付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「精霊探偵」 梶尾真治

2008-02-29 | その他SF(スコシフシギとかも)
 交通事故で同乗していた妻を亡くした新海は、生きる力を失い、世捨て人のような生活を送っていた。そんな彼を心配する喫茶「そめちめ」のマスターやママの紹介で、新海に会いたいという男がやってきた。行方不明の妻を捜して欲しいというのだ。
 新海は事故以来、他人の背後霊が見えるようになっており、その背後霊たちの様子からモノ探しに成功したことが何度かあり、シロウト探偵としてひそかに評価が高まりつつあったらしい。
 成り行きから探偵のまねごとで人捜しをすることになった新海の助手に名乗りを上げたのは、新海によって母親の虐待から救われた小学生の久永小夢(さゆめ)だった。
 しかし、行方不明の主婦を捜す新海らの前に、ヌエのような奇妙な絵の描かれたカードが出現する。そしてその絵とそっくりな文様の書かれた土器が博物館から盗み出されたというニュースが報じられたあたりから、彼らの人捜しは意外な方向へと転がり始めていた……。


 普通の人とは違うモノが見えるようになった男だけが気づいた世界の危機。
 そりゃあ『おもいでエマノン』から『サラマンダー殲滅』や『占星王をぶっとばせ!』までテリトリーが広い作家なので何がどう来るか、緊張しつつ読み進めます。うん、はあ、こう来るか!?
 「SF」という天秤の上で、「泣かせる話」と「バカ話」がふらふら揺れているような作品を書く作家です。一歩間違えたら「カードバトル」か「スタンド戦」になりそうなネタを、そうと気づかせないまま「ちょっと泣かせる不思議な話」に落とし込みました。ただ、物語を「生者と死者」「妻と夫」という箱へ落とし込んでいく中で、せっかく頑張っていた小夢ちゃんがラストでちょっと影が薄くなってしまったのが残念。そして意外に存在感が大きくなっていったのがホームレスの荒戸さんでした。

【精霊探偵】【梶尾真治】【盗まれた街】【背後霊】【またたび】【失踪者】
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「あくまデふぁんたジー!?」 神野オキナ

2008-02-28 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「悪魔は人を幸せにするお手伝いをする存在です」
 悪魔の教師ベルヴィナの言葉。言われてみれば、そのとーりだよな?

 人間に召喚され、よっしゃコレで魂まきあげたら一人前だと張り切って飛び出した悪魔ランニーヤ。召喚場所にいた高校生・倫弥の願いをうまく3つ叶えたまでは良かったけれど、直後にペルヴィナ先生に説教され、契約解除されてしまう。人を欺したり脅すような契約は認められませんと。
 かくして、ぺったん悪魔ランニーヤは半人前の見習い扱いから抜け出すべく、倫弥の家に居候して願いを叶えるチャンスを待つことにしたのだが、その行く手には倫弥の凶悪な双子の妹やら魔法陣の本当の制作者である美人生徒会長など障害は幾らでも控えていた……。

 神野オキナはぼくが読むのに抵抗がない作家の1人。つまり書いたものを読んでいて、違和感なく自分の中にするする入っていくのです。なかにはどうしてもキャラクターのセリフが肌に合わないとか、なんか展開に引っかかりを感じてしまうとか、そういう本はあるのですが、そういうことがないんですねえ。
 つまり自分的に安心して読める本を書いてくれる人。読むアルカリイオン飲料。
 間の取り方とか話の転がし方も好き。たとえば、いきなり悪魔が学校にやってきて見学しようという話になり……
 当然のごとく、大問題になった。
とすっぱり言い切る。あれこれ言わずに、ひとことでぶった切るところはぶった切る。こういう感覚が好き。
 あるいは逆に羽が生えて空をぷかぷか飛んでいようが、シッポやツノがあろうが、それをすべて「個性」でひっくるめてしまう感性が好き。

 ただ、ヒロインの主人公への思いが歪んだ方向へ行ったまま戻ってこないなあとか、雑誌掲載をまとめただけに1話完結の連続ドラマ風の展開だったのが、最後の1節だけなんか浮いた感じの短編になってしまっていたりとか、主人公の隠れた才能が半端で披露しても今さら誰も驚かなかったりと、あれこれツッコミたいところはあるけれど、まあ全体として面白かったからいいや。
 あと、鈴ノ原家のメイドの久日霧子さんはボトムズ野郎が元ネタだと思ったけれど、そんなハードボイルドっぽいところは微塵もなく、勘違いかなあ……。

