付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ようこそ女たちの王国へ」 ウェン・スペンサー

2013-04-30 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「子どものとき、自分の力で何も決めさせてもらえなかったら、大人になっても、ちゃんとした決断ができない」
 子どもが何か過ちを犯したのなら、それは教訓とされなくてはならないとマザー・エルダー。

 主人公の少年はちょっと情けないところもあるけれど、やるときはやる子で誰にでも優しく、才色兼備の女性たちにモテモテ。銃撃戦あり誘拐あり国家転覆の陰謀ありで最後はハーレムエンド、イラストはエナミカツミ……というと電撃から出ていてもおかしくない「ライトノベル」の典型のように見えるけれど、ハヤカワSFの刊行。しかも主人公はヒロイン扱いです。表紙にずらりと美女美少女が並んでいるけれど、たぶん1人は男性。少なくとも基本的に髪が長いのは男性、軍服は女性。

 武器強奪犯を追跡中だったオディーリア王女が瀕死の重傷を負ったとき、それを救ったのはウィスラーの娘たちだった。
 王女にとって幸運なことに、他の農民一家と違って下級兵士出身のウィスラー一族はその豪腕で知られていた。その娘たちは物心ついたときから実弾の詰まった銃を玩具代わりに育てられており、屋敷もそこらの軍の駐屯地よりも堅固な要塞のようであった。
 ところが、ウィスラーの長男ジェリンはあと数ヶ月で16歳。その後は近在の農家に売られるか交換で婿取りする材料にされる運命だった……。

 出生する男児の数が極端に少なくて男女比が1対20。一夫多妻だけれど女権主義で、男は家の財産であり種付馬という、男女の役割が逆転した世界の冒険譚にしてボーイ・ミーツ・ガールのお話。男は髪を伸ばしてアクセサリーで美しく装い、家事や育児がその役目で、商売をしたり兵士になるのは女の仕事です。
 よしながふみの『大奥』とか、中岡潤一郎の『スカーレット・ストーム』とか、男子の出生率・生存率が極端に下がってしまった世界の話ってのは、最近ちょこちょこ見るようになりました。これも一種のフェミニズムかな。男にとって最大のファンタジーですね。んでもって、男が極端に少ない理由は説明無し。まあ、生物学的に男女比が1対1である必然はないわけで、そういう世界もあるってことで納得。
 でも、『大奥』とか『スカーレット・ストーム』は「男が急に少なくなったので、女性の社会進出が進んだ世界」という「女の地位が高くなった」の世界なのだけれど、こちらは男が種馬扱いされる「男の地位が低い」の世界なので、なかなか読んでいて胸が痛いです。女性が胸を強調したドレスで魅力をアピールするように、男が股間をアピールした服で婿さがしのパーティーに出席する光景は……。
 ただ話が面白いのでさくさく読めてしまいますね。言ってしまえば、田舎の農民一家だけれど、母親から幼子までそろって兵士であり、盗賊であり、密偵であり、暗殺者であるという、とんでもない連中がぞろぞろ宮殿に乗り込む話です。(2007/11/09 2013/04/30改稿)

【ようこそ女たちの王国へ】【ウェン・スペンサー】【エナミカツミ】【ハヤカワ文庫SF】【弟の値段】【女系社会】【密輸】【ロマンス】【クーデター】【玉の輿】【河川砲艦】【エッチング】
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「しおかぜ荘の震災」 木村航

2013-04-30 | その他フィクション
 難病で四肢が不自由な藤島環を主人公にした『愛とカルシウム』『覆面介護師ゴージャス☆ニュードウ』に続く「しおかぜ荘」シリーズの第3弾。

 3月11日。三陸の介護施設「しおかぜ荘」にはいつもの通りの日々があった。自立を迫られる者もいれば、入所者同士でのいさかいもいつもの通り。
 だが、そんないつも通りの日常を大地震が襲う。
「逃げなきゃ!」
 でも、いったいどこへどうやって!?
 半壊した施設の中、家族の安否も周囲の状況もわからないまま、しおかぜ荘のスタッフは手探りで大地震の被害から立ち直ろうとするのだが……。 

