付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「松岡まどか、起業します」 安野貴博

2024-08-30 | その他フィクション
「私は世界に何かの価値を残したいんだ」
 ただ生きるだけではダメだと母は三戸部歩にそう語った。

 人材派遣と転職の大手企業リクディード社のインターン生だった松岡まどかは、突然、内定の取り消しを言い渡された。大学4年の3月という土壇場になってである。さらに今から起業して1年以内に時価総額10億円の会社に成長させられなければ、自身が多額の借金を背負う羽目に陥った。実質、起業スカウトの詐欺に遭ったのだ。
 そんな彼女にインターン時代の教育係であった三戸部歩が協力を申し出て、2人でスタートアップに挑むことになった。三戸部は松岡のAI技術を高く評価しており、AI技術でリクルート業界に変革を巻き起こせると考えていたのだ……。

 大企業に採用取り消しを食らい、さらに詐欺師に騙されたAIエンジニアが起業するはめになったところから始まるお仕事小説。ビジネス小説であると同時にAIの可能性とその限界を語る物語でもあります。
 他人に嫌われる覚悟が出来た時、彼女は真に経営者になるのだ。

【松岡まどか、起業します~AIスタートアップ戦記】【安野貴博】【丹地陽子】【早川書房】【令和最強のお仕事小説】【ノラネコ株式会社】【M&A】【情報流出】【故人AI】
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「ひとつ屋根の下、亡兄の婚約者と恋をした。」 柚本悠斗

2024-05-18 | その他フィクション
「男は何歳になっても女子高生の制服にロマンを感じるもんさ」
 七瀬健は生前そう語っていた。

 七瀬稔の兄が死んだ。突然のことだった。
 膵臓癌と診断されても、手遅れだからと治療もせず、ただ高校生の弟のために最後まで働き続けていたのだ。最後の最後まで病気のことを知らされていなかった稔は、ただ呆然とするばかり。早くに両親を喪い、兄弟2人の生活だったのだ。
 すっかり荒れ果ててしまった家に、若い女性が引っ越しに持つと共に押しかけてきた。兄の婚約者だった女性、美留街志穂だ。志穂は生前の兄に弟のことを任されたのだと、なかば強引に居座ると家の片付けを始めてしまう。
 こうして、家族とも他人とも呼べない微妙な距離感の中、2人は一つ屋根の下で暮らすことになるのだが……。

 同じ痛みを知る者同士が互いに助け合い、支え合うことで喪失の苦しみから逃れられるようになるまでの物語。
 膵臓はあっという間だと聞きます。腰が痛いなあと思っていたら既に手遅れという話とか。そんな状況で、ただただ弟と婚約者のためにできる限りの手を打っていた兄の想いを感じずにはいられません。「ハッピーエンドが約束された」とありますが、確かに他の作品なら何かトラブルの種になって人間関係がこじれそうなイベントも真正面からたたき伏せていきます。ここにこんなトラブルはいらないよなーと思って読んでいると、スゴい勢いで回避していきます。用意周到な兄と自己評価が低すぎず目標を逸れない弟、弱すぎず真っ直ぐな婚約者の物語です。

【ひとつ屋根の下、亡兄の婚約者と恋をした。】【柚本悠斗】【木なこ】【GA文庫】【ハッピーエンドが約束された純愛物語】【いつか二人の哀が愛に変わる物語】【兄の婚約者に恋した高校生と、婚約者の弟に愛した人の面影を重ねてしまう女性が、やがて幸せに至るまでの日々を綴った純愛物語。 】【猫カフェ】【珈琲ゼリー】【保護猫】
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「ご懐妊!!」 砂川雨路

2024-03-11 | その他フィクション
 丸友不動産の大型案件が舞い込み、家にも帰れない生活が1ヶ月も続いた広告代理店勤務の梅原佐波(37歳)は見事納品完了した祝杯でハイになり、ついイケメンだけれどコワモテの鬼部長と一夜を共にしてしまう。そしてそれが見事に一発的中。
 妊娠が判明した佐波は、迷いに迷ったあげく一色部長に打ち明けるのだが、彼は迷わず籍を入れるぞと言い切った。佐波が嘘をつくような女ではない。
「俺たちは、夫婦という、いい相棒になれるな」
 愛はないけれど好感はあるし互いの仕事も尊敬している。そんな夫婦生活が始まったのだが……。

