付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「レジンキャストミルク8」 藤原祐

2009-06-30 | 超能力・超人・サイボーグ
 夜の学校を戦場に、虚軸である晶たちと実軸であるという樹たちとの最後の戦いが始まった。だが、その争いの中に紛れ込む者たちがいた……。

 大団円といえば大団円なのかしらん。たとえるなら、デス・スターを破壊したもののオビ=ワン・ケノービを失い、皇帝もシスの暗黒卿も健在なまま辺境惑星でつかの間の勝利に酔いしれる共和国軍。でもまあ、あれはあれで良いか……と『れじみる。Junk』を再読して納得。みんな幸せそうだもの。
 やっと読み終えました。
 買いそろえてから読み切るまでが長かったけれど、面白かったです。個性的で良いキャラばかりだったし、馴染むと別れるのが辛いな。
 ただ、主人公は設定ほど口先で相手を丸め込めるキャラに見えなかったのが残念。『悪魔のミカタ』の堂島コウくらいしたたかでも良かったのに、最終的には口先と計略ではなく、仲間との連携の方に重心が偏ってしまったのが惜しい。もう少しトントンでも良かったというか、【無限回廊】まではともかく最後の樹たちは口先と計略で退けるという展開が見たかった。結果は同じでも、過程の見せ方の話だけれど。

【レジンキャストミルク8】【藤原祐】【椋本夏夜】
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「怪しいアジアの歩き方」 クーロン黒沢・ポッチン下条

2009-06-30 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 『地球の歩き方』といえば、口コミレベルまでの詳細な情報を詰め込んだ海外旅行ガイドブックの老舗。
 『あやしい地球の歩き方』といえば、海外オタク事情や海外でマニアックなアイテムを購入したりイベントに参加した体験談をまとめた同人誌。
 で、この『怪しいアジアの歩き方』は、アジア各国で遭遇した怪しげな人々と危険な事件の数々について赤裸々に綴った体験談集。『地球の歩き方』はガイドブックの定番だし、そのタイトルをひねった『あやしい地球の歩き方』については、著者の1人であるクーロン黒沢が『香港電脳オタクマーケット』にて無許可で紹介していたそうだから、このタイトルもそのあたりを意識しているんでしょうね。
 内容的には、人の善意や好意を頭から否定するようなボッタクリの宿や飲食店や屋台や税関や警官や両替窓口や犯罪者やパックパッカーらについてのエピソードや、大麻やコカインや売春その他の国によっては犯罪だったりどこの国でも犯罪だけれどもんな普通にやっているよ……という、真っ当に添乗員付きの団体旅行に参加していたら絶対にお目にかからない/かかっちゃいけない事件の数々。
 口絵のカラー写真に写っていた「マレーシアの綾波」みたいな制服姿は面白いと思いました。

【怪しいアジアの歩き方】【クーロン黒沢】【ポッチン下条】【タイ】【カンボジア】【バングラディシュ】【ネパール】【ベトナム】【マレーシア】【シンガポール】【香港】
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「『エロイカより愛をこめて』の創りかた」 青池保子

2009-06-29 | 伝記・ノンフィクション
 1976年に始まり、先日最新35巻が発売されたスパイ・コメディ『エロイカより愛をこめて』を題材に、作者自らキャラクターのモデルとなった人物やストーリー作りの裏話から作家デビューの顛末までたっぷり書きつづった1冊。
 少女マンガゆえ堅物の軍人であるクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐を長髪にしてしまい、軍人らしくないのではと悩んだこともあったらしいけれど、ドイツ軍の広報誌『イプシロン』で紹介された後の反応は上々で結果オーライだったようです。

『本質的にはしかし、彼の髪型に関しての議論は意味がないだろう。結局のところ、「なぜジェームズ・ボンドは、いつもスーパーモデル並の美女と知り合うことができるのか?」とは誰も深く考えないのだから』

