付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「樹魔」 水樹和佳子(水樹和佳)

2008-12-31 | 破滅SF・侵略・新世界
 水樹和佳子(当時は水樹和佳)の名前を知ったのは、1980年の「少年/少女SFマンガ競作大全集」にて。『樹魔』が傑作として再録されていたのですね。
 『樹魔』の初出は1979年の「ぶーけ」。がちがちの少女マンガ誌です。まあ、対象年齢はやや高めでした。それが翌年の専門誌で再録され、続編『伝説』も含めて集英社でコミック化され、1996年には創美社から復刻版が、2001年には早川書房からJAで文庫化。一時のブームではない、長く支持される名作です。

 巨大な流星群によって壊滅的な打撃を受けた地球が、地球連邦政府を生みだし、少しずつ復興を進めている25世紀。南極で局地的な異常が観測された。温度が上昇し、植物が育ち始めているのだ。
 科学者の聖域である<研究都市>から調査に派遣された天才科学者イオ・フレミングは、分析したデータに理解不能な要素を見出し、確認するために南極の地に降り立つ。
 そこで彼は、謎の少女ディエンヌに出会うのだが……。

 わずか60頁ちょいの短編にぎっしり押し詰められた情報と、それを包み込む登場人物たちの情愛。
 瞑想が科学の域にまで達しているという設定からして、ニューサイエンスかと思ったけれど、そうでもないみたい。生命と進化、人類はなぜ宇宙へ進出できないかを解き明かそうとする物語。(2008/12/31)



 面白いSFコミックはことごとく少女マンガという時代はありました。

 巨大流星群の衝突で地球が大きな被害を受けてから5年後。南極大陸で異常な規模の植物の増殖が観測された。墜落した隕石を中心に、植物が進化しながら広がり始めたのだ。わずか10平方キロで古生マツバランから被子植物へと26億年のプロセスをたどる謎の森林。あらゆる情報を無意識界に詰め込むことで回答を導き出す瞑想のエキスパート、フレミング博士はこの現象の謎に挑むが、その核心として導き出された回答は「人」だった。なぜ「人」なのか。真相を確かめるため、フレミング博士は緑の大陸と化した南極へ向かうが……。

 もともとはハイティーン向けの少女誌「ぶーけ」に掲載されたSF中編ですが、僕らがそれを初めて読んだのは東京三世社から刊行されていたSFコミック・アンソロジー『少年少女SFマンガ競作大全集(6)』でのこと。このあたりの作品リストを見ていると一目瞭然なんですが、この当時はSF!といってマンガを集めると、(シュール系を除けば)大半が少女マンガ作家になったんです。たとえば6巻には水樹和佳以外には、竹沢タカ子、竹宮恵子、たらさわみち、花郁悠紀子、山田ミネコ、そして石森章太郎、どおくまん、吾妻ひでお……と。(2007/08/26)

【樹魔】【水樹和佳子】【瞑想】【進化】【思考】【宇宙】
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「女子高生=山本五十六2」 志真元

2008-12-30 | VRMMO・ゲーム世界
「やっぱりドイツ攻めだよね! イギリス攻めなんて邪道だよね!」
 ボーイズラブを愛する少女たちも戦場へ……。

 日本の軍備増強の伏線として進行するオンライン・ヴァーチャルシミュレーション「セカンド・ウォー・リアル」に山本五十六としてエントリーすることになった高山五十美。後知恵をつけられた一般人としての采配を振るい、日米開戦までに日本軍を史実以上の戦力に育て上げたが、大きな問題が残っていた。
 史実にこだわらないことで必要な戦力を整えたが、その代償として史実にこだわる“中の人”を敵に回すことになったのだ。高校生ばかりでなく、元零戦搭乗員の老人からガンオタ中年まで集まってできあがった軍隊だ。彼らに自分を認めさせるためには、何が何でも真珠湾攻撃を成功させるしかなかった……。

