で読んでいたとは、主人公はそこそこいい歳で病気で亡くなったんだなあくらいに思っていましたが、シニア婚活とか子育てを終えた親友たちもすぐに旅だったとか、書籍版の書き足しのあれこれを読んでいるとけっこうお年寄りだったのでは……という気がします。身体は子供、頭脳は老人。

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「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」 原作:水木しげる

2023-12-15 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「世界は半分隠して見る程度がちょうどいい」
 世の中の全部を見ようとしてもいいことはないとゲゲ郎。

 昭和31年、政財界を牛耳っていた龍賀一族の当主、龍賀時貞が死去。帝国血液銀行で龍賀一族の経営する製薬会社「龍賀製薬」を担当する水木は、次の当主とのコネを強化するために龍賀一族が暮らす哭倉村へと向かったが、同時に龍賀製薬が製法の秘密を握る血液製剤「M」の秘密も探るよう命じられていた。
 その水木は、夜行列車の車中で老人のような髪の青年から「おぬし死相が出ておるぞ」と告げられるのだが……。

「ツケは払わねえとなあ!」」

 最近「これ、マルチバースだよね」と囁かれている、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の第6期の前日譚で、「墓場の鬼太郎」の冒頭につながる物語です。山奥にある古くからの因習に縛られた村を舞台に、当主の死による財閥後継者を巡る争い、そして発生する凄惨な連続殺人事件。都会に憧れながらも旧家に縛られる少年少女、行方不明の妻を探す謎の青年と、これぞ正しき伝奇ミステリ。そしてやがて妖怪や幽霊が出現して妖怪ファンタジーの要素が加わり、一気にクライマックスの怒濤の展開へとなだれ込みます。
 これで村を訪れたのが功名心に流行った兵隊上がりの青年ではなく、考古学者の稗田先生とか、民俗学者の宗像教授だったらどうにかなったのかなあと思わないでも無いけれど……無理だろうなあ……。

 誰もが当たり前にタバコを吸い、気軽に吸い殻を投げ捨てる、すっげー昭和感満載の和風伝奇ファンタジーで、戦争の疵痕を引きずる戦後の物語という意味で『ゴジラ-1.0』と好一対(理不尽に死ねという命令から生き残った男が、あらためて死に直面してどう行動するか?)。変に説教臭い演説はないけど、南方での理不尽な兵隊たちの死がカットバックで入る分、物語の流れはこちらの方がスムーズ。あと、要所で映り込む「赤い衣装を着たお人形」の持ち主の運命が気になります。あと、「ある謎の少年」! おまえ、そんなやつじゃなかったろう?
 そして劇中でされる「約束」は、「必ずかなえられる約束」と「叶わない約束」のどちらかなんだけど、どっちかなあと思っていて、ああっ!?……てなりました。

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「妖魔淫獣」 菊地秀行

2023-11-19 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「100年の知恵は20年の叡智に勝る」
 アドルフ・ヒトラーは淫藤宗光に己の優位を宣言した。

 魔人A・ヒトラーを憑依させた魔道士淫藤宗光が帰国した。自分が高みに至るために必要な試練と認めていた工藤明彦との決着をつけるためだ。
 魔境青木ケ原樹海で、最終戦争を招く邪悪な計画の成否を賭けて、念法の達人と魔人の戦いが始まる……。

 妖魔シリーズ完結編と言いつつ、その後も『妖魔淫殿』以下シリーズは続いて、気がつけば30作近くなっちゃってますが、この三部作は別格かな。日比谷公園でのヒトラー/宗光へのナチハンター&自衛隊の襲撃から、大都市壊滅までエロとグロとオカルトがみっちり詰まったバイオレンスなアドベンチャーです。
 このシリーズの肝は悲劇のヒロイン、南風さんなのです。妖魔と妖怪と超人が誰も彼もが敵ばかりという状況で戦い続ける話なので、ヒロインには可愛さとか健気さとかとは別に、最低限でも戦える能力と主人公の危険な旅に(主人公が断っても)同行する理由が必要なのです。そういう意味で、主人公と離れると狂って妖魔化してしまう、妖魔になりつつあるので力が人間離れしている(禰豆子さんみたいな)彼女にうってつけのポジション。たった3週間の夫婦生活。彼女が幸せになったときが、この話の終わるときなのでしょうけれど。

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「妖魔軍団」 菊地秀行

2023-11-18 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「おまえもガンダム・ファンか。アニメの原画なんかかっぱらうんじゃないぞ」

