付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「マリア様がみてる/黄薔薇革命」 今野緒雪 02

2009-02-28 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「友達なんて、そういう損な役回りを引き受けるためにいるようなものよ」
 紅薔薇さまの言葉。

 黄薔薇のつぼみの妹である島津由乃は、病弱で物静かな美少女。しかし、それが彼女のほんの一面に過ぎないことを知る者はほとんどいなかった……。

 黄薔薇革命の顛末を記した1冊。
 白薔薇さまといい、写真部のエース武嶋蔦子さんといい、男だったら即座に変質者として吊し上げられること間違いなしのキャラが良い味を出してます。普通だったら単なるイロモノに終わりそうな彼女らが、巻を追うごとにじっくり熟成されていく過程が1つのチェックポイントですね。

【マリア様がみてる】 【黄薔薇革命】【今野緒雪】【百面相】【温室】【破局】
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「シャーロック・ホームズ対ドラキュラ」 J・H・ワトスン

2009-02-27 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「実に初歩的なことです」

 「シャーロック・ホームズ・イレギュラーズ」を読んでいたらけっこう面白そうなホームズもののパロディが紹介されていて、これどこかで手に入れて読みたいなー……と思ってよく考えたら書架のいちばん上に押し込んでありました……。

 1978年。未納分の税金に充当するため、カナダで死亡した老ヴァーナー博士の遺品がオークションにかけられた。その中から発見されたのは、1890年にシャーロック・ホームズが遭遇した語られなかった事件の顛末。吸血鬼のロンドン侵攻に対して、名探偵がいかに関わったかという記録だった……。

 まあ、あくまで本筋の活躍はヴァン・ヘルシングに譲らなくてはいけないので、ホームズはサポートに徹しているところが少し物足りなくはありますが、訳者あとがきのルーマニア旅行記とホームズ・パロディ紹介で元は取れたかな。
 ラストのワトスン対伯爵も良い感じ。

【シャーロック・ホームズ対ドラキュラ】【あるいは血まみれ伯爵の冒険】【J・H・ワトスン】【ローレン・D・エスルマン】【吸血鬼】【名探偵】【パロディ】
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「アラスカ戦線」 ハンス・オットー・マイスナー

2009-02-25 | 戦記・戦史・軍事
 太平洋戦争さなかの1944年。アメリカ本土爆撃に必要な気象情報を入手するため、日本軍の特殊部隊がアラスカの森林地帯へと侵入した。10人の日本兵を率いるのは、元オリンピック・メダリストの日高遠三大尉。
 しかし、その電波を米軍も察知し、野獣監視人アラン・マックルイアをガイドにアラスカ・スカウトとの合同部隊を編成して森林地帯に部隊を投入するのだが……。


……という、アラスカを部隊にした日本兵とアメリカ人のサバイバルをドイツ人が書いた話。考証的におかしな点が皆無ではないけれど、欺し欺され、追いつ追われのサバイバルゲームにして男たちの戦いは、ささいな点など気にさせません。

「ハワイ諸島は昔からアメリカのものだったか? なぜアメリカはプエルトリコを、グアムを、ウポルを治めているのか? 有色人種の希望でか? テキサスとカルフォルニアにはどうしてやって来たのか? 弱体のメキシコを略奪するためではなかったか! ネヴァダ、アリゾナ、ニューメキシコ……(以下略)」
 なぜ日本はこんな戦争を始めたかとアランに訊ねられた刀自本少尉が正当防衛だと言い張る返答の一部。狂気の暴論と一蹴されますが、このくだりはけっこう長いので、アメリカ人には書けなかったかも知れません。

 後日談も良い感じに締めくくられています。

【アラスカ戦線】【ハンス・オットー・マイスナー】【気象情報】【純白のオオシカ】【巨熊】
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「紅はこべ」 バロネス・オルツィ

2009-02-24 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「どんなときだってイギリス人の頭は、フランス人の頭に負けやしないんだからね」
 パーシー・ブレイクニーの言葉。

 フランス革命のさなか、処刑されようとしている貴族をフランスからイギリスへと救いだしていく秘密組織があった。その名を「紅はこべ」という。
 元フランス座の花形女優であり、今はイギリス貴族パーシー卿の夫人であるマルグリートは、兄を救うため「紅はこべ」の正体をさぐる密命を与えられるのだが……。

