今年も読んで愉しい小説がいっぱい。公私ともに忙しく、積ん読の山が高くなる一方ですが、そんな中からとりあえず読めたものからの年間ベスト。記憶の残滓にまた1冊。
『一般人遠方より帰る。また働かねば!』 勇寛
そこそこ稼いでほどほどに幸せな生活をしたいだけの異世界帰りの男が、いろんな事件に巻き込まれていくうちに雪だるま式に話が大きくなって、いつの間にか警察に追われたり政府に警戒されたり、果ては超能力やら魔術を使うような秘密結社だか犯罪組織の抗争に巻き込まれ、東西奔走しないといけなくなる苦労譚。
あくまで静かに生活したいだけの主人公に対して、勝手に盛り上がっていく支援者たちの熱狂とのギャップが泣かせます。
『辺境下級貴族の逆転ライフ』 漂月
貴族の庶子として生まれたものの嫡子の弟や妹が大好きで、弟や妹もおにいちゃん大好き……という文武両道のオネエ言葉の主人公が、同じく庶子のリン王女を助けてゲスな王侯貴族と戦ううちに、このまま国盗りしちゃった方が簡単でない?と気づいてしまい、前世知識やら母から教えられた魔女の秘術で蹂躙していく話。
『勇者になれなかった三馬鹿トリオは、今日も男飯を拵える。』 くろぬか
またしても世界の危機でも無いのに異世界から勇者召喚する国があった。しかも、能力不十分と判断した人間はそのまま放逐するという所業。そんな話で異世界に召喚され、着の身着のままで路頭に迷ったおっさん3人は冒険者として登録するのだが、飲まず食わずの3人は現地の人間が食べたら危険と廃棄している魔物の肉を、狩っては食い、狩っては食いのキャンプ生活。普通のパーティーなら2,3日で引き返すところを、平気で1週間やそこらは森で狩り暮らしをするようになるのだが……の愉しいグルメキャンプ生活。
『佐々木とピーちゃん』 ぶんころり
異世界の賢者がこちらの世界の文鳥に転生し、前世の魔法であっちの世界とこっちの世界を行き来しつつ、飼い主と文鳥の2人で楽しいスローライフをおくるはずが、あっちこっちで大事件に巻き込まれててんやわんやになる話。
さえない中年男がひょんなことから頭角を現し、世間的にも成功して異性からもモテるようになるというサラリーマン夢小説の王道パターンに、異能バトルから異世界転移までこの10年ばかりの流行の設定をすべてぶちこんできれいにまとめるという、ここ5年ほどのライトノベル界の総まとめとも言うべき作品です。
『アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい』 翠川稜
幼少時の実父の虐待で心と体に傷を負い、陰キャ、ボッチ、コミュ障になってしまったオッサンが、トラックにはねられて高校時代に逆行転生。2度目の高校生活はうまくやろう、新しい家族とも仲良くやりたいと頑張るのだが……。
今年前半までに刊行されたウェブ小説の書籍化作品のうちおよそ3割が「中年のオッチャンやオバさんが新たな人生をやり直す」話。やり直す人生は、別に異世界とか未来世界とかゲームの世界である必要はなく、そういう意味で「もっともウェブ小説らしい」作品の1つ。ちょっと脚を踏み出し、少し手を差し出すだけで、彼はいろんなものを手に入れられるのです。
なお中盤からは「平凡な男子高校生がなぜか女子にモテモテになる」異能も異世界もない学園ラブコメが急増します。
『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』 七斗七
清楚系お嬢さまVTuberとしてデビューした泡雪だったが人気は今ひとつ。ところが、ある日、配信を切り忘れてストゼロで酒盛りを始めてしまったことから素の性格が全世界に露見し、SNSのトレンド一位となって一躍脚光を浴びてしまう……。