 父親である龍雲を弑逆してその力を継承した淫藤宗光は、工藤明彦との戦いに敗北した後、南米に飛びボルマン老人より1冊の書物を受け取るとトランシルヴァニアの山中へと向かった。そこで宗光は蘇ったアドルフ・ヒトラーをその身に宿すが、どちらがこの肉体を支配するかは、工藤との決着を着けるまでお預けとなる。
 一方その頃、工藤明彦は妖魔招喚の地を叩きつぶすため、日本各地を飛び回っていた。それを阻止せんと公安部超常部隊が動き出す。自衛隊のシークレット・コマンドは肉体能力の強化だけだったが、超常部隊はESPのチームだ。工藤とコマンドとの攻防は六甲山、瀬戸内海・四漁島、そして阿蘇山。工藤たちの前にトランシルヴァニアより淫藤宗光/ヒトラーによって送り込まれた西洋妖怪軍団が姿を現し、三つ巴の戦いが繰り広げられるのだが……。

 木刀でモンスターバタリオンと戦う、西川のりお似の主人公が戦う伝奇バイオレンスアクションの第2弾です。忍法帖の如くラストバタリオンと自衛隊の超能力者部隊がぶつかり合う争いに真っ向から切り込む木刀男と人外になりつつあるヒロインという胸ワクワクの展開です。あらすじだと「四つどもえ」とか書いてありますけど、実質、工藤・自衛隊(九龍一尉、陣内三尉、貝原三尉、別当家三尉、式船二尉)・怪物軍団(ライマン、ゲーレン、ブルーノ、ピーター、ローレン)のバトルロイヤルです。
 そして今回は出番がないのかと途中までは思われていた、主人公に救われたものの妖魔に陵辱された影響で自らも鬼女のごとく変貌しつつあり、念の力で押さえられてはいるものの何かと暴走状態となってしまう「南風さん」こと南風ひとみの運命やいかに?!

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「妖魔戦線」 菊地秀行

2023-11-17 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「--死に方にもいろいろある。醜い死、苦痛にまみれた死……だが、人間は人間の死に方をするべきだ」
 インドから三星老人の護衛に呼ばれた念法使い、黒の右近は雇い主のやり方には納得していない。

 大蔵省主計課の官僚、工藤明彦は同僚らに祝われながら、婚約者の水街理恵と結婚指輪受け取りの待ち合わせに向かうのだが、一目会うなり彼女がもうこの世のものでないことを知った。おぞましい妖魔ゾワンが彼女の生皮を被ってなりすましていたのだ。
 ゾワンは工藤をも喰らおうと襲い掛かるが、平凡な公務員・工藤明彦こそ、念法を駆使する武の達人であった。工藤は婚約者の仇討ちのため、すべてを投げ捨てて幾多の妖魔との戦いに、恐怖と汚怪渦巻く修羅の世界に身を投じた。目指すは伊豆半島、淫藤流黒魔術の拠点、淫藤龍雲の邸宅である……。

 死の商人と防衛庁が黒魔術とエレクトロニクスの力で呼び出した、通常兵器や武術では刃が立たない異界の魔物たちに、念法で立ち向かう青年の物語。あの手この手で襲いかかる妖魔を念のこもった木刀で倒しながら旅をするという、山田風太郎の忍法帖などのパターンを踏襲してます。立ちはだかるのは街の暴力団、ゾワン、ヤキ、ケノンの3体の悪魔、防衛庁科学班の生み出した超人部隊シークレット・コマンド……。
 ソノラマ文庫を中心にジュブナイル分野で、ちょっとエッチでグロテスクなところもあるSFアクションやファンタジーを書いてきた著者が、アダルト向けに展開し始めた時期の初期代表作です。このシリーズと魔界都市シリーズ、妖獣都市シリーズの3本柱でしたが、『魔界都市新宿』の十六夜京也が使っていた念法の使い手を主人公とした、タガの外れた嗜虐的なエロ・グロ・バイオレンス満載のシリーズとなりました。

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「すずめの戸締まり」 原作・脚本・監督:新海誠

2023-10-25 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 『すずめの戸締まり』のBlu-rayが出るというんで予約して買いましたよ。特典が特報と新海誠作品の予告編集だけの通常版でしたけど。

 やはり、劇場で観ておいて正解! 自宅の居間のテレビがいかに立派でスピーカーから良い音が流れようと、劇場での没入感と迫力に及ばないのは当然ですよね。
 震災後、コロナ禍までの日本を切り取った映像は美しいですが、夫婦で「芹澤君、不憫……」「おばさん、幸せになって」とかわいそがってました。あと、家族揃って希望するのは、全盛期の羊朗さんの「お返し申す!」を松本白鸚の声で聞きたいよねーということでした。聴きたくない?

【すずめの戸締まり Blu-ray】【新海誠】【田中将賀】【東宝】【コミックス・ウェーブ・フィルム】【行ってきます。】【扉の向こうには、すべての時間があったー】【土屋堅一】【RADWIMPS】【陣内一真】【廃墟】【後ろ戸】
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