 イプシロン記事より。
 少女マンガとしては、政治軍事などについて深いところまで言及する作品ですが、現地取材や現地の人々の協力も大きいようで、必要とあれば軍事評論家や専門家に相談することもあるそうです。ドイツ軍の雑誌掲載に前後するエピソードについても1章が設けられていて、実を言えばこの詳細が読みたくてこの本を買ってたりします。
 その他合作マンガも2編収録していて、この週末でしっかり堪能させていただきました。

【『エロイカより愛をこめて』の創りかた】【青池保子】【ZEP】【ELP】【エーベルバッハ市】【イプシロン】【ビザンチン遺跡調査団】【アンドロメダから来た】【大島弓子】【おおやちき】【樹村みのり】
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「遙かなる星1~パックス・アメリカーナ」 佐藤大輔

2009-06-29 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「考えてもみろ。人間は何のために生まれたんだ? この、たかだか半径6500キロのゴミのような惑星でくたばるためか? 違う。絶対に違う。少なくとも、俺はそれを認めない。人間は、この空の上にある世界を引っ掻き回して遊ぶために生まれたんだ」
 金を稼いでしっかり税金を納め俺のやりたいことをやらせろと学生に説く黒木正一の言葉。

 佐藤大輔といえば質の高い架空戦記のシリーズを抱え、周囲にも根強いファンの多い仮想戦記作家です。その特徴は細かなIFを積み重ねて築き上げるリアルで壮大な嘘と魅力的な登場人物たち、血湧き肉躍る戦い……。
 ただ、完結しない。
 『皇国の守護者』も『レッドサン・ブラッククロス』も『地球連邦の興亡』も『侵攻作戦パシフィック・ストーム』も『逆転信長軍記』こと『覇王信長伝』こと『信長征海伝』も、そしてこの『遙かなる星』もシリーズ途中で止まったまま。シリーズもので完結したのは『征途』だけでしょうか。
 しかし『遙かなる星』は大きな戦争の途中でもなく、最終的な結末は既にプロローグなどで断片的に提示されているので、「これで完結なんだよ!」と言ってしまえば言い切れるところが心の拠り所ですね。

 太平洋戦争に敗戦した日本は独立を果たし、自衛隊を発足させるなど着々と復興しつつあったが、航空産業においては軍需産業解体により停滞が続いていた。しかし、そんな中でも着実に世界の航空産業に食い込んでいく新興の北崎重工には、宇宙ロケットに異常な執着を見せる技術者がいた。
 だが、その頃、アメリカとソ連はソ連がキューバに持ち込んだ反応弾をめぐって一触即発の危機に陥っていた……。

 北崎望という1人の老人の葬儀から始まる、宇宙を目ざした日本の物語。

「たとえ銀色ではなく、異星人を撃滅する光線兵器をそなえていなくても、ロケットはロケットなのだ」
 原田父の言葉。

 宇宙開発をテーマにしたシミュレーション小説に分類されますが、この作品最大のIFは「1人のスピーチライターの体調不良」でした。確かに清濁合わせ持って日本航空業界を牽引する北崎重工の誕生とか、宇宙ロケットにこだわる技術者・黒木正一であるとか、キーとなる架空の存在も色々とありますが、基本的には枝葉の問題にすぎません。本人が登場することもなく、実在の人物ながら名前だけちらりと出てきただけの1人の男の不在によって歴史が変わっていくところが、この作品の妙味です。

【遙かなる星】【パックス・アメリカーナ】【佐藤大輔】【鶴田謙二】【J・F・ケネディ】【フルシチョフ】【ヴェルナー・フォン・ブラウン】【セルゲイ・コロリョフ】【セオドア・C・ソレンセン】【空中発射式宇宙ロケット】
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「南溟の乾坤2~装甲空母死闘!」 内田弘樹

