付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「アニメックの頃…」 小牧雅伸

2009-03-31 | エッセー・人文・科学
 まず誤植チェック。p232「トレイ交代」→「トイレ交代」

 かつて「アニメック」というアニメ評論や情報分析に定評のあるアニメ情報誌があったのだけれど、その編集長であった著者が雑誌の誕生から月刊化までを回想したもの。

「ここまでお祭りなんだから、日本一のお祭り男を強化要員として召還した」
 明るいイデオンに双子の悪魔を投入した際のサンライズの渉外担当野辺さんの言葉。

 こういうのを梁山泊ものというのかもしれません。次々といろんなところから思わぬ人材が発掘され、海千山千のエキスパートへ成長していく物語って面白いですよね。
 同人誌は作った経験はあるけれど、商業誌のノウハウなんか知らない人間が集められ無手勝流で創刊した雑誌があれよあれよという間に大きくなっていくのだけれど、その裏側では「こりゃないだろう?」というようなてんやわんやの大騒ぎ。雑誌を作っても流通に乗せる方法を知らなかったり、編集長が1年に11回しか給料をもらっておらず社会保険にも入っていなかったり。

 年寄りの昔話と切ってしまえばそれだけだけれども、子供の観る「テレビマンガ」が大人も観る「アニメ」となっていく過程を綴った資料として貴重だし話としても面白い。また、ヤマトからガンダムへと社会のアニメーションへの認識が高まっていく中、アニメ誌が何誌も創刊されていくのだけれども実は書いているライターはほとんど共通していてアニメック編集部で各社の仕事をしていたとか、誰でもその気になったら周辺ジャンルにもひととおり目を配ることができたくらいジャンルの規模が小さかった時代の混沌とした熱さを感じられる1冊です。

 話としては隔月刊だったものが月刊化したところで終わりで、物足りないといえば物足りないけれど、いちばん良いところで区切りをつけるのは正解。アーサー王物語だって、円卓の騎士が揃うまでが面白いと思うし。創刊から追いかけてきた身としては、月刊化によって特集記事の内容が薄くなり魅力が減じたと感じていたので……。(09.03/31)

 類書としては尾形英夫の『あの旗を撃て!~アニメージュ血風録』という著書があって、あれはあれで詳細なんだけれど、あくまで「アニメージュ編集部を中心に徳間書店がどのようにアニメとかかわってきたか」という話なので、アニメーションというのは当時どんな状況だったのかとか、熱心なファンはどういう感じだったのかという全体的なことには触れていないのですね。他社アニメ誌は名前しか出てこないし、『アニメック』に至っては存在そのものが無視されているわけで、自分としてはアニメージュとスタジオ・ジブリにだけ興味があるわけではないので、こういう本の存在は嬉しいです。(09.04/25)

【アニメックの頃…】【小牧雅伸】【編集長(ま)奮闘記】【マイペースシオタ君】【マニフィック】
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「マリア様がみてる/パラソルをさして」 今野緒雪 11

2009-03-30 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「ほんのちょっとの情報しか与えられていないとね、見えない部分を勝手に創作しちゃうものよね」
 新聞部の山口真美さんの言葉。まあ、いちばんありそうな話が正解というのが世の中ですが、100%そうとは限らないのも世の中です。
 高校生でこれだけ認識できていれば立派。創作したあげくに大失敗したのが三奈子さまですが、妹はしっかり学習しているということですね。

 先輩だけれど、大好きだけど、いつも助けてもらっているけれど。そんなことは取りあえず脇に置いといて、あなたおかしいんじゃないですか?
……ということで、今回は無くしたモノが返ってくる、復活と再生の話。そして、これ以後、祐巳は前巻で三奈子に助言されたように「耐えるばかりでなく、きちんと訊く」ことのできるキャラになっていきますし、憎らしく思えることがある苦手な相手にも積極的にかかわっていくようになります。
 柏木さんもそうですが、このシリーズの登場人物に、ただ迷惑なだけ、イヤなだけのキャラがいないってところも好きなポイント。この話あたりから、三奈子さま、柏木さんの株もじりじり上昇し始めます。