ウェブ小説ではこの1年ほどで急増したVチューバーものですが、書籍化されたものはまだ多くありません。そんな中で「面白いけど、これは無理だろう」と思われていた作品がまさかの先陣を切りました。
『家の猫がポーションとってきた。』 熊ごろう
両親を喪い愛猫のクロと二人暮らしの高校三年生、島津康平。ある日、クロが自宅の庭にある納屋の中にダンジョンへの入口を見つけてきてしまう……。
ここ数年で増えた「自宅の近所にダンジョンが出現しました」モノの1冊。気軽にさくさく読めるダンジョン攻略もので、ダンジョンマスターと探索者の距離が近すぎるのが特色。楽しくストレスフリーで読めるのがありがたいです。
『大相撲令嬢』 川獺右端
無実の罪を着せられ、王子から婚約破棄を告げられたフローチェ・ホッベマー侯爵令嬢は、前世で女子相撲部だった頃の記憶と相撲魂が蘇る。ついでにこの世界が乙女ゲーム「光と闇の輪舞曲」の舞台とまるきり同じということにも気付くが、ともかく不正には正面からぶちかましをかけるしかない……。
悪役令嬢ものも一通りパターンが出尽くして、イロモノパターンが出始めました。婚約破棄された瞬間に王子を撃ち殺すとか即座に反撃するものも出てきました。ほぼ大切り状態です。そんな中、相撲しばりで話を展開する「大相撲令嬢」がまさかの書籍化です。
『理想の聖女? 残念、偽聖女でした!』 壁首領大公
不動のニートことwebライターの不動新人は、明け方近くまでゲームをやった果てにばったりと倒れるように就寝。目が覚めたら見知らぬお城の中にいた。どうやらプレイしていたギャルゲーの『永遠の散花~Fiore caduto eterna~』の世界に転生していたのだが、嫌われ者の偽聖女エルリーゼになっていた……。
これまた悪役令嬢ものの亜流。本物っぽい偽物が本物を駆逐する話。表面を取り繕うのが上手くなりすぎた破滅指向のサイコパスの主人公が、特定の誰かに思いを寄せることもなく、自分の身の犠牲など屁とも思わず、必要なことをただ誰よりも熱心にやり続けることで、本物よりも本物らしい聖女になってしまう話です。
『神の庭付き楠木邸』 えんじゅ
遠い親戚が建てたまま空き家になっていた、田舎の一軒家の管理人を任された、旅館の息子の楠木湊。屋敷は立派なものだが、内覧だけで借り手のないまま放置されていたらしい。実は大量の悪霊が巣食っていたのだが、湊は自覚のないまま祓ってしまったのだ……。
地味な話なので書籍化ないかなーと思っていたらまさかの書籍化。最近の流行は「もふもふ」と「スローライフ」らしいので、異世界ではないけれど要件クリアしてたようです。
『現代でモンスター駆除業者をやってたら社長が赤字をなんとかするために無理をしたせいで社員のほとんどが死んだからずっと一人で仕事をしてたら凄いことになりました』 gulu
荒野は外来異種と呼ばれるモンスターを対象にしたフリーランスの駆除業者。前は駆除会社に勤務していたが、社長が赤字をなんとかするために無理をしたせいで社員のほとんどが死んで以来ずっと一人で仕事をしていた……。
顔がいいわけでもなければ金があるわけでもないおっさんが、通りすがりの女子高生と知り合ったことから大規模な生物災害に巻き込まれ、その中で知る人ぞ知る存在になっていく物語。
『死なないセレンの昼と夜』 早見慎司
地球から海が失われて人類が黄昏の季節となり、わずかに生き残った人々が細々と文明を維持している西暦2500何年かのこと。ほぼ無人の荒野を走るサイドカーがあった。それは吸血鬼の少女、セレンのコーヒー屋台だった……。
ヒトの文明が最後の残り香を残すのみとなった世界を旅する、不死の少女による出会いと別れの旅行記。いわゆる終末世界の旅行ものと言えるジャンルかな。人間の優しさと醜さ、強さと弱さが語られます。