『お腹が、おしもが、腰が、かち割れそうに痛い。でっかい鬼が素手で私の下半身を叩き割ろうとしているっ感じ。内臓まで全部痛い』

 デスマーチ明けのハイからコワモテ上司と盛り上がり、ヤッてしまってからの顛末を描いた物語。
 妊娠検査から婦人科検診から始まり、無痛分娩の是非、妊娠期の体調管理、そしてクライマックスの出産まで徹頭徹尾、妊婦が経験するあれやこれやを描く、これから妊婦さんになる人、配偶者が妊娠した人のための予習小説。
 恋愛小説としてもきちんと抑えているし、周囲の人々がみんな理解があって好意的なのも安心して読めて良いです。

【ご懐妊!!】【砂川雨路】【くにみつ】【スターツ出版文庫】【できちゃった婚】【検査薬】【つわり】【妊娠高血圧症】【マタニティビクス】【エッグ倶楽部】【会陰切開】【両親学級】【無痛分娩】
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「アンの娘リラ」 ルーシー・モード・モンゴメリ

2024-02-04 | その他フィクション
『人はその理想のために死なねばならないのと同様に、その理想のために生きねばならないこと、さもなければ、この理想のために払われた犠牲が無に帰すと教えるだろう。これは、きみの役目の一つなのです、リラ』
 夢見がちで臆病者と思われていたウォルターは誰よりも勇敢だったと、他の戦友たちは語った。そのウォルターが、なぜか今日リラに手紙を書かねばならないという気になった。これは今伝えねばならないと。

 母親のアンの青春時代は平和な農場でマシューとマリラの愛情に包まれて、親友ダイアナとの友情を育んだものだったが、彼女の末娘であるバーサ・マリラ・ブライスことリラの青春は世界大戦と共にあった。
 女の子が手に入れられるものはすべて手に入れる、15歳から19歳が女の子の人生でいちばん良い年月だと言うけれど、ならば楽しいことでいっぱいにしようと考えていたリラだったが、その初パーティーはイギリスがドイツに宣戦布告したとの知らせで終わった。世界大戦の始まりだった。
 兄弟や友人たちは次々に志願して出征して海を渡り、残された家族は聞き慣れない名前の外国の土地をめぐる一進一退に一喜一憂しながら子どもたちの安否に心痛める日々となった。そして、リラは赤十字の寄付集めで出かけた先で、死んでしまった母親の隣で死にかけている戦争孤児を押しつけられてしまい、大鍋に乳児を入れて持ち帰るはめに陥っていた……。

 我が家に何冊目かの『アンの娘リラ』到着。
 「赤毛のアン」シリーズ全8作の最終巻。21世紀になって刊行された『アンの想い出の日々』を含めて9冊をアン・ブックスとするのが主流らしいのだけれど、こちらは短編集なので長編は全8巻。内容的にキャラや舞台が共通する部分もないではないレベルの短編集『アンの友達』『アンをめぐる人々』に『アンの想い出の日々』を含めて短編集3冊ということになります。
 第一次大戦の銃後を舞台とした青春群像劇。可愛がられて育ち、家事も勉強も嫌いでパーティのことしか頭になかった少女が、戦場へ行った家族や友人の心配をしつつ、目の前にできることをひとつずつ片づけていく5年弱の物語です。

 村岡訳でさんざん読み込んだ作品を、掛川恭子訳に続いて松本訳であらためて完訳・新訳で読めるのは嬉しいですね。
 分厚い本だけれど、その1/5はリラたちが見ていた映画とか当時の風習やら章題や作中で引用されている聖書や文学などの解説、戦争の推移とその中での社会変化の説明など、読んでいるだけでは分かりづらい、あるいは抄訳で飛ばされた部分など当時を知る手がかりがひもとかれます。訳注だけで590項目超。抄訳やその抄訳のさらに改訳ばかりの中での完全版は嬉しい作品。

 「赤毛のアン」があまりに有名すぎて、その舞台となる世界はいかにも牧歌的で穏やかで美しい世界……みたいに思われがちかなと思っているのですが、全巻しっかり読みこんでみれば、保守党と自由党で支持政党が違えば親の仇みたいなもので選挙になると暴動寸前で仲違いしたら何十年、長老教会派とメソジスト(プロテスタント)で信仰する宗派が違えば(現世の問題に過ぎない政治以上に)不倶戴天の敵となってケンカしているとか……という「のどかで平和な島」のイメージを否定するエピソード満載。さらに、ここに来て「反戦論者は敵のスパイ」、「五体満足な男で軍に志願しないのは臆病者か卑怯者」と同調圧力が強調されるステキな描写が追加されて、世に言う因習村と何が違うんじゃい?!という感じですが、そんなところまで含めて好きな作品です。