 恐怖政治が吹き荒れるパリとロンドンを舞台にした冒険活劇にして陰謀劇。巧妙な計画で次々に脱出を成功させるイギリスの秘密結社対フランスのスパイ組織との攻防の結末やいかに。名作文学の定番だけれど、面白いよねー。

【紅はこべ】【バロネス・オルツィ】【フランス革命】【地下組織】
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「女王陛下のユリシーズ号」 アリステア・マクリーン

2009-02-23 | 戦記・戦史・軍事
 さて、ここで問題です。

Q:
 『女王陛下の007』
 『女王陛下のプティアンジェ』
 『女王陛下のモンティ・パイソン』
 『女王陛下のユリシーズ号』

 この中で仲間はずれはどれでしょう?

A:『女王陛下のユリシーズ号』

 他の3作品は女王統治下のイギリスの話だけれど、『女王陛下のユリシーズ号』だけは第二次世界大戦、つまり国王統治下のイギリス艦の話。誤訳なんだけれど、こちらの方がカッコイイから無問題ってことだったらしい。英国軍艦ユリシーズ号の波瀾万丈の冒険譚……じゃあないなあ。どちらかというと末期戦。

 Uボートひしめく北極海航路。そこに大局的に見れば必然、当事者にしてみれば無茶無謀な作戦で、輸送船団が送り出されることになる。なんとか援助物資を送り届けてソ連を支援しないといけないのだ。
 その護衛につくのは、歴戦の勇者である旧式軽巡<ユリシーズ>、駆逐艦が6隻、そして廃艦寸前の空母2隻(艦載機なし)。しかも叛乱騒ぎの中で出航したため、乗員は傷病兵か営倉から引っ張り出されたばかりの男たち。燃料も片道分。戦艦大和の沖縄特攻が大名旅行に思えるありさまで、果たして輸送船団は港にたどり着けるのだろうか……。

 えっと、たどり着けませんでしたっ!
 冒険小説で分類されがちだけれど冒険小説じゃない。男の生き様といえば男の生き様なんだけれど、こりゃ違うでしょ。

【女王陛下のユリシーズ号】【アリステア・マクリーン】【輸送船団】
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「恐るべきさぬきうどん~麺地創造の巻」 麺通団

2009-02-22 | 食・料理
 友人夫婦が四国へ旅行へ行った。
 二泊三日でさぬきうどんを食べまくるという愉しい旅だ。ええい、うらやましいっ!
 そう思いながら、近所の大きな新古書店へ行くと閉店セールで小説やマンガからゲームやDVDまで全品7割引。そこで見つけたのが、ユースケ・サンタマリア主演の『UDON』コメディアンとしてアメリカで一旗あげるつもりが挫折して故郷香川へ帰ってきた男が、タウン誌の編集バイトをしているうちに、さぬきうどんの魅力を世に広めていくようになる……という話。
 その映画をぼーっと観ながら、あー、うどく食いてえと思いつつ本棚の前を通りかかると棚の本が左右に倒れて、その奥から出てきたのが、この『恐るべきさぬきうどん』。……よくできた話だ。

 こちらは、『UDON』の元ネタとなったタウン誌で連載していたさぬきうどん店の紹介記事をまとめたものを、さらに抜粋してまとめたもの。前のバージョンは、その讃岐に行った友人から借りて読んだけれど、自分でも1冊持っていてもいいよなと新潮OH!文庫版を購入しました。
 なんというか、飲食店紹介というより会話文主体で秘境探訪みたいなノリが好きでした。

「お前な、ラジオの生と新規のうどん店とどっちが大事なんや」
 そりゃあ、仕事よりうどん。

 件の友人はちゃんとお土産に製麺所でうどんを買ってきてくれました。
 現地で食べるにはかなわないだろうけれど、おいしかったなあ……♪

【恐るべきさぬきうどん】【麺通団】
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「かまいたち」 宮部みゆき