【あくまデふぁんたジー!?】【神野オキナ】【デュエル】【悪魔】【居候】【格闘家集団】
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「黄土の奔流」 生島治郎

2008-02-27 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 ゲーム絡みで冒険旅行だ、大陸浪人だと騒いでいたときに「そういうことなら最低これは読んでおかなくちゃ」と周囲から薦められたのが、生島治郎の『黄土の奔流』。

 世界大戦後の1923年。列強各国が利権獲得にひしめきあう上海租界。一攫千金を求めて15年前に大陸へ渡ってきた紅真吾だったが、32回目の誕生日を目前に無一文となっていた。
 そんなとき、紅は起死回生の儲け話を持ちかけられる。重慶から豚の毛を買い付けてこいというのだ。豚の毛とはいえ、当時は上質のものならかなり高値が付いた。しかも治安の悪化している大陸奥地の重慶の産といえば、行って戻るというだけでも命の危険にさらされる土地だけに儲けも大きい。
 そこで紅は仕事を引き受け、無頼な大陸浪人たちを率いて揚子江数千キロの旅に出た。行く手に待つのは天然の難所、土匪・軍閥の襲撃、そして仲間の裏切り……?

 大戦間期の中国大陸を舞台に展開する冒険小説の傑作。
 この時代の上海は「魔都」だの「イエローバビロン」だのと呼ばれるような街でした。出島感覚で清朝政府が外国人を封じ込めようと設定した租界は、単なる外国人居住区からいつしか商人たちの自治区となり、ロンドンやニューヨークと並ぶ世界の金融取引の中心になり、そして世界各国から集まってきた商人や冒険者や犯罪者たちが割拠する街となっていました。世界各地からの貨客船が横付けする一方、河川を使って中国奥地との交易もおこなわれていたわけで、この物語もそうした時代を背景に展開しています。
 一方、租界の外はどうかというと、清朝政府が倒れ、中華民国が1912年に樹立したというものの、実際は国民党と共産党が覇権争いを繰り広げ、広大な大陸のあちらこちらに軍閥が一大勢力を築いている群雄割拠状態。中央政府の威光なんてありゃしません。
 そんな状態で、儲け話に危険に飛び込む男たちの運命やいかに。

【黄土の奔流】【生島治郎】【豚毛】【大陸浪人】【揚子江】【軍閥】
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「獅王争覇!~虎は躍り、龍は微笑む」 嬉野秋彦

2008-02-26 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 金の瞳の少年・琥珀は孤児ながら華洲が天下に誇る二つの武術院の一つ、雷星武術院の緑科に学んでいた。
 しかし美しい親友・龍童と出かけた街中で、ライバル校・幻風武術院の生徒に袋だたきにされるままになっていた上級生、勇仁を助けたことから対抗戦“獅王争覇”に出場することになる。だが今年の獅王争覇は単なる2校の交流試合ではなく、天覧試合だったのだ……。

 軽く読める中華風の学園ストーリー。

【学園】【武術系】
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「七本腕のジェシカ」 木村航

2008-02-26 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「正義には流行りすたりがあるの」
 蛋白資源培養施設でのジェシカの言葉。

 人間による混沌文明期が終わり、不死者による汎不死社会が始まって何千年。生命に貴賤はなく、すべて消費されるべきカロリー資源であり、ただ消費されるためのルールが幾つかあるだけ。そしてそのカロリー循環の体系から外れた不死の貴族が、限りある命の人間やクローンたちを統治するようになっている。
 だが、それとても絶対ではない。千年に一度現れる裁定者によって大契約に定められた「刈り入れ」が行われるのだ。

 そして貴族ヘルマが支配する施療院都市ヴァレトゥディナリアにも刈り入れの季節が訪れた。どこからともなく姿を現した少女ジェシカ。彼女こそ<七本腕のジェシカ>と呼ばれ、死すべき命の人間でありながら、7柱の魔王をその身に封じ込めた裁定者。汎不死社会を支配する貴族の磨き抜かれた尊き魂の前に立ちはだかる地獄の門……。