 健康な者でさえ対応していくのが困難な状況下で、身体の汗を拭くのにもトイレにも介助が必要な入所者たちと、自らもまた被災者となった職員たちが直面した震災直後の日常を、どちらかというと冷めた視線で語っていきます。
 誰かヒーローが登場してすべて解決してめでたしということもなく、助けられる方にしても物わかりの良い善男善女とは限らず、希望はあるけれどそれはけっして楽な道ではありません。

【しおかぜ荘の震災】【車いすから見た3.11】【木村航】【双葉社カラフル】【東日本大震災】【絶望と再生の物語】【青春小説】
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「紅蓮なる弔鐘の中で~シュヴァルツェスマーケン(5)」 内田弘樹

2013-04-29 | 破滅SF・侵略・新世界
 重光線級多数を含むBETAの大攻勢に、東ドイツは崩壊の危機にあった。
 しかし、そんな中で国家保安省ベルリン派が蜂起。
 テオドールたちの部隊にもシュタージの粛正の手が迫る……。

 いつ前線が崩壊してもおかしくないという状況で、国家保安省だけが最新兵器を抱え込んで不満分子の監視と自己の反乱のための準備に余念が無いという、まったくもって救いもなければ先の展望もないという状況に、「ああ、柴犬は今回も通常運行だった」と安堵します。
 帯にも引用された「あんたは東ドイツ全将兵の最後の希望だ」というセリフも、つまり他には希望も何もないという現実の裏返し。これでちゃんと『マブラヴ』に続くのだろうから不思議だよね。

【シュヴァルツェスマーケン】【紅蓮なる弔鐘の中で】【内田弘樹】【吉宗鋼紀】【CARNELIAN】【マブラヴ・オルタネイティヴ】【ファミ通文庫】
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「ベン・トー10~バレンタインデースペシャル弁当350円」 アサウラ

2013-04-28 | 食・料理
「日本人は“限定”“今だけ”そういったものに弱い。それは我々が農耕民族の末裔であり、狩猟ではなく草木を育み、季節の恵みを享受して営みを続けてきたが故である」
 だから、ロリな少女を愛するのは日本人としてあたりまえなのだと、在りし日の霧島君。

 節分も間近になり、《東北のカナリア》の唄を聴いた《退魔師》が姿を現した。
 狩人はその分析力とパワーで幽霊を追い詰め、その行く手に立ち塞がった白梅が叩きのめされた……。

 時期は、節分からバレンタインデーまで。あいかわらず熱い戦いが繰り広げられ、ライバルとの共闘、権謀術数、友情と慕情、セガの盛衰が語られます。でも、ロリはやめとけ。茉莉花は既に確信犯の域で、「結界危うし」だけれど姉よりは妹の方が良いと思います。

「ケーキはね、罪の味がするから甘くておいしいんだよ……」
 電波さんこと、紫華蔓の言葉。

 このシリーズとか小林信彦のオヨヨ大統領シリーズは、本筋とはまったく関係ない、横道にそれた部分のエピソードとか雑学語りが作品の面白さの半分を占めています。
 小説なのに、銃とかバイクとか料理とかアイドルとか、やたら専門書か技術書かというくらい詳しく書かれた小説は少なくありませんけれど、それらは大半が本筋ストーリーの補足。マニアックな銃の描写が細かいことで知られる大藪春彦はバイオレンス小説。宇宙船のミッション描写がやけに詳しすぎる笹本祐一は宇宙SFやスペースオペラと、決して本筋と補足はかい離していません。
 でも、「オヨヨ大統領」ではストーリーは情報や資金の争奪戦であり、スパイ小説とかハードボイルド小説の基本ラインなのに、主人公は放送作家だったり料理人だったりDJとかで、創生期のテレビ業界の裏側とか、日活や東映のアクション映画のよもやまとか、料理のうんちくとかやたら詳しいし、それ抜きだと面白さ半減なのです。
 この「ベン・トー」も、基本フォーマットは仲間やライバルたちと切磋琢磨していく格闘技小説とか番長マンガのソレなのに、やっていることが半額弁当の争奪戦。それをあくまで真面目に熱く語っていて、弁当や食事の描写がやけに詳しく美味そうで、そのギャップが面白さの半分。そして残り半分が、セガの盛衰とか石岡くんの悲惨な過去エピソードであり、佐藤父母のダメさ加減であり、筋肉質な男性同士の同性愛小説であり、男子寮のモテない男たちの歪んだ言動であり、その他もろもろの余計ごとなのです。これを抜いてしまったら、単なる格闘技小説のパロディでしかありません。
 さて、その「余計ごと」で気になっているのは、霧島くんと心霊現象研究部のくだり。あくまで主人公たちは知らない裏の話になっていますが、これが表に出ませんように。それだけは信じております。
 ほら、ポール・ウィルソンの『城塞』という小説があってね、東欧の古城で吸血鬼と戦うナチスドイツの軍隊の話。前半はミリタリーアクションとホラーの融合っぽくて面白かったのに、その話の合間合間に遥か遠方から駆けつけてくる男の描写があって、誰だろう?と思っていたらそいつが本当の主人公で、後半はそいつが主役の単なるヒロイック・ファンタジーになってがっかりしたことがあるのです。あれはいかんわ(これは個人の感想であり、作品の評価・完成度をあらわすものではありません)。

