付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「いとみち~三の糸」 越谷オサム

2014-04-30 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「田舎は抱きしめていろよ」
 遠くで暮らしていても故郷の人が支えてくれる、そう思えるから心細くても都会でがんばれるよと福士智美。
 彼女はわざわざ啖呵を切って自ら背水の陣を敷いた。

 相馬いとも3年生。大学では都市工学を学びたいと考えているが、第一志望はなかなかの難関。受験準備でバイトにもなかなか出られなくなるのに、東京に行った智美の後釜に入った彼女の妹のチハルが手際は良いけど不真面目で、なかなか扱いに困る少女だった……。

 小柄な少女いとの物語、「いとみち」もこれにて完結の三部作となりましたが、今回はいきなりおばあちゃんの大舞台から始まりました。
 いとはあいかわらず泣き虫で津軽弁がきついけれど、サークルでもバイト先でも後輩ができて、少しずつ頼もしくなってきました。心なしか表紙のイラストも少し大人びてきました。そんな少女が津軽三味線と写真部とメイドカフェと受験に明け暮れた最後の1年間です。
 
 基本的に悪人が出ない、頑張ったことはいつかは報われる、そういう意味で安心して愉しんで読める青春小説で、激しい起伏や意外な展開とかとは無縁の作品。この話はまとめて2時間の実写映画で観たいな。

【いとみち】【三の糸】【越谷オサム】【もりちか】【新潮社】【津軽三味線】【写真部】【田名部おしまこ】【エドワード・ヴァン・ヘイレン】【オープンキャンパス】【純度100%の青春サーガ】【動画投稿サイト】
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「敗軍奮戦記」 松田孝宏/内田弘樹

2014-04-29 | 戦記・戦史・軍事
 硬派な記事を硬軟工夫して読ませるミリタリー専門誌『ミリタリー・クラシックス』に連載されていた10年分40編のエピソードをまとめたもので、陸海空それぞれのさまざまな戦場や部隊、兵器などを負けた側からの視点で綴ったもの。一応、「第二次大戦」とありますが、日露戦争の巡洋艦「ドミトリー・ドンスコイ」の戦いにも触れられていて、これもなかなかの猛戦です。
 いろいろあったけれど、いちばん興味深かったのは歩兵第八連隊の通史。帝国陸軍の歩兵は出身地ごとにまとめられていて、その中でも商人層の多い大阪中心の第八連隊は弱いことで有名……というか、「またも負けたか八連隊」の囃しはミリタリーに疎い自分もそれなりに聞いたことがある話だったのだけれど、きちんと戦歴を追うと実は勇戦して不敗なんだとか。これが今年いちばんのびっくり。

【敗軍奮戦記】【第二次大戦 知られざる“敗者たち”の奮闘】【松田孝宏】【内田弘樹】【イカロス出版】【ミリタリー・クラシックス】【火星作戦】【ゴリアテ】【初月】【グリフォン】【歩兵第八聯隊】
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「僕と彼女のゲーム戦争 ゲーマーたちの日常」 師走トオル

2014-04-28 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 7冊目はナンバーが外れた短編集。とはいえ、構成はいつもとほとんど変わらないし、時系列もどこに挟んでも問題なさそうなものばかりなので……正直、全部読み終えてから今回が短編集だということに気がつきました。

 少し前まで女子校だった私立伊豆野宮学園には、現代遊戯部という名のサークルがある。
 あるときは味方、あるときは敵、部員同士で、あるいは他校のゲーム部員たちとの熱戦が繰り広げられる……。

 登場するゲームは「シヴィライゼーション4」「風来のシレン5」「アーマードコア5」「ガンダムオンライン」「剣闘士グラディエータービギンズ」の5作品。
 おなじみのプレイヤーが参戦するリプレイ小説みたいなもので、これを読んでいるとゲームをプレイしたくなりますね。特にガンダムオンラインは、顔も知らない大勢の敵と味方に囲まれて、どう戦いの流れを変えていくのか読みあいと駆け引きが面白かったのです。

【僕と彼女のゲーム戦争 ゲーマーたちの日常】【師走トオル】【八宝備仁】【電撃文庫】【ゾック愛】【電撃文庫MAGAZINE】
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「この世界がゲームだと俺だけが知っている4」 ウスバー

2014-04-27 | VRMMO・ゲーム世界
「りょうりは、ハートキャッチ」

 ちょっと留守にしている間に自宅に官憲の捜索が入ってしまい、その屋敷がバグだらけトラップだらけだったばかりにすっかり犯罪者のアジト扱いにされ、指名手配されてしまったソーマだが、そんなことよりもなによりも王都に迫る何万もの高レベルモンスターを防ぐ方が優先だった。どうやら『王都襲撃』イベントが、ゲームの時は別の形で発動してしまったらしい。
 ソーマVS1000匹の魔物。
 史上最悪のピンチであり、最低の決戦だった……。