「いい年こいた頭のいい大人たちが、よってたかって悪巧みを積み重ねる。戦争なんてそんなモンだ」
 山本五十六の言葉。

 すっかりジュブナイル感覚で読んでいる『女子高生=山本五十六』の第2巻。開戦、真珠湾攻撃の顛末までです。
 架空の戦史ではなく、仮想戦記ゲーム内の物語なので、プレイヤーが後知恵をうまく取り入れられれば弱兵も精鋭と化しますし、逆にプレイヤーがヘボければ大艦隊も烏合の衆となってしまいます。空戦部隊も、なまじプレイヤーが単機のソロプレイゲームでの操縦に慣れてしまっているばかりに、セオリーを忘れて撃墜されるはめに。
 一方、ほとんど描写のないフィンランド戦線は戦争オタクの巣窟と化してかなり頑張っているらしいし、独伊の健闘も目立ちます。
 さあ、第二ラウンドはどうなるのでしょうか。 

【女子高生=山本五十六2】【志真元】【ファントム無頼】【平井久司】【学園祭】【BL脳】
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「マリア様がみてる/ハロー グッバイ」 今野緒雪 33

2008-12-29 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 『マリア様がみてる』もこの33冊目「ハロー グッバイ」にて一区切り。祐巳・祥子編のおしまいです。大ネタはおおむね回収されてしまったわけですが、キャラクター的にはまだまだおつきあいしたいものです。

 当然のように最後は卒業式前後のエピソード。薔薇4代顔を揃えての大団円というと、なんか大河ドラマみたいですね。逆に言うと、それ以外の人は出番がほとんどなく、唯一きちんと出番があったのが、蔦子さんとか真美さんではなく、田沼ちさとさんってあたりが面白いよね。いつも美味しいところを持っていくねえ。

「お願いだから、私の可愛い妹の卒業式を滅茶苦茶にしないでちょうだい」

 「ハローグッバイ」という言葉に、「こんにちはさようなら」とプリントされたパンツを思い出してしまって、ああ、成田美名子が好きなら、この作品を好きでもかまわないよねと納得してしまったり。

 このシリーズに始めて手をつけたのは、ン年前の冬12月。確か運の良いことに「パラソルをさして」が出ていたから2002年の話だね。某オフィスビルでのイベントに広報担当でかり出され、受付係の暇つぶしにビル階下の本屋でなんとなく買ってきたのが最初。本屋でイベントをやっていて、既刊がすべて平積みになってたんですよ。で、通し巻数も打ってないので、レジに持っていきやすそうな巻を手にとってレジへ。そしてダッフルコートの右ポケットにカバー付きの文庫を入れて受付に戻り、閑古鳥が鳴くのを横目で見ながら読書三昧。
 これが意外にも面白くて、すぐに読み終わったら受付を交替してもらって階下へ。買って戻って読み終わって、また階下へ……。
 結局、その日はイベントの来場者と自分が読んだ巻数がどっこいどっこいという有意義な1日だったわけです。
 あれから6年かあ。

【マリア様がみてる】【ハロー グッバイ】【今野緒雪】【卒業式】【聞き違い】
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「シャーロック・ホームズ・イレギュラーズ」 森瀬繚

2008-12-28 | ミステリー・推理小説
「シャーロック・ホームズはそれ自体がひとつのジャンルである」

 このムックは、シャーロック・ホームズを題材としたパスティーシュ、オマージュ、パロディ、贋作等々をひとつにまとめたものです。ありそうでなかったなー。
 原典で語られなかった空白部分を埋めるもの、視点を変えて再話したもの、年代的に合流しうる他の作品と混ぜたもの、SFにしちゃったもの、ホームズの娘や息子を主人公にしたもの、ホームズが実は女だったもの、ホームズをマネして名探偵になったものetc......。
 いろいろ読んでるつもりだけれど、ほとんど読んでないなあ。
 個人的にはシュロック・ホームズがアインシュタインの謎を解くのと、ナナオの症候群が好きです。巻頭インタビューが『ドラキュラ紀元』のキム・ニューマンというのも、なかなかナイスな仕事です。