 ところで祐巳は「了解」と書いて「ラジャー」と返事しているけれど、これは70年代にガッチャマンを観て刷り込まれたのか、90年代にクレヨンしんちゃんを観た影響か、はたまたガチのミリタリーマニアだったのか……。
 女子高生の日常語じゃないと思うけれど? 最近はそうなんだろうか。

【マリア様がみてる】【パラソルをさして】 【今野緒雪】【青い傘】【正義の味方】【鍋焼きうどん】【100円ショップ】【ツンデレ】
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「徳川慶喜家の子ども部屋」 榊原喜佐子

2009-03-29 | エッセー・人文・科学
『高松宮様はその政府のやりようにお憤りであり、皇族は皆行くがよいと仰せられたとうけたまわる』

 徳川慶喜の孫として生まれ、武家と宮家の狭間で成長した著者が、自らの日記をもとに回想した徳川慶喜家の日常。お正月とか墓参り、御授爵記念日といった毎年恒例の行事から、夫となった榊原中尉が昭和天皇に実際の燃料備蓄量や生産計画について漏らしたため「東条の憲兵」に狙われた話や東京空襲で家族を失った話など。
 子どもであり、女性であり、妻であったから、時局についての詳しい話は多くなく、あくまで日常の話題が中心ではあるけれど、逆にそういう視点での記録は残りにくいので貴重なお話しだと思います。

【徳川慶喜家の子ども部屋】【榊原喜佐子】【第六天】【李王】【大空襲】
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「捕虜収容所の死」 マイケル・ギルバート

2009-03-28 | 戦記・戦史・軍事
 密室殺人です。それに大脱走がついてきます。

 場所は第二次大戦さなかのイタリア、第127捕虜収容所。その脱獄用トンネルの工事現場で1人の男が死体で発見されます。トンネルの入り口は巨大なコンクリートの蓋で隠されており、開けるのに4人の男の力が必要で、しかも殺された男はトンネルが掘られているのとは別の収容棟にいたはず。
 狭い部屋に定員以上の捕虜が押し込められてプライバシーなどないも同然。しかもイタリア軍が監視する中、男を殺し、誰も入れないはずのトンネルに死体を残した犯人は何者なのか……?

 殺人事件の犯人捜しと収容所脱走計画とが、それぞれ密接にからまりながら同時進行し、さらにはシチリア島に連合軍が上陸したことでタイムリミットが生じます。連合軍が進攻してくることで、イタリア軍が捕虜をさらに別の場所へ移動させたりドイツに引き渡すことも考えられるからです。しかも内部にスパイがいて情報を漏らしている気配があり、それと殺人事件との関係もはっきりしません。
 刻々と状況が悪化する中、犯人捜しを続けるヘンリー・ゴイルズ大尉の話ですが、このさまざまな要素を絡めながら、すべてきっちり処理するあたりが巧いと思いました。良質のサスペンス&ミステリーでした。

【捕虜収容所の死】【マイケル・ギルバート】【密室殺人】【大脱走】【カラビニエーレ】【戦犯】
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「鉄を削る 町工場の技術」 小関智弘

2009-03-27 | エッセー・人文・科学
「どんな仕事にも共通して必要なものは、モノを見る眼と、モノを作る姿勢と、それからまわりの人との関連で自分をどこに立たせるかを知る位置づけです」

 町工場の旋盤工として50年働き続けてきた著者が、町工場とそこで働く職人たちについて語ったもの。日本の最先端技術を基礎から支えてきた町工場は、また取引先の気分1つで吹き飛んでしまうようなものだった。
 今でも、景気の悪化で大企業が次々に、平然と下請工場を切り捨てている。もともと、何兆という純利益を上げてきたような会社ではない。今どき、何銭という単位で工賃を削られながらも続けてきた小さな工場ばかりだ。景気が悪くなったからと、いきなり取引先からの注文が50%60%と減らされたら、いつまでも支えきれるものでもない。耐えられる体力をつけることさえ許されないのである。
 最先端技術を支え、大企業の大工場では採算の合わない複雑な仕事を引き受けてきた町工場だが、このまま続けるよりはと廃業を決意する工場も少なくない。あとは時間との勝負である。

 こういう職人たちの話は面白い。エピソードの1つ1つから職人としての自負や苦悩が伝わってくるからだ。
 日本人はもっと中小企業に目を向け、誇りに思うべきではなかろうか。裏方軽視では真の成功は手に入れられない。