【アンの娘リラ】【赤毛のアン8】【L.M.モンゴメリ】【松本侑子】【文春文庫】【第一次大戦とカナダの家庭】【腸チフス】【ワーズワス】【笛吹き】【キッチナー卿】【ロイド・ジョージ】【パリ砲】【ヨブ記】【ルシタニア号】【ユトランド海戦】【ハーツ・オブ・ザ・ワールド】
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「虹の谷のアン」 ルーシー・モード・モンゴメリ

2024-01-27 | その他フィクション
「書くネタなら、オーエン・フォードも、カナダでたっぷり見つかるだろうに。何も女房と、いたいけな子供を、日本みたいな異教徒の国へ引きずってかなくとも」
 ミス・コーネリアはフォード一家が取材のために日本に1年間滞在するというのを面白く思っていない。

 ブライス家の子どもたちは、かえでの森の後ろに開けた小さな谷間で遊ぶのが好きで、そこを虹の谷と呼び始めた。
 自分たちの縄張りと決めつけていたその虹の谷で、彼らは見知らぬ子どもたちと出くわしたが、それはグレン・セント・メアリ村に新しく赴任してきた牧師一家の子どもたちだった。やがて意気投合して遊ぶようになった8人だったが、父親のメレディス牧師は考え事にふけると周囲のことにまったく意識が向かなくなるタイプ。母親を亡くした子どもたちが自分たちで良かろうと考えて行動した結果が、静かな村に大きな波紋を広げていくことになる……。

「愛することをやめると、人生のたくさんのことを逃してしまうのよ。愛すれば愛するほど、人生は豊かになるの」
 その愛を捧げる相手が小さなペットであったとしても同じだとローズマリー・ウェストはフェイス・メレディスに説いた。

 「赤毛のアン」シリーズの時系列では7作目で執筆順では5作目。原題は「虹の谷」でアンの名前は入っていないように、この話の主役はメレディス牧師の4人の子どもたち。それにブライス家の4人(シャーリーとリラはまだ幼いので員数外)、それに家なき子ながら家事が得意で口調が荒い(キャラの濃すぎる)メアリ・ヴァンスを中心に話が進みます。この子どもたちが巻き起こす騒動が村に騒ぎを巻き起こすようでいて、実際のところ子どものせいではなく、原因はがんこで意地っ張りでうかつで自己中心的な大人たちにあるんですけどね。
 そして、楽しく遊ぶ子どもたちの物語は戦争の予感で締めくくられます。「大きな戦が見られるなら、なんだってするよ」と声を張り上げるジェム。いずれ笛吹きがぼくらを連れて行ってしまうと予言するウォルター。けれど、輝かしい未来が約束されているはずの彼らの行く手には、フランス、フランドル、ガリポリといった地が待ち受けているのだ……って、ここで終わるんかいっ?!

【虹の谷のアン】【赤毛のアン7】【L.M.モンゴメリ】【松本侑子】【文春文庫】【むち打ち】【安息日】
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「わたしのグランパ」 筒井康隆

2023-11-20 | その他フィクション
「(老人が)気になるのは、どんな死に方をするかじゃなく、死ぬまでに何ができるかってことだ」
 誰もが死ぬまでに何かをしたいと思っているし、生きていた証拠を残すなら些細なことでも良いことが良いと五代謙三。

 五代珠子の祖父は南米にいるとか香港にいるとかいろいろ聞かされていたが、中学生になるまで会ったことはなかった。彼は囹圄の人、つまり刑務所にいたのだ。
 その祖父・謙三が出所して戻ってきた。たちまち珠子の祖父は殺人罪でムショ帰りとの噂は広がってしまうのだが……。

 死に場所を探しているかのごとく、一本筋は通っているけれど何をするか分からない老人と、日々をなんとなく過ごしていた中学生の少女との出会いと別れの物語。
 筒井康隆から筒井らしさを抜いた、筒井康隆らしいお話。確かにジュブナイルで、面白いんだけれど、中学校の夏休みの感想文の宿題でこれを題材にしたら、そりゃ先生困るだろうね……っていうあたりのバランス感覚が筒井康隆らしいかも。

【わたしのグランパ】【筒井康隆】【いとうのいぢ】【文春文庫】【傑作ジュブナイル】【お話シリーズ】【囹圄の人】【地上げ屋】
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「ぼくは浪人 童貞パパ」 庄司陽子