メモ:
p.79 2段目 「訪米してことまでは」→「訪米したことまでは」

【シャーロック・ホームズ・イレギュラーズ】【森瀬繚】【クロノスケープ】【名探偵】【パロディ】
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「シャーロック・ホームズ 生誕100年記念」 アラン・アイルズ

2008-12-27 | ミステリー・推理小説
 いろいろ人から本をもらうこともあって、普段面識のない人からいただくこともある。このときは、一箱まるまるシャーロック・ホームズに関するガイドやムックや研究書だったりしたわけだけれど、その中でもっとも感動した1冊。ビジュアル面に強化されたホームズ・ガイド本です。
 とにかく、いろんなホームズが登場します。文章の資料的部分も読み応えありますが、雑誌掲載時のイラストから映画演劇でのホームズまでを収録した部分も見応えたっぷり。こんなホームズからあんなホームズまで、絵的な変遷を見ていくのも楽しいですね。

【シャーロック・ホームズ 生誕100年記念】【アラン・アイルズ】【名探偵】【映画】
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「人類は衰退しました (4)」 田中ロミオ

2008-12-26 | 破滅SF・侵略・新世界
 人類が衰退して数世紀。もはや、人類の覇権を取り戻そうとか考える気もなく、ただ日向ぼっこするように日々を過ごしていく時代。地球の覇権は妖精さんの手にありました。その妖精さんと人間との間を取り持つ国際公務員の調停官である“わたし”のお仕事の記録ももう4巻。早いもんですねえ。

 今回は、食糧不足が深刻化しそうな時期に突如として出現し、店先の棚にこっそり商品を並べていく謎の会社「妖精社」と走るチキンに関わる話と、妖精さんたちにお菓子を与え続けているうちに、いつしかクスノキの里を世界一の妖精人口過密地帯にしてしまったわたしが無人島に島流しにされる話の2本立て。
 あいかわらずシュールな話ですが、深く読み込むと怖い話になりそうなので、何も考えず「妖精さん、かわいいー★」と表面的に読み飛ばすのが良いかと思います。

【人類は衰退しました】【田中ロミオ】【サバイバル】【缶詰】【無人工場】
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「鬼切り夜鳥子4 聖邪が街にやってくる!!」 桝田省治

2008-12-25 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 平安時代の陰陽師・夜鳥子の霊を憑依させることで、全身に入れ墨の形で取り込んでいる式神を使役することができる女子高生の物語、鬼切り夜鳥子の最終シリーズいよいよ開幕です。

 安倍晴明の負の遺産をめぐって、クリスマス間近の東北で繰り広げられる3匹の式神との戦い。そして復活する仇敵。ツンデレ式神使い夜鳥子の運命は? 駒子と久のデートの行方は? そして三ツ橋は無事にクリスマス仕様のお好み焼きをひっくり返せるのか!? 諸人こぞりて聖も邪も、こちらの都合もお構いなしに押し寄せてきます。

「さ~て、答は何かな……。おっと、そうか! ボブおじさんには、もうわかってしまったよ」

 今回は表紙で判るように、巨乳委員長ミツバチが大活躍。久遠くんなんか、すっかり影が薄くなってしまいましたぞ。なんたることw
 痛快無類の伝奇活劇風学園ドラマです。ただし、思いっきり後編である5巻に引いていますので、それなりに覚悟して読みましょう。かなりじれったいこと間違い無しです。

【鬼切り夜鳥子】【聖邪が街にやってくる!!】【桝田省治】【巨乳】【妊娠】【クリスマス】【禍星ノ神子】
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「女子高生=山本五十六(1)」 志真元