2009-06-28 | 架空戦記・仮想戦史
 歴史が浅いから仕方がないのだけれど、架空戦記とか仮想戦記あるいはシミュレーション戦記というジャンルは不幸なもので、関心のない外部からはクソミソに評価されがちです。
 『水戸黄門』にリアリティがない、ストーリーがワンパターンと文句をつける者は多くないし、つけても周囲に笑われるだけです。あるいは山岡荘八の『徳川家康』に萌えが足りないと文句をつける奴はおかしい(逆に萌えてもおかしいけれど)。 江戸時代を舞台にした小説といっても(『水戸黄門』は小説じゃないけれど)、時代小説もあれば歴史小説もあるし伝奇小説だってある。そして、詳しくなくてもみんななんとなくその違いは認識していると思います。
 比較的歴史の浅いSFも、さすがに最近では「ビキニ宇宙服の美女が醜悪な宇宙人に襲われる話」と思われることはないんじゃないかな。ジャンルの分け方でサイエンスフィクションだサイファイだとコップの中の戦争をすることはあっても。まあ、そんなに子供だましと思われることは少なくなりました。
 ところが、架空戦記はまだまだです。願望充足型の夢物語も知的な可能性追求のシミュレーションもひとくくりです。まあ、戦艦大和と零戦が二枚看板のジャンルですから仕方がないのかも知れませんが、ときどき一言いいたくなりますね。中身見てから話せーよ!と。
 
 さて、装甲空母の活躍を描く『南溟の乾坤』もいよいよ2巻。FS作戦も第2段階へと移行し、エスピリトゥサント島攻略フェイズへと突入します。陸軍がこの島を制圧できれば、ニューカレドニア侵攻の足がかりとなり、連合軍からオーストラリアを脱落させることも可能となるのです。
 ワンポイントながら大和と武蔵も活躍しますが、どちらにとっても厳しい戦いが続きます。この作戦を成功させるため、陸軍と海軍は綿密な連携を約束し乾坤一擲の作戦を開始しますが、それを阻止せねばならないのがアメリカです。こちらも海軍と空軍が連携し、日本艦隊殲滅のための罠を張り巡らして待ち受けます。
 欲を言えばもう少し熱いセリフ、ニヤリとできるセリフが欲しい気がします。

【南溟の乾坤】【装甲空母死闘!】【内田弘樹】【葛城型航空母艦】【葛城】【生駒】【水切り】【輸送船団】
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「宇宙大作戦~地球上陸命令」 ジェイムズ・ブリッシュ

2009-06-28 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 「自分はテレビ番組『宇宙大作戦(スタートレックTOS)』の制作には関与していないし、ジーン・ロッデンベリーと個人的な友人ではないし、シナリオや写真を譲ってやることもできないし、『宇宙大作戦』のシナリオや小説を書いて送ってこられても受け取れない」というジェイムズ・ブリッシュの宣言から始まるノヴェライズ短編集。古今東西、ファンの図々しさってのは変わらないんですね。

 『トリブル騒動』(テレビ版サブタイトル「新種クアドトリティケール」)
 『最後の決闘』(テレビ版サブタイトル「危機一髪!OK牧場の決闘」)
 『最終破壊兵器』(テレビ版サブタイトル「宇宙の巨大怪獣」)
 『地球上陸命令』(テレビ版サブタイトル「宇宙からの使者 Mr.セブン」)
 『鏡像世界』(テレビ版サブタイトル「イオン嵐の恐怖」)
 『金曜日の子供』(テレビ版サブタイトル「宿敵クリンゴンの出現」)
 『狂気の季節』(テレビ版サブタイトル「バルカン星人の秘密」)