2023-10-27 | その他フィクション
「しあわせになりたいと願うのがエゴイズムなら、世の中の人はみんなエゴイストでしょう!?」
 湊善美はそう反論した。
 論点のすり替えのような気もするけれど、結果オーライ。

 湊康太郎は東城大学を目指す浪人生。図書館へ向かうバスの中で見知らぬ幼女に「パパ!」と呼ばれるが、当然身に覚えはない。その幼女、ちっとの母親は思いもよらぬ若い少女だったがまだ16歳、高校2年生の皆川きっこは、ちっとは自分の本当の娘だと言い切った……。

 最近ウェブ小説でときおり見かける、「見知らぬ幼女にやけに慕われてしまったけど、その姉がすごく美少女だった」パターンのいちばん古い記憶です。「mimi」掲載の連作短編4編。完結編だけは別のコミック『男と女の曲がり角』に併録されてました。

【ぼくは浪人 童貞パパ】【まだまだ浪人 童貞パパ】【またまた浪人 童貞パパ】【これでおさらば 童貞パパ】【庄司陽子】【講談社コミックスmimi】
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「恋人以上友人未満4」 yatoyato

2023-10-09 | その他フィクション
「夢は叶い続けるものじゃなくて、叶え続けるものなんですから」
 一つの夢を叶えたら、また次の夢を叶えてもいいのだと、カンブリア牧こと花丸正樹。

【恋人以上友人未満4】【yatoyato】【ジャンプコミックス+】【花屋】【AV】【花見】【女子会】
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「命短し恋せよ男女」 比嘉智康

2023-08-31 | その他フィクション
「皆さんが静かになるまで3分かかりました」
「なんの指示も出さず、ボケッと突っ立っているだけの教師がしゃべり出すのに3分待ちぼうけました」

 天使の毒舌は容赦ない。

 ちょっと体調が悪かった石田好位置が病院で精密検査することになり、学校が休める!ラッキー!と中学生らしく喜んでいたのだが、彼が学校に戻ることはなかった。その病気の生存期間中央値が1年というのだ。
 そんな余命宣告を受けた少年は、夜の病棟で不思議な少女と出会った。ミステリアスな雰囲気を演出しようとして失敗するポンコツ娘、穂坂ほのかも同じ病気で余命1年を宣告されていた。そんなほのかは「死ぬ前に一度でいいから恋がしたい」と恋に憧れ、同じく中学生である石田好位置を恋愛対象に決めて、カップルYouTuberになって欲しいと頼み込んできた。ひとりぼっちだったと思われて死にたくないという、ささやかなプライドだ。
 かくして、病室からのネット配信「命短し恋せよ男女」チャンネル、略称「いのちこいチャンネル」が始まったのだが、その2人の前に好位置の元カノにしてガチ難病系Vtuberの刹那命が現れた…。

 全員余命宣告済の男女4人によるべたべたラブコメ四角関係。
 「神明解ろーどぐらす」以来、追いかけている比嘉智康の『命短し恋せよ男女』読了。「命短し恋せよ男女チャンネル」というネーミングセンスは良いとは言えないけれど、他の候補はもっとダメダメなので仕方がありません。
 比嘉智康は難病系の話をちょくちょく書くのですが、「実は誤診だった」から「やっぱり完治しませんでした」まで大きく振れるので、読む方はどのスタンスで挑むべきかドキドキしてます。配信者ものとしては書き込み甘い気はしますが、メインは闘病ものでラブコメなので、このくらいでちょうど良い塩梅かもしれません。

【命短し恋せよ男女】【比嘉智康】【間明田】【電撃文庫】【全員余命宣告済な男女4人の多角関係ラブコメ】【免疫力】【偽装カップルYoutuber】【夜這いのマナー】【全身性免疫蒼化症】
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「子犬を助けたらクラスで人気の美少女が俺だけ名前で呼び始めた。」 マナシロカナタ

2023-08-20 | その他フィクション
「阪神ファンと巨人ファンが決して相容れないのと同じように、チョコミント肯定派と否定派は決してわかり合えない定めなのだ」

 広瀬航平と相沢千夏は家も隣同士の幼なじみ。中学までは風呂にも一緒に入っていた。しかし、高校進学を機に告白した航平を、そんな風には思えないと千夏はあっさりふってしまう。
 見事に撃沈して落ち込んでしまった彼は、高校入学初日の帰宅中に車に轢かれそうな一匹の子犬を助けたが、それは偶然にも同じクラスの美少女・蓮池春香の愛犬ピースケだった。子犬がきっかけで春香と航平は仲良くなり、傷心中の航平も少しずつ元の明るさを取り戻していくのだが……。