2008-12-24 | VRMMO・ゲーム世界
「過ちは繰り返さない!」
 日本人がこの言葉を口にするときは「もう戦争はしません」という意味だし、欧米人が口にするときは「もう負けるような戦いはしない」という正反対の意味というのが通説。
 この話では、日本人が後者の意味で何度も使うのが印象的です。

 尖閣諸島沖での中共との衝突でイージス艦<もがみ>が沈んだ。日本の世論は一気に右傾化するが、なによりも問題だったのは、事件当時すぐ近海に待機しており反撃許可も得ていながら、何もしないで<もがみ>を見殺しにした潜水艦<うんりゅう>の行動だった。
 それから幾度も与野党が逆転し内閣が替わったある日のこと。女子高生でありながらサッカー部監督として国体優勝を成し遂げた元野球部員、高山五十美のもとに防衛省からの使者が訪れる……。

 女子高生=山本五十六というタイトルに、連合艦隊に諸葛孔明の霊が降臨したか、それとも関ヶ原に長島巨人軍がタイムスリップしたかというようなトンデモ話かと思ったけれど、実はかなりまっとうな“ジュブナイル仮想戦記”。仮想戦記というより、政府の巨大プロジェクトに巻き込まれた女子高生が、仲間たちと協力して無理無茶無謀な障害をはねのけていくという話でした。
 バーチャル・シミュレーションゲームを利用して子供たちから戦士を見出そうという設定は映画『スターファイター』を彷彿させるけれど、雰囲気的には、平凡な男が歴史上の偉大な軍人や戦士たちと協力して異星人の侵略に立ち向かう『スペースオペラ大戦争』とかに近いよね。
 物語で語られる戦争は、主に仮想空間での第二次世界大戦なんだけれど、リアルに資源や生産力を設定されながら、俺たちの力で技術水準を引き上げてやると一丸になる全国の高専学生(OB含む)に代表される、史実負け組の「過ちは繰り返さない!」意気込みの奮闘に燃えますね。一方、同じく史実通りの資源・戦力・生産力を与えられながら、ゲーマー仲間だけで固まって他人を馬鹿にするアメリカ勢プレイヤーの動きも気になります。

【女子高生=山本五十六】【志真元】【バーチャル・シミュレーション】【防衛大臣】【巨乳メガネ】
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「ガイドブックにないパリ案内」 稲葉宏爾

2008-12-23 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 ふつうのガイドブックに載らないような路地裏の店、マイナーな名所旧跡の案内本。料理屋の本もあわせて買いました。とりあえず揃えて置くと、あとで何かと使うんだな。まあ、あまり古くなると時代遅れになっちまうけど。

【ガイドブックにないパリ案内】【稲葉宏爾】【フィガロジャポン】【TBSブリタニカ】【】【】【】【バガテル庭園】【パサージュ】【ギマール】
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「ABC殺人事件」 アガサ・クリスティー

2008-12-22 | ミステリー・推理小説
 名探偵ポワロの元に届けられた犯人からの予告状。
 Aの頭文字がつく街でA・Aという頭文字の老婦人が殺され、犯行現場には『ABC鉄道案内』が残されていた。そして、またBの頭文字がつく街でB・Bという頭文字の女性が殺され、犯行現場には『ABC鉄道案内』が残されていた。
 ポワロは南米から帰郷したばかりの友人ヘイスティングズ、ジャップ警部らとともに予告された連続殺人の犯人を追い詰めるが……。

 アガサ・クリスティーの代表作であり、連続殺人を扱ったミステリの代表作でもあります。
 ストッキングのエピソードには思わず同意。突然の悲劇に見舞われたときは、なんでもないありふれた品物が平凡の象徴となり、非日常である“死”を強調してしまうのですね。

「ところで、ヘイスティングズ、いいかね。私はいろいろな意味で、君を私のマスコットだと思っているんだぜ」
 名探偵が凡庸な助手に期待することは、「明白なものを見のがさないよう探偵の傍にいること」なんだそうだ。なるほど。