 ライトノベルの皮をかぶったヘビーな話がまたスタートしました。
 不死の吸血鬼が支配する都市。魔物が跋扈する荒野。そして素肌マントに巨乳ロリータ……。カロリーと魂の生態系世界がすごく独特で、それを紐解いて見せていく過程が面白いです。
 ただ、その一方でジェシカが弱みを見せるのが早すぎかなと思いました。戦闘力では裁定者ジェシカは無敵確定ではありますが、精神的にちょっともろいところが早めに出てます。もっと終盤で良いのに。それから都市の肌触りが伝わりにくいのが残念。たぶんメタリックなホワイトなんだろうけど、漆喰なのか、プラスチックなのかとか、具体的な街の姿が見えにくかったな。
 この巻では主人公がほとんど何もしてないので、とりあえず次回はドーンッと派手なバトルから始まると良いなと期待してます。

【吸血鬼】【未来世界】【クローン】【魔王】【鎖】
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「マシアス・ギリの失脚」 池澤夏樹

2008-02-25 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「わからないね。自分たちの記憶にあるもののどこまでが想像の産物で、どこからが現実なのか」
 旅行者ポール・ケッチの言葉。

 面白かった!と思っても、何度も読み返す気力の起きない本があります。『マシアス・ギリの失脚』もその1冊。本棚に置いておきたい1冊だけれど、分厚く重く読むのがツライ。今なら分冊刊行かなあ。これでも1人の男の生涯、1つの国のすべてを語り尽くすには足りないのだろうけども。

 マシアス・ギリは南洋のナビダード民主共和国の大統領。島民たちは純朴で政敵もいない。かつては日本で暮らしていたこともあり、日本とのパイプを活かして島の観光開発も進めようとしている。
 だが、日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消失したことから、順風満帆に見えた彼の独裁にかげりが見え始める。亡霊は本当に存在するのか。巫女の力を侮ってはいけなかったのか。
 南の海の小さな島の独裁者が失脚するまでの顛末を、異国の地で生き抜いた少年時代をフラッシュバックさせながら描く幻想と現実の物語。

「一国を運営するのに思想などない方がいいのかもしれない」
 マシアス・ギリ最後のメッセージ。

 マシアス自身が経済大国(戦後)日本のカリカチュア的な存在なんでしょうね。純朴な島民の迷信を侮った、精神的には半分日本人である大統領がしっぺ返しを食らう話。けっして悪い人間でも、愚かでも、不親切だったわけではないし、島を何年も統治して発展させた……けれど、彼の望みは島の望みでもなかった。
 何が真実で何が幻想なのか、誰の言葉が真実かそれとも真実などないのか。不思議な読後感の物語。

【マシアス・ギリの失脚】【池澤夏樹】【バス】【精霊と巫女】【鳥】【ホテル】【海と椰子と空】
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「北洋船団 女ドクター航海記」 田村京子

2008-02-24 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 昭和57年(1982)、函館港を出港したサケマス業母船<明洋丸>には女医が乗り込んでいた。商船大学すら女人禁制の時代としてはこれはまったくもって前代未聞なこと。
 船医として乗り込んだのは麻酔科医の女性。昔は船員になりたいという夢を持っていた著者が簡単な仕事といわれて引き受けたのは、総員で1000人を超える船団を1人で面倒見る船医の仕事だった。直前に内定していた医師にキャンセルされた船団としても、麻酔科医だろうと女医だろうと「いないよりはマシ」と前例のない女医を受け入れたのだけれど……。

 史上初の女船医として2ヶ月の北洋漁業に同行したドクターの奮闘録。手術台を含めて6畳ほどの診察室とベッドが七床の入院室が職場のすべてという環境に、せめてこれだけはと持ち込んだ最新式の麻酔設備と道楽半分の鍼治療の用具一式が意外な活躍をする一幕もあり。なにかあっても容易には病院に搬送もできない北洋で、歯痛や盲腸から鮭の頭突きで肛門が腫れたとかアレルギーでショック状態とかさまざまな症例に立ち向かいます。そして仕事の合間に卓球を楽しんだり釣りをしたりという、男1000人に女1人の航海……。
 読んで愉しい航海記でした。

【北洋船団 女ドクター航海記】【田村京子】【麻酔科】【鍼】【ダイエット】【女医】【遠洋漁業】
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「第三帝国の神殿にて~ナチス軍需相の証言」 アルベルト・シュペーア

2008-02-23 | 戦記・戦史・軍事
「全ファシズムがまったくシャボン玉のように破裂してしまった」
 1945年7月、アルフレート・ヨーゼフ・フェルディナント・ヨードル上級大将。

 宣伝省の建物や総統官邸の改修工事に携わったことから、建築デザイナーであったシュペーアはヒトラーやゲッベルスの知己を得るようになり、ベルリン建設総監、兵器・弾薬大臣、軍需・軍事生産大臣と、次第に政府で登用されるようになっていく。