 ノヴェライズの邦訳タイトルの方が英語版タイトルの直訳ですね。テレビ版のタイトルはこうやって見ると大げさで安っぽい気がします。「鉄の夢」などで知られるノーマン・スピンラッド脚本の『最終破壊兵器』、「人間以上」のシオドア・スタージョンが脚本の『狂気の季節』も収録。ヒューゴー賞の候補になっただか受賞しただかの作品が3本入っているけれど、自分としても好きなタイトルが多い本です。
 スラップスティック的な楽しさが小説からはいまいち伝わらない『トリブル騒動』、異星人によって「OK牧場の決闘」の世界に放り込まれて決闘を強いられるという疑似タイムトラベルものの『最後の決闘』、本当に1969年にタイムトラベルして地球文明が核戦争を回避できた原因を調査せよという命令を受けるがそこに外宇宙からの使者が混線してという『地球上陸命令』、転送事故で平行世界の自分たちと入れ替わってしまう『鏡像世界』等々。
 金森達のイラストも好きだけれど、ノヴェライズなのでユニフォームは原作準拠にしてください。

 英語サイトで調べたら、1968年のヒューゴー賞の映像部門に「バルカン星人の秘密」「イオン嵐の恐怖」「宇宙の巨大怪獣」「新種クアドトリティケール」がノミネートされてますね。でも受賞したのは「The City on the Edge of Forever」(宇宙大作戦 第28話「危険な過去への旅」)……って、すべて独占ですか。

【宇宙大作戦】【地球上陸命令】【ジェイムズ・ブリッシュ】【集団的無意識】【バーサーカー】【タイムトラベル】【猫】【平行世界】【発情期】
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「マリア様がみてる/イン ライブラリー」 今野緒雪 19

2009-06-27 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 そろそろ7月1日発売予定(アマゾンでは11日発売の表記)の新刊を早売りで買ったと都内の人間の嬉しそうな声が聞こえてきて、地方の人間がうきーっと叫んでいる6月27日です。

 学園祭が終わって数日後の放課後。考え事が多くてあまり眠れていなかった祐巳がうたた寝して目を覚ますと薔薇の館に誰もいない。祥子さまの『図書館に行ってきます』という書きおきが残っていたけれど、一向に帰ってこないので探しに出かけるのだが……。
 祥子を捜す祐巳の物語の間に挿入される、「本」をテーマにしたショートストーリー集。

 収録されているのは、蟹名静さまが長い髪を切ってロサ・カニーナになるまでの『静かなる夜のまぼろし』。意外な島津由乃の影響に納得。学園祭までの演劇部の事件を瞳子視点で再話した『ジョアナ』、水面下に潜んだ三角関係を描写した『チョコレートコート』、増え続ける学園の伝説について語った『桜組伝説』、返せなかった図書館の本の話『図書館の本』の5篇。
 『ジョアナ』では、瞳子が自分をジョアナに(おそらくは)祐巳をベスに喩えた上で即座に否定するあたり、彼女の屈折の加減が分かって面白いです。何気ない言葉の選択に、それ以上の暗喩が込められているのでしょう。ふむ。

 やはり、本当に欲しいものがあったら、面目とか体裁とか考えずにまっすぐぶつかることが大事なんでしょう。たとえ当たって砕けようとも。

【マリア様がみてる】【イン ライブラリー】【今野緒雪】 【マッチ売りの少女】【クリスマス】【白チビ】【地引き網】【温室】【枕草子】【大きなカブ】
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「レジンキャストミルク7」 藤原祐

2009-06-26 | 超能力・超人・サイボーグ
『言いたいことが山ほどあるってのは、そういうことか。
 ようやく気付いた。
 何だ、私。
 この世界、好きだったんだ』


 終わりが始まり、始まりが終わる。
 もはや、何が「虚」で何が「実」かは関係ない。自分の望んだ世界が残ればいいのだ!