【ABC殺人事件】【アガサ・クリスティー】【ヘイスティングズ】
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「スカイシティの秘密」 ジェイ・モリー

2008-12-21 | 破滅SF・侵略・新世界
 読了は『エンジン・サマー』の後だったけれど、読み始めれば系統が違うんで十分に楽しめました。まずは第一声。

「あなたにはわからないのです。命令される側より、する側のほうがよほどつらいというのに」
 空中都市国家シルバーサンクタムの指導者、セリーナ・アーンフィエルズドーターの言葉。オリビエ・ポプラン(Olivier Poplin)あたりなら、「いかにも安全なところで威張っている奴のいいそうなことだ」と返しそうですが。

 地上が汚染され、人々が空中都市に移住した遙かな未来。空中都市の人々は空に適応して翼を持ち、空中を自在に飛び回れるようになっていた。
 だが、ある時から地上の自動プラントからの資源輸送が滞るようになっていた。太陽の光も水も十分だが、鉱物資源などはリサイクルだけではまかなえず、地上の施設に依存していたのだ。
 地上の施設に何が起こったのか。それを調べるために選び出されたのは、生まれつき翼を持たない少年アズだった。

「いい人にみられたいとは思わない。人に好かれることに人生の価値を見いだしたこともない。だが、正しいことと間違っていることの区別はつくつもりだ。そして、つねに正しい道を選べというのが、わたしにとっては絶対なのだ」
 ミスター・モードダサンの言葉。

 陳腐な言い方だけれど、宮崎駿がアニメにしてもおかしくない話ですね。
 美しい空中都市から一転して、雲に覆われた地上のプラント群。蒸気が噴き出し、溶鉱炉が灼熱の炎を上げ、キャタピラで動く巨大な車が湿地帯を驀進し、野心家は革命を煽り、ヒロインはどこまでも逞しい……。
 そんな話です。

【スカイシティの秘密】【翼のない少年アズの冒険】【ジェイ・モリー】【ボーイ・ミーツ・ガール】【天と地】
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「策謀のイェンディ~暗殺者ヴラド・タルトシュ2」 スティーヴン・ブルースト

2008-12-20 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 一口で言ってしまうと、仁義なき戦いに皇室の跡目争いが加わって泥沼にという話。『ゴッドファーザー』とか『仁義なき戦い』が好きな人は、あれのファンタジー版と思えば良い。

 1巻から数年遡り、暗殺者だったヴラド・タルトシュが巧いこと手管を発揮して街の小さな縄張りを確保するところから始まります。ところが、その縄張りを隣のシマのボスが狙ってきたことから、たちまち血を血で争う抗争に発展。
 まあ、運が良ければ甦生魔法で生き返ることもできますが、それにしたって死屍累々で甦生も不可能な死者が続々と。死者復活に金がかかるし、復活できなきゃ遺族に見舞金を払わないといけない。腕の立つフリーの殺し屋や魔法使いをどれだけ抱え込めるか、つまりどちらの資金が尽きるのが先かの殲滅戦。

 いきなりタマネギの比喩から話が始まる、ちょっと冷めた視点がハードボイルドタッチ。千年万年と生きるのがあたりまえの貴族階級に対し、ヴラドたち<東方人>は70年も生きたら御の字の短命種(エルフと人間みたいですね)。そういうファンタジー世界での切った張ったの攻防の裏には、どうも皇位継承をめぐる陰謀があるような気もするし無いような気もするし。

【策謀のイェンディ】【暗殺者ヴラド・タルトシュ】【スティーヴン・ブルースト】【砂漠で反省】【復活の呪文】
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「黒蝶は檻にとらわれる 彩雲国物語」 雪乃紗衣

