近くの量販電気店が閉店になるというので、DVDを半額で買い込んできました。
そのうちの1枚が『刑事コロンボ~別れのワイン』。今回の犯人はドナルド・プリーゼンス(パッケージのキャスト。DVD内のデータではプレゼンス)。『ミクロの決死圏』の循環器医、『007は二度死ぬ』のブロフェルド、『大脱走』の偽造屋、『鷲は舞い降りた』のハインリッヒ・ヒムラー…と、SFやホラーや戦争映画で何かと見かける俳優。
そういう俳優がワインをこよなく愛する殺人者を演じるとなれば、観なくちゃなるまい。
「自由という概念は相対的なものですからね。ほんとうの牢獄のほうがまだましでしょうよ」
意に沿わない結婚より牢獄の方がマシだと、エイドリアン・カシーニの言葉。
これはミステリとしては最後までコロンボは物証を手に入れていません。トリックの存在を証明する手段は高温にさらされたワインだけで、それが本当に痛んでいるかどうか判断できる人間は犯人くらいしかおらず、しかもそれが確証となるかというと幾らでも言い逃れができる類の話です。結局、犯人の自供だけがすべてで、裁判で被告が供述を翻したら簡単に無罪判決になるでしょう。
それがあのラストシーンで納得するのは、犯人が常習的犯罪者ではなく、本当なら尊敬すべき人物だと視聴者に伝わっているから。このシリーズは、有名俳優が著名人の犯罪者を演じるというのが1つの売りですが、それゆえ、「それって証拠は(半ばダマされての)自白しかないよね?」というオチでも、いったん犯人が納得するなり追い込まれて自白すればもうジタバタあがいたりはしなかろうという暗黙の了解があるのです。
そのあたりの機微を理解せず、単なるパズルゲームとして見ると、たぶん面白くないよね。
同じボックスに収録されているのが、もう1つ好きなエピソード『二つの顔』。こちらのゲスト(犯人役)はマーチン・ランドー。『スペース1999』や『スパイ大作戦』でお馴染みの顔が、犬猿の仲の双子役に挑戦してます。
中学生の頃、1ヶ月ほどアメリカにホームステイしていたことがあります。
といっても、夏休みを利用してのことなので、本式に向こうの学校で学んだわけでもなく、アウトドアが好きなわけでもないので……まあ、ひがな一日、ペルシャ猫を膝の上に乗せ、ぼーっとテレビを観ているだけという、今の自分が見たら尻を蹴飛ばして外に放り出しそうなガキでした。
そのときがちょうど『スペース1999』の第2シーズン(サイコン人マヤの出てくる方)放映開始直前で、テレビではさんざんスポットCMが流れていて、染まってしまったのでした。だから僕にとってのアメリカというのは、『SPACE1999』であり、『STAR TREK』であり、『Josie & The Pussycats』や『Paint Your Wagon』であり、他の経験はすべてその上に乗っかっているようなもので、マーチン・ランドーもスパイ大作戦ではなく、1999の人なんですね……。(2007/08/27)
「だいたい都会を舞台にした金田一耕助は面白くないね」
横溝正史の言葉。
NHK放映当時にサラブレッド・ブックスから刊行されたノベライズのあとがきは、石上三登志と横溝正史の対談で、コロンボ談義と言いながらヴァン・ダインや87分署の話とかしていますが、そこでノベライズについてもひとこと。
ノベライズの元はシナリオなのだけれど、それに状況や心理描写の意味まで書き込みしてあるので、それをもとに小説にしているというので、訳といっても単なる翻訳ではなかったようです。
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