【鉄を削る】【町工場の技術】【小関智弘】
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「マリア様がみてる/レイニーブルー」 今野緒雪 10

2009-03-26 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「人間関係に正解なんてないわよ。もしかしたらどこかに模範解答はあるかもしれないけれど、丸写しじゃつまらなくない?」
 武島蔦子さんの言葉。
 この作品に登場する「大人の視点を持つ少女」はどうして「オヤジくさい」キャラになるのだろう? 集団における自分のポジションが確立していて、かつそれを認識しているから多少周囲と違っていても気にしないということなんだろうけれど、それにしても趣味に走りすぎです。あるいは、ヘンなキャラでも大人だから、集団の中に居場所を見つけられるということなんだろうか。

 梅雨の季節。それぞれに問題を抱え、山百合会の2年生、祐巳、志摩子、由乃の3人の心は空模様のようにどんよりしていた。そして、ついに祐巳と祥子のすれ違いが決定的なものとなり……。
 
 メインキャラの転機となる巻ですね。乃梨子との姉妹問題を抱えた志摩子の心の動きを描いた『ロザリオの滴』、心臓手術を終えてやっと半年の由乃が剣道部へ入部するというのを反対する令の『黄薔薇注意報』、そして不可解な祥子の言動に祐巳が不信感を抱き始め、ついにすれ違いが決定的になる『レイニーブルー』の3作。
 前巻で「悩め悩め。たいしたことじゃないことで悩めるのが、若さの特権」と薫子さんが笑ったけれど、これも基本的にはその手の話。それぞれの立ち位置の違いからお互いを思う気持ちが空回りし、長い間にもつれてしまったのを、腹の中を全部ぶちまけてしまうことでリセットする必要があったのです。これはそういう巻ですね。真面目な少女たちが試行錯誤しながら親しい人たちとの関係を模索する話。
 『レイニーブルー』だけは1冊で収まりきらずに次巻へと続いてしまいましたが、これは福沢祐巳という、これまで着実にバージョンアップして成長していた少女が、ついにグレードアップするための通過儀礼の話なので仕方がありません。

【マリア様がみてる】【レイニーブルー】 【今野緒雪】【梅雨】【青い傘】
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「アンの愛情」 L・M・モンゴメリ

2009-03-25 | その他フィクション
 松本侑子による『赤毛のアン』シリーズの3作目の完訳版。時代的には19世紀末から20世紀初頭の話でアン・シャーリーが18歳から22歳までのレッドモンド大学時代の物語。

「みなさん方は好き好きに、破滅への道を行くこともできるんです」
 共同生活を始めることになったアンたちの家事の面倒をみてくれることになったジェイムジーナおばさんは、彼女たちのふるまいについて干渉するつもりはないと宣言した。自分の行動に責任の取れる年齢だから。
 ついでに「自分の葬式で読みあげられて恥ずかしい文章は書くなかれ」というジェイムジーナおばさんの娘の言葉も記しておきましょう。

 この巻の中心人物は、やはり新キャラのフィリッパ・ゴードン。美人で金持ちで家柄が良く、ちょっとバカかと思えば成績は優秀。決して謙遜はしないけれど、他人の長所を誉めることを怠らない少女。欠点は決断力のないこと(自己申告)。
 アンにたいして「理想の愛を想像のなかで創りあげて、真実の愛もそんな風に見えるはずだよと思いこんでいるのよ」と説教たれたあげく「あら、この私が生まれて初めてまともなことを言ったわ」と自賛する良いキャラです。最後の最後まで。