2009-02-21 | 時代・歴史・武侠小説
 最近では、宮部みゆきの小説も、小中学生向きの青い鳥文庫で読めるのです。それも内容的には一般向けと変わらず、ただ難しい漢字を減らしてルビをふってあるだけの違いです。収録されているのは、「霊験お初」シリーズ他の時代ミステリ短編。
 それでも、ラノベ風のイラストがついていると、手にとって受ける印象が全く違いますね。新潮文庫版はかなりおどろおどろしいのに、青い鳥文庫は本当に明るくはつらつした感じの時代小説です。というか、『ステップファザー・ステップ』や『この子だれの子』なんか、誰が小中学生向けの文庫に入れようと思いついたのかしらね。侮りがたし。
 
【かまいたち】【宮部みゆき】【霊験お初】
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「異星から来た妖精」 シルヴィア・L・エングダール

2009-02-20 | ファーストコンタクト
 『異星から来た妖精』の扱いはハヤカワ文庫FTだけれど、これはSFだろ?と思いました。タイトルに妖精とついていたら中身に関係なくファンタジーかいっ?

「世の中には、種類の違う真実がある」

 惑星アンドレシアは地球でいうなら中世レベルの惑星。その星に目をつけた「帝国」が植民地にせんと開発チームを送り込み、パワーショベルで森を切り拓いていく光景は、現地人には竜が暴れているようにしか見えません。
 しかし、その帝国をさらに監視する者がいました。アンドレシアよりも帝国よりも高度な文明が宇宙には存在していたのです。けれども、彼らは帝国によるアンドレシアの開発は阻止したかったけれど、自らの存在が露見することも望みませんでした。そこで、現地人の木樵が彼らの仲間である少女エレーナに接触し、彼女を仙女と思いこんだのを利用するのですが……。

 ファーストコンタクトものとしても、英雄譚としても、スパイアクションとしても、どんな方向にでも面白くなったと思うのに、結局はどちらにも中途半端にまとまってしまいました。
 生まれた文明が高度なだけの少女が未開の原住民を操って、拡大志向の帝国の野望の1つを阻止しました。終わり……って。

【異星から来た妖精】【エングダール】【ファースト・コンタクト】
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「四畳半神話大系」 森見登美彦

2009-02-19 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
『私は神々に対する怒りで震えた。
 もっとほかにすることはないのか』


 京都の大学3回生である主人公が回想する2年間の大学生活。
 入学直後の大学構内で手渡された4枚のチラシ。映画サークル「みそぎ」、「弟子求む」、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関「福猫飯店」……。
 他の3枚のちらしのどれかを選んでいれば、こんなざまにはならなかったと悔やみつつ、どれを選んだところで……
 裏切り者で悪友の小津、仙人とも称される謎の樋口師匠、歯科技工士で酒豪の羽貫さん、城塞の如く孤高の明石さん……。彼の周囲に現れる人たちが繰り広げる、どこかで見たような4つの物語。

 なにひとつ何し遂げないまま大学生活の2年間を棒に振った大学生が回想しながら責任転嫁しつつ、ターニングポイント「コロッセウム」に向かって押し流されていく話。
 初めて読んだ森見登美彦の作品が『夜は短し歩けよ乙女』であり、そこから遡って『四畳半神話大系』を手を取ったのだけれど、見覚えのある人の姿や風景がそこかしこにあって懐かしいですね……っていうのもおかしいのかな。京都の大学生が繰り広げる摩訶不思議で退廃的な日常生活が、繰り返し語られます。映像化するなら押井守って路線ですね。うん。そういうこともあるかもしれん。いや、自分の大学生活も書き方によっては、こんな話になったやもしれん。

【四畳半神話大系】【森見登美彦】【ラブドール】【黒髪の乙女】【亀の子束子】【峨眉書房】【海底二万海里】【図書館警察】【平行世界】
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「天空の姉妹と雲の騎士」 ゆうきりん

2009-02-18 | 破滅SF・侵略・新世界
 大気汚染のため、人々が高山地帯に移り住んでいる世界。主な移動手段は航空機であった。
 農薬散布を生業とする飛行機乗りの少年コウは、隣国の偵察機に襲われている輸送機を助けようと飛び込み、逆に撃墜されてしまう。だが、それがコウと輸送機……<ノルガート>を住まいとする4姉妹との出会いだった……。