 君子たちと愉しく街で遊ぶ硝子を見た舞鶴蜜は【無限回廊】や城島樹らと戦う気があるのかと城島晶を問い詰めるが、晶はこれこそが戦いなのだと答える。自分は硝子たちの日常を守るために戦う。そのためにも彼女たちには今まで通りの日常を過ごしてもらわねばならないのだと。
 そして、能力のほとんどすべてを失っても速見殊子の本質は変わっていなかった。虚軸という牙を持とうが持つまいが獣は獣であり、もっとも危険な少女だった。
 だが、彼らの前に現れたのは誰からも認識されなかった地味な少女【エデンの恍惚】。鴛野在亜はカッターナイフと毒蛇の牙で世界を作り替えていく。血と死と再生によって、自らの世界を取り戻すのだと少女は笑う。
 晶たちの反撃は間に合うのか!?

 まったく、こいつら異能戦士かい!と思いましたが、なんにせよ遅い、遅すぎる。一手遅い。
 果たして最終巻で挽回できるのでしょうか? 

【レジンキャストミルク7】【藤原祐】【椋本夏夜】【クレープ】【ハラハラ時計】【絶対言語】
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「ヨーロッパ退屈日記」 伊丹十三

2009-06-26 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
『諸君、食卓は憩いの場所である。安らぎの場所である』
『その平和の場へ、金属製のナイフとフォークという、凶器に酷似した、まがまがしい道具を持ち込むというのはいかがなものだろうか』
『そこへくるとわれわれの箸はどうです。
 この静かな簡素な形、竹や木で作られた素材感の好もしさ、しかもです、ナイフやフォークが、たかだか六、七世紀の歴史しか持たないのに反し、箸には二千年以上の歴史があるのです』


 映画俳優にしてデザイナー、エッセイスト、翻訳者、雑誌編集者そして映画監督である伊丹十三が、1961年に俳優としてヨーロッパ長期滞在したおりの見聞録をエッセイとして雑誌発表し、それをまとめた1冊。

 まだまだ日本人の海外渡航が難しかった時代の話です。ビートルズは嫌いではないけれど、その上っ面だけ真似たファッションはキライだとか、なにが粋でなにが粋でないか、男が生きていく上でこだわらければいけないことはなにか、そんなことにこだわりつつヨーロッパを眺め、日本を考えています。

【ヨーロッパ退屈日記】【伊丹十三】【嫌いなもの】【使い古された紋切り型】【ゲイリー・クーパー】【ミシュラン】【スパゲッティ】【三船敏郎】【英語と米語】
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「マリア様がみてる/特別でないただの一日」 今野緒雪 18

2009-06-25 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「残念ながら、遅刻25分までは私は何も言えないの」
 祥子さまのお許し。

 2年生の修学旅行が済むといよいよ学園祭。キャスト変更や瞳子と演劇部のトラブルもあったけれど、花寺生徒会の助っ人も加わって山百合会の舞台劇『とりかえばや物語』もいよいよ開幕。
 そのリリアン学園祭に潜り込もうとする不審な男女の姿があった……。

 男子諸君に忠告するけれど、少しでもモテたいなら文化祭で他校女子に集団でたかるのは止めた方がいいでしょう。たとえその場のノリだとしてもプラスになるとは思えないなあ……ということで、祐巳が花寺生徒会にたかられ、タクヤくんに出会い、そして「妹を作りなさい」と祥子さまに命令される話。

【マリア様がみてる】【特別でないただの一日】【今野緒雪】 【とりかえばや物語】【文化祭】【関西弁】【電動ドリル】
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「夏への扉」 R・A・ハインライン

2009-06-24 | 時間SF・次元・平行宇宙
 ハインラインといえばクラーク、アシモフと並んで海外SF御三家の1人であり20世紀を代表するSF作家。ときに右翼と呼ばれるくらいミリタリー系の作品が多い一方、『月は無慈悲な夜の女王』は社会主義革命バンザイの話だし、『異星の客』はヒッピーの経典と崇められたりしたそうな。
 右に左に自由自在だけれど、原点は「無料の昼食などない(There Ain't No Such Thing As A Free Lunch)」。これは『月は無慈悲な夜の女王』にも略称が登場した格言だけれど(*)、ミリタリーSFの古典である『宇宙の戦士』でも兵役に就かなければ参政権がないという世界設定が根幹にあります。権利を行使したければ、まず義務を果たせと言ってしまえば簡単な話。
 どの作品もそれぞれのジャンルの代表作となりうるハインラインだけれど、ベスト・オブ・SFといって常に上位に来るのがタイムトラベルがテーマでロマンティックSFの『夏への扉』ってあたりが面白い。まあ、ミリタリーとか宗教物の大長編というと敷居が高くなるからそんなもんでしょうか。