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「東雲侑子は全ての小説をあいしつづける」 森橋ビンゴ

2013-04-27 | 本屋・図書館・愛書家
 英太と侑子も3年生になった。卒業後の進路を考えなくてはならない時期だ。
 小説家という夢を既に実現してしまい、さらに大学進学を考えている侑子に対して、英太はやりたい事が分からない……。

 2人の物語もこれにて完結。何を考えているか分かりにくそうな侑子が分かりやすい選択をしたのに対して、英太の選択が分かりにくいこと。分かりやすいといえば分かりやすいし、ある意味で現実的な選択ではあるけれど、焦燥に駆られたあげく一番困難な道を選んだなあ。でも、それくらい自分に修行僧みたいな重しを背負わせないとつり合わないということでしょうが、スケジュール的に1年以上はズレが生じるかと思います。迷ったときは地獄へ続く道を選べと言いますが、まさに地獄行き。
 避妊の確認をするおねえちゃんは前向きで責任感があり過ぎますが。

 そういえばニューヨークあたりにアメリカの大学進学を前提にした英語学校があって、その関係者に話を聞いたことがあるけれど、単なる英語の読み書きだけではなく、英語の受験勉強でレポートのひとつも書けるところまで学習しないといけないんだから生半可な姿勢では落ちこぼれるよ。その覚悟があるならいらっしゃいとのことでした。

【東雲侑子は全ての小説をあいしつづける】【森橋ビンゴ】【Nardack】【ファミ通文庫】【もどかしく苦いラブストーリー】【お泊まり旅行】【大阪】【三角関係】【恋愛小説】
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「織田信奈の野望10」 春日みかげ

2013-04-26 | 戦国転生・歴史改変
 初っ端から温泉でスクール水着の少女軍師たちに囲まれるところから始まります。白と黒のエクスタシー。毛利との戦いはこれからなのに宗教勢力との対立が勃発し前途多難。まあ、波瀾万丈なのが戦国ものの常なので、平常運転。

「いつか必ず死ぬ定めだからこそ、ぎりぎりの瞬間まで生きなければいけないの。幸福も不幸も絶望も苦悩も、すべて生の中にあるの」
 四方全てが敵となり、圧倒的な戦力差に陥った織田信奈は絶望などしない。

 軍師を奪還したものの、一度は和睦した本猫寺が反旗を翻し、門徒が各地の不満分子と結びついて蜂起が相次ぐ。さらには毛利の水軍に九鬼が撃破され、もはや信奈たちに逃げ道は無くなっていた……。

 雑賀衆の鉄砲が合戦を形を変えていきます。それは信奈たちも分かっていて避けたかった未来の1つでした。
 勝つためには手段を選ばない明智十兵衛と、滅びの美学をひたすら追究する天然Mの山中鹿之助のコンビ話をもうちょいじっくり読める機会があればと願ってます。
 でも、五右衛門はどうしたのかな。

【織田信奈の野望】【春日みかげ】【みやま零】【GA文庫】【天下布武ラブコメディ】【温泉】【スクール水着】【褌】【狙撃】【山中馬鹿之助】【三種の神器】【ヤコブの梯子】
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「宇宙戦争1945」 横山信義