 これも『スカイシティの秘密』と同じく、大気汚染によって覆われた地上世界と高空世界に隔絶した世界が舞台。正義感にあふれるけれど実力いまだ未熟な少年が、空の世界に隠れ住む4姉妹を守って戦う冒険活劇。こういう単純明快な活劇って面白いよね。
 あえて不満を言うなら、飛行機の活躍シーンが少ないこと。まともなドッグファイトが冒頭にちょろりだけだし、せっかくの舞台となる<ノルガート>の図解もあっていいよね。老パイロットたちも、結局、最後まで酒場でラジオ聴きながら飲んだくれているだけだし、そのあたりの物足りない点を次巻以後で晴らしてくれるかな?

【天空の姉妹と雲の騎士】【ゆうきりん】【天と地】【水冷エンジン】【姫】
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「中東戦争全史」 山崎雅弘

2009-02-17 | 戦記・戦史・軍事
 中東で繰り広げられている戦争とテロの歴史を、紀元前のそもそもの始まりから説き起こし、政治外交から軍事的な面まできちんと網羅して解説したもの。
 これを読むと、きれいごとの理屈ではどうにもならない状況がよく分かります。何千年という歴史の中でねじれにねじれ、こじれにこじれたものを、世界大戦におけるイギリスの二枚舌外交(三枚かな?)が煽って火をつけて放り投げたわけで、終始救いがないひどい話。
 救いがあるといえば、「どんなときでも人は諦めなかった」ということだけだけれど、諦めなかったからこそここまで酷くなっている話というのもわかるので、やっぱり救いがないです。

【中東戦争全史】【山崎雅弘】【パレスチナ】
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「マップス・シェアワールド2~天翔る船」 原作:長谷川裕一

2009-02-16 | バイオシップ・人工知能
 他の作者の作った物語世界を舞台に、別の作家たちが物語を書きつづるシェアワールド。そのマップス版の第2巻。1冊目以上の充実ぶりです。
 どれもしっかりした物語であり、1つ1つの完成度は高く、なおかつ、あくまで『マップス』の世界なのですね。メインストーリーの裏側だったり後日談だったりしますが、冒険活劇あり歴史と伝承の連なりあり、泣ける話もエッチな話もあるという短編集。そして、各作品の合間にはさまる、あろひろしの『アマニさん』がいいわー。

「始まりと同時に複数の壁サークルには並べまい?」

 とにかく、次に何が来るのかわからない。どれがいちばん好きと断言できないというか、どれもいちばん好きと言い切れる短編集。外れなしです。

【マップス】【シェアワールド】【天翔る船】【長谷川裕一】【葛西伸哉】【笹本祐一】【新城カズマ】【友野詳】【西野かつみ】【山本弘】【あろひろし】【あらいずみるい】【環望】【クロノダイバー】
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「アフリカにょろり旅」 青山潤

2009-02-15 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「ウナギは、新月の夜、マリアナの海山で産卵する」

 確認されている世界のウナギは全部で18種類。しかし、東京大学海洋研究所にはそのうちの17種類しか標本が存在していない。なんとか、18番目のラビアータ種を採取して完璧なコレクションとしなくてはならないと、ウナギグループの研究員たちは空路アフリカへ!
 限られた予算、ろくに通じない言葉、50度超の気温、水無トイレ、住血吸虫だらけの真水、撤去されない地雷原、そしてウナギを知らない漁師たち……。
 過酷な環境のもと、次第に身体は衰弱し、心が折れていく研究者たち。果たして熱帯ウナギ捕獲は成功するのか!?

 単なる学術調査なのに、第三者から見れば命がけの探検記にして冒険記。実際、誰か死んでしまっていたら、のんきに笑って読んでもいられません。自然相手のフィールドワークは国内でもかなり過酷。それがインフラも整っていないアフリカとなったらなおさらのこと。単なる学術調査もサバイバルとなります。
 ところが、これがマイペースで旅してるだけとなると一転してしまうらしく、やっとの思いでたどり着いた先に、普通のバックパッカーや白人観光客がにこにこと歩いていたりして、そりゃあ、もう笑うしかないよなあ。秘境は挑む者の心の中にあるのです。