 クソゲーの世界に転移してしまったプレイヤーの冒険譚。今回も頑張ってみんなを助けても周囲から気持ち悪がられるだけの主人公ですが、孤高のヒーローというとカッコ良くなる気がします。
 あいかわらずゲームとしてのシナリオの説明やシステムの解説が多くて、そこを気にしなければ、それが楽しければ、問題ないです。まあ、無双系ではありますけど、もともとのゲームの意地が悪いので、これでちょうどバランスが取れているという感じです。
 こういうウェブ小説デビューの作品だと、刊行された途端に執筆ペースが落ちてしまったり、そのまま消えてしまったりすることがないわけではないのだけれど、これは安定して続いていて、それだけでも嬉しいですね。
 書き下ろし外伝「真希の果てしない戦い」の方に登場する、謎のサークル仲間も気になりますが、再登場はあるのでしょうか?

【この世界がゲームだと俺だけが知っている4】【ウスバー】【イチゼン】【エンターブレイン】【WEB小説】【MMORPG】【猫耳美女】【料理対決】【スライム】
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「祝もものき事務所」 茅田砂胡

2014-04-26 | ミステリー・推理小説
 百之喜太郎は事務所に持ち込まれる依頼は原則として断ることにしている。面倒くさいから。それに探偵業の届け出もしていないし。
 でも、ときおりどうしても断り切れない気がする依頼があったりする。たとえば、凶器あり、指紋あり、目撃者あり、動機あり、無いのはアリバイだけ……という容疑者を無罪にするための証拠集めとか。
 そうすると、秘書の凰華に尻を叩かれるように調査に出かけるのだけれど、実は凰華も、彼に仕事を回す弁護士の雉名も、他の幼馴染みの仲間たちも、彼自身には何の期待もしていなかったのだ……。

 田舎の因習がらみで、金と権力はあっても世の中の流れから完全に置いていかれつつも全然気にしていない旧家が話に絡んでくるミステリだけれど、推理小説ではなく探偵小説。探偵があれこれ調査して、真相を追究するのを読者は後ろから見守ります。
 登場人物は桃太郎よろしく、もも、犬、猿、雉とそろっているけれど、鬼と鳳凰までが仲間だし、きび団子代わりなのか仕事を頼む代わりにメシを奢るのは桃太郎ではなく雉の方だし、特に昔話がベースとかネタになってるわけじゃないんですね。単に名前ネタに使っただけという感じ。むしろ三年寝太郎とわらしべ長者の方が近そうです。
 それにしても、るり香さんが本当にワンポイントなキャラだったのには、むしろびっくり。出番、あれで終わりなんだ……。

【祝もものき事務所】【茅田砂胡】【睦月ムンク】【C・NOVELS】【中央公論新社】【嫁入り行列】【ホストクラブ】【冤罪事件】【婚約破棄】
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「VRMMOをカネの力で無双する」 鰤/牙

2014-04-25 | VRMMO・ゲーム世界
「お願い、っていうのは、顔を突き合わせてやらなきゃ伝わらないでしょ?」
 石蕗明日葉は義理堅い。メールでお願いだけなんてとんでもないと。

「お金は僕の才能の一端だからね」
 ゲームに時間をかけて努力することも、湯水のごとくお金を使うのも同じコトであってズルではないと石蕗一朗。

 容姿に知性、教養、財力と、石蕗一朗はすべてに恵まれていた。
 だが、彼がすごいお金持ちなのは、別に世界的な大企業グループであるツワブキコンツェルンの御曹司だからというだけではない。彼自身の才覚だけでも十分な収益を上げ続けているのだ。
 そんな一朗がハトコの中学生に頼まれて、新世代VRMMO「ナローファンタジー・オンライン」に参加することになった。苛めから引きこもりになってしまった友達が、このオンラインゲームに参加しているはずなので探すのを手伝って欲しいというのだ。
 しかしハトコの明日葉とゲーム内で合流するまでの1週間で、一朗のキャラクターはゲーム世界のトップランカーの一角を占めるまでに成長していた。才能と課金による無双の賜物だった……。