 最近ラノベでラブコメジャンルが大きくなっているのを象徴するようなド王道ラブコメで、これだけ一緒にやってて、この2人まだ付き合ってないんだって!?という話。高校入学を前に幼なじみに告白したらフラれてしまった少年の新たな出会いは、まっとうすぎてまぶしいよ。

【子犬を助けたらクラスで人気の美少女が俺だけ名前で呼び始めた。「もぅ、こーへいのえっち......」】【マナシロカナタ】【うなさか】【ブレイブ文庫】【カクヨム】【手作りクッキー】【勉強会】【手作り弁当】【水族館デート】【深夜の告白】
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「物語の種」 有川ひろ

2023-08-05 | その他フィクション
「不運に見舞われたときは、好きをどれだけ持っているかが耐久力になる」
 ただし、黒歴史は後世に残さぬようきちんと処分しなければならない。

 2020年頃から「有川ひろ」名義を使い出した有川浩の短編集
 本屋に出かけることすら躊躇われたコロナ禍の閉塞した時代に、みんなが自宅で物語で楽しむためにと始めたのが、作者が話のネタになるキーワード等を広く募集し、それを発展させて短編小説に仕立ててネットで公開するという試み。その小説から10編をまとめたものが今作品。
 気分転換の産物というだけあって、悲しいこと、恐ろしいこと、厭なことを省いて、にやにやと笑ったりほのぼのしたりのささやかな日常が語られるスケッチなんだけれど、そこには「届いた荷物を受け取りにマスクをして玄関へ」とか「2年中止になっていたイベントが再開」や「リモートワークが導入」といった世相とか「インチキな飲むだけでウィルスが治る健康ドリンク」などが登場し、新型コロナウイルス蔓延下での生活が「日常」として描かれています。それはもう特別な存在ではないのです。そして、その根底にあるのは、やるべき対策をしっかりやったらあとは運だけ……という割り切りでした。
 話はみんなポジティブだったり暖かかったり、悲壮感はなく読んで気晴らしになるものばかり。おだやかな夫婦の歩みとか、祖父母の田舎で一夏を過ごした少年の思い出とかいろいろあるのですけど、タカラジェンヌものとか連作風になっている作品もあって、それで読後感が「宝塚がスゴい」一色になっちゃった気がします。なんか、星組公演観たくなっちゃった……というと、どこからともなくBD持った人が湧いてくるような本。
 そして、表紙イラストは登場してくるキーアイテムばかり。一通り読み終わってから「こんなところに電球が」とか「この甲冑はなんだっけ」とか重箱の隅をつつくのも愉しいです。

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「BA‐BAHその他」 橋本治

2023-07-28 | その他フィクション
 『桃尻娘』で一世風靡した著者の短編集で2006年刊行。
 こういう話をいちばん読んでたのは中学時代かな。「オール読み物」とか「小説新潮」で読んだような、誰かの日常とか時代の1ページを切りとって映し出したみたいな、山とかオチとか序破急とかあるようでなさそうな、なさそうであったりする「ありふれた日常」をスケッチした話の数々。その「ありふれている」のが現代なら、渋谷を徘徊する若い娘が援交するとか男と別れるとか別れないとかダベりあう話だとか、どこにでもありそうな食堂の娘の一代記、あるいは男が嫁の愚痴を言い続ける話になります。それが未来なら、男がいなくなって何千年と経った世界の日々の話。過去なら朝廷の役職者の栄枯盛衰の俯瞰図となります。
 その「ありふれた日常」スケッチの合間に、ホラーの導入部を思わせるシュールな怪異譚やら小さな認識のズレがもたらす奇妙奇天烈な幻想譚が混ざります。
 援交する少女達の日常スケッチ「関寺小町」も、ヤクザの組長がファーストガンダムの本放送を子供の付き合いで視ているうちに自分の人生と重ね合わせてしまう「組長のはまったガンダム」も、その時代を誰の視点から切り取ったスケッチなのかというだけの違いなんです。

【BA‐BAHその他】【橋本治】【タダジュン】【筑摩書房】【ミステリアスな最新短篇小説集】【世にも不思議なハシモト・ワールド】【関寺小町】【処女の惑星】【逮捕】【ぼくとムク犬】【他人の愛情】【裏庭(バックヤード)】【孤帝記】【海】【組長のはまったガンダム】【さらば!赤い彗星のシャア―組長のはまったガンダム(後篇)】【ありふれた娘】【火宅】【バベルの塔】【BA‐BAH】
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「花物語」 橋本治