2013-04-25 | 破滅SF・侵略・新世界
 第二次大戦のさなか、真珠湾奇襲を試みた帝国海軍が謎のトライポッドに先手を取られたところから始まる、架空戦記での宇宙戦争。前作から2年、リアルタイムで1年近く経っての完結編です。

 世界大戦を起こすほど敵対し合い、疑心暗鬼に陥っていた世界各国だったが、かろうじて統合軍を発足させるまでに至った。ヒトラーやムッソリーニがチャーチルやスターリンと殺し合うことなく同席する日が来たのだ。
 だが、そこにもたらされたものは、太陽系外より敵本隊接近との報。本隊が地球到達するまでに、ボルネオの敵基地を破壊して揚陸を阻止しなければならない。
 世界の総力をあげた反攻部隊がついに動き出した……。

 地球の静止軌道直下、ボルネオの火星人基地破壊を試みるオリンピック作戦の顛末ですが、感想は「お約束」って素晴らしい!のひとこと。外伝としてスペースナチスとか宇宙戦争2013とかやれる余地も有りますね。
 敵対しあっていたものたちが苦難の末に一致団結しての反撃の開始です。残されたすべての工廠・造船所がフル稼働し、(当時の技術での)最新兵器を次々に前線へと送り出してきます。各地に散っていた艦隊や航空機のパイロットたちも続々集結してきます。
 なんというか、スーパーロボット大戦みたいなものかな。悔いを残さないよう、用意された晴れ舞台で後腐れ無く戦う巨艦、駆逐艦、重爆撃機たち。加藤隼戦闘隊から野中一家、空の魔王ルーデルやスターリングラードの白百合の競演です。
 ただ、個人的にはこの作戦に間に合わせるための技術者や作業員たちの苦労や奮闘まで読みたかったのですが、紙幅の都合もありますし、「この艦種にこんな兵装が」とか「この機体にこんなパイロットが」という意外性とトレードオフなので残念です。

【宇宙戦争1943】【横山信義】【高荷義之】【朝日ノベルズ】【「起こらなかった太平洋戦争」から始まった架空戦記】【D-Day】【アインシュタイン】
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「宇宙の漂流者」 トム・ゴドウィン

2013-04-24 | 宇宙漂流・遭難
 小学校とか中学の頃は、学校の図書館に江戸川乱歩の少年探偵シリーズや岩崎書店のSFロマン文庫などが置いてあり、夢中になって読んでいました。少年探偵ものは一般書店でも売っていたから、小遣いを貯めて毎月1冊づつ買って揃えたけれど、さすがにSFロマン文庫の方は本屋では見ませんでした。その中でも、トム・ゴドウィンの『宇宙の漂流者』は印象的で好きな話だったから何度でも借りた本です。卒業してからも、妹に頼んで借り出してもらってきたくらい。
 1994年の第33回日本SF大会RYUCONでのこと。深夜のコテージでみんなが車座になって、それぞれが影響を受けたSF作品について雑談してきたときに、名も知らない相手からぽろりと名前が出てきたのもこの作品でした(あのときは取り乱して申し訳ない)。

 異星人の帝国との戦いが勃発した直後。地球の植民船が拿捕され、植民不可能とみなされていた惑星ラグナロクに乗員乗客が放置された。
 女子供ばかりでは歩くこともままならぬ1.5Gの高重力で、夏は灼熱、冬は極寒、金属資源は皆無に等しく、危険な動物や病気が絶え間なく襲ってくる世界で、生存者たちは生き延び、知識を蓄え、反撃の芽を育てていく……。