 1970年12月。婚約者に裏切られ、仕事も発明も奪い取られてしまった男が30年後に蘇る冷凍睡眠を申し込んだ。再び甦生できる保証もない未来への旅に同行するのは猫のピートだけだったが……。

 タイムパラドックスものだけれど、ネコ小説で、一種の恋愛小説で、「あきらめるな。幸せをつかむためにがんばれ」という話なので、そりゃあ面白いし、読んで元気が出るってもんです。今となっては「遙か未来」が2000年で、テクノロジー的にも古びて見える箇所は多いけれど、だからこそ古典として愉しめるのかもしれません。(09/06/24)

(*)ハインラインは1966年の『月は無慈悲な夜の女王』の中で「tanstaafl」という略称をキーワードとして用いたけれど、「無料の昼食などない」という言葉を有名にしたのはミルトン・フリードマンの1945年の論文であり、それ以前にも「フリーランチ(飲み物を1杯頼むと昼食サービスというようなアメリカで一時期流行したサービス形式)」に言及した同様の言葉はあったようです。「tanstaafl」という略称もハインライン以前の1949年に既に使われているみたいです。(09/08/04)

【夏への扉】【ハインライン】【タイムマシン】【猫】
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「COOLDOWN」 伊達将範

2009-06-23 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 白昼、オフィスビルから200人を超える社員が消失し、翌日そのうち1名が佐世保の沖合で血を抜かれた死体となって発見された。怪奇な事件に翻弄される警察だったが、それもまた前座にすぎなかった。
 死体が発見されたまさにその日。ある高校を国籍不明の武装集団が制圧し、校長を射殺すると全校生徒を軟禁。不可解な選別作業を開始した。だが、たった1人、全校集会をサボったばかりに難を逃れた少年がいたのだ……。

 なぜ日本には吸血鬼伝説がないのかとか面白いネタをちりばめながら、重武装したテロリスト集団相手に徒手空拳の生身の学生がその場しのぎの武器で戦いを挑みます。敵役のテロリストを吸血鬼にしたダイ・ハードのような話。
 それまでゲームのノベライズできていた作者のオリジナル第一作になるのかな。荒削りだけれど面白いし、続編のネタになりそうな伏線もちりばめられているので、続いても面白かったかも。このあと、『リムーブカース』で恋愛っぽい要素のある学園物+ミリタリーアクション+オカルト路線を確立して『ダディフェイス』に至る、と。ライトノベルの舞台となる場所が、異世界から現代の学校へと主流が移っていくちょうど過渡期だったようです。
 2005年の『DADDYFACE~メドゥーサ』を最後に新刊が出ていないのが残念。そろそろ新刊を読みたいところです。

【COOLDOWN】【伊達将範】【緒方剛志】【SAT】【吸血鬼】【吊り橋効果】【北朝鮮経由】
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「海浜棒球始末記(その2)~世界おしかけ武者修行」 椎名誠

2009-06-22 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
『写真に撮ってはだめだと言ってきた人を写真に撮ってどうする』
 棒球する場所を求めて辿り着いた台湾の海岸にて監視の兵隊さんに怒られる。大陸に面している側はたいてい立入禁止で軍が監視しているのです……。

 『海浜棒球始末記』で披露された浮き玉三角ベースボールのウ・リーグは、2005年にこの続編が刊行された時点でも健在で、2008年の文庫版の時点でも元気ということなんだそうです。
 その勢いが余って、世界各国に遠征して現地のチームと浮き玉三角ベースボールをしちゃおうというのが、この『世界おしかけ武者修行』。もっとも、この海浜棒球のために遠征するというより別の海外取材のついでにやっちゃおうという感じで、このテキトーさ加減も海浜棒球らしいですね。