 お金持ちが無双するという、なんかイヤな主人公の話かと敬遠していたら長男のお薦めで手元に。
 むしろ熱く爽やかでした。
 時間をかけて努力して強くなるのも良いけれど、自分で稼いだ金を使って強くなることだって価値は同じで、非難される筋合いはないよね!という話。ある意味で、『千の剣の舞う空に』と対になる話です。ゲームというのは天賦の才が無くても時間をかけるか、お金をかければ、それなりに成長するのが面白い。
 でも、ゴルゴ13が日本の小説やコミックで“凄腕の殺し屋”の代名詞になっているように、キリトくんも今や“辣腕のMMORPGプレイヤー”の代名詞になってるんですね。

【VRMMOをカネの力で無双する】【鰤/牙】【桑島黎音】【HJ文庫】【バトルアクション】【ハムの人】【オンラインゲーム】【ひきこもり】【ヴィクトリアン・メイド】【SAO】【昆虫マニア】
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「支配者の罠」 九条菜月

2014-04-24 | 架空戦記・仮想戦史
「目の前で起こっている事象よりも、それを取り巻く周りの状況をよく見ろ」
 現在ではなく未来を見ろとクロラの祖父、ニルス・リル少将の言葉。

 監獄の謎に迫るべく内偵を進めるクロラだが、監獄地下のトラップ群は侵入者必殺の仕掛けであり、スパイを焙り出そうというゼータ所長の包囲網は少しずつ縮まってきていた。
 一方、首都で調査を進める上官ディエゴの周囲では政争が激化し、クーデター勃発まであとわずかと迫っていた……。

 監獄島を舞台にしたスパイ小説は、いよいよ本筋っぽくダンジョン攻略へ。監獄の秘密やクロラの出生の謎などが少しずつ明らかになっていますが、まだまだ予断を許しません。
 そしてストーリーが進み、緊迫してくると、ドジで怪力な美少女看守や生真面目でファンシー好きな警邏隊隊長の出番も控えめとなり、ちょっと寂しくなりました。
 さすがに脳天気なドタバタだけではいかんようです。

【支配者の罠】【蒼穹に響く銃声と終焉の月】【九条菜月】【伊藤明十】【C・NOVELSファンタジア】【グルア監獄】【ダンジョン攻略】【制服泥棒】【クーデター】【児童誘拐】
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「シェイクスピアの鳥類学」 ジェイムズ・E・ハーティング

2014-04-23 | エッセー・人文・科学
「スズメ一羽落ちるにも、神の特別な思し召しがある」
 『ハムレット』五幕二場。

 シェイクスピアの戯曲に登場する鳥について考察した研究書で、まさに重箱の隅を突きまくってます。
 鳥を語るといっても、実際に登場する鳥について「ローマ人にとってワシは吉兆の鳥だった」と注釈つけてみたり、「ワシだってあんな青い、きれいな目をしていません」と登場人物に語らせているけどワシの目は薄茶色か黄色だけだ……とか指摘しているだけではなく、「カッコウ」といえば「間男」だし、ウズラといえば「娼婦」だというように慣用句として言及されるようなものまで語源を遡り、さらには罠や囮の作り方まで言及する徹底ぶり。はたまた狩猟に使う銃から銃砲の発展や名前の付け方にまで話が広がっているし、そこまで調べていったい何になる?と思わず無駄な問いかけをしたくなってしまいます。
 ひとことでいって、シェイクスピアを中心に繰り広げられる、鳥雑学のかたまり。

 さすがにこういう本を定価で買うには二の足を踏んでいて、このシリーズのうち新刊書で買えたのは『鼻行類』だけですが、間もなくこの出版社が潰れ、新本特価コーナーにこの博物学ドキュメント・シリーズが並ぶようになってぽつぽつ買い集められるようになりました。

【シェイクスピアの鳥類学】【ジェイムズ・E・ハーティング】【ワシ】【タカ】【カラス】【スズメ】【ウ】【ナイチンゲール】【猟銃】【闘鶏】【鷹狩り】
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「追放者の機略(下)」 マーセデス・ラッキー

2014-04-22 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「恐れは人を暴君にする」
 使者タラミールの言葉。

 アルベリッヒの調査はまだ疑念を具体的な形にするには至っていない。
 <共に歩むもの>も使者会にも不満も不安はあったが、確固たる証拠がなければ反対はできないし、女王の決定に対して支持を表明することしかできない。
 セレネイの婚姻の準備は粛々と進められていく……。

 アルベリッヒが若者たちの武術指導と変装しての調査活動を並行しておこなっていく八面六臂の大活躍。でも、成果が出ないまま時間はどんどん流れていきます。
 でも、最初の婚姻騒ぎが明らかに性急な上に名前の挙がる候補者が明らかに外ればかりで、それが引っ込められた直後にいかにもな女たらしが登場するあたり仕掛けがあからさますぎる気がしますが、
 そして英雄は政治的意図でもって作られるものというオチで締め。
 ちょっと消化不良だったので、読後そのまま『盗人の報復』へと転戦。このまま使者タリアの話まで再読する予定。そこまでやって落ち着きそうな予感です。