 普通の日本人にとってウナギなんてものは土用の日に食べるものだとか、名古屋はひつまぶしが名物らしいとか、中国産もあるらしいよとか、その程度の理解なんだろうと思います。
 では、ニホンウナギの産卵場をほぼ特定したといっても、それに何の意味があるのか。「特定した」と「ほぼ特定した」の間にある越えがたい溝。そのあたり、学問の意義とか意味ってものも考えさせられる話としても読めます。

【アフリカにょろり旅】【青山潤】【ジンバブエ】【エッグカレー】【フィールドワーク】
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「海洋冒険譚~山本周五郎全集」 山本周五郎

2009-02-14 | ミステリー・推理小説
 自宅に山本周五郎全集があったので、小中学生の時分は天気の良い日には縁側に寝転がって『寝ぼけ署長』や『正雪記』とかを読みふけっていたもので……それでもって明るさに目をやられてクラクラしたりしたわけです。そんなわけで、山本周五郎はあらかた読んだつもりではあったけれど、実は山本周五郎が戦前の少年少女向けに書いていた探偵小説や冒険小説あたりはまったくの手つかずだったのですね。

 その山本周五郎の黒歴史を集大成したような『山本周五郎全集』が作品社から刊行されたわけで、おそるおそる手をつけ始めたところです。まずは海洋冒険譚から……といっても、航海で云々という話はほとんどなく、絶海の孤島とか海辺を舞台にしたりした話が多いですね。渥美半島の先っぽに航海の難所があるといわれると頭を抱えますが、田原藩の藩領はもちろん、天領やら寺領が入り組んでいるので、総合的な開発は遅れていたと聞いたことがありますが、そういうイメージだったのかなあ……。
 新潮文庫の目録では、『寝ぼけ署長』を“山本周五郎唯一のミステリ作品”みたいに解説してますが、そんなことないんですね。
 話としては、某国の間諜から日本の秘密を守るために少年(といっても当時の中学生だから今の高校生だな)が獅子奮迅の活躍をする「囮船第一号」他、闇空から襲い来る怪鳥、海から襲撃してくるエイ、南海の孤島の類人猿、難破船に出没する怪物と、もう血湧き肉躍り、怪奇に血も凍る……と、今の視点では大笑いしちゃいそうなテイストを真面目に味わうのが醍醐味。
 今ではあたりまえのスキューバダイビングも、当時の感覚では夢の超兵器扱いだよね。クストー先生、ありがとう。

【山本周五郎全集】【海洋冒険譚】【難破船】【漂流船】【仮装戦闘艦】【渥美半島】【上海】
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「悪魔のミカタ666(6) ノットB」 うえお久光

2009-02-13 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「自分自身を試せること……そして勝つこと……この快感は、何物にも、代えられない」

 子供の時間は終わった。
 法王庁から世界各国の諜報機関まで、今まで静観していた、世界滅亡の鍵を握る666番目の知恵の実<It>をめぐる争いへ、大人たちの裏の世界が介入すべく動き出す。
 その頃、内閣情報調査室別室は、堂島コウの分身として生まれたノットB、ノビ・コーヘイとの接触に成功していた。
 だが、葉切洋平が生み出したノビ・コーヘイもまた独自に仲間を集め、反撃の準備を整えていた。
「いらない犠牲はいらない。みんなで幸せになろう」

 広げるだけ広げた伏線を一斉に畳んでいく666シリーズもターニングポイント。今回はノビ・コーヘイをめぐる物語。
 ある意味、何も成し遂げられないまま、今ここで人生が終わっても文句を言う筋合いはないというような堂島コウの状況に対して、ノビは……ノビ……十分幸せのような気がするけれど……なあ。これは、再び堂島コウ視点に戻らないとなんともいえないけれど、権力も財力もない。あるのは仲間だけの徒手空拳の戦いという、ある意味、正統派主人公路線を突っ走っています。
 そもそも、自分自身の存在が認めてもらえない、器も中身も誰かに造られたというのは、きついわなあ。刊行ペースが落ちてきているだけに、今後の展開にしばらくやきもきさせられそうです。

【悪魔のミカタ666】【ノットB】【うえお久光】【20歳】【神】【悪魔】
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