 幽霊騒ぎとウィスキーに明け暮れたスコットランド遠征、どうやら『メコン・黄金水道をゆく』あたりの取材ついでだったらしいインドシナ遠征、海を知らないモンゴルの子供と草原を知らない島の子供を対戦させようというモンゴル遠征、浮き玉の生産地探しを兼ねた台湾・韓国遠征、そして強敵ぞろいだったパプア・ニューギニア遠征。
 この時点では浮き玉の製造工場は見つからず、昔は似たようなものを作っていてもダイオキシンが発生するからと止めているところばかり。「ダイオキシンだろうがなんだろうが、かまわずバンバン作っている」国を求めての探索が続くようです。

【世界おしかけ武者修行】【海兵棒球始末記】【椎名誠】【▲ベースボール】【妖精の輪】【麻雀台】【ビート】【臭臭鍋】【フェリー航路】
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「“文学少女”と恋する挿話集1」 野村美月

2009-06-21 | 本屋・図書館・愛書家
「文芸部部長の天野遠子--ご覧のとおりの“文学少女”よ」
 先輩がぺたんこの胸を反らして堂々と名乗りを上げるシーンがないと、このシリーズは物足りません。そういう意味では「神に臨む作家」はそこんとこだけ物足りなくもあり。そのあたりをこの短編集で解消します。

 麻貴と遠子の出会い、文芸部を辞めたかった心葉、特別な義理チョコが贈られたバレンタインデー、枝に結ばれたリボン、ゴンギツネはやっぱり生きていた、文化祭の裏で繰り広げられていた愛憎劇等々、文学少女シリーズの外伝10本を収録した短編集。時期的には井上心葉が文芸部に引きずり込まれた直後の話からその後の美羽と芥川の物語までだから、何でもあり
です。

「うちの家系はね、男は頑固でくそ真面目で、女の方は猫かぶりで、したたかなの」
 彼女はもっともっとしたたかになれるだろう。がんばれ。

【“文学少女”と恋する挿話集1】【野村美月】【アリーテ姫の冒険】【ムギと王さま】【赤い蝋燭と人魚】【夏への扉】
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「レジンキャストミルク6」 藤原祐

2009-06-20 | 超能力・超人・サイボーグ
「友達だから恐くてもいいんだ。だって、友達になら何されてもいいもん。利用されても、裏切られても、殺されても、消されても、全然いいよ」
 だから晶は、打算と計算で自分を思う存分利用すればいいのだと里緒は言う。

 速見珠子は他人をそれほど重んじていない。
 けれども自分自身の価値はそれよりずっと軽い。
 だから、殊子【目覚まし時計】は晶たちに力を貸す。お節介だと思いつつ。
 そして保険医・佐伯ネアも保健室に「本日休診」の札をかける……。

 ついに樹と【無限回廊】がその目的を明らかにし、晶は完膚無きまでに叩きのめされますが、いちばん恐いのは佐伯先生のくすくす笑いでした。自虐的で暗くて猟奇マニアで血に弱いネアですが、良いキャラになってきました。裏表紙のカットも良い感じ……。

 ストーリー的には起承転結の「転」あたりに来ています。そしていよいよ最終ラウンド。ひたすら分の悪い戦いが待っていますが、崩れそうになる晶を支えてくれるのは彼が今まで戦いの中で利用してきた「友達」です。
 個人的な小さな戦いが、世界の存続そのものを左右する戦いになるというセカイ系っていうんですか? そういう話ですが、個人的な内輪の戦いだからこそ、友達の存在は大きいんです。

【レジンキャストミルク6】【藤原祐】【椋本夏夜】【初夜】【FF3】【家族】
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