 いろいろな主人公たちが精一杯、生きて、戦い、後に引き継ぐモノを残して死んでいく200年の物語なのです。

 SF小説といえばヒーローが活躍するものと思いこみかけていた身にはショックな話でしたね。もう主人公が次々に死ぬことといったら……。子供向けの全集ですから、A5サイズで200頁くらいの本ですが、本当に1章ごとぐらいに主人公が入れ替わるんです。生き延びるだけで精一杯という状況で、親から子へ、子から孫へ、今にも失われそうな科学技術を伝えながら倒れていく人々の群像劇。最終章では第6世代になっていました(数年前に『俺の屍を越えてゆけ』というゲームがありましたが、あれのSF版といえば判ってもらえるかな?)。
 大学時代に、この作品のことをふいに思い出し、その作者の他の作品を調べて納得。『冷たい方程式』の人だったんですね。
 「1人を助けようとすれば大勢が死ぬ。大勢を助けるためには1人が死ななければならない」……ああ、どちらも同じテーマだ。

 で、長いこと探していましたが、岩崎書店の2006年度新刊に、なぜか『SF名作コレクション』を発見。アマゾンも岩崎も、2005年9月刊行ってことになってるし、書店情報もそうだけれど、bk1の出版社レビューが2006.8だぞ……。それはともかく、その中の『宇宙のサバイバル戦争』がゴドウィンの『宇宙の漂流者』の改題と判明。これは、表紙イラストもタイトルも改悪だね。訳が変わってないことだけが救い。それを補って余りある復刻の価値は認めよう……でも、やっぱりセンス悪いよな。写真左はサバイバル臭さを前面に出し、SFなのかマタギの話かタイトルを見ないと分からない旧岩崎版。でも内容的には正しい。
 中イラストはB級テイスト満載で、アルバトロスフィルム配給かよ!?な復刻岩崎版。福地孝次はきらいじゃないけど、こりゃなかろう。
 なんといっても、イラストレイターに想像力だか原作の読み込みが不足している気はします。たとえば「高重力下での落石によって月面のように無数の穴が開いている」という描写に、プレーリードックの巣穴のようにほとんど同じ大きさが等間隔で並んでいるのはおかしかろう? もうちょっと大きさに差があるとか、穴位置が重なり合うとかしてる方がらしいよね。
 トップイラストは2003年にペーパーバックで復刻された中短編集(アマゾンではもうプレミア価格7000円)。タイトルは「冷たい方程式」だけれどタイトルイラストは「宇宙の漂流者」。これに続編が収録される噂もあったけれど、結局ハズレ。こちらの収録作品は『宇宙の漂流者』「The Harvest」「Brain Teaser」『発明の母』「Empathy」「No Species Alone」「The Gulf Between」『冷たい方程式』。
 『宇宙の漂流者』の続編は「The Space Barbarians」。作者が1980年に没してますのでこの2冊でサバイバーズ・シリーズはすべて。刊行は 1964年。ペーパーバックの中古で1200円くらい。長編といっても昔の長編なのでそんなに長くないから読むのは不可能じゃないけれど、シリーズ2作目のアタリって少ないよね。買って翻訳までして読む価値があるか、悩むよなあ。学生時代なら、もっと気軽に読めただろうけど……もう無理。単語も文法も頭に残ってません。そもそも読み通す根気がないと思う(和書の積ん読状態を顧みるに)。(2009.8/26改稿)

 2012年10月のSFコンベンション「ミューコン15」の古書市にてピラミッド・ブックス版を購入。横文字なんて普段読み慣れていないし、表紙や背表紙レイアウトはてんでんばらばらで、どれがタイトルやらあおり文句だかわかりにくいのがペーパーバック。その古書の山を掘り返していて、なんだかなーという1冊を発見しました。
 トム・ゴドウィンに「SPACE PRIZON」なんてタイトルの作品があったかなと裏表紙を確認。表紙に「原題:SURVIVORS」とあるのを確認して購入。たぶん読まないので、単なるコレクターアイテムです。続編の方ならがんばりますけれど……。(2012/10/21)

 AMAZONとかで検索してみると、30年前に没した著者なのに『宇宙の漂流者』の方は改題したものも含めて8種類はすぐにバージョン違いや他国語版がみつかりますが(キンドル版を除く)、『The Space Barbarians』の方は1964年版のペーパーバック1種類のみ。この差は続編がつまらなかったからじゃないかなあ……と思ったのだけれど、googleで「The Space Barbarians tom godwin」で検索したら本文がつらつらっと。まだ、著作者の死後50年も経ってないぞ……と思うけれど、PDFフリー版なんだそうな。(2013/04/24)