 彼がナチスドイツでの意志決定にどの程度かかわっていたかについては諸説あるけれど、単にヒトラー好みの芸術家ではなく、テクノクラートとして極めて有能であったことは間違いありません。連合軍の反撃によって都市に、ダムに、軍需工場に次々に爆撃が行われ、たまらずヒトラーに訴えたところ「君なら必ず解決できる!」とだけ言われておしまい。それでもなんとか生産体制を最低限の損害で稼働させ続けたのですから。
 それでもいちばんの危機はボールベアリング工場が空襲を受けたときのことだったとか。ちっぽけな鉄の玉を生産する5つかそこらの小さな工場がすべて吹き飛んでしまえば、3ヶ月後には数千の軍需工場が全てストップしてしまうのです。
 ベアリングをなめちゃいけねーな。

 獄中でのメモをもとに執筆した回想録なので自己弁護や正当化も人間だから多少はあるだろうけれど、ここで語られる政府や軍上層部内での人間関係とか出世……というより生き残りのテクニックは必読。言うことがころころ変わって、他人の意見をなかなか認めないし機嫌を損ねると殺されかねない上司の下で出世して生き残る方法はそうそう読めないよ。

【第三帝国の神殿にて】【ナチス軍需相の証言】【アルベルト・シュペーア】【軍需産業】【テクノクラート】
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「THE MIGHTY SATURNS」 スペースクラフト・フィルム

2008-02-22 | エッセー・人文・科学
 DVD『THE MIGHTY SATURNS』が到着。1960年代のサターンロケットの記録映像を3枚組でたっぷり6時間というもの。面白くもあり退屈でもあり。いやあ、貴重なんだけど、貴重すぎて、わかんねー☆
 いやね、3枚それぞれに音楽が入り、インタビューなんかを組み込まれた1時間くらいの「番組」になっているのも入っているんだけれど、大半は……というか、そこがこのDVDの目玉でもあるのだけれど……記録映像ママなのですね。
 サターン・ロケットの燃料タンクを組み付けるシーンが無音で淡々と続いたり、燃焼試験の光景が無音で延々と続いたり、カメラBやCの映像が無音で……。
 面白くもあり、退屈でもあり……って、わかってもらえるかしら。

【サターン】【燃焼実験】【打ち上げ】【ロケット】
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「サージャント・グリズリー」 彩峰優

2008-02-21 | その他フィクション
「救出活動なんてね、人質を捨てれば案外簡単に片付くイージーな問題なの」
 助けに来たはずの人質をあっさり盾にした少佐の言葉。それは「救出」ではないよね……。

 いじめられっ子の玖流玖準を助けたのは転校生の銀髪美少女。でも助けられた準にはハイイログマのぬいぐるみをかぶったマッチョな男にしか見えなかった。しかも黒い軍服。
「グリズリー・軍曹と申します。ふつつか者ですが、どうぞよろしく」
 呆然とするしかない準に、グリズリー軍曹は友人成立だと親しく接してくれるのだが……。

 つかみのインパクトは十分。面白かった。でも構成は荒削りで、個人的には途中失速した感じ。
 たぶん、それが面白いと思ってやっているんだろうけれど、準から焼きそばパンとかタバコとか200円前後の金品をたかろうとする不良は徹底的にぶちのめして「弱者を救うのも我が使命と考えている」なんて言っていた軍曹が、いきなり生活費1万円を取り上げて買い物しちまった妹の「少佐」や豚だなんだとののしり袋だたきにする剣士・美月の行動は見事にスルーするかなあ?
 あるいは死んで良い人間といけない人間がいるのか、軍曹周囲の人々が準にだけクマやサーモンやブルドッグに見えるのには理由があるのか無いのか。
 そういう不徹底というか不整合な部分が喉に刺さった小骨になってしまいました。(08.02.17)

 中2長男もいつの間にか読了していたというので訊いてみた。
「200円のパンをおごらせ袋だたきなのに、1万円の本はスルーって許せるか?」
 そしたら
「サーモン本だからOK」
 そうかっ! サーモンだからOKかっ!!……って、違うべ?