2023-07-27 | その他フィクション
「お花だけがきれいなんじゃない。きれいだと思わなくちゃ、どんなものでも、ぜったいにきれいには見えないんだよ」

 「花物語」というタイトルの本は、牧野富太郎の植物記から吉屋信子の少女小説、西尾維新の伝奇ジュブナイルといろいろありますが、これは1992年に雑誌『Myojo』に連載され、1995年に単行本化したものを2009年にフルカラーで文庫化した、橋本治とさべあのまによるイラスト小説。サクラ草から沈丁花まで、さまざまな花を題材にした15の物語が収録されていますが、登場人物は新入学児童から20代女性、主に雑誌の購読者層である小中学生が主人公で、それぞれの人生の転機となった気持ちを切り替えた瞬間にオーバーラップする花の姿が描かれます。巻末の橋本治とさべあのまの対談によれば、「教科書に載るような小説」をテーマにしたのだとか。
 ティーンエイジャーを対象とした雑誌に掲載された、マンガ家によるイラストがたっぷりついた小説ですが、これを「ライトノベル」に区分して良いのか迷いますが(認められない人も多そうだけれど)、それを言い出すとどこかにライトノベル審査会みたいなものを作って年配の文学者やら天下りの(誰が決めたか分からない)委員の判定待ちみたいになっちゃうので、原点に還って「マンガ家のイラストが付いた小説だからヨシっ!」と割り切るのがいちばん合理的です。

【花物語】【橋本治】【さべあのま】【ポプラ文庫】【サクラ草】【紫陽花】【プール】【夏休み】【夜】【秋のヒマワリ】【夕焼け】【コスモス】【夕焼け】【将来】【大掃除】【お年玉】【白い梅】【沈丁花】【旅立ち】
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「あの夏、僕らに降った雪」 比嘉智康

2023-07-10 | その他フィクション
「好きな仕事に就かなきゃダメだよ。好きでもない仕事を心身共に無事なまま続けられるほど、甘くないんだよきっと」
 特にやりたいこともないまま成績で入れる高校に入った組木湊は、やりたいこともないし大学進学するかどうかもわからないというけれど、世永莉子はそんな無気力無関心はいけないと指摘した。

 従兄のハツの身代わりで病院の治験バイトに参加した組木湊は、夜の病棟で不思議な少女と出会う。
 余命1ヶ月ないかもと軽く言う莉子は、通称・無関心病という病に冒されているという。好きだったもの、関心のあったものについての興味をどんどん失っていって、ある日突然死んでしまうと言うのだ……。

 短すぎる夏の北海道を舞台に、それよりも短かった少年と少女のボーイ・ミーツ・ガール。
 愛してくれる両親のことも、大好きだった星空や野球のことも、次の瞬間にはどうでも良くなっていて、興味や関心を失っても記憶だけが積み重なっていく少女がすごく魅力的に描かれていて、うん、それがいちばん大事と大きく頷く読後感。

【あの夏、僕らに降った雪】【比嘉智康】【hiko】【角川文庫】【奇跡のように舞い降りた一瞬の恋の物語】【アンネの日記】【スラムダンク】【闘病ドキュメンタリー】【コインゲーム】
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「殺し屋さんと始めるイチャラブ新婚セイ活」 内田弘樹

2023-07-09 | その他フィクション
 高校生の宗像直人が一人暮らしする家に極東旅行社の桜井柚香と名乗る女性に連れてこられた、無口で銀髪の美少女は東ヨーロッパ出身というソフィア・ペロフスカヤ。直人が一昨日、家の前に倒れていたのを助けた少女である。職業はプロの殺し屋。本国の組織が壊滅してしまったので、その再建まで日本に潜伏していなければならないのだが、日本の常識も知らない彼女を一人には出来ない。そこで、どうせ彼女が殺し屋であることを知ってしまった直人に面倒を見させようというのだ。
 かくして彼女のセーフハウスこと築50年のおんぼろアパートでの同居生活が始まったのだが……。

「私、必ず帰ってくる。そしてまた、ナオトと一緒に嫁、する……!」

 なにものなんだ?! 極東旅行社……。

【殺し屋さんと始めるイチャラブ新婚セイ活】【内田弘樹】【ねいび】【美少女文庫】【殺し屋さんと結婚もの】【イチャラブH】
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