『一般人遠方より帰る。また働かねば!』 勇寛
そこそこ稼いでほどほどに幸せな生活をしたいだけの異世界帰りの男が、いろんな事件に巻き込まれていくうちに雪だるま式に話が大きくなって、いつの間にか警察に追われたり政府に警戒されたり、果ては超能力やら魔術を使うような秘密結社だか犯罪組織の抗争に巻き込まれ、東西奔走しないといけなくなる苦労譚。
あくまで静かに生活したいだけの主人公に対して、勝手に盛り上がっていく支援者たちの熱狂とのギャップが泣かせます。
『辺境下級貴族の逆転ライフ』 漂月
貴族の庶子として生まれたものの嫡子の弟や妹が大好きで、弟や妹もおにいちゃん大好き……という文武両道のオネエ言葉の主人公が、同じく庶子のリン王女を助けてゲスな王侯貴族と戦ううちに、このまま国盗りしちゃった方が簡単でない?と気づいてしまい、前世知識やら母から教えられた魔女の秘術で蹂躙していく話。
『勇者になれなかった三馬鹿トリオは、今日も男飯を拵える。』 くろぬか
またしても世界の危機でも無いのに異世界から勇者召喚する国があった。しかも、能力不十分と判断した人間はそのまま放逐するという所業。そんな話で異世界に召喚され、着の身着のままで路頭に迷ったおっさん3人は冒険者として登録するのだが、飲まず食わずの3人は現地の人間が食べたら危険と廃棄している魔物の肉を、狩っては食い、狩っては食いのキャンプ生活。普通のパーティーなら2,3日で引き返すところを、平気で1週間やそこらは森で狩り暮らしをするようになるのだが……の愉しいグルメキャンプ生活。
『佐々木とピーちゃん』 ぶんころり
異世界の賢者がこちらの世界の文鳥に転生し、前世の魔法であっちの世界とこっちの世界を行き来しつつ、飼い主と文鳥の2人で楽しいスローライフをおくるはずが、あっちこっちで大事件に巻き込まれててんやわんやになる話。
さえない中年男がひょんなことから頭角を現し、世間的にも成功して異性からもモテるようになるというサラリーマン夢小説の王道パターンに、異能バトルから異世界転移までこの10年ばかりの流行の設定をすべてぶちこんできれいにまとめるという、ここ5年ほどのライトノベル界の総まとめとも言うべき作品です。
『アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい』 翠川稜
幼少時の実父の虐待で心と体に傷を負い、陰キャ、ボッチ、コミュ障になってしまったオッサンが、トラックにはねられて高校時代に逆行転生。2度目の高校生活はうまくやろう、新しい家族とも仲良くやりたいと頑張るのだが……。
今年前半までに刊行されたウェブ小説の書籍化作品のうちおよそ3割が「中年のオッチャンやオバさんが新たな人生をやり直す」話。やり直す人生は、別に異世界とか未来世界とかゲームの世界である必要はなく、そういう意味で「もっともウェブ小説らしい」作品の1つ。ちょっと脚を踏み出し、少し手を差し出すだけで、彼はいろんなものを手に入れられるのです。
なお中盤からは「平凡な男子高校生がなぜか女子にモテモテになる」異能も異世界もない学園ラブコメが急増します。
『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』 七斗七
清楚系お嬢さまVTuberとしてデビューした泡雪だったが人気は今ひとつ。ところが、ある日、配信を切り忘れてストゼロで酒盛りを始めてしまったことから素の性格が全世界に露見し、SNSのトレンド一位となって一躍脚光を浴びてしまう……。