【サージャント・グリズリー】【彩峰優】【グリズリー】【裏の世界】【サーモン】【居候】
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「真夏の夜のケツバット~なつき☆フルスイング!2」 樹戸英斗

2008-02-21 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「現実は、火星の環境よりも厳しいよ……」
 就職戦線で苦戦する浅切直美のぼやき。

 夢魔は存在する。
 人の心の弱みや悩みにつけこみ、夢を叶えてやる代わりに生命力を吸い取っていくのだ。契約もしないのに勝手に願いをかなえていく悪魔のような連中だ。肩を壊した野球選手に元通りの球を投げる力を与え、足が動けなくなった陸上選手に元気に駆け回る脚を与える。でもそれはすべてまやかし。
 その夢魔を宿主から追い出し滅するには、特殊な金属バットで相手の尻を思いっきりぶっ飛ばすこと。だが智紀と夏希の持つ金属バット型夢魔殲滅用個人兵器は既に機能停止寸前だった。
「軽いノリでブルマーが穿けますか! あたし、あと半年足らずで25になるんですよっ!?」
 そして2人の前に現れた巨象機関のオズワルド博士とジェシカの目的は何か!?

 ケツバットで夢魔と戦う『なつき☆フルスイング!』の第2作。
 壊れかけたケツバットで小説世界に逃避する女子中学生を救おうとしたり、夢魔の力で走れるようになった陸上選手をまた歩けない身体に戻さなくてはいけないとか、なかなか葛藤の多い3話構成。新たな夢魔砕きバットを手に入れるために、彼らが支払った代償とは何か。
 きっちり重いテーマを描いてもさらっと軽いノリの展開で流せるのも、「夢魔を祓うにはケツバット」のアイデアのおかげです。

【真夏の夜のケツバット】【なつき☆フルスイング!2】【樹戸英斗】【夢魔】【ケツバット】【実験体】
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「モンストラムレッド~悪魔のミカタ666(5)」 うえお久光

2008-02-20 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
みこし祭りで、巫女しまくり!
 文化祭の裏のキャッチフレーズ。

 悪魔のミカタとなって魂を集めることで、殺された恋人・日奈を復活させようという堂島コウの試みは、当事者のコウの知らないところで最終段階に突入していた。しかし日奈の復活に反対する葉切洋平は<知恵の実>を奪い取ることで自分をコウのコピーと化し、記憶も人格も姿形もコウそのものとなって洋平の存在は消えた。そして何を考えているのか、コピーされたコウ「ノットB」も行方が知れなくなる。
 さまざまな人物や勢力の思惑が絡んで動きだし、日炉理坂が少しずつ変わり始めていた……。

 今まで呉越同舟的に行動していた人たちが、それぞれの思惑で動き出した666シリーズ。今号はメガネッ子&巫女バンザイ!の回にして、やっぱりサクラがいちばん怖かった……という話。
 666になってから毎巻二転三転していて、なんというか起承転転転転転……という感じで目が離せません。今回はとりあえず文化祭への伏線、動き出した大人たちの思惑がかいま見え始め、ついに夕陽を連れた男が動き出し、あちこちでみんなが恐ろしい本性を剥き出しにし始めます。なんのかんのといって、「悪魔のミカタをしてでも、殺された恋人を生き返らす!」というコウがいちばん普通の人でないのかね……。

【悪魔のミカタ】【666】【モンストラムレッド】【うえお久光】【素肌に男物のカッターシャツ】【夕陽を連れた男】
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「雅先生の地球侵略日誌」 直月秋政

2008-02-19 | その他SF(スコシフシギとかも)
「ついに俺も歴代組織の仲間入りかぁ」
 地球遠征軍総司令官サーティン皇子のお言葉。

 英語教師の雅先生は、実は地球侵略にやってきたクァークゴ帝国遠征軍の首席補佐官ワルザードの仮の姿。しかし銀河に名をとどろかせるクァークゴ軍が歴戦の名提督や帝国最高の科学者たちを擁して送り込んだ大軍団とあろうものが、248戦248敗。それもこれも彼らの前に立ちふさがる5人組のスーパーヒーローのせいなのだ。
 けれども、各国の官邸や重要施設を破壊して国家機能をマヒさせるとか、気象操作で自然災害を引き起こしたり大陸を水没させたりとか、短期決着のための手段をワルザードが提案しても司令官も他の幹部たちに「どうして、そのような恐ろしい考えを!?」だとか「うわっ、怖いこと考えるなあ」と却下され続け、戦力小出しで間抜けな作戦を続けての248連敗。もはやワルザードは沸点寸前である。
 しかも学校では彼女の受け持ち生徒の中に正義のヒーロー5人組がいたのだ。開き直ったワルザードの大作戦が果たして成功するや否や?……。