 ヤフオクで1973年の岩崎SF少年文庫版が出品されているのを確認し、無事落札。そこまで安くはないですけれど、ほぼ40年探し続けて神保町の児童書専門の古書店から札幌、名古屋、大阪と古書店を見つけるたびに覗いて回った手間暇を思えばタダみたいなもんです。(2022/12/02) 

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「覆面作家は二人いる」 北村薫

2013-04-24 | ミステリー・推理小説
「知識を結びつけるのが、頭の働きじゃないでしょうか?」
 匿名希望の新妻千秋の言葉。

 姓は「覆面」、名は「作家」。
 若手編集者の岡部が担当することになった、このふざけた名前の新人推理作家は、弱冠19歳で美貌の大富豪令嬢、新妻千明だった……。

 家の中では声も小さなお嬢さまが、1歩(本当に1歩だけ)自宅の門を踏み出すや、性格も一変してケンカ上等の「外弁慶」に。こんなお嬢さまが名探偵ぶりを発揮して、編集のリョースケと組んでさまざまな謎を解決していく覆面作家シリーズの1冊目。
 これは二重人格ではないかとか、いやまて門から出た途端に性格が豹変するなんて嘘っぱちで双子の娘にからかわれているんじゃないかという表題作も含めた3篇を収録。
 ミステリは気軽に読めて、読後感が愉しいのが良いと思うようになりました。

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★妖怪や幽霊を捜査する警察組織

2013-04-23 | ランキング・カテゴリー
 明かなファンタジー世界ではなく現代社会やよく似た歴史上の場所を舞台としているのに、妖怪や幽霊や魔法による事件が起きていて、その存在を公権力が認識していて対策する部署を設置しているものを思いつくまま。

「魔術師が多すぎる」 ランドル・ギャレット
 科学の代わりに魔術が発達したロンドンで起きた密室殺人を捜査するダーシー卿の事件簿。魔法ミステリの元祖的なパラレル・ワールドもの。

「妖獣都市」 菊池秀行
 普通の人は知らないけれど、人間界と魔界の共存を維持するため、魔界の過激派たちと人知れず戦い続けている闇ガードという組織があって……。

「S.P.A.T.!」 鷹野祐希
 誰もが幽霊を見ることができるようになった時代。幽霊専門の警視庁特務課に配属された新米婦警が、幽霊相手に聞き込みしたりする話。

「全裸男と柴犬男」 香月日輪
 普通の人は知らないけれど、オカルト専門の警視庁生活安全部遊撃捜査班という部署があって……。

「神のまにまに」
 ある日突然、八百万の神々が雲隠れしてしまった。この事態に対処するため政府は諮問機関を設置した……。

「妖怪アパートの幽雅な日常」 香月日輪
 ヴァチカンにはコングレッソ・ヴィエタートという奇跡狩りの部署があり、世界の霊的治安を担っているとか……。

「バッカーノ!」 成田良悟
 普通の人は知らないけれど、既に禁酒法の時代のアメリカではFBIが不老不死の魔術師たちの動向を監視していて……。

「レイセン」 林トモアキ
 普通の人は知らないけれど、日本にもオカルト事件に対処する組織が、陸上自衛隊・第40普通科連隊、警察庁特別資料室、宮内庁神霊班の3系統あって……。

「大魔王作戦」 ポール・アンダースン
 魔法や妖魔が普通に存在しているパラレルワールド。キリスト教圏の連合軍とサラセン教主軍の間に第二次大戦が起こるが、その裏では各国のスパイ組織による攻防も激化していた。

「かみあり」 染屋カイコ
 大阪から転校してきた少女は知らなかったけれど、神在月の出雲では、普通に神さまや悪魔や式神やらが跋扈していて……。

「英国パラソル奇譚」 ゲイル・キャリガー
 狼男や吸血鬼や普通に存在しているヴィクトリア朝ロンドン。異界管理局と関わり合うことになったオールド・ミスが……。

「憑き物おとします」 佐々木禎子
 誰もが幽霊を見ることができるようになった時代。霊障専門の保険会社とかもあって。

「オカルトリック」 大間九郎
 普通に超常現象による事件が起きているパラレルワールド。普通の警察には手に余るけれど専門部署が出張るほどは大規模な事件ではない……というときにお呼びのかかるオカルト探偵事務所の物語。