「四十歳になれば、二十歳のころよりも、人を許すことが簡単になるのよ」
 それが人生で学んだことだとジャネット・スィートの言葉。

 このシリーズもいろいろ翻訳があるのだけれど、基本は村岡花子訳。ただ、もうかなり古い訳なので、読んでいてピンとこない単語や言い回しがあるのですね。たとえば、ヒロインを女英雄と訳されても何のことかと迷ってしまいます。
 そして完訳版と銘打って講談社文庫から掛川恭子訳が出たのだけれど、これはなんとなく訳文の感性が合わなかったのです。どこが悪いというのではないけれど、言葉の使い方や選択が馴染めなかったのです。村岡訳に慣れすぎたせいかもしれません。
 他にもいろいろ訳はあるのですけれど、自分の中ではこの松本侑子訳がいちばんしっくり来ています。それに同じ本を何度も読んでいる身としては、過剰といえるくらいの注釈の山が嬉しい。巻末におよそ60頁の注釈が付いて、登場人物たちがなにげなく引用する旧訳聖書や当時流行の詩から童話まで出典を解説し、舞台となる街や通りについて当時の様子から現在の姿まで紹介し、他作品の登場人物についてもひとこと記述してくれるので、すごく便利というか好奇心をくすぐられるというか……引用の多さに目が回るというか……。こだわりの翻訳ですね。
 松本訳の文庫は今のところ、この話までなので続きについても期待しています。でも「海軍将校候補生」は「海軍士官候補生」の方がしっくりくるんですけどね。

【アンの愛情】【モンゴメリ】【松本侑子】【大学生活】
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「頭蓋骨のホーリーグレイルII」 杉原智則

2009-03-24 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「人は進化などしません」
 亜門の言葉。

 組織の中枢に大きな打撃を受けたバフォメット教団は巻き返しを図り、その動きに公安特殊対夷セクションが反応したのだが……。

 羅魂陽馬が時忘れの回廊から覚醒させた4人の魔人が公安の超能力部隊と東京湾上の実験都市ASUKAをめぐって対決、……という新展開だと見せかけておいて、話の肝は咲夜と弘人ですらないのでした。美女美少女入り乱れ、ちょっとエッチなシーンもしっかり盛り込みながら、どう見てもメインストーリーは神父とデュラントの闘争だったりするわけで油断ならんなー。他のキャラはみんな当て馬だよ。

【頭蓋骨のホーリーグレイル】【杉原智則】【式神】【人類補完計画】【洋上都市】
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「マリア様がみてる/チェリーブロッサム」 今野緒雪 09

2009-03-23 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「悩め悩め。たいしたことじゃないことで悩めるのが、若さの特権」
 乃梨子の同居人、薫子さんの言葉。この巻は、この言葉がすべて。

 本命の高校を受験し損ない、意に反して私立リリアン女学園に入学することになった二条乃梨子は仏像マニアだった……。

 新入生・二条乃梨子とロサ・ギガンティアとなった藤堂志摩子の出会いの物語を、乃梨子視点で描いた「銀杏の中の桜」と、山百合会の面々の視点で描いた「BGN」の2本立て。こういう「角度を変えてもう1回」というのは、もはや愉しいお約束。登場人物それぞれが主役なので、誰視点でもOKというところでしょうか。
 さて、新たな1年生を迎えてスタートする新年度ということで、附属中学からの持ち上がりではない外部からの入学生の視点で話が進みます。ですから、周囲のみんながあたりまえとか素晴らしいと思っていることに対して外部目線でのツッコミが入り、読んでいる方も「ああ、やっぱり上級生の一挙一動を下級生が陶酔して見守るような状況は異常なんだ」と安心しましたし、ミッション系のお嬢様学校という閉鎖空間に、乃梨子がだんだん染まっていくこれからの過程が楽しみになるわけです。
 その一方で、もう1人の新入生、松平瞳子の登場で、次巻以降の伏線が敷かれ始めます。

【マリア様がみてる】【チェリーブロッサム】 【今野緒雪】【入学式】【マリア祭】【下克上】
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「ドイツ 世界の料理」 ニカ・シュタンデン・ハツェルトン

2009-03-22 | 食・料理
 タイムライフブックの1冊で、なぜか書庫に眠ってました。日本語版刊行は1975年。時代を感じさせるのは、カラー写真の着色っぽいところかな。
 ドイツ人外交官の家に生まれ、少女時代を1920年代のベルリンで過ごした著者が、ドイツの料理について、時代別、地域別、社会階層別に語り、レシピとともにまとめたもので、外交官は夜のパーティよりも昼のパーティを好んだとか、ドイツのワインが甘いのは大戦期の物資欠乏の反動のせいで昔(爺さんの頃は)はあんなに甘くなかったとか、知ってどうなるというでもないエピソードがあれこれと。
 写真も豊富で、ザウアークラウトだったら昔ながらに家庭で作っている光景から工場の巨大な樽で作っているところまで、豚肉だったら市場で子豚を買うところからソーセージにするまでとけっこういろいろ載っています。
 けっこう読んでいて面白い1冊。こんな本、どこかで手に入れて持っていた自分を誉めてやりたいと思います。