 戦隊物のオマージュ作品としてはかなり良くできてます。戦隊物ってこうでなくちゃいけないよね!?というこだわりにあふれた一作。
 恒星間を飛び越えて侵攻してくる科学力と圧倒的な戦力差があって、どうして地球の小さな島国1つ侵略できないのか、よく理解できてしまう話です。でも、28歳ロリ美少女の蜜先生が思ったほど活躍しませんでしたねえ……。

【戦隊ヒーロー】【侵略者】【女教師】【雅先生の地球侵略日誌】【直月秋政】
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「千の剣の舞う空に」 岡本タクヤ

2008-02-18 | VRMMO・ゲーム世界
「ゲームは人生ではないが、人生はゲームだ」
 ゲームバランスは最悪だしNPCは不親切だし……言ってしまえばクソゲーではあるけれど……。

 交通事故により「空手で世界一を」の夢を絶たれた速見真一は、目標を見失ったまま無気力な日々を過ごしていた。その彼が再び生きる目標を見いだしたのはオンラインのゲームの中、ネットゲーム『サウザンソード』の世界だった。
 そして深紅のサムライを操って、対戦ランキング1位を目指す彼が常に行動を共にするようになったのが、白い女剣士アスミ。しかしアスミがクラスメイトの美少女、真山明日美と気づいても、真一は相手にそれを告げるどころか現実では言葉すら交わそうとはしない。
 彼にとって、世界はゲームの中だけだったのだが、あるとき路地で不良に絡まれている明日美を見つけてしまい……。

 ゲームとリアルの間を行き来して、オンラインで出会い、闘い、別れる高校生の再生の物語。へんなゲームデザイナーの意図とかプログラムのバグとか出すわけではなく、単純にリアル万歳という話でもなく、キャラクターの向こうに小学生がいるか老人がいるか判らないオンラインの世界をきっちり描き、後味さわやか。でも脳天気に楽観的な話でもなく、人のいろいろな側面まできっちり描いていて、良い人ばかりじゃないけれど悪いヤツばかりでもないだろうと、非常にバランスのとれた面白い一作。

【千の剣の舞う空に】【岡本タクヤ】【柏餅よもぎ】【ファミ通文庫】【虚構/現実の境界を超えたボーイミーツガール】【オンラインゲーム】【ひきこもり】【学園祭】【宿敵(とも)】
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『コミック・ストール01』 1984.1/15

2008-02-17 | イベント・コンベンション
 同人誌即売会というものは、同人(志を同じくする者たちの集団)が、自分たちの作った書籍雑誌を直接販売するために、専用の販売スペースを確保したイベント。フリマのようなものではあるけれど、業者だか誰だかに会場確保を任せて、そこからブースを有料で借りるより、最初から最後まで手作りの方が望ましいよね。
 まあ、会場の手配、スタッフの確保と教育、事務手続きとか山のような面倒を考えてみれば、プロのイベント屋におんぶにだっこが一番簡単なのだけれど(そこが資本主義の功罪ではあるけれど)、一度はイベントを主催する側に回るのは貴重な経験には違いありません。人間的にも金銭的にも、辛いことや苦しいことばかりだけどね。

 当時は同人誌即売会なんてのは、コミケ、コミカ、MGMくらいで、小さいのが年に何回かあるかないかという時代。即売会がないなら、いっちょ自分たちの手で1つイベントをやってやろうじゃないか!というのが発端。
 広告代理店に就職したサークルOBのKさんを中心に、夏のさなかに各学漫やサークルの代表者が集まってミーティング。豊橋市内でそういうイベントができるのは公会堂しかなく、しかもそこの地下ホールは柱が多くて見通しが悪くて設営しにくいったらありゃしない。でもそのスペースでやりくりしなくちゃいけないから、設置可能なスペースを計算し、そこからアマチュアフィルム上映会もやりたいとさらに削られ、なんとか確保した数で募集開始。同時にあちこちに宣伝ビラを配布したり、当日のスタッフ配置や手順等を確認したりと半年なんてあっという間。

 すし詰めの混雑状態で換気は悪く、そのくせサークルの集まりはいまいちとさんざんでしたけれど愉しかったね。そこで買った同人誌、見た映画なんて忘れてしまったけれど、みんなで苦労してそういうイベントをやったという記憶は確かに残ってます。
 自分たちの力でどれだけのことができるのか/できないのか、学生のうちに一度は挑戦して力量を計るのは通過儀礼として必須なことだと思いますね。
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