「となりにヴァンパイア」みたいに、人間は知らないけれど妖怪たちの世界にも警察みたいな組織はあって……というものまで含めると数が一気に増えそうなので、とりあえず除外。
 「ベン・トー」の心霊研究部は、もはやなんとなく闇ガードっぽくなってきましたが、まだ正体不明なので保留。6重結界を張って封印というあたり、部活って怖いなー。
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「のうりん6」 白鳥士郎

2013-04-23 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「農家って個人事業主だけれど、農協出荷しているとサラリーマンみたいな部分があるからさ」
 だから新しいことに挑戦しにくく保守的になりがちで、独自の試みをすることが難しいと畑耕作。

 留学生のアメリカ娘は巨乳になって出戻ってくるし、中学生が学校見学に来るし、 稲刈りもしなくちゃいけない。農業高校は今日も大忙しだが、農業を取り巻く環境は日々厳しくなっていく……。

 日本の伝統食がどれだけ輸入に頼っているのか、農業人口の高齢化は既に限界に来ているとか。これは戦争だ、しかも負け戦だという叫びが響きます。
 TPP参加によって日本の農業がどう変わっていくのか、そのメリットやデメリットについて、今いちばん手軽で分かりやすく詳しく記した本かもしれません。シモネタ満載なのはあいかわらずですが、女性関係ではへなちょこな主人公も、こと農業に関しては熱く語ります。

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「甘城ブリリアントパーク」 賀東招二

2013-04-22 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 アマゾンでは角川ファンタジア文庫と表記されていましたが、ありゃあなんなんでしょうね。奥付以外にはっきり「富士見」と入ってないのがいかんのでしょうか?

 謎の転校生・千斗いすずにマスケット銃を突きつけられ、なかば拉致されるようにうらぶれた遊園地「甘城ブリリアントパーク」に連れてこられた可児江西也。
 そこで彼はラティファという“本物の”お姫様に引き合わされ、この『甘城ブリリアントパーク』の支配人になって欲しいと頼まれるのだが……。

 夢の王国は本当に夢の王国で、ファンタジー世界の住人たちはそこで楽しむ人たちの心から生きる糧を得ているのだけれど……という「中の人などいない」お話で、廃園寸前の遊園地を立て直すことになるらしい。
 今回は物語の始まりということで、時間制限もあって駆け足気味。まだ「現代世界に実在していたファンタジー世界の住人たちの物語」としても「会社建て直しのビジネス・ストーリー」としても、ちょっと半端。(株)魔法製作所のシリーズとか好きなので、こちらにも期待したいと思います。

【甘城ブリリアントパーク】【賀東招二】【なかじまゆか】【富士見ファンタジア文庫】【デジマーランド】【ふもっふ】
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「ローマ法王に米を食べさせた男」 高野誠鮮

2013-04-21 | 食・料理
「県ではこんなやり方、許されないぞ」
 農家の状況が年々悪くなっているのに、そんなことを言って前例踏襲から脱却できないから県庁はダメなのだ。

 それまで東京でUFO番組の構成作家などをしていた著者が、実家の都合で石川県に帰り、なんとかみつけた仕事が市役所の臨時職員。町おこしに取り組んで前例の無い事業に果敢に挑んでいたばかりに上司に難癖つけられて農林水産課へ飛ばされてしまいます。
 そこで限界集落となっていた神子原地区の活性化に挑んだ顛末がこの1冊。

「可能性の無視は、最大の悪策である」
 1%でも可能性があるならやってみよう。会議ばかりで実行しないから結果が出ないのだ。そして、それがダメでも次がある。どんな小さな手でも片っ端から実行していけばいい。
 もちろん前段階として、十分な情報収集があってのこと。へたな鉄砲も数撃ちゃあたるというのと、むやみやたらに動くのとは違うのだ。
 NASAやロシアの宇宙局から本物の月の石や宇宙船を引っ張ってきたり、米の生育を偵察衛星で監視したり、バチカンに米を献上したりとやることは派手で大きいのだけれど、意外に予算はかかっておらずスゴイ発想というものでもありません。
 ただ、前例踏襲に甘んじることなく、事前の情報収集は徹底的に行い、何を何のためにするのかという理念をしっかり定め、その上で思いついた方策は片端から実行するということ。そして、なにかをやるときはまず外部に向けて、より遠くに向けて仕掛け、万が一にもその手が成功したら大きなマスコミから発信させる。だから、地元の人間が知るのがいちばん最後になりがちだけれど、「外堀から埋める」方が効果が大きいのです。あと、コネは大事。
 そして、アラン・デュカスあなどりがたし。