【ドイツ】【世界の料理】【ニカ・シュタンデン・ハツェルトン】【プロイセン地主】【がちょう料理】【うなぎ】
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「司政官(全短編)」 眉村卓

2009-03-21 | 宇宙・スペースオペラ
 人類が銀河宇宙へ進出し、異星のさまざまな現住民と接触しながら植民を進めている時代。植民地開発の基幹となる新たな制度がスタートした。
 それまで軍がおこなっていた治安維持や、異星人との交渉、植民者への支援や地図の作成等といった作業を、司政官と呼ばれるエリート行政官が引き継ぎ、そのたった1人の司政官が多くのロボットを従えて惑星を統治していくという、司政官制度である。
 その司政官制度を、発足直後のまだ立場が不安定な時期から全盛期、そして植民地の発展に伴って制度的矛盾を抱えて自壊していく末期まで、何人もの司政官たちの姿を通じて描いていく……。 

 司政官シリーズの作品の中から全短編を集めて時系列順に編纂し、巻末に制度解説が加えられた分厚い1冊。

「賭けなければならないとき、勝負しなければならないときには、ご自分を傷つけることをおそれないで、踏み切って下さいね」
 立体表現家グレイス・グレイスンの言葉。

 さまざまな異星人が登場するし、不思議な世界が幾つも姿を現し、解決困難な問題が次々に発生するのだけれど、それらがすっきり解決することはありません。異星人たちとの交流や調査は物語の中では完了することはありませんし、怪現象の原因は不明なままだし、状況は混迷を深めるばかりです。あくまで、模範解答の見えない状況で決断を迫られる司政官の姿を描く作品群なのです。
 どんなに苦労していても、内政はそつなくこなしてあたりまえ、何か問題が起きたらどんな突発事態で予見も対策もできなかろうが当然責任が押っ被さってくる。それを乗りこえられるのがエリートと呼ばれる存在なわけですが、エリートでいるのも大変な話です。

【司政官】【眉村卓】【植民政策】【民族移動】【幽霊】【叛乱】
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「皇子と皇女~反逆者の月3」 デイヴィッド・ウェーバー

2009-03-20 | ミリタリーSF・未来戦記
「子供たちは、われわれ大人とは違う時間軸の上で生きているんだよ」
 帝国海軍元帥ツィエン・タオリンの言葉。

 細菌兵器の猛威によって滅んだ銀河帝国のシステムをコリン・マッキンタイアが掌握し、第五帝国を樹立して10年以上が経過していた。しかし、反乱者アヌ大佐の組織したグループは殲滅されておらず、ショーン皇子とハリエット皇女を乗せて訓練航海に出立した新造戦艦<インペリアル・テラ>が爆沈してしまう。だが、それは帝国を狙う陰謀の第一段階に過ぎなかった……。

 ウェーバーといえばミリタリーSFですが、地球の近代以前の戦闘の雰囲気を意図的に残してまして、オナー・ハリントンの宇宙艦隊戦などは帆船の戦いさながらの地獄絵図だったりします。
 今回もハイテク兵器を使ったテロリストや反乱勢力との戦いが随所で繰り広げられますが、基本はマスケット銃と長槍が活躍する前近代戦。横殴りの一斉射で肉片が飛び散り、銃剣による白兵戦が繰り広げられる戦いです。
 シリーズ3部作完結編の本作は頁数が2倍ですが、これは2冊分はあるだろうエピソードを1冊に収めているからで、最後まで物語は二転三転して息抜きする暇がありません。このあたりの国家の覇権を賭けた諜報戦と宗教施設の中枢に辿り着くための前近代戦という構成は、パーネルの『デイヴィッド王の宇宙船』と似てるかな。ああいう雰囲気が好きな人には文句なしの1冊。
 注文をあえて付けるなら、パーダル編にもエピローグの1章を割いて欲しかったかな。まあ、余韻ある洒落た終わらせ方といえばそうだけれど、最後の場面にメインキャラの姿がないのは寂しいですね。