【追放者の機略(下)】【ヴァルデマールの絆】【マーセデス・ラッキー】【竹井】【C.NOVELSファンタジア】【婚姻】【出産】【葬儀】【芝居】【女たらし】【ポロ】
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「追放者の機略(上)」 マーセデス・ラッキー

2014-04-21 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「血を流さなくても、何も得られなくても、人は競うのが好きなものよ」
 スケート競技も戦争も根っこは同じと<年代記作者>ミステの言葉。

 アルベリッヒが武術指南役と諜報活動の1人2役を務めて寝る暇もなさそうな日々をおくっている頃、セレネイ女王には婚約話が幾つも持ち込まれていた……。

 まだ喪が明けていないうちから持ち込まれる見合い話と、雪と氷の中から生まれる新しいスポーツの話から始まります。アイスホッケーかと思ったら、ポロになりそうです。
 しかしセレネイ女王がまだ未熟な若い娘なのに違和感。家臣をうまく使えないし、あしらえない。考えてみれば、時系列的には後の話である『盗人の報復』とか『ヴァルデマールの使者』、そして創元の年代記を先に読んでしまっているわけで、ここからそれなりに経験を積んでいくわけですよね。
 創元版の方は、まだ生まれてもいないセレネイの娘エルスペスが女王になって、死んで、さらにその後……なので違和感は仕方が無いですね。

【追放者の機略(上)】【ヴァルデマールの絆】【マーセデス・ラッキー】【C.NOVELSファンタジア】【スパイク靴】【ホッケー】【スピードスケート】【芝居】【「どうして、いつもわたしなのよ?」】
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「外交特例」 ロイス・マクマスター・ビジョルド

2014-04-20 | その他SF(スコシフシギとかも)
 原題を直訳すると「外交特権」。「Immunity」には免疫とか免責の意味もあるからダブルミーニングもあるのだろうけれど、なんでこんな収まりの悪い造語を邦題にするかな?

「最終的には誰でも、子どもを世界に委ねることを求められているんじゃないだろうか」

 新婚旅行に旅立ったマイルズとエカテリンだったが、その帰路で急報が入った。
 あるステーションに停泊していたコマール船籍の商船団から警護のバラヤー士官が消え、その捜索のために上陸した部隊とステーション警備隊が武力衝突。その後始末をしろという皇帝の勅命だった……。
「ぼくは捜索令状を要求なんかしない。こっちが出すほうだ」

 たとえ新婚旅行であっても星間戦争の危機の1つや2つクリアしないと終われないのがマイルズ・クオリティです。

 出生直前のテロによって障害を持って生まれた少年も、立派な青年になりました。彼の女性関係って、悪女に欺されるということはないし、女性陣に嫌われるということもないのだけれど、「マイルズの出会う女性はみんなそれぞれ有能で素晴らしい人ばかり、ただ誰か他の人や仕事に夢中なだけ」という気の毒な状況でしたが、やっとこさ自分と結婚してくれる女性と出会えて……の続きです。

 事件の方は、読者が予想するようなことは登場人物もちゃんと理解していて、しっかりそれに対応していくのだけれど、その想定の斜め上方向に事態が拡大していく……というか拡散していく、痛快さとユーモアとスリルがほどよく混ざったSFミステリ風サスペンスでした。

【外交特例】【ロイス・マクマスター・ビジョルド】【創元推理文庫SF】【SFミステリ】【クァディー】【自由軌道】【バイオハザード】【人工子宮】【出産】【スターダンス】
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「Re:ゼロから始める異世界生活3」 長月達平

2014-04-19 | 異世界転移・召喚
「笑え。笑いながら、未来の話をしよう。お前がこれまで後ろ向いてたもったいない分を、今度は前向いてお話ししようぜ」
 何度も死んで苦しんで、何度も過去へ飛ばされてはリセットされ、それでもスバルは笑いながら明日の話をしようとレムの髪をくしゃくしゃにしながら言った。

 自分が呪いで殺されることは分かった。
 自分が呪いを回避しようとすると、代わりにレムが死んでしまうことも分かった。
 ならば、誰が呪いをかけているかつきとめることだとスバルは新たな1日を開始した……。