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「つきたま2」 森田季節

2013-04-20 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「ありもしなかったことを、失われたこととして語るのは、独裁者が権力を握る際の常套手段ですよ」
 最近、心の奥底にしまっていたものを吐き出しやすくなっている、鶴見満流。

 鶴見満流は箕原市の市職員。「つきたま」と呼ばれる人畜無害で、人によって見えたり見えなかったりする謎のスライムの処理をすることがお仕事。
 ところが、高級なお店で美人上司に奢ってもらっていたら、いきなり自分は国家安全保障にかかわるプロジェクトの一員であり、彼女に協力しなければ利根川(多摩川でも可)に浮かぶことになると言い出した……。

 正体不明のつきたまを巡って、自称“魔法少女”と自称“吸血鬼”の対立に巻き込まれた地方公務員の奮闘話。今回はそれにさらなる第3の意志が介入し、保身に走る地方公務員は四苦八苦。
 でも、ここまでいい加減だといるかんも怪しいよね。

【つきたま2】【※公務員のお仕事楽しいです】【森田季節】【osa】【ガガガ文庫】【公務員の窓口業務ネタとぷにぷにの物体満載のやわらか公務員小説】【土蜘蛛】【入浴】【トイレ】【大中小文字焼き】【焼きそばライス】【夏祭り】【プチ修羅場】
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★魔王が主人公

2013-04-19 | ランキング・カテゴリー
「魔王ダンテ」永井豪(1971)

「BASTARD!! 暗黒の破壊神」萩原一至(1988)

「地獄戦士魔王」苅部誠(1994)

「まおゆう魔王勇者」橙乃ままれ(2009)

「はたらく魔王さま!」和ヶ原聡司(2011)

 とりあえず思いついたものだけ。最近だと『オーバーロード』とかを加えてもいいかな。
 ダンテの頃はオカルトでシリアスだったけれど、バスタードの頃からRPGの要素が入ってコメディ的な要素が強くなっていくわけです。最近のは、RPG風小説のバリエーションが出尽くしての逆転現象のような気がするけれど、この源流は『ワードナの逆襲』から始まり、『AZITO』へと続くパソコンゲームの系譜かもしれません。

 魔王小説とピカレスク小説とは少しニュアンスが異なるのだけれど、「魔王」に限らず、単に従来のカテゴリーでは悪役・敵役という役回りの存在が主役というと、『怪人フー・マンチュー』とか『ファントマ』みたいに悪くて怖いヤツが主役の話は当然として、歌舞伎『楼門五三桐』の石川五右衛門とかコミック『ルパンIII世』まで普通にあるし、なんだったら『泣いた赤鬼』を加えたって良い。
 そもそも視点の違いで善悪がひっくり返るのは茶飯事。
 これを初めて実感したのは、『宇宙大作戦(スタートレック)』の「未確認惑星の岩石人間」の回。「善と悪」の代理戦争ということで善のサイドに主役メンバーやエイブラハム・リンカーンが加わるのは当然として、悪のサイドにジンギスカンがいたことでした。ジンギスカンったら、「義経は大陸に渡ってジンギスカンになったのであります」……などとどこぞの校長先生の口の端に上るくらい、日本では小学校の図書館に普通に伝記が置かれていた偉人。それが悪人扱いなんだ。
 1974年放映の『仮面ライダーX』でも、悪人軍団にジンギスカンコンドルとかサソリジェロニモとかクモナポレオンとか、悪人と言い切って良いのか疑問に思うラインナップです。
 そりゃあ、攻め込まれたヨーロッパから見たら、チンギスハンは悪人だし、豊臣秀吉だってそうだよなあ。
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