2008-12-19 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「どんなことでも、悩み抜いて出した答えに、間違っていることは何もないんだよ」
 娘に贈る紅邵可の言葉。

 こんな地味な話に人気が出るものかと思っているうちに、あれよあれよという間にコミック化されるは、NHKでアニメ化されるはと順風満帆。ファンレターの上限は70代だとか……。
 その最新14巻は、読んだところ、シリーズのターニングポイントかな。
 この巻では話の流れ的に御史大獄、つまりメインキャラである李絳攸の処分についての査問会というか裁判が開かれるということで、法廷劇で話が進むと思っていたら、そんなものはサクサクッと終わって二転三転の宮廷内外の抗争が果てしなく続く上に、さらに大きな陰謀の存在が示唆されます。裏表紙のあらすじでは「王の官吏・秀麗の活躍は止まらない!!」とあるけれど、確かに活躍しているけれど、周囲の状況はそんな大活躍ではなんともならんところまできてるんですが……?

 あいかわらずコミカルなキャラのやりとりは健在ですが、行われていることは隙あらば脚を引っ張り合う政争。誰が敵か味方かという面もありますが、基本は「この人はこの局面では味方だけれど、こっちの件では敵」というものなので展開はシビアで、テンポの良い会話の間にも追いつめる者と追いつめられる者が明らかになっていきます。というか、重い展開が前向きな主人公に救われているという感じでしょうか。

【黒蝶は檻にとらわれる】【彩雲国物語14】【雪乃紗衣】【罷免】【軍師】【偽造】【職務放棄】【物価高騰】
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「俺の妹がこんなに可愛いわけがない(2)」 伏見つかさ

2008-12-18 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 目つきは悪いけれど真っ当なアニキが、美人で頭が良くて裏表があるオタクな妹に翻弄される話の2巻。そろそろ腹が立ってきました。ぼちぼち天罰下りませんか?
 今回はコミケ篇。

「なんかさー、デッドライジングにこーゆうシーンあったよねー。ゾンビがショッピングモールにドバーッと雪崩れ込んでくるとこ」
 エスカレーターから1階の喧噪を見下ろして。

 お兄さん、いい人過ぎます。
 でも、ちょっとにぶいなー。やっぱりそのあたりはお約束か。
 趣味嗜好の違う家族間の相克と再発見の物語と解釈すると、すごく文学なんですが。

【俺の妹がこんなに可愛いわけがない】【伏見つかさ】【かんざきひろ】【コミケ】【児ポ法】
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「新・特捜司法官S‐A(7)」 麻城ゆう

2008-12-17 | 超能力・超人・サイボーグ
 俗にネオヒューマンと呼ばれる新人類の出生率が1%を突破した。さまざまなメディアを通じ、ネオヒューマンも今までの人間と同じく人類の一部であり共存できる存在と広報活動を続けて来た政府や特捜司法局の思惑を裏切るように、些細なきっかけからネオヒューマン狩りというべき暴動が頻発するようになる。
 これまで、旧人類とネオヒューマンで人類の行く末を考えてきたグループ「あひるの会」も、メンバー2名が暴徒によって殺されたことから内部分裂し、ネオヒューマンのグループは自ら意識することなく先鋭化し始めることに……。

 全然特捜司法官が活躍しないシリーズ7巻です。
 ネオヒューマンというのは要するに、頭は良いし、プロポーションも良いし、容姿も男女を問わずモデル並なのですが、頭良すぎて空気が読めないことから犯罪組織の暗躍が無くても一般大衆に疎まれるようになっていきます。
 困ったものですね。

 この話の着地点次第では、新人類テーマの傑作になるかもしれませんが、まだまだ予断を許しません。人造人間テーマも、今までの特捜司法官中心から、愛玩・市販タイプに視点を移す気配もあり、いろいろ先の展開が楽しみです。

【新・特捜司法官S‐A】【麻城ゆう】【道原かつみ】【新人類】
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