 初めてのはずなのに道具や食器の位置もしっかり覚えていて、他の人の好みもしっかり把握しているという、いかにも不審者です。
 たとえ報われなくても自分が出会ってしまった人はすべて救いたいと、徒手空拳で頑張る主人公の物語。剣も魔法もろくに使えない、お調子者のナンパ野郎と見せかけて、実は全うに正統派な主人公でした。
 死に戻りのことを他人に話せないという禁忌も、それを単なる「なんで誰かに事情を話して助けを求めないの?」という当然の疑問へのエクスキューズに終わらせず、もう一ひねりして武器にしてしまっているところも巧いと思いました。面白いもの。

【Re:ゼロから始める異世界生活3】【長月達平】【大塚真一郎】【MF文庫J】【WEB小説】【リゼロ】【ボーイ・ミーツ・ガール】【指切り】【うる星やつら】【ドリームハンター麗夢】
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「今日の『あまちゃん』から」 細馬宏通

2014-04-18 | アイドル・声優・芸能
 25年放送のNHK連続ドラマ小説『あまちゃん』は自分が久々にまともに視聴したテレビドラマだったのです。国産ドラマとしては古谷一行の横溝正史アワー以来かな。
 そしてこれは思索家として知られている人文学部教授が、25年放送のNHK連続ドラマ小説『あまちゃん』を日々視聴した感想を綴ったブログをベースに、番組ディレクターや音楽担当者との対談をまとめたもの。

 こういう本は旬の物。
 出た時に買わないとすぐ店頭から消えるし、文芸と違ってなかなか復刊するようなものではないので、何年も経ってから欲しくなると状態の悪いものを高く買わなくてはいけなくなります。で、よくよく考えてみたら5年くらいしたら欲しくなりそうなので即買い。
 でもシナリオ集は買いません。こういうのは映像と音楽が在ってこそ。そして、そういう映像と音楽とシナリオがどういう相関関係で練り上げられていくか、さりげない描写にどういう演出意図が込められているかを考察していくブログの本だからこそ買ったのです。まさに、自分たちが見ていたときの感動を再体験するために。

【今日の「あまちゃん」から】【細馬宏通】【青木俊直】【河出書房新社】【「あまちゃん」はここまで掘れる!】
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「星界の断章III」 森岡浩之

2014-04-17 | 宇宙・スペースオペラ
「大人にとってくだらないことでも、13歳の子どもにとってはしばしば人生を賭けるに足る重大な事象となる。10年後に思い出して、のたうちまわるがよい」
 ゲムファーズ子爵ラムリューヌはそこまで言っておきながら、慈愛に満ちたまなざしで甥っ子に語ってみよと言う。

 星界シリーズの外伝が7編収録された短編集。メインキャラクターのエピソードではなく、その一代前の世代とか、アーヴが「門」を手に入れる話とか、ひとことでいうと「親の顔を見たい」1冊かな。そして皇族アブリアル、大貴族スポール、士族エクリュアそれぞれの視点からのアーヴ世界というものが語られてもいます。
 さあ、そろそろ本編の続きもそろそろ読みたいぞ。

【星界の断章III】【森岡浩之】【赤井孝美】【ハヤカワ文庫JA】【早川書房】【時空泡】【親譲り】【隊旗】【密航】【テラフォーミング】【帝都防衛戦】
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「警官嫌い」 エド・マクベイン

2014-04-16 | ミステリー・推理小説
 『名探偵紳士録』で古典ミステリを踏破してやろうと無謀な意気込みに燃えていた高校時代に購入。当初は名探偵1人につき1冊くらいのつもりでいたのに、この黄色い背表紙の87分署シリーズにはまって、しばらく抜けられなくなりました。

 猛暑のアイソラ市で警官が射殺されるという事件が相次ぐ。
 犯人の目的は何か? 単なる警官嫌いなのか……?

 ニューヨークがモデルの架空の街アイソラを舞台に繰り広げられる警察小説の名作。メインとなるスティーブ・キャレラやバート・クリングなどのレギュラー刑事や何度か再登場する犯罪者もいるけれど、毎回のように視点となる人物やスタイルが変わるのが特色。『キングの身代金』のように誘拐事件捜査だけで終わる話もあるし、ケチな泥棒から殺人までいろいろな事件が多発して慌ただしい情景が最後まで続く話もあるし、犯人視点で続く『灰色のためらい』なんて異色作もあって飽きさせません。
 読者も作者も飽きないせいか50年以上50作以上書き続けられ、警察の捜査方法や社会状況は激変していますし、殉職したり異動する仲間もいますが、基本的にほとんど同じメンバーが緩く年をとりながらやってるところも良いのです。

【警官嫌い】【87分署シリーズ】【エド・マクベイン】【ハヤカワ・ミステリ文庫】【警察小説】【サザエさん時空】
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