【皇子と皇女】【反逆者の月3】【デイヴィッド・ウェーバー】【スターウォーズ】【モンティ・パイソン】【方形陣】【ライフリング】【天使】【バグパイプ】
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「鵺姫異聞」 岩本隆雄

2009-03-19 | 時間SF・次元・平行宇宙
 天邪鬼と男の話『イーシャの舟』が宇宙から来た虫と少女の話『星虫』の前日譚であったように、戦国時代の魔物と呼ばれた姫の物語『鵺姫真話』はその後日譚。そして『鵺姫異聞』はその『鵺姫真話』のさらに裏話であり、後日譚であり前日譚でもあり、すべての結末だったりそうでなかったりという話。どれも単純な話の流れでなく、それぞれが独立した物語でありながら互いに補完し合う関係なので、1冊読み始めたら残る3冊も一気読みしないと収まりません。そういう複雑な構成であり、かつ勢いのある物語群です。

 地球環境を救おうという進化計画にも反対する勢力はあり、テロ集団を警戒していたパトロール部隊員、田中隆は微角と名乗る奇妙な山伏を拘束した。だが、山伏は進化計画の最高責任者から招待を受けたと言い、その荷物を調べていた隆は戦国時代へと飛ばされてしまう……。

 『星虫』の主人公である氷室友美の友人その2を主役に仕立てたシリーズ完結編。しかし、壮大な歴史がすべて特定の人物周辺に集約されるってのは、やりすぎな気もするし、ジュブナイルとしては王道という気もするし。まあ、面白かったから良しとしましょう。
 でも、田中くんはすべてにおいて無頓着すぎると思います。

【鵺姫異聞】【岩本隆雄】【鬼】【神殺し】【ボーイ・ミーツ・ガール】【人類の終焉】【タイムトラベル】
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「マリア様がみてる/いとしき歳月(後編)」 今野緒雪 08

2009-03-18 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「私は今日も明日もいつもと変わらぬ日常でありたいの」
 卒業式の日の蟹名静の言葉。
 そして、その潔い背中にカメラを向けながらシャッターを切らなかった武嶋蔦子さん。彼女たちの人間としての感性が好きです。

 卒業式を目前に、少女たちは今までとは少し違った行動を取るようになり、ときにはちょっぴり大胆になってしまう……というと誤解を招きそうだけれど、送る人、送られる人それぞれの思いを描いた「will」。出会いと別れを回顧しながら卒業式に挑む卒業生たちの姿を描いた「いつしか年も」。そして、最後に時間を遡って、聖と志摩子が姉妹の契りを結ぶまでを描いた「片手だけつないで」。
 少女たちの出会いと別れを綴る3編の物語。

 ……とまとめると、何か厳粛な出会いと別れの話にも思えるけれど、「片手だけつないで」以外は実も蓋もないけれど前向きで気持ちの良いお話なんじゃないかと思います。これも区切りと言うことで、人それぞれがいかに日々に区切りをつけてみるかということですね。送る方がこれから今までと違う生活が始まるという不安があれば、送り出す方にも学年が1つ上がって役割も責任も変わっていく不安があるわけです。

 君とじゃれ合っているのは、本当に幸せだった。祐巳ちゃんになりたい、って私は何度か思ったよ。

 白薔薇さま。
 卒業しちゃってもいいよ。

 佐藤聖の言葉を受け、答え、1回オチがついて、そして最後に、もう大丈夫だから卒業しても良いよ……と少女が成長して大事な人たちを送り出すまでの物語。

【マリア様がみてる】【いとしき歳月】 【今野緒雪】【卒業式】【桜の木】【ホットミルクのいちご牛乳割り】【遺言】
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「新しき神々~ドラル国戦史(8)」 ディヴィッド&リー・エディングス

2009-03-17 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「複雑なほうが物事はずっとおもしろくなるんだ、ちがうかい?」
 オマーゴの言葉。

 神々と人間による昆虫軍団との戦いを描いたドラル国戦史も、この8巻にてついに完結。うん。今川版ジャイアントロボ並のオチでしたよ、おとうさん!
 エディングスの作品は大好きな私ですが、この話も登場人物はたいへん魅力的だと思いますが……まあ、読み返さないかな。ベルガリアード物語かエレニア記を再々々々々々々々々読したくなりました。

【新しき神々】【ドラル国戦史】【エディングス】

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