ウェブ小説ではこの1年ほどで急増したVチューバーものですが、書籍化されたものはまだ多くありません。そんな中で「面白いけど、これは無理だろう」と思われていた作品がまさかの先陣を切りました。
『家の猫がポーションとってきた。』 熊ごろう
両親を喪い愛猫のクロと二人暮らしの高校三年生、島津康平。ある日、クロが自宅の庭にある納屋の中にダンジョンへの入口を見つけてきてしまう……。
ここ数年で増えた「自宅の近所にダンジョンが出現しました」モノの1冊。気軽にさくさく読めるダンジョン攻略もので、ダンジョンマスターと探索者の距離が近すぎるのが特色。楽しくストレスフリーで読めるのがありがたいです。
『大相撲令嬢』 川獺右端
無実の罪を着せられ、王子から婚約破棄を告げられたフローチェ・ホッベマー侯爵令嬢は、前世で女子相撲部だった頃の記憶と相撲魂が蘇る。ついでにこの世界が乙女ゲーム「光と闇の輪舞曲」の舞台とまるきり同じということにも気付くが、ともかく不正には正面からぶちかましをかけるしかない……。
悪役令嬢ものも一通りパターンが出尽くして、イロモノパターンが出始めました。婚約破棄された瞬間に王子を撃ち殺すとか即座に反撃するものも出てきました。ほぼ大切り状態です。そんな中、相撲しばりで話を展開する「大相撲令嬢」がまさかの書籍化です。
『理想の聖女? 残念、偽聖女でした!』 壁首領大公
不動のニートことwebライターの不動新人は、明け方近くまでゲームをやった果てにばったりと倒れるように就寝。目が覚めたら見知らぬお城の中にいた。どうやらプレイしていたギャルゲーの『永遠の散花~Fiore caduto eterna~』の世界に転生していたのだが、嫌われ者の偽聖女エルリーゼになっていた……。
これまた悪役令嬢ものの亜流。本物っぽい偽物が本物を駆逐する話。表面を取り繕うのが上手くなりすぎた破滅指向のサイコパスの主人公が、特定の誰かに思いを寄せることもなく、自分の身の犠牲など屁とも思わず、必要なことをただ誰よりも熱心にやり続けることで、本物よりも本物らしい聖女になってしまう話です。
『神の庭付き楠木邸』 えんじゅ
遠い親戚が建てたまま空き家になっていた、田舎の一軒家の管理人を任された、旅館の息子の楠木湊。屋敷は立派なものだが、内覧だけで借り手のないまま放置されていたらしい。実は大量の悪霊が巣食っていたのだが、湊は自覚のないまま祓ってしまったのだ……。
地味な話なので書籍化ないかなーと思っていたらまさかの書籍化。最近の流行は「もふもふ」と「スローライフ」らしいので、異世界ではないけれど要件クリアしてたようです。
『現代でモンスター駆除業者をやってたら社長が赤字をなんとかするために無理をしたせいで社員のほとんどが死んだからずっと一人で仕事をしてたら凄いことになりました』 gulu
荒野は外来異種と呼ばれるモンスターを対象にしたフリーランスの駆除業者。前は駆除会社に勤務していたが、社長が赤字をなんとかするために無理をしたせいで社員のほとんどが死んで以来ずっと一人で仕事をしていた……。
顔がいいわけでもなければ金があるわけでもないおっさんが、通りすがりの女子高生と知り合ったことから大規模な生物災害に巻き込まれ、その中で知る人ぞ知る存在になっていく物語。
『死なないセレンの昼と夜』 早見慎司
地球から海が失われて人類が黄昏の季節となり、わずかに生き残った人々が細々と文明を維持している西暦2500何年かのこと。ほぼ無人の荒野を走るサイドカーがあった。それは吸血鬼の少女、セレンのコーヒー屋台だった……。
ヒトの文明が最後の残り香を残すのみとなった世界を旅する、不死の少女による出会いと別れの旅行記。いわゆる終末世界の旅行ものと言えるジャンルかな。人間の優しさと醜さ、強